プレスリリース
保育所マップ利用で待機児童4割減少の可能性 希望保育所の数が増加し、入園意欲も向上へ -渋谷区における保育所利用申請システムに関する実証実験の調査結果を公開-
AI Lab、GovTech開発センター、東京大学マーケットデザインセンターによる共同研究
株式会社サイバーエージェント(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:藤田晋、東証プライム市場:証券コード4751)は、AI技術の研究開発組織「AI Lab」、官公庁・自治体のDX推進支援を行う専門開発組織「GovTech開発センター」において、東京大学マーケットデザインセンターならびに東京都渋谷区と取り組む「保育所利用申請システムに関する実証実験」を実施し、調査結果を公開いたしました。
■本分析・調査結果の概要
本実証実験では、利用申請のデジタル化にあたりどのような申請画面、UI(ユーザーインターフェース)が適切かという検討に資するため、保育所検索マップなし・マップあり・入りやすさマップという3つの保育所利用申請システムを実際に構築し、UIの違いによって利用者の行動がどのように変わるかを分析しました。
その結果、マップから保育所を選択できるUIでは、自宅からの距離が近い保育所を選択し、希望保育所数が増加。情報取得に対する満足度が向上し、入所意向が向上しました。また、シミュレーションによって、待機児童が減少することが確認されました。
今回の実験では、実験参加者が実際に保育所に児童をいれることを前提としていないことなどから、実際に導入された際の効果をどの程度予測するかは注意が必要です。しかし、社会実装にあたってはこのようなシステムを実際に導入した上でユーザーの行動がどのように変化するか分析することが重要です。
今後も本プロジェクトにおいて、待機児童問題など保育にまつわるさまざまな課題について解決策につながるような分析を続けてまいります。
渋⾕区における保育所利⽤申請システムに関する実証実験の調査結果
1. 保育所選びの際に重視する項目は「家や職場からの距離」「園庭の有無」「評判」 2. 保育所検索マップを使ったユーザーは、マップを使わない場合に比べて希望保育園数が4割増加 3. 保育所検索マップを利用すると自宅から希望保育所までの距離が4割短縮 4. 保育所検索マップを利用したユーザーは効率的に情報を取得 5. 保育所検索マップを利用したユーザーは希望順位が低い保育所についても入園意思が高い 6. 保育所の入りやすさを可視化すると不必要な希望順位の操作を誘発する可能性があることに留意が必要 7. マップの導入によって待機児童数が4割減少する可能性 |
調査期間 | 2022年6月27日(月)~7月10日(日) |
実験参加者 | 50名 渋谷区職員とサイバーエージェント社員のうち、保育所の利用経験があるか利用予定があり、渋谷区在住経験のある方 |
利用申請システムは3種類 | ・「マップなし」は、現状の利用申請手続き書類をGoogleフォームによって電子化 ・「マップあり」は、Googleマップから直接保育所を選択できる ・「入りやすさマップ」は、昨年度入所児童の最低指数にもとづき入りやすさを可視化したもの ※「入りやすさマップ」のUI開発にあたっては「入りやすい保育園マップ」を参考に開発 |
【1】保育所選びの際に重視する項目は「家や職場からの距離」「園庭の有無」ついで「評判」
マップありのシステムを使った場合は「園庭」や「定員の数」を比較的重視しますが、マップなしの場合は「周囲の環境」を重視するなど、提供する情報によって選択基準が変わってきていることがわかります。
【2】保育所検索マップを利用すると希望する保育園数が4割程度増加
「マップなし」を利用したユーザーが記入した、行きたい保育所の数は平均3.8か所だったのに対して、「マップあり」「入りやすさマップ」では平均で5か所以上と4割程度多くなりました。マップを導入することで保育所探しが容易になり、魅力的な保育所をより簡単に発見できることが示唆されます。
保育所整備が進んだことで児童数に対して十分な定員枠を確保できている自治体が増えているなか、特定の保育園への入所を希望した結果待機となっている「園指定待機児童」の問題がクローズアップされています。行っても良いと思える保育所をより多く見つけることができれば、こうした問題も解消していくことが期待されます。
【3】保育所検索マップを利用すると自宅から希望保育所までの距離が4割短縮
利用申請システムにマップが備わっていることで近い保育所を選ぶような効果があったことが示唆されます。せっかく近い距離に保育所があっても見つけられなければ希望することはできません。保育所検索マップのような直感的に保育所までの距離が把握できるツールによって大幅に保育所選びが簡単になることが期待されます。
【4】保育所検索マップを利用したユーザーは効率的に情報を取得
「マップあり」「入りやすさマップ」の場合、希望順に関わらず過半数のユーザーが「情報を得られた」と回答。マップ上に示した保育所の位置だけではなく、保育所を選択した時に表示される定員や園庭の情報などが保育所選択の際に重要になっていると思われます。また、入りやすさマップを利用した場合はおおむね8割程度が「情報を得られた」としており、入りやすさの可視化が保育所情報に重要な要素であることがわかります。
【5】マップを利用したユーザーは希望順位が低い保育所についても入園意思が高い
下位の希望園では「マップなし」のシステムを利用した場合「入所する」が半数を下回った一方、「マップあり」の場合は、第9希望まで半数以上が入所意思を示しました。
入りやすさマップでは第5~7希望を底に下位に行くほど入園意思が高まるU字型になっています。
下位の希望園への入所意志の低さは、保育所に入りたい一心で十分に吟味せずに希望園を書いたものの、実際に内定して冷静になると入りたい保育所ではないということがわかるという情報収集の不足からくるものと考えられます。マップあり検索システム、特に入りやすさマップでは複数の保育所の比較を効率的に行えるため下位の保育所も含めて十分に情報を収集し、納得して入所するユーザーが増えることが示唆されます。
【6】「入りやすさマップ」を利用したユーザーは人気園を上位に書かないようになる
入りやすさマップを使うことによるユーザー行動の変化をみると、上位3位までには「入りにくい保育所」(昨年度入所児童の最低指数が44点以上)を避ける傾向があります。具体的には、第一希望に「入りにくい保育所」を記入した割合が、通常のマップだと71%に対して、「入りやすさマップ」だと66%、第二希望が76%に対して67%、第三希望に対して、67%対55%となっています。第4、5希望では逆転しますが、これは上位と下位の入れ替えを行った結果、下位の希望園で入りにくい園を選択することになったからと考えられます。
マッチング理論の観点からみると、入りやすいかどうかを基準に希望園を入れ替えたり、保育所の数を減らしたりすることは戦略的操作といって、申込者や社会全体にとって望ましくない結果を起こす可能性があります。
入りやすさマップを可視化する際は、同時に「希望順に書くことが本人にとっても得になる」ことを強調することで戦略的操作を避けることが必要であると考えられます。今回のように入所難易度を示すより、直接的に希望園を追加させるようなメッセージも検討に値すると考えられます。
【7】マップの導入により、待機児童が4割減少する可能性
実際の令和4年度の匿名加工処理済みの利用申請データに、今回の実験参加者のデータを追加するかたちで、渋谷区の利用調整アルゴリズムと同様のマッチングアルゴリズムを用いて利用調整をシミュレートしました。実験参加者の平均でみると待機児童になる確率が「入りやすさマップ」「マップあり」では12%前後、「マップなし」では19%程度となり、マップを導入することで待機児童数が4割程度減少する可能性が示唆されました。
実験参加者以外の児童の待機児童率については大きな変化はなく、実験参加者によって押し出された結果ではないことも確認されました。ただし、今回の実験では実験参加者が実際に保育所に児童をいれることを前提としていないことや、実際は本システム以外にも情報収集の手段があるためシステム間の差が出にくくなる可能性があるなど、実際に導入された際の効果をどの程度予測するかは注意が必要です。
【本リリースに関するお問い合わせ】
株式会社サイバーエージェント AI事業本部 広報
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