技術の鋭さとビジネスの解像度を併せ持つ。「値引き革命」に挑む、ビジネスリードエンジニアの真価

技術・クリエイティブ

サイバーエージェントでは2026年8月、エンジニア向け評価制度「JBキャリアプログラム」を2019年の策定以来初めて全面刷新し、AI時代における新たなエンジニア職種「ビジネスリードエンジニア(BLE)」を新設しました。

総合的な技術力を基盤に、事業現場へ深く踏み込んで一気通貫でビジネスインパクトを創出するビジネスリードエンジニア。その理想像をまさに体現しているのが、AI事業本部で「価格エージェント」の事業責任者を務める藤田です。
データサイエンティストのプレイヤーからマネージャーを経て、事業責任者へと役割を広げながら、技術を大きな事業成果へと転換し続けてきた藤田。今回のインタビューでは、これまでのキャリアで得た学びや、ビジネスリードエンジニアとして発揮する代替不可能な価値、そして今後の展望について詳しく話を聞きました。

Profile

  • 藤田 光明
    AI事業本部 価格エージェント事業責任者 / シニアデータサイエンティスト
    東京大学大学院経済学研究科修士課程を修了後、2018年(株)サイバーエージェント入社。デジタル広告配信プラットフォームのアルゴリズム開発や、大手コンビニエンスストアのPOSデータを活用した広告プロダクトの立ち上げ、ドラッグストアアプリのグロース戦略などをリード。共著論文がトップ国際会議で複数採択されるなど学術実績も豊富で、2023年には「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に選出された。

正論だけでビジネスは動かない。失敗の先に掴んだ、事業成果の生み出し方

── これまでどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。

大学院で経済学を専攻した後、2018年にデータサイエンティストとして新卒入社しました。キャリアのスタートはAI事業本部で、インターネット広告配信プラットフォーム「Dynalyst」の開発です。約2年半、データサイエンティストのプレイヤーからマネージャーまで経験しました。

その後、小売DX(リテールメディア)の立ち上げ部門へ異動し、(株)データ・ワンの広告配信基盤の立ち上げに参画しました。続いて、ドラッグストア公式アプリの利用・売上拡大の支援に携わりました。その中で、経済学の因果推論の手法を用いることで、クーポン配布のターゲティングを最適化できるという強い手応えを得たことから、「価格エージェント」の前身であるAI経済学カンパニーを立ち上げ、現在に至ります。

振り返ってみると、広告配信アルゴリズムを開発するデータサイエンティスト、広告配信基盤を構築するデータエンジニア、顧客折衝も担うプロジェクトマネージャーなど、様々な職種を横断してきましたが、キャリア初期から一貫して「技術をどう事業成果につなげるか」を意識していました。例えば、入社後すぐに担当した「Dynalyst」では、アルゴリズムの精度が売上を大きく左右します。どんなモデルを作るべきかという技術的な判断が事業成果にダイレクトに結びつく環境だったからこそ、自然とビジネス成果を見据えた思考が鍛えられたように思います。

── 現在事業責任者を務めている「価格エージェント」においては、技術力を土台にどのような事業成果を生み出しましたか?

「価格エージェント」立ち上げのきっかけは、常務執行役員の内藤から寄せられた「経済学を武器に、価格決定の領域で新たな市場を創ってほしい」というオーダーでした。そこで、これまでの広告事業や小売DX事業で培った一人ひとりに対する施策効果予測の技術を、クーポンやポイントなどの値引き原資の効率化というソリューションに転換するプロダクトコンセプトを設計しました。実際に、ドラッグストアやアパレルメーカー、旅行代理店、ポイント事業者など幅広い業界で導入が進んでおり、例えばオンワードデジタルラボ様や三井不動産商業マネジメント様との取り組みでは、クーポン・ポイント原資を大幅に効率化した事例も出ています。

── 技術を事業成果につなげるために大切にしている視点や、転機となった経験があれば教えてください。

我々が取り組んでいるのは事業ですから、技術単体では価値になりません。その技術で何を実現できるのか、そのために技術をどう磨き、尖らせていくのかという順番を重視し、クライアントにどんなアウトカムを届けられるかを最優先で考えるよう日頃から徹底しています。

ただ、「価格エージェント」の発足当初は「施策の因果効果を正しく評価しましょう」などと、技術の正しさや理論ばかりを掲げて愚直に営業してしまっており、全く売れませんでした。「正しいだけの施策評価」を提示することは、現場の担当者や上司の方が過去に行ってきたやり方を否定する構図にもなり得るんですよね。正論だけでは人も組織も動かないのだと痛感しました。

また、事業が立ち上がらない焦りやプレッシャーから、提供するソリューションの幅をむやみに広げてしまった時期もありました。しかし、自分自身の体重が乗っていない提案ではモチベーションが続きませんし、チームとしても「何のためにやっているのか」が見えなくなってしまうという、苦い失敗を経験しました。

これらの経験から学んだのは、「自分が信じるものをぶらさないこと」と「それがマーケットからどう捉えられているかを冷静に見続けること」の両立が不可欠だということです。それ以来、特に意識するようになったのが以下の3点です。

・ソリューションをぶらすのではなく、その価値がダイレクトに届く業界・企業に提案する
・ソリューションの導入を意思決定できるレイヤー・部署と直接対話する
・一緒に取り組む現場担当者がワクワクでき、社内評価にもつながる状態をつくる

さらに、この反省をもとに提案スタイルも大きく刷新しました。単に、企業の販促費のムダを削減するだけでなく、削減した原資を顧客育成への投資に組み替えるという、当社の広告営業組織やデータコンサル組織など、複数のアセットを掛け合わせた提案へと切り替えました。

一方で、完全にビジネスパーソンとして割り切るべきだとも思っていません。技術が好きで深く信じているからこそのこだわりや執念には、必ず共感してくれる人がいます。「いいものを作りたい」という技術者としての根底にある想いは曲げず、素直に出していくことも大切だと考えています。

「君が言うなら任せるよ」信頼を積み重ね、やり切ることまでビジネスリードエンジニアの役割

── 当社では2028年までの「開発プロセス完全自動化」を掲げています。AIによって開発生産性が大きく向上する中で、ビジネスリードエンジニアだからこそ発揮できる、AIには代替できない価値とは何だと考えていますか?

前提として、生成AIによってこれまで専門的な技術を必要としていた開発の多くを、非技術者であっても担えるようになりつつあります。その中でビジネスリードエンジニアだからこそ発揮できる価値は、「技術的な尖りを武器に、ビジネスの勝ち筋を見つけて突破すること」だと考えています。

高いレベルの技術力と、事業・マーケットに対する深い解像度。この2つを併せ持った上で、事業の勝ち筋となる技術に全力で投資するという意思決定ができること。これがビジネスリードエンジニアの真価だと思います。

そして、この「意思決定」には、いくつもの段階があります。自分の時間をそこに使う。チームをその方向に動かす。さらには社内外のさまざまな関係者まで巻き込んでいく。そこには、正しいことを言うだけではなく、「君が言うなら任せるよ」と言ってもらえるだけの信頼を積み重ねることも含まれます。そこまでやり切ることが、ビジネスリードエンジニアの仕事だと考えています。

── その価値を高めるために、日頃どんな試行錯誤を行っていますか?

とにかくマーケットを深く見ることを徹底しています。事業・市場の動向そのものだけでなく、最先端の技術者たちが今何を考え、どんな研究をしていて、その背景にどんなニーズがあるのかという点も注視しています。例えば、Google、Amazon、Walmartなど業界をリードするプレイヤーが新たなサービスや論文を打ち出した背景には、どういう未来図があるのかといった視点から、自分たちが研ぎ澄ますべき方向性を見極めています。

サイバーエージェントだからこそ挑めるーーアカデミックな技術を事業としてスケールさせたい

── 2028年卒の新卒採用から、ビジネスリードエンジニアの採用枠が新設される予定です。当職種に興味を持つ学生のみなさんにとって、どのような経験を積むことが大切だと考えていますか?

学生時代は一つのことに集中できる貴重な時期です。まずは研究でも好きな技術でも良いので、一つの領域を深掘りすることがおすすめです。一つの領域に深く入り込むことで、技術にインデックスを貼ったり(世の中にどんな技術があって、それぞれがどういう特徴や仕組みを持っているのかという “目次” を自分の中に作っておくこと)、技術を深く掘るとはどういうことかを体得できます。これは学生のうちにぜひ身につけておくべきことだと考えています。

そしてビジネスリードエンジニアを志すのであれば、その深堀りした技術で世の中を良くすることに挑戦してみてほしいと思います。アプリを作ってみる、近しい事業をやっている人に使ってもらうなど、何でも構いません。大事なのは、「Get your hands dirty」という姿勢です。生成AIの登場で表面的な知識を持っていること自体の価値はほぼなくなりました。だからこそ、実際にやってみてフィードバックを受け、改善を重ねた泥臭い実践経験が強い武器になります。

── 最後に、自身のキャリアや「価格エージェント」における今後の展望を教えてください。

私自身は固定的なキャリアイメージを持っているわけではなく、今の事業で何を成し遂げるかが一番のモチベーションです。

現在挑んでいるのは、経済学というアカデミックな技術を使って、価格というドメインで大きな事業を作るチャレンジです。このチャレンジには、経済学に強い人材、データサイエンティスト、エンジニア、そして営業組織やデータコンサル組織という複数の強力なアセットが欠かせません。それら全てを揃えているサイバーエージェントだからこそ挑戦できる環境だと確信しています。

この機会を最大限に活かし、アカデミックな技術を事業としてスケールさせたナンバーワンのプロダクトだと言える状態を目指したいです。

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