知識だけで終わらない。内定者が事業課題を見つけ、使われるAIを生み出す~内定者AI研修「AIスタ」~
生成AIの活用は、個人の業務効率化から、組織や事業の変革へと広がっています。事業課題を見つけ、AIで解決し、その成果を組織全体へ広げる力が求められるようになりました。
サイバーエージェントでは、内定者向けAI活用プログラム「AIスタ」を実施し、AIで組織課題を解決できる人材の育成に取り組んでいます。内定者が開発したAIエージェントによって提案数が約2倍になった事例や、年間約1.5万時間の削減が見込まれる事例も生まれています。「AIスタ」の狙いと、内定者の成長を支えるオンボーディングについて、オンボーディンググループマネージャーの塚本麻友に聞きました。
Profile
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塚本 麻友 人事本部 採用戦略室 オンボーディングGマネージャー。
採用人事兼広報、産休を経てオンボーディング領域を管掌。現在はビジネスコース新卒採用のオンボ―ディングにて内定者期間の育成から若手フォローアップまでを支援。
入社後のスタートダッシュを加速するAI活用プログラム「AIスタ」
当社では、2026年卒の内定者を対象に、AI活用力の向上を目的とした育成プログラム「AIスタ」を開始。2年目となる現在は、2027年卒の内定者を対象に実施している。
AIスタでは、生成AIの基礎から業務の自動化までを段階的に習得する「AIフレンドリークエスト」や、内定者向けのAIサポートツールを提供。内定者のうちからAIを「当たり前」に活用し、入社後にはAIを活用して事業を加速できる人材の育成を目指している。
AIフレンドリークエストの仕組み
AIの活用レベルに応じて星1~星6までの段階を設定している。星1~3ではリサーチや資料作成、星4以降ではAIエージェントの作成など、レベルに応じた成果物の提出を通じて実践的なAI活用力を身につけていく。
内定者時点でのAI活用レベルは、ほとんどAIを使ったことがない人から、すでに高度に使いこなしている人までさまざまだ。それぞれのレベルに応じたクエストを用意し、一人ひとりが次の段階へ進める設計としている。
入社後の活躍を見据えたクエスト
「入社後に活躍するために必要なこと」をテーマに、実務経験のない内定者にとってもイメージしやすいお題を設定。入社前準備そのものにAIを取り入れることで、学生が自然にAIに触れる機会をつくっている。
進捗の可視化が学び合いを促進
クエストの進捗状況を内定者が参加するグループチャットで報告。周囲の進捗が見えることで、「自分も次のレベルに進みたい」という適度な刺激が生まれ、内定者同士の学び合いや成長につながっている。
AIレベルが高い新卒が一人入ると、チーム全体のレベルが上がる
ー 昨年AIスタを受講した26年新卒が、この4月に入社しました。AIスタでの経験は、入社後の活躍にどうつながっていますか?
26卒のAIネイティブ層は、入社後にAI関連のミッションを任されて、事業成果を出し始めています。
特に星5に到達しているメンバーは、入社時に配属先へAIに対する強みとそれが活きる領域について申し送りしています。
ー そうした動きは、既存社員にも影響を与えているのでしょうか。
そうですね。AIスタは内定者を育成するだけではなく、結果的に会社全体の活性化にもつながっていると感じています。
新卒がAI活用の推進役になったり、複雑な既存業務をAIで改善すると、周囲のメンバーも「自分もやってみよう」と刺激を受けるようです。
AIが得意な新卒が1人配属されるだけで、チーム全体のAI感度が上がるんです。新卒はさまざまな部署に散らばっていくので、小さな火が各所に灯っていくような感覚があります。
ー 26卒での成果を踏まえて、27卒ではAIスタをどのように進化させたのでしょうか。
従来は星5を最高レベルとしていましたが、27卒では新たに星6を設けました。 星6は「AIで解決すべき組織課題を自ら設定し、AI推進リーダーとして、高度な自律型AIエージェントを組織全体に展開できるレベル」と定義しています。
重視しているのは、「事業を推進できるか」というところです。
それまでは、成果物そのもののクオリティをチェックしていましたが、星6は「実際に事業で使われているか」「事業を大きく動かしているか」まで見ています。
ー 「事業を推進できるか」という点を重視する理由とは?
配属後に本当の意味でAI活用によって活躍するには、AIスキルが高いだけでは足りません。
AIツールが高性能になることで、複雑なプロダクトを簡単に作れるようになっています。
「AIでものを作れるか」だけではなく、「課題を発見できるか」「何をAIに任せるべきか判断できるか」といった力が、より重要になっていると思います。
実際、内定者アルバイトを始めると、仕事の中で壁にぶつかります。
サイバーエージェントでは約80%が内定者アルバイトを経験しますが、業務内容はさまざまです。
「スケジュール調整が大変」「議事録作成が大変」といった、小さな業務課題が出てきます。
そこで「もっと効率よくやりたい。もっと使われるものにしたい。そのためには、AIを使ったほうがいいかも」と思うようになります。
AIスタでAI活用を学んだうえで、さらに内定者アルバイトで業務知識を身につける。
そして、業務を通じて本当に必要なAI知識を理解していきます。
AIスタも、当初は「AIの知識を最低限持った状態」を目指して始めましたが、AI活用力が身についた内定者が増えた今は、適切に活用するためには業務ドメインの知識も必要だよね、という考えになってきました。
配属時点ですでに各プロジェクトの推進役になれるくらいの状態が理想です。
ー 星6は、あえて高い目標に設定しているんですね。
もちろん、内定者全員がこのレベルを目指す必要はありません。入社時点で星3までをクリアすればOKとしています。
AIスタでは、全員のAI活用レベルを引き上げると同時にその中からサイバーエージェントの事業を牽引できる「AIリーダー層」を生み出すことを目標としています。
またテクノロジーの進化が速いので、判定基準は毎年上げていかないといけません。AIでできることが増えた分、AIリテラシーをしっかり身につけてもらうこともより一層重要になると思います。
内定者がAIで「事業成果」を生み出す
ー 「事業を推進する」というところまで、実際に成果を出している内定者もいるのでしょうか。
すでに出始めており、現時点で4名が星6に到達しています。
例えば、インターネット広告部門で内定者アルバイトをしているメンバーは、コンサルティング業務の一部を自動化するAIエージェントを作りました。工数を大幅に削減することで、チームの月間の提案数を約2倍にしています。
広告コンサルの業務は、出稿前の広告効果のシミュレーションや顧客への提案資料の作成、その後の広告運用など多岐に渡ります。このAIエージェントはその中でもシミュレーションから提案までを支援するもので、過去データをもとに「この媒体にこの予算を投下すると、どのような結果が見込まれるか」を算出し、提案に活用できます。
彼は2月から内定者アルバイトを始め、営業とコンサルの両方の職種を経験しました。
実務を通じて広告ビジネスへの理解を深める中で、シミュレーションや提案資料の作成に多くの時間がかかっていることに着目。自身のAIスキルを生かして効率化できないかと考え、約4ヶ月かけてAIエージェントを形にしました。
もともと学生時代からAIを専攻しており高いスキルを持っていました。一方で、「エンジニアリングスキルはあるけれど、サイバーエージェントの中で活躍するための固有のドメイン知識がまだない」と話していました。
AIスタをきっかけに、AI活用を強みに活躍したいというビジョンを持つようになり、内定者アルバイトでは実務を通じてドメイン知識を身につける。その知識と自身のAIスキルを掛け合わせた結果が、今回のAIエージェントにつながっています。
だから内定者アルバイトでドメイン知識を得た上で、AIで成果を出したいと考えていたんです。
ー 他の事例もあれば教えてください。
AI事業を手掛ける子会社でAIコンサルとしてアルバイトをしている内定者は、顧客の業務全体を横断的に洗い出し、「どこがAIで代替できるか/できないか」を整理した上で、優先順位の高いものから着手しています。その1つが、 日程調整を効率化するAIエージェントです。約2,000人規模での利用を想定しており、年間で約1.5万時間の削減が見込まれます。しかも、ただ作るだけではなく、「実際に使われる」ことをしっかり考えています。顧客が使っているツール上でシンプルに使える形に連携しています。
月に2回は顧客の元へ伺い、本当に使われるプロダクトを作るという行動力があります。
ー 全体のAI活用レベルにも変化はありますか。
AIネイティブ層の目標を引き上げたことで、昨年と比較して内定者全体のAI習熟度も向上しています。
去年AIネイティブ層として定義していた星5「AIエージェントを作って組織に展開できる」レベルに到達した内定者は5名でしたが、今年はすでに19名が到達しています。単純比較で約4倍ですね。
AIスタでは、AIを当たり前に使うレベルにしたいと思っているのですが、27卒は去年より半年ほど早いペースで、全員が到達できています。
またAIスタをきっかけに、内定者同士で学び合う動きも生まれています。
初回はAI活用レベルの高い内定者が「自分たちの世代のAI力をあげる」ことを目的に人事と共同で開催しましたが、それ以降は、同世代のレベルをあげたいというマインドが内定者全体に伝播しています。
今では、もともと初心者で星3まで上がった人が「次は自分がやりたい」と手を挙げるようになり、内定者約230名のうち毎回70名ほどが集まって、同期同士楽しみながらAIについて学習しています。 それぞれが自分のレベルで一段上がっていることが、全体の底上げにつながっています。
本人の選択がオンボーディングのコア
ー こうした内定者の自発的な動きは、AIスタに限らず、オンボーディング全体で大切にしていることなのでしょうか。
一番のコアは、「人事がさまざまな機会を用意し、本人が自分で選択して成長する」ということです。
一人ひとりの強みややりたいことに合わせて選べるようにすることで、それぞれの強みを伸ばしたいと思っています。
サイバーエージェントの人材育成では「自走力」を大切にしています。
そのため、内定者期間では「主体性を持って決断し続ける」ことをテーマに、やる・やらないも含めて、自分で選択してもらいます。
その決断を繰り返すことで、成長してほしいと思っています。
ー 本人の選択に対して、人事はどのように関わっているのでしょうか。
決断するための材料はなるべくたくさん人事から提案します。
内定承諾後のオリエンテーションのタイミングで必ず人事面談をセットし、「内定者期間をどう過ごしたいか」という本人の意思と、人事から見た「この経験はしたほうがよさそう」という提案をすり合わせています。
「内定者期間からとにかく成果を出したい」という人もいれば、「部活を最後までやり切りたい」「学生のうちにやり残したことをやりたい」という人もいます。
何が必要かは人によって違うので、一律に「これをやってほしい」とは言いません。大切なのは、 自分で決めたことを最後までやり切ること。その経験は、仕事にも生きると思います。
基本的には、本人が自分で成長するのを見守る感覚に近いです。ただ、その人のことを知っているからこそ、「もっとこういう経験をしたほうがいい」「今の場所より、別の場所のほうが強みを発揮できる」と思うこともあります。
本人が成長できる環境を一緒に考える、というのがオンボーディングの役割だと思います。
ー こうした内定者期間を経て入社した新卒は、入社後どのように活躍していますか。
サイバーエージェントには、年次にかかわらず早くから大きな役割を任せる抜擢文化があります。
26卒でも、入社3~4か月で大きな抜擢をされる人が出ています。また、配属直後からAIを武器に、AIの大きなミッションを任された人もいます。
はじめはまだ「何者でもない」学生たちが、入社後すごく早い段階から活躍していく。
内定者期間から関わってきた人が、会社や事業の中核になっていくのは、この仕事のいちばんのやりがいです。その状態を、もっと当たり前にしていきたいと思っています。
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