プレスリリース
サイバーエージェントと東京大学マーケットデザインセンター、多摩市との「保育所の利用調整」に関する実証実験のもと、利用調整ルールを改善
~2022年度より多摩市の利用調整ルールが改正、さらに利用申請が容易に~
株式会社サイバーエージェント(本社:東京都渋谷区、代表取締役:藤田晋、東証一部上場:証券コード4751)のAI技術の研究開発組織「AI Lab」、官公庁・自治体のDX推進支援を行う専門開発組織「GovTech開発センター」および東京大学マーケットデザインセンター(The University of Tokyo Market Design Center 以下、UTMD)は、2021年5月より東京都多摩市と取り組む「保育所の利用調整」に関する実証実験において、AI Lab研究員とUTMDの研究結果による提案を踏まえ、多摩市において利用調整ルールが改善されたことをお知らせいたします。
また、利用調整ルールが改善された2022年度一斉入所申し込みデータとルール改善前のデータを分析した結果、一部の利用申請者においては保育所利用に関する正直な希望の申告が促進されている可能性を示唆する結果を得ました。今回の利用調整ルールの改善により、住民の保育所利用に対する正直な希望を把握することが可能となり、よりよい保育所マッチングアルゴリズムの開発および保育所サービスの利用満足度の改善が期待されます。
■背景
保育所の利用調整方式は、なるべく多くの人を保育所に割り当て、高い希望を叶えることが望まれます。また、他人がどの保育所を希望するか気にせず、保育所に関する希望順位を正直に表明するだけで済むシンプルな方式であることも重要です。
多摩市における優先順位の決め方には、他の自治体でも用いられる「同点の場合、希望保育園の順位が高い者が優先される」という調整ルールがありました。しかしこのルールにより、例えば、第1希望の保育所への入所が難しいと想定される場合、第2希望の保育所を第1希望と申告するなど「正直に希望順位を申告せず、実際の希望とは異なる順位を申告することで得をする可能性がある」ことを、当社とUTMDは確認しました。
このような調整ルール下では、申請者は他の申請者の希望順位も考慮したうえで、自身の希望順位を戦略的に決める必要があるため、保護者がいわゆる「保活」に時間を割く必要が出てしまいます。実際に多摩市では、住民からどのような希望順位を記入すればいいのかという問い合わせを多く受けている状況でした。
■利用調整ルール変更について詳細
このような背景のもと、当社とUTMDの共同研究の結果を元に「希望する保育所の順位が高い」児童を優先するルールの廃止について多摩市に提案し、多摩市における検討の結果、2022年度の募集よりこのルールの廃止が決定されました。
このような事例は、マーケットデザイン研究の領域において米国の学校選択制や研修医配属に関する研究※1がありますが、日本において実際の制度変更に至った例としては貴重なものと認識しています。
※安田洋祐, 川越敏司, 小島武仁, 佐藤孝弘, 滝沢弘和,友枝健太郎, 成田悠輔:学校選択制のデザイン: ゲーム理論アプローチ, 叢書「制度を考える」, NTT 出版(2010)
ルールの廃止により、多摩市の利用調整方式は実際の希望とは異なる順位を申告しても得をしない方式(逐次独裁方式 ※2)に近い方式へと改善されました。厳密には、きょうだいの同所入所希望や転園を考慮していることから、多摩市の利用調整方式は完全な逐次独裁方式ではありませんが、従前の方式よりも戦略的操作の余地が小さくなりました。ほとんどのケースで、他の申請者の希望とは関係なく、申請者が通いたい保育所を希望する順に記入しても不利益が発生せず、シンプルな意思決定で済むことが期待されます。
※2 点数の高い児童順に、残っている募集枠から一番希望する保育所に入所させる方式
このことにより、2022年度の保育所利用調整から住民の保育所に対する正直な希望が把握できると期待され、実証実験においてもよい性質を持ったデータを得られることが見込まれます。本共同研究チームでは、それらデータを元に新たな利用調整アルゴリズムの試行利用を行い、待機児童数や入所児童の希望順位などといった指標の分析から、アルゴリズムの変更がどのような結果をもたらすのかを引き続き検証する予定です。あわせて申請書をリニューアルし、同時に入所を申し込むきょうだいに関する選択肢を簡素化することで、より住民にとって「わかりやすい保育所の利用申請」が実現されています。
また、実際の2021年度と2022年度の一斉入所データを比較することで、一部の応募者において、統計的に有意ではないものの、保育所利用に関する正直な希望の申告が促進されている可能性がある変化を確認しました。本研究の実証データ詳細についてはこちらのAI Lab研究員による記事をご覧ください。
■今後
当社とUTMDは今後も、多摩市と引き続き「保育所の利用調整」実証実験を実施し、マーケットデザインの知見を活かした制度改善に向けて取り組み、住民にとってよりわかりやすい保育所利用選考に向けた改善の提案を行ってまいります。ここで得た知見はマーケットデザイン分野の学術貢献および、さまざまな自治体における行政効率や住民満足度の改善に貢献いたします。
また、利用調整ルールが改善された2022年度一斉入所申し込みデータとルール改善前のデータを分析した結果、一部の利用申請者においては保育所利用に関する正直な希望の申告が促進されている可能性を示唆する結果を得ました。今回の利用調整ルールの改善により、住民の保育所利用に対する正直な希望を把握することが可能となり、よりよい保育所マッチングアルゴリズムの開発および保育所サービスの利用満足度の改善が期待されます。
■背景
保育所の利用調整方式は、なるべく多くの人を保育所に割り当て、高い希望を叶えることが望まれます。また、他人がどの保育所を希望するか気にせず、保育所に関する希望順位を正直に表明するだけで済むシンプルな方式であることも重要です。
多摩市における優先順位の決め方には、他の自治体でも用いられる「同点の場合、希望保育園の順位が高い者が優先される」という調整ルールがありました。しかしこのルールにより、例えば、第1希望の保育所への入所が難しいと想定される場合、第2希望の保育所を第1希望と申告するなど「正直に希望順位を申告せず、実際の希望とは異なる順位を申告することで得をする可能性がある」ことを、当社とUTMDは確認しました。
このような調整ルール下では、申請者は他の申請者の希望順位も考慮したうえで、自身の希望順位を戦略的に決める必要があるため、保護者がいわゆる「保活」に時間を割く必要が出てしまいます。実際に多摩市では、住民からどのような希望順位を記入すればいいのかという問い合わせを多く受けている状況でした。
■利用調整ルール変更について詳細
このような背景のもと、当社とUTMDの共同研究の結果を元に「希望する保育所の順位が高い」児童を優先するルールの廃止について多摩市に提案し、多摩市における検討の結果、2022年度の募集よりこのルールの廃止が決定されました。
このような事例は、マーケットデザイン研究の領域において米国の学校選択制や研修医配属に関する研究※1がありますが、日本において実際の制度変更に至った例としては貴重なものと認識しています。
※安田洋祐, 川越敏司, 小島武仁, 佐藤孝弘, 滝沢弘和,友枝健太郎, 成田悠輔:学校選択制のデザイン: ゲーム理論アプローチ, 叢書「制度を考える」, NTT 出版(2010)
ルールの廃止により、多摩市の利用調整方式は実際の希望とは異なる順位を申告しても得をしない方式(逐次独裁方式 ※2)に近い方式へと改善されました。厳密には、きょうだいの同所入所希望や転園を考慮していることから、多摩市の利用調整方式は完全な逐次独裁方式ではありませんが、従前の方式よりも戦略的操作の余地が小さくなりました。ほとんどのケースで、他の申請者の希望とは関係なく、申請者が通いたい保育所を希望する順に記入しても不利益が発生せず、シンプルな意思決定で済むことが期待されます。
※2 点数の高い児童順に、残っている募集枠から一番希望する保育所に入所させる方式
このことにより、2022年度の保育所利用調整から住民の保育所に対する正直な希望が把握できると期待され、実証実験においてもよい性質を持ったデータを得られることが見込まれます。本共同研究チームでは、それらデータを元に新たな利用調整アルゴリズムの試行利用を行い、待機児童数や入所児童の希望順位などといった指標の分析から、アルゴリズムの変更がどのような結果をもたらすのかを引き続き検証する予定です。あわせて申請書をリニューアルし、同時に入所を申し込むきょうだいに関する選択肢を簡素化することで、より住民にとって「わかりやすい保育所の利用申請」が実現されています。
また、実際の2021年度と2022年度の一斉入所データを比較することで、一部の応募者において、統計的に有意ではないものの、保育所利用に関する正直な希望の申告が促進されている可能性がある変化を確認しました。本研究の実証データ詳細についてはこちらのAI Lab研究員による記事をご覧ください。
■今後
当社とUTMDは今後も、多摩市と引き続き「保育所の利用調整」実証実験を実施し、マーケットデザインの知見を活かした制度改善に向けて取り組み、住民にとってよりわかりやすい保育所利用選考に向けた改善の提案を行ってまいります。ここで得た知見はマーケットデザイン分野の学術貢献および、さまざまな自治体における行政効率や住民満足度の改善に貢献いたします。
【アーカイブ動画公開】UTMD×サイバーエージェント共催シンポジウム
「官学民連携」による新たな官公庁・地方自治体業務の在り方を検討するシンポジウム「Govtechとマーケットデザイン」を2022年2月24日(木)にオンライン開催いたしました。保育所利用調整ルールについて実証実験に取り組む多摩市・渋谷区の担当のみなさまにもご登壇いただき、官民連携を超えた「官学民連携」による、新たな官公庁・地方自治体業務の在り方について意見交換をいたしました。ぜひアーカイブ動画をご覧ください。
株式会社サイバーエージェント・東京大学マーケットデザインセンター共催シンポジウム
GovTechとマーケットデザイン アーカイブ動画
株式会社サイバーエージェント・東京大学マーケットデザインセンター共催シンポジウム
GovTechとマーケットデザイン アーカイブ動画