
「学際的情報科学センター」で学際的な研究開発に従事する高野雅典の論文「IT技術者のジェンダーギャップ解消のための志望者・現役技術者に対する調査」が「デジタルプラクティス」に採択されました。学際的情報科学センターでは、社外の研究機関と協働しながら、情報科学とその隣接領域の学術的な知見に基づき、主に当社のメディア事業における研究開発に取り組んでいます。
情報処理学会論文誌「デジタルプラクティス」はIT実践分野の和文誌です。この度採択された論文はIT技術者やその志望者におけるジェンダーギャップを調査した研究です。
情報処理学会論文誌「デジタルプラクティス」はIT実践分野の和文誌です。この度採択された論文はIT技術者やその志望者におけるジェンダーギャップを調査した研究です。
■論文の概要
IT分野では男性の比率が高いことが多く、その結果として、ジェンダーギャップが見られることが多くあります。例えば、女性が少ないためにロールモデルを見つけるのが難しい、男性が多いために意図的でなくとも文化や制度が男性に偏ってしまい少数派にとって居心地が悪くなる、などです。このギャップの一因は、「比率の著しい不均衡」です。このような、(個々人に差別的な意図がなかったとしても)構造に起因して属性間にギャップが発生してしまうことを構造的差別といいます。このギャップを解消するためには、少数派である女性の人数を増やすことが不可欠です。そこで本研究では女性のIT技術者の増加と定着における課題を知り、施策を立案することを目的として2つの調査を行いました。1つ目の調査は新規に女性のIT技術者志望者を増やすべく、IT技術者をキャリアとして選択する要因についてです。2つ目の調査では女性IT技術者定着のために、IT技術者の働く環境について当社内でアンケートを実施しました。これら2つの調査結果から女性IT技術者の増加・定着のための施策について議論しました。
■論文
【調査1: IT技術者志望者のジェンダーギャップ】
▼アンケート調査回答者
株式会社サイバーエージェントとNPO法人Waffleの技術系イベントなどへの参加者を対象に、本調査への参加を依頼しました。その結果、サイバーエージェントのイベントの参加者からは男性28名、女性7名、Waffleのイベントの参加者からは女性11名が最後まで本調査の質問紙に回答しました(計46名)。本アンケートは匿名で回答されました。オンライン調査への参加にあたっては、本研究の目的(多様性推進施策への活用・学術研究)を説明し、同意を得ました。なお、本調査ではジェンダーギャップに焦点を当てて調査するため、性別(性自認)は男性または女性のどちらかのみを分析対象としました。
▼結果1: ロールモデルの男女差
ロールモデルはキャリアイメージの確立や学習の動機づけなどの面で重要な役割を果たします(ピア効果)。また特に同性であることは性別ピア効果と呼ばれ重要です(※必ずしも同性である必要はありませんが傾向としてみられます)。そこで本研究ではIT技術者志望者はどこでどのようなロールモデルと出会っているかについて調査しました。
調査の結果、ロールモデルとの関係性に違いが見られました。男性は身近な(男性の)先輩・教員である一方、女性は現役技術者など普段の生活では出会いづらい人である傾向がありました。これは「女性は身近にロールモデル候補が少ない」といったロールモデルと出会う機会にギャップがあることを示唆します。また同性ロールモデルの比率が相対的に少ないという点もこのギャップを示唆します。
▼アンケート調査回答者
株式会社サイバーエージェントとNPO法人Waffleの技術系イベントなどへの参加者を対象に、本調査への参加を依頼しました。その結果、サイバーエージェントのイベントの参加者からは男性28名、女性7名、Waffleのイベントの参加者からは女性11名が最後まで本調査の質問紙に回答しました(計46名)。本アンケートは匿名で回答されました。オンライン調査への参加にあたっては、本研究の目的(多様性推進施策への活用・学術研究)を説明し、同意を得ました。なお、本調査ではジェンダーギャップに焦点を当てて調査するため、性別(性自認)は男性または女性のどちらかのみを分析対象としました。
▼結果1: ロールモデルの男女差
ロールモデルはキャリアイメージの確立や学習の動機づけなどの面で重要な役割を果たします(ピア効果)。また特に同性であることは性別ピア効果と呼ばれ重要です(※必ずしも同性である必要はありませんが傾向としてみられます)。そこで本研究ではIT技術者志望者はどこでどのようなロールモデルと出会っているかについて調査しました。
調査の結果、ロールモデルとの関係性に違いが見られました。男性は身近な(男性の)先輩・教員である一方、女性は現役技術者など普段の生活では出会いづらい人である傾向がありました。これは「女性は身近にロールモデル候補が少ない」といったロールモデルと出会う機会にギャップがあることを示唆します。また同性ロールモデルの比率が相対的に少ないという点もこのギャップを示唆します。

▼結果2: 会社・職業の選択基準の男女差
会社や職業の選択には個々人の興味関心・心理的特性以外にも社会的なバイアスからも影響を受けます。そこでIT技術者志望者に会社や職業を選択する際に重視する項目について調査をしました。
調査の結果、IT技術者志望者は男女共通して「おもしろい/成長できる仕事」「快適な環境・給与」「スキルマッチ」を重視していることがわかりました。また女性は男性に比べて手堅い基準(ワークライフバランスや勤務時間、継続性・安全性)で会社を選んでいることがわかりました。 一方で「DE&I推進に積極的な会社は男女差が少ない」ことが先行研究①②で示されています。これは、女性は男性に比べて、会社選びにおいてライフイベントなどによる仕事への影響を考慮せざるを得ない社会的バイアスの存在と対策の必要性を示唆します。
会社や職業の選択には個々人の興味関心・心理的特性以外にも社会的なバイアスからも影響を受けます。そこでIT技術者志望者に会社や職業を選択する際に重視する項目について調査をしました。
調査の結果、IT技術者志望者は男女共通して「おもしろい/成長できる仕事」「快適な環境・給与」「スキルマッチ」を重視していることがわかりました。また女性は男性に比べて手堅い基準(ワークライフバランスや勤務時間、継続性・安全性)で会社を選んでいることがわかりました。 一方で「DE&I推進に積極的な会社は男女差が少ない」ことが先行研究①②で示されています。これは、女性は男性に比べて、会社選びにおいてライフイベントなどによる仕事への影響を考慮せざるを得ない社会的バイアスの存在と対策の必要性を示唆します。

【調査2: IT技術者の働く環境調査】
DE&I(Diversity, Equity, and Inclusion)推進にあたって、当社の働きやすい環境の実現に向けた課題を明らかにし、具体的な施策を提案することを目指して調査を行いました。今回は、主に当社の技術者を対象として、各々が働いている環境の包摂性と、その従業員の属性との関連について調査しました。
▼アンケート回答者
当社グループ内でアンケートを募り、回答者の属性とインクルージョンスコア(株式会社JobRainbow開発の調査方法; 2022年版)を用いて、個々人が感じている包摂度を計測し、下図のように回答者の属性によってインクルージョンスコアがどのように影響を受けるかを調べました。
DE&I(Diversity, Equity, and Inclusion)推進にあたって、当社の働きやすい環境の実現に向けた課題を明らかにし、具体的な施策を提案することを目指して調査を行いました。今回は、主に当社の技術者を対象として、各々が働いている環境の包摂性と、その従業員の属性との関連について調査しました。
▼アンケート回答者
当社グループ内でアンケートを募り、回答者の属性とインクルージョンスコア(株式会社JobRainbow開発の調査方法; 2022年版)を用いて、個々人が感じている包摂度を計測し、下図のように回答者の属性によってインクルージョンスコアがどのように影響を受けるかを調べました。

当社のSlackのいくつかの(主にIT技術者関連の)チャンネルでアンケートの回答をお願いしました。なお本アンケートは匿名で実施されました。IT技術者を主な対象としたのは当プロジェクトの焦点がIT技術者だからです。ただしアンケート自体はオープンなもので他の職種の回答者も含まれます。募集期間は2023/5/11–5/25の2週間で回答者は231名です。
▼結果のまとめ
結果のまとめを以下の図に示します。属性とインクルージョンスコアの関係を構造方程式モデルで分析したあと、各属性の期待値を計算して、各スコアのABCの3段階評価(JobRainbowによる基準)をしています。ここで勉強会とは当社内で行ったジェンダーギャップ勉強会への参加を指します。
▼結果のまとめ
結果のまとめを以下の図に示します。属性とインクルージョンスコアの関係を構造方程式モデルで分析したあと、各属性の期待値を計算して、各スコアのABCの3段階評価(JobRainbowによる基準)をしています。ここで勉強会とは当社内で行ったジェンダーギャップ勉強会への参加を指します。

総合スコアはA評価、小項目も「多様性への理解・尊重」を除きA評価となり、回答の平均としては概ね高い値を示していると言えます。ただしA評価を満たしていない回答も一定数存在していました。したがって平均スコアとしてA評価基準を満たせてはいるものの、改善の余地があることがわかります。
この調査はジェンダーギャップを含めた様々なギャップについて分析することができますが、ここでは主にジェンダーギャップに関連する項目についてご紹介します。
性別は心理的安全性についてのみ影響があり、男性が女性に比べやや高い傾向にありました。ただし男女共にA評価だったため、女性が低いというわけではなさそうです。
子育て中である回答者は尊重されていると感じていました。この効果は女性のみに見られました(目的変数を個人の尊重、説明変数を属性情報(構造方程式モデルと同様)とし、性別と子育て中の交互作用の回帰係数を評価することによって分析しました)。これは子育てに関する性的役割分担に起因するものであると考えられます。またそれが個人の尊重と正の関連があることは、子育て中は私的な理由での業務上の調整が必要なことが多く、それが周囲に受け入れられているからだと考えられます。
ジェンダーギャップ勉強会への参加者は心理的安全性が高い傾向にありました。この効果には男女差はありませんでした(前段落と同様に回帰分析によって交互作用を評価)。
「多様性への理解・尊重」は平均スコアとして唯一A評価でなかった項目でした。他の項目のスコアは高いため、攻撃的・差別的な行動が広がっているわけではないと考えられます。例えば、会社としての能動的なアクションの弱さ、または無意識の言動に対する知識や配慮の不足などを、回答者が感じている可能性があります。したがって、経営層によるメッセージの発信や、DE&Iに関する研修(基礎知識・注意すべき行動)が、当社のDE&I推進に重要であると言えます。
【まとめ】
本論文では上記2つの調査を踏まえてIT技術者の構造的ジェンダーギャップにおける課題とその解消施策について議論しました。例えば、ロールモデルとの出会いの機会の少なさ解消のために、コミュニティづくりなどロールモデルと出会う機会を作ること、少数派の心理的安全性向上のための多様性・個人の尊重、マッチョイズムや特定のマジョリティに沿った風土の改善などです。
また家庭内性的役割に関する社会的バイアスは社会構造全体に根ざした問題であるため、幅広く産業、教育、行政で取り組む必要があると考えられます。企業としては前述のような対策を推進するとともに、その取組や効果の社会への周知、教育現場との連携によって多様な働き方・キャリアにおけるステレオタイプの払拭などによってこの問題に貢献できると考えられます。
この調査はジェンダーギャップを含めた様々なギャップについて分析することができますが、ここでは主にジェンダーギャップに関連する項目についてご紹介します。
性別は心理的安全性についてのみ影響があり、男性が女性に比べやや高い傾向にありました。ただし男女共にA評価だったため、女性が低いというわけではなさそうです。
子育て中である回答者は尊重されていると感じていました。この効果は女性のみに見られました(目的変数を個人の尊重、説明変数を属性情報(構造方程式モデルと同様)とし、性別と子育て中の交互作用の回帰係数を評価することによって分析しました)。これは子育てに関する性的役割分担に起因するものであると考えられます。またそれが個人の尊重と正の関連があることは、子育て中は私的な理由での業務上の調整が必要なことが多く、それが周囲に受け入れられているからだと考えられます。
ジェンダーギャップ勉強会への参加者は心理的安全性が高い傾向にありました。この効果には男女差はありませんでした(前段落と同様に回帰分析によって交互作用を評価)。
「多様性への理解・尊重」は平均スコアとして唯一A評価でなかった項目でした。他の項目のスコアは高いため、攻撃的・差別的な行動が広がっているわけではないと考えられます。例えば、会社としての能動的なアクションの弱さ、または無意識の言動に対する知識や配慮の不足などを、回答者が感じている可能性があります。したがって、経営層によるメッセージの発信や、DE&Iに関する研修(基礎知識・注意すべき行動)が、当社のDE&I推進に重要であると言えます。
【まとめ】
本論文では上記2つの調査を踏まえてIT技術者の構造的ジェンダーギャップにおける課題とその解消施策について議論しました。例えば、ロールモデルとの出会いの機会の少なさ解消のために、コミュニティづくりなどロールモデルと出会う機会を作ること、少数派の心理的安全性向上のための多様性・個人の尊重、マッチョイズムや特定のマジョリティに沿った風土の改善などです。
また家庭内性的役割に関する社会的バイアスは社会構造全体に根ざした問題であるため、幅広く産業、教育、行政で取り組む必要があると考えられます。企業としては前述のような対策を推進するとともに、その取組や効果の社会への周知、教育現場との連携によって多様な働き方・キャリアにおけるステレオタイプの払拭などによってこの問題に貢献できると考えられます。
■謝辞
アンケートにご回答いただいた皆様、アンケート調査実施にご協力いただいた特定非営利活動法人Waffle、インクルージョンスコアの使用の許可・使用にあたってのノウハウをご提供いただいた株式会社JobRainbowに感謝申し上げます。
学際的情報科学センターは今後も、より安心してご利用いただけるサービス運営に繋がるよう、外部の研究機関と協働し、情報科学とその隣接領域における学術的な知見に基づいた研究開発に努めてまいります。
学際的情報科学センターは今後も、より安心してご利用いただけるサービス運営に繋がるよう、外部の研究機関と協働し、情報科学とその隣接領域における学術的な知見に基づいた研究開発に努めてまいります。
◼︎論文
・著者: 高野雅典、森下壮一郎、神谷優
・タイトル: IT技術者のジェンダーギャップ解消のための志望者・現役技術者に対する調査
・論文誌: 情報処理学会論文誌「デジタルプラクティス」
・URL: https://www.ipsj.or.jp/dp/contents/publication/61/TR0601-13.html
・タイトル: IT技術者のジェンダーギャップ解消のための志望者・現役技術者に対する調査
・論文誌: 情報処理学会論文誌「デジタルプラクティス」
・URL: https://www.ipsj.or.jp/dp/contents/publication/61/TR0601-13.html