なぜ、サイバーエージェントの若手は"勝手に"育つのか。専務執行役員石田裕子が明かす「自走する組織」の裏側
サイバーエージェントには、若手の抜擢や挑戦を後押しする文化が根付いています。しかし、それらが一過性の施策で終わらず、人材の成長を促し続けている背景には、個々の制度を支える「土壌」の設計があります。
今回は、2016年の発足から若手活性を目的として活動を続ける全社横断組織「YMCA」にフォーカス。10年目の節目に、メンバー自らが企画・インタビューを行いました。
前編では、専務執行役員 人事本部長の石田裕子に、なぜ当社では若手が育ち続けるのか、その裏側にある「組織づくりの設計思想」を紐解きます。
※「YMCA」:20代社員の成長を目的とした、全社横断組織。ヤングマンサイバーエージェントの頭文字から。
若手は「育成対象」ではなく「競争力の源泉」
—当社には創業来「若手のうちから活躍できる」という印象が定着しています。改めて、若手育成に注力し続けている背景を教えてください。
元々創業当初は若手しかいなかったこともありますが(笑)、根底にあるのは「若手こそ競争力の源泉である」という考え方です。逆に言えば、若手の力を活かせなければ、業績も伸びないし、会社も活性化しない。「若手を伸ばさない限り、会社の持続的な成長はない」という危機感とセットで、自然な流れで重視されてきた感覚ですね。
—「若手は修行期間」と捉える企業も多い中で、当社では若手人材の価値をどう捉えていますか?
世の中には「若手のうちはここまで」「一人前になるまではこの仕事はできない」といった線引きがある企業もあるかと思いますが、当社にはその概念がほとんどありません。若手であろうがベテランであろうが、能力を発揮して期待を上回る成果を出せれば、それ相応のミッションが開かれていく。若手社員を、仕事の範囲を限定する対象ではなく、“期待と可能性が大きく広がる存在”と捉えているんですよね。
—その「ポテンシャル」をどう見極め、機会を提供していくのでしょうか。
そうですね。「新卒だから一律でこの仕事」という運用をしていません。
人それぞれ、能力もやりたいことも、成長スピードも違う。だからこそ、型にはめるのではなく、個人の特性に合わせて適切な機会や経験を用意する。マネジメント層は常にそう考えていると思います。
—若手活躍人材の定義についても伺いたいです。
採用基準とも連動しますが、やはり「素直でいい人」に尽きます。社外の人には「本当に?」と驚かれることも多いんですけど、突き詰めるとここに行きつくんです。会社は、市場や環境に合わせて変わり続けなければなりません。だからこそ、変化を受け入れ、適応し続けられる「素直さ」を持つ人が、結果として活躍しています。これは、これまでの過去を振り返ってみても、どの時代にも一貫して共通しているポイントです。
—ということは「会社から与えられる育成」を待つのではなく、自発的に動けることも重要だと。
はい。最近は採用面接の場でも「入社したらどんな育成プログラムを提供してくれるんですか?」と聞かれることが増えましたが、与えられた座組みを消化するだけでは成長に限界があります。自ら必要な機会を定義し、当社の環境を使い倒して吸収していく。その主体性こそが、成長スピードを最大化させる鍵になると思います。
「視座」と「基準」を合わせれば、強制しなくても人材は育つ
—具体的な取り組みについても伺います。「YMCA」が手がける施策で特に効果を感じている施策は何でしょうか?
代表的なのは「YMCAあした会議」ですね。「あした会議」とは、2006年から実施している、会社の未来(あした)につながる新規事業や経営課題解決の提案と決議を行う重要な経営会議です。その若手版を10年ほど前から年1回のペースで実施してきました。
最近参加して感じるのは、以前と比べて若手の提言レベルが格段に上がっていること。選抜されたメンバーが「会社の未来」を真剣に考える場なので、参加するだけで自然と視座が引き上がります。 ここで共有された「価値観」や「判断基準」が、参加者を通じて下の層まで浸透していく。そうやって組織全体の方針や戦略、カルチャーに対する解像度が上がっていくのが、この施策の一番の成果だと思います。
—強制的に教育するのではなく、視座が高まる「場」を用意しているのですね。
活躍する人の共通点は「自分のことだけ考えていない」ことです。自分の成長だけを見ていると、必ずどこかで組織のベクトルと合わなくなる時がきます。あした会議のような場に参加すると、会社の目線で「何をすべきか」を考えざるを得なくなる。そのような場をいかに効果的に作り、視野や視座が広がる機会を創出するかを日頃から意識しています。
—他にも「YMCA」の取り組みで、若手の視座を上げる仕組みはありますか?
「BREAK8」という取り組みは、若手の視座をさらに一段階引き上げるための選抜型育成プログラムです。
当社のように事業が多岐にわたると、自分の事業のことは理解していても、他部署の状況が分からないということが頻繁に起きやすい。BREAK8のような場があると、他部署の優秀な人の考えやアウトプットに触れて、お互いに刺激し合える機会になります。ビジネス職だけでなく、エンジニアやクリエイターも参加するので、職種を超えて関係性を深められるいい機会にもなっていますね。
—施策のネーミングも印象的ですよね。
それは藤田(会長)が大事にしていることの一つです。社員に理解されない施策、使われない制度を作っても意味がない。実際にあした会議でも、ネーミングが分かりにくくて何の施策なのかが伝わらない提案は減点対象になるくらいです。効果的なネーミングをつけることは、施策を文化として根付かせるための第一歩だと思っています。
AI時代、若手への期待は「決断経験」
—「YMCA」を10年続けていれば、正直うまくいかない施策もあったと思います。効果が見えにくい時、どのように「続ける・やめる」の判断をしてきましたか?
「続ける・やめる」の意思決定は非常に早い会社だと思います。「捨てる会議」という会議体もあり、「意味がなくなったらやめる」ことは日常茶飯事なので、これまでにやめると判断してきた施策もたくさんあります。
効果が薄ければ担当者レベルで「役目を終えた」と判断してやめるし、他の施策と統合することもあります。一つ一つ役員が判断するわけではありません。
—「意思決定を上層に依存しない」から、組織の足取りが軽くなるんですね。
まさにそうだと思います。もちろん、あした会議で決議された案は、会社の重要な決議事項なので、「うまくいかなそうでもうまくいくように工夫すること」が求められます。
それでも実際にやってみて機能しなければ、「やらない」と判断して新しいことをやる。そのほうが固定観念にとらわれず、挑戦の総量も増えます。そうしたサイクルの速さが、結果として「失敗を恐れない空気」を作っているのだと思います。
—時代ごとに「若手の伸ばし方」も変わってきています。いま顕著な変化は、やはりAIでしょうか。
そうですね、この数年で最も大きく変わったのはAIの台頭だと思います。
ベテランには長年の経験からくる勘や判断力、経験値、業界・組織の暗黙知などがありますが、若手はAIを味方にできれば、もしかしたら経験差を一気に縮められるくらいのインパクトを出せる。それくらい、若手にとって今は大きなチャンスです。
ただ一方で、AI活用が広がるほど、アウトプットが“平準化”しやすい側面があるのも確かです。だからこそ重要なのは、AIに答えを委ねるのではなく、問いの立て方や使い方を磨きながら「使いこなす側」に回ること。育成においても、その意識をどう育てるかが鍵になってきます。
—企業の育成において、「AIを使いこなす」とは、具体的にどのようなイメージをされていますか?
仮にAI活用を大きく3つの段階に分けるとすると、第一段階は「使っていない人が使うようになる」こと。第二段階は「使っている人が、活用レベルを上げて、アウトプットの質やパフォーマンスを上げる」こと。そして第三段階は、「AIを業務改善ツールとして使うだけではなく、新しい価値に変えていく」こと。
世の中の企業を見ると、多くはまだ第一~第二段階に留まっていて、AI活用が効率化や個人の生産性向上にとどまっているのが現状です。
本当の競争力は、AIを前提にサービスやビジネスそのものを再設計し、業績に直結する価値創造まで踏み込んだところから生まれます。
—最後に若手社員に期待することを教えてください。
一言で言えば、「たくさん決断経験を積んでほしい」ということです。
自分で考えて、自分で決めて、自分で行動する。その一連のプロセスから得られる学びは、誰かに指示されて行動した結果の成功や失敗とは、質も深さも比べものになりません。
若手社員からは、「できるだけ失敗せずに正解にたどり着きたい」「無駄を省いて、最短距離で成功したい」と相談を受けることもあります。その気持ちはよく分かります。ただ、たとえ遠回りに見えたとしても、無駄に思える経験だったとしても、そこからしか得られない学びがあるのも事実。だからこそ、自分で決めて、失敗し、そこから学ぶ。このサイクルを大切にしてほしいと思っています。
そして、若手に対して「挑戦しろ」と言うだけでなく、組織全体が挑戦している姿勢を示すことも重要です。
挑戦には当然失敗もつきものです。失敗しても次のチャンスがある。そうした空気が当たり前になれば、若手は自然と挑戦できるようになるはずです。可能性を持つ若手を伸ばせなければ、会社の成長もありません。その点については、おそらく間違いないと考えています。
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「若手が会社の未来をつくる」という意思を繋ぐ
― 若手横断組織「YMCA」10年の歩み ―
サイバーエージェントの成長を支えるのは、抜擢の文化を大切に受け継ぎながら、時代に合わせて変化させ続ける「場」の存在にあります。
前編に続き、YMCAメンバーが自ら取材した本連載。後編では、専務執行役員 石田が語った「若手は競争力の源泉である」という思想を、現場でいかに具体化してきたのかを掘り下げます。本組織の初代理事と現理事・副理事へのインタビューを通し、抜擢を「仕組み」として定着させてきた10年の歩みと、次世代へ繋ぐビジョンに迫ります。