ABEMA × AWSが共創する、事業利益を最大化するAIプロダクト開発の現在地

技術・クリエイティブ

(株)AbemaTVに新設されたAI Centerでは、生成AI活用を単なる業務効率化に留めず、「事業全体の成果と価値創出」へ直結させるプロダクト開発を推進しています。その挑戦を支えているのが、クラウド基盤を提供するAWSです。今回、AI Centerを牽引する中澤と、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)の山口氏が対談。AI活用の現在地から、既存のワークフローに変化をもたらす「AIファースト」な組織のあり方まで、ビジネスの最前線を議論しました。

Profile

  • 中澤 優一郎 (株) AbemaTV AI Center AI Product
    2012年サイバーエージェント入社 Amebaスマートフォンプラットフォームの開発に携わる。 2015年から(株)AbemaTVにてバックエンドエンジニアとして開発に携わる。 2021年にコンテンツエンジニアリングのマネージャーを担当し、2024年からプリンシパルコンテンツエンジニアを担当。

  • 山口 賢人 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社インダストリー事業開発マネージャー
    アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社インダストリー事業開発マネージャー。メディア&エンターテインメント、スポーツ、アドテック領域において、顧客のクラウド活用とビジネス変革を推進。Amazon Prime Videoでのコンテンツ運用とクラウドソリューションの経験を活かし、ライブストリーミング配信やスポーツデータ活用を通じた新しい観戦体験の創出と、効果的なマネタイゼーション戦略の実現に注力している。

「AIによる効率化」は本当に「事業の成長」になっているか?

山口:本日はよろしくお願いします。まず最初に、中澤さんが「ABEMA」においてどのような視点でAI活用を推進されているのか教えてください。

中澤:「ABEMA」はバリューチェーンとして、マーケティング、プロダクト、課金・マネタイズ、制作の4つの領域を設定しています。私はそれらのバリューチェーンを最大化するために、ビジネスステークホルダーと連携し、必要に応じて技術者を配置し、AIを活用したビジネス全体の価値創出を推進しています。

もともとコンテンツ管理やDXの領域を担当していた経緯もあり、AIによって事業にどんなビジネスインパクトをもたらすか?という視点を常に大切にしています。

山口:なるほど、作業の自動化といった限定的な話ではなく、事業そのものを強くするための戦略的なAI活用ですね。その視点をより組織的、かつ強力に推進するために設立されたのが「AI Center」ということでしょうか?

中澤:生成AIがもたらした最大の恩恵は、「思考から具現化までの時間」を大幅に短縮したことです。

以前は、現場のアイデアをエンジニアリングで具現化するまでに、どうしても一定のリードタイムが必要でした。しかし今は、生成AIを活用することで即座にPoC(概念実証)として可視化できます。この圧倒的なスピード感がビジネス現場にさらなる熱量を生み、技術で事業を力強く牽引できる。その確信から2025年10月に立ち上げたのが「AI Center」です。

現在はエンジニアがビジネスの最前線に入り込み、「こうすれば実現できる」「もっとこうしましょう」と、文字通り同じ時間軸でアイデアのキャッチボールを繰り返しています。この密な連携によって信頼関係が深まり、AIを既存のワークフローへ本格的に組み込む土壌が整いました。

中澤:しかし、開発速度が上がったからこそ、より本質的な課題も浮き彫りになりました。それは、「現場の困りごとの解決」が、必ずしも「事業全体の成果」に直結するとは限らないという点です。制作現場から寄せられる「業務プロセスの改善」に応え、担当者の負担が軽減されたとしても、それが事業全体のアップサイド、つまり利益や新しい価値創出に直結しにくい場合もある。この事実にどう向き合うかが、今の私たちの重要なテーマです。

山口:おっしゃる通りだと思う一方、そこがDXやAI導入の難しいところでもありますね。海外を見ても「年間の削減時間」を競うフェーズから、「生成AIでどう新しいビジネスモデルを構築するか」という議論に次第にシフトしていますね。

中澤:大事なのは「DXやAIの力を使って、どうすれば事業全体の成果を伸ばせるか?」というアップサイドの視点を常に持つことかと思います。最近も制作担当と議論したのですが、「制作本数を増加させることや、制作品質を上げるために何が必要か?」という目的の定義が重要になります。

コンテンツを作る体制を横に広げて効率化するのか、それとも縦に伸ばして制作本数を増やすのか。まずはそこを決めなければ手段が決まりません。業務を分解してボトムアップで効率化していくだけでは、組織を強くする設計にはたどり着けません。事業全体としてどの時間を伸ばせば成果につながるのか、デジタルとビジネスが一体となって設計する必要があります。

PoCからABEMA NEWSで配信まで4ヶ月弱でリリースした「ニュース速報動画 自動生成システム (右)」
PoCからABEMA NEWSで配信まで4ヶ月弱でリリースした「ニュース速報動画 自動生成システム (右)」

山口:私どももクライアント様と協業する中で、同じ事業課題に直面するケースに立ち会いますね。それこそ、最初にAIが出始めた頃は業務改善が最初のテーマとして出てきました。「業務時間を何百時間削減できました!」という事例がまさにそれです。

その一方、削減した時間にどれだけビジネス価値があるのか?削減した結果、どんな新たな価値創出につながったのか?というと、その定量的な成果や計測には至っていないというケースも多々あります。

そんな中、国内外の様々なクライアント企業様と話していると「生成AIを活用した新しいビジネスモデルをどうやって構築できるか? 既存のワークフローにAIエージェントを活用し、どのように利益を創出するか?」という流れになってきているのを実感します。

中澤:私もその難しさは常に痛感していて、まさにバランスが大事だと思っています。アップサイドだけを目指していても現場はついてこないので、アップサイドの理想形を目指しつつ、足元の業務をどこから改善していけばいいのか?というアップサイドとボトムラインのバランスが重要に感じます。

山口:ともすると「生成AI活用」は「既存の業務の置き換え、圧縮、削減」という文脈になりがちですが、むしろ「生成AI活用」によって「新しいビジネスの価値創造」という流れが、今世界中で起きているのを実感しています。

AI Centerでは今まさにそれをやろうとしていますよね。エンジニアとビジネスとのコミュニケーションが速くなることでサイクルをどんどん速くしていく。その一方で、全体の最終的な目標を見失わないようにしているという点が非常に興味深い。

開発生産性の向上は「新しい価値創造」のために

山口:生成AIが開発業務に浸透していくにつれ、開発生産性の向上が図られます。それ自体は良い効果があるとして、開発組織として気をつけているポイントはありますか?

中澤:マネジメントの役割は非常に重要です。例えばメンバーに「生成AIで生産性をあげたり効率化しよう」と指示する場合でも、単に作業を減らすこと自体を目的とすると、組織がワークしません。「組織として新しいことに挑戦したいから、そのための時間を捻出するために作業を圧縮しよう」と伝える必要があります。チームとして自由な時間を作り、生産性向上を超えた「自由な発想」を広げるための効率化であるべきと考えています。

山口: 私たちAmazonにも「カスタマー・オブセッション」といった行動指針がありますが、チームごとに明確な指標を持つことが重要になっています。例えば動画配信のオペレーションにおいて、「コンテンツを心待ちにするお客様に、オンタイムで正しいコンテンツを配信する」ことが最優先事項だと定義されていたとします。トラブルが起きた際、「1分の遅延が発生するがコストが安い解決策」と「100万円高いがオンタイムで配信できる解決策」のどちらを選ぶか。目的が定義されていれば、迷わず後者を選ぶという意思決定ができます。

AI活用においても、こうした「何のためにやるのか」というチームとしての判断基準を、マネージャーが定義することが求められていると感じます。

中澤:AIによる「人の支援」という形は、現場にも導入しやすく、ボトムアップで業務を10パーセント削減する成果は比較的実現しやすいです。しかし、それが本当に最適解に行き着くのか?という疑問が私の中にはあります。

というのも、人のオペレーションを前提としたワークフローを維持する限り、既存の業務構造そのものは変わらないからです。私が考える理想形は、AIが生成した成果物を前提に、人が最低限の意思決定や承認をするプロセスです。あるいは、領域によっては定型的な業務の完全自動化を目指すべきだと考えています。

例えば、SNS用の動画切り出し作業で考えてみましょう。長い映像の中から人がシーンを選び、その切り出し作業をAIが支援する場合、作業時間は減りますが「人が選ぶ」という構造は変わりません。「人が切り出し作業をAIに助けてもらう」のではなく、「AIが提示した候補を人が承認する」というフローです。人のオペレーションを前提としたワークフローを維持する限り、構造は変わりません。

ボトムアップの改善だけでは、この「AIファースト」の発想にはたどり着きにくいのです。そのため、現場からの積み上げだけでなく、トップダウンでプロセスを設計するアプローチも並行して進めています。

 生成 AI x クラウド映像編集システム「VMC」
生成 AI x クラウド映像編集システム「VMC」

山口: リスクを許容する「意思決定」がカギになりそうですね。AWSが関わっていたPGAツアー(米国男子ゴルフツアー)では、記事生成をAIで完全自動化していました。誤情報が出るリスクはゼロではありませんが、彼らは「AIのフローの中で情報の正確性を担保する仕組み(エージェンティック・フロー)」を組んだ上で、万が一誤った情報が出ても後から訂正可能であり、情報の即時性を優先するというビジネス判断を下しました。

リスクは人が介在してもゼロにはなりません。ビジネスとしてどこまでリスクを許容できるかを定義し、その上で「全自動でやる」という意思決定をするのも一つの考え方です。日本の企業ではまだ少ないかもしれませんが、世界ではそうした決断をする企業が出てきています。

ボトムアップで現場の課題解決から入ると、どうしても既存のフローに引っ張られてしまいます。「どうすればより良いものができるか」という理想像をトップダウンで描き、リスク許容度を定義することが、これからのリーダーには求められていると思います。

ABEMA × AWSがとりくむAIプロダクトの共創カルチャー

中澤:山口さんは、生成AIが浸透した世の中において「ABEMA」とどんなことを実現していきたいですか?

山口:「世界を驚かせる何かを一緒に作りたい」という想いが強くあります。生成AIの活用を含め、先端技術に積極的に挑戦しながら、これまでにない視聴体験を生み出していきたいですね。

その点では、昨年11月の「Inter BEE 2025 (※1)」のAWSパビリオンにABEMAをお招きし、プロダクト展示を行えたのは非常に良いきっかけでした。中澤さんと基調講演でお話しし、ABEMAでのAI活用事例をご紹介いただいたことで、AWSの具体的なユースケースを提示することができました。今後もこうした取り組みを加速させていきたいです。

※1 (日本随一の音・映像・通信のプロフェッショナルが一堂に会し、メディア&エンターテインメント産業の最前線から、コンテンツビジネスに関わる最新のイノベーションを提案する国内最大の「メディア総合イベント」)

中澤: AWSとは要件定義の段階から議論を重ねる、エンジニアリング主体の密な共創関係をさらに強化していきたいですね。特に制作現場におけるデータ活用やAI導入は、まだまだ踏み込める余地があると感じています。

InterBEE2025 「ABEMAブース」の展示
InterBEE2025 「ABEMAブース」の展示

山口:「Inter BEE 2025」の展示でも実感しましたが、多くのお客様が求めているのは、単なるAWS製品の機能紹介ではなく「AWS製品を使って、他社がどのような課題を、どう解決し、実運用に繋げているか?」というリアルな成功エピソードです。

例えば、ABEMAがAWSを活用して「生成 AI x クラウド映像編集システム VMC」や「ニュース速報の配信動画自動生成システム 速報!ワンタッチくん」を実現した事例は、既存のワークフローを劇的に変えたという点で非常に価値が高い。それを支えるプラットフォームとして紹介できたことで、AWSの価値もよりダイレクトに伝わったと感じています。

中澤:登壇後、多くの方から「面白い事例でした」と声をかけていただきました。「PoC(概念実証)として開発してみた」フェーズと、それを「実ビジネスに組み込んで運用する」フェーズの間には、大きな壁があります。AIによって真のイノベーションを起こすなら、なおさらその壁を乗り越えて、ビジネスに新しい価値を創出する必要があると考えています。

INTER BEE FORUM 基調講演 
「融合するエンターテインメント:生成AIとクラウドが実現する新たな視聴体験」
INTER BEE FORUM 基調講演
「融合するエンターテインメント:生成AIとクラウドが実現する新たな視聴体験」

技術とビジネスの境界線を溶かす人が求められる時代

山口:これからのAIプロダクト開発において、どのような人と一緒に働きたいか、求める人物像について教えていただけますか?

中澤: 最も重要なのは、エンジニアという職種の殻に閉じこもらず、ビジネスサイドのメンバーと一緒になって「共創」を楽しめることです。自分の担当領域だけをこなすのではなく、チーム全体で成果を出したときに一緒に喜べる人が、この環境では一番価値を発揮できると思います。

また、生成AIが前提となった時代において、エンジニアには「作ること」そのものよりも「設計すること」へのシフトが求められています。最近メンバーによく伝えているのは、「これを作ります(Output)」ではなく、「これを達成します(Outcome)」という目標設定をしてほしいということです。組織が向き合う事業ドメインを誰よりも理解し、どこがボトルネックなのかを見極め、それを技術で解決することでどのような成果が得られるかを考える。そういう視点を持ったエンジニアが求められます。

私たちはビジネス職を含めた「クロスファンクショナルチーム(機能横断型チーム)」として動いています。最近ではエンジニア以外のメンバーもプロトタイプを作って提案してくるなど、職種の垣根がほとんどなくなってきました。

山口:確かに、小規模な開発であれば非エンジニアでもAIで実現できる時代だからこそ、大規模開発における設計力や、事業成果を見据えた技術判断が、エンジニアの価値になっていくかもしれませんね。

中澤: だからこそ、ドメインの理解は必須ですね。相手の懐に入り込んで、その業務を理解することがとても大事です。実際に私たちのチームでも、「とにかくマーケティングをやりたい、マーケットに貢献したい」という強い意志を持って入ってきたエンジニアがいます。そういう人は、自分でどんどん手を打ち、進め方を考えて実行していくので、結果として非常に重宝されますし、活躍しています。

技術とビジネスの境界線を越えて、自ら課題を見つけに行ける方と、ぜひ一緒に働きたいと思っています。

ABEMA 【中途採用】募集中

(株)AbemaTVは、2026年に開局10周年を迎えます。大きな節目となるこのタイミングで、私たちはさらなる進化を目指し、常に新しいアイデアやテクノロジーを取り入れながら、エンターテインメントの未来を共に創る仲間を募集しています。

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