NTTドコモの顧客体験を変革する、サイバーエージェント流UI/UX戦略
数千万人のユーザー基盤を持つ国内最大規模の通信キャリア、NTTドコモ(以下、ドコモ)。同社が今、時代の変化に合わせて推進している「顧客起点の事業運営」において、当社は現場への常駐を通じて深く並走を続けてきました。
本記事では、ドコモの猪俣氏と、当社の上野、野々山の対談を実施しました。社内の意識変革を促し、現在はプロダクトの継続的な改善・成長を共に担うパートナーへと関係性を発展させてきた両社。ドコモが持つ強固な事業基盤に、当社のプロダクトへの圧倒的な熱量と機動力を掛け合わせ、どのようにしてUI/UXを軸とした持続的な事業成長を共創しているのか。一つのチームとして挑んだリアルな変革の軌跡に迫ります。
組織に横串を通す「CX向上委員会」
─ まずは「CX向上委員会」開始のきっかけと、組織全体にユーザーファーストを浸透させていくにあたって直面していた当時の課題についてお伺いします。
猪俣氏: ドコモでは2024年10月に、各プロダクトのCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)を全社横断で評価・改善する「CX向上委員会」の第1回を開催しました。この全社的な取り組みを立ち上げるにあたっては、同年の経営体制変更に伴い掲げられた「顧客起点の事業運営」という方針に端を発します。
元々ドコモは創業当時からお客様の声を大切にしており、全国のドコモショップが収集したご要望をシステム化して改善するサイクルは回っていました。
課題だったのは、その仕組みがデジタル時代にアップデートできていたかという点です。SNSが普及した現代、従来のやり方だけでは、日常的な「ちょっと使いづらいな」というユーザーの細かな不満やニーズを拾いきれずにこぼれ落ちていました。
猪俣氏:また、ビジネスの規模が大きすぎるがゆえの、横の繋がりの難しさもありました。通信回線も決済も、普通なら1つの会社が1事業として担う規模のものを、ドコモ内でいくつも展開しています。そのため、各部署の取り組みを可視化し、組織に横串を通す場として、ショップに届くご意見やSNSの反響、さらに社員が気づいた課題までを一箇所に集約して議論する「CX向上委員会」が立ち上がりました。
─ そういった状況の中で、サイバーエージェントをパートナーとして選んでくださった理由をお聞かせいただけますか。
猪俣氏: 私は、2023年から現職なのですが、当時、組織としてマーケティングを強化していく中で、その受け皿となるサービス自体の品質向上が不可欠であるという結論に至りました。そこでUI/UXの抜本的な改善に舵を切ったのですが、当時は専門人材がおらず、少人数で、手探りの状態だったのです。
そうした中、2023年6月に上野さんからひとつの構想をご提案いただきました。 その席で「いいサービスを作ればお客様が増える。そうすればプロモーションが増えて最終的にはサイバーエージェントの事業もはねかえってくる」と、非常に率直に仰いました。これほど当たり前の本質をまっすぐに語れる人と一緒に仕事をしたいと強く感じました。
上野: 私は当時、広告領域を中心にドコモ様を支援させていただいていました。さらに事業を伸ばすための本質的な課題を探ったとき、行き着いたのはやはり、サービスそのものの品質だったのです。
ドコモ様は巨大なパワーを持つ企業である一方で、当社が大切にしている「神は細部に宿る」というプロダクトへの圧倒的なこだわりや、アジャイルなカルチャーとは少しギャップがありました。しかし、その異なる強みを掛け合わせることで、最大の事業貢献が生み出せると確信し、率直な想いをお伝えしました。
最前線の熱量に向き合い、現場の信頼を築く
─「CX向上委員会」の取り組みとして、主要5サービスを客観的に採点する「UXスコアリング評価」を導入されました。その改善提案を最初に現場に提示した際、どのような反応がありましたか。
猪俣氏:委員会の立ち上げに向けて、事前に主要アプリの評価をサイバーさんにしていただいたのですが、やはりプロダクトに真剣に向き合っている部署ほど議論も熱を帯びました。特に、ある主要アプリの担当部署では、強力な競合相手と戦う最前線の現場だからこそのプライドや熱量がぶつかり合い、非常に緊迫した空気になりました。
しかし、そのリアルな空気感を察知した常駐メンバーが、すぐにサイバーエージェントのトップクリエイターをドコモのオフィスに連れてきてくれたのです。
「ABEMA」を手掛け、藤田会長と直接議論しながらプロダクトを作り込んできたトップクリエイターが現場に出向き、膝を突き合わせて話をしてくれたことで、現場の受け止め方がガラッと変わりました。「確かにその視点はプロダクトをさらに良くする」と有意義な社内議論へと発展し、実際に見直すことができました。
サイバーエージェントの皆さんが、ドコモのプロダクトをこれほど真剣に考えてくれているんだという想いが社内に伝わった瞬間でした。
野々山: 当社も数々の自社サービスを自ら創り上げてきた経験があります。だからこそ、現場の担当部署の皆様と同じ目線、そして同じ熱量でプロダクトに向き合うことができ、それが本質的な議論へと繋がったのだと感じています。
他にも、思うような成果に繋がらなかった際、猪俣様とその真因を深く掘り下げたことがありました。そこで見えてきたのは、デザインという領域がどこか「聖域化」されており、周囲が「自分はデザインがわからないから」と遠慮して一歩引いてしまう心理的なハードルでした。
私たちが目指しているのは、ドコモ様のすべてのチームがユーザー視点で改善案を考えられるようになることです。そのため、デザイン、とりわけUXデザインは決して特別な専門領域ではなく、「誰もが等しく参加できるものである」と感じていただけるような、丁寧なコミュニケーションを心がけるようになりました。
設計段階から組み込む、品質起点の開発プロセス
─ そうした現場との向き合い方を経て、社内の開発プロセスや意識にはどのような変化がありましたか。
猪俣氏: 一気にすべてが変わったというわけではありませんが、 「外部の有識者の客観的な声をしっかり取り入れよう」という意識が、現場だけでなく経営層にまで浸透していきました。これは、今までのドコモにはあまりなかった新しい視点です。
そうした変化の中で、特に象徴的だったのが、新しくアプリをリリースする計画が立ち上がったときのことです。社内会議の中で、弊社の部長から「設計段階から外部の専門的な視点を入れて、客観的に評価を受けること」という承認条件がつきました。
従来の開発プロセスでは、リリースの直前に試験やチェックを行うのが一般的でしたが、その段階で改善点が見つかっても、全体のスケジュールや大規模なシステム影響を考慮すると直前の修正が難しいという構造的な課題がありました。計画通りの確実なリリースが最優先されるがあまり、品質の微調整が後手に回る傾向にあったのです。
しかし、今回は設計段階の早いタイミングでサイバーさんから100項目近い改善提案をもらったことで、担当部署も「今の段階なら直せます!」と前向きに取り組んでくれました。早い段階で外部のプロに見てもらうプロセスができたのは、大きな前進でした。
上野: ドコモ様の経営層や現場の意識がそのように変わられたことは、私たちにとっても大きなブレイクスルーでした。納期が最優先になりがちだった開発プロセスに対し、より上流の設計段階から入り込むことで、「QCD(品質・コスト・納期)」における品質のプライオリティを上げる。これこそが、私たちが常駐支援の中で最も意識してきたアプローチの1つだからです。
それと同時に意識してきたのが、作って終わりのウォーターフォール型から、日々データを見て改善を繰り返すアジャイル型への移行です。サービスはリリースして終わりではなく、ユーザーの反応を見ながら高速で改善を続けていくことが、持続的な成長に直結するからです。
客観的なスコアリングというファクトを起点にすることで、単にリリーススケジュールを追うだけでなく、プロセスの早期段階で、品質を担保するための前向きな改善へと、現場の意識と仕組みをシフトさせることができたと感じています。直近では、全社的なデザインガイドラインを共に策定するなど、ファクトに基づいた改善プロセスを仕組み化することに注力しています。
─現場の信頼獲得から、そうした仕組みの変革までを、常駐という形で並走してきたからこそ得られたメリットは何でしょうか。
猪俣氏: 先ほどお話しした、現場の熱量がぶつかり合ったエピソードがまさにそうですが、現場のリアルな温度感を瞬時に察知して動いてくれるのは、まさに常駐ならではです。別プロジェクトの課題や情報交換も非常にスピーディになり、組織を横断した課題をタイムリーに拾いやすくなりました。
また、「組織の風向き」を見極めてくれる点も大きいです。現場に課題感があっても、全社的なフェーズや体制の都合上、新しい施策にすぐには動けない時期がどうしてもあります。
サイバーエージェントの皆さんはそうした状況を肌で感じ取り、体制が整ったベストなタイミングで的確な提案を出してくれます。長年、同じ空間で並走してくれているからこそ、良い関係が築けているのだと実感しています。
新たな可能性を形にする、共創パートナーとしての未来
─ 最後に、今後の展望とパートナーシップにかける意気込みをお聞かせください。
猪俣氏: この3年間で社内の奥深くに眠っていた本質的な課題に、ようやく光を当てることができた感覚があります。ただ、その明確になった課題を突破する上で、いま非常に可能性を感じているのが、AIの活用です。これまでにないスピードで課題を解決できるのではないかと期待しています。
AIを使えば専門知識がなくても完成度の高そうなUI画面を一瞬で生成できる時代になりましたが、実際のプロダクトに落とし込もうとすると、細かな業務要件やユーザー視点において本質的な要素が不足していることに気づきます。そこから野々山さんに相談した際の対応が、まさにプロの仕事でした。
野々山: 猪俣様からご相談を受け、AIが生成したデザインに調整をさせていただきました。AIの出力は一見きれいに見えますが、ユーザーが直感的に操作できるかという視点ではノイズが多いこともあります。そのため、視認性を高めるための引き算を行ったり、ボタンの形状を明確にしてどちらを選択すべきか直感的にわかるよう、ロジカルに微調整を加えました。
猪俣氏:そうやってAIを活用する部分もそうですが、やはり最後は「人側の視点や気づき」が重要になるのだと感じています。
例えば、とある案件のLP(ランディングページ)画面を野々山さんがブラッシュアップしてくれた際、ドコモ独自の強みを表す要素を、意図的に一歩前に出して明記してくれていたんです。理由を聞くと「自分が一人のユーザーとしてドコモのサービスを使う中で、ここが一番の価値だと実感したからです」と。
そこにはAIには決して出せない、プロダクトへの深い理解と、人間の明確な意思がありました。その試行錯誤のプロセスをFigma上でリアルタイムに見られたことも、大きな信頼感に繋がりましたね。
野々山: ドコモ様のプロジェクトの最大の醍醐味は、やはりその圧倒的な規模です。少しのデザイン変更が数千万人の体験を変え、ビジネスの成果にダイレクトに繋がっていくことは、クリエイターとして非常にやりがいがあります。
AIが良いものを一瞬で出せる時代だからこそ、実際のプロダクトに組み込むための細かな検証や調整、最終的な品質を見極めて担保する、人間側の感性や判断軸をさらに磨き、AIと共生しながらドコモ様に提供できる価値の幅を全方位に広げていきたいと考えています。
上野: 当社は元々デジタルマーケティングを主戦場としてきましたが、ドコモ様の内部に深く入らせていただく中で、インターネット広告を中心とした既存支援は事業全体の「ラストワンマイル」に過ぎないという広い視座を得ることができました。
事業を成長させるという目的を見据えたとき、我々が提供できる武器はまだまだたくさんあります。
ドコモ様が持つ圧倒的な事業基盤と、当社が強みとする機動力を掛け合わせることで、日本を代表するレベルの大きな成果を生み出せると確信しています。
今後も事業を共に推進するパートナーとして、当社の力を最大限活用いただきながら、圧倒的な成果を追求してまいりたいと思います。
■ 採用情報
当社DXコンサルティング本部 DXDesign室では、現在以下のポジションを募集しています。
・UI/UXデザイナー
・UXデザイナー
DXDesign室 公式noteもあわせてご覧ください。
記事ランキング
-
1
全社のAI活用レベルを可視化して底上げする、サイバーエージェント流「AI番...
全社のAI活用レベルを可視化して底上げする、サイバーエージェント流「AI番付」とは
全社のAI活用レベルを可視化して底上げする、サイバーエージ...
-
2
「Abema Towers(アベマタワーズ)」へのアクセス・入館方法
「Abema Towers(アベマタワーズ)」へのアクセス・入館方法
「Abema Towers(アベマタワーズ)」へのアクセス・...
-
3
アニメ制作の新時代を切り拓く「CA Soa」 クリエイターと描く未来
アニメ制作の新時代を切り拓く「CA Soa」 クリエイターと描く未来
アニメ制作の新時代を切り拓く「CA Soa」 クリエイターと...
-
4
「競争ではなく共闘」AIドリブン推進室が語る、エンジニア版「AI番付」の熱...
「競争ではなく共闘」AIドリブン推進室が語る、エンジニア版「AI番付」の熱量と裏側
「競争ではなく共闘」AIドリブン推進室が語る、エンジニア版...
AI時代も現場の熱量を止めない。全社横断のITガバナンス推進プロジェクト「CAITAC」
メディア&IP事業、広告事業、ゲーム事業といった幅広い領域で展開する当社では、各事業部が大きな裁量を持ち、自由闊達に組織づくりや技術開発を行ってきました。この強みを活かしつつ、グループ全体でシステムやSaaSを通じた生産性向上とコスト最適化を推進するため、2023年に誕生したのが横断プロジェクト「CA IT Acceleration Center(以下、CAITAC)」です。
全社一丸となって新たな領域へ熱量高く挑む当社のカルチャーは、AI時代におけるITガバナンスの領域にも深く浸透しています。当社では「AI番付」をはじめとする全社的な取り組みを通じて、AI活用事例の共有や活用促進を進めてきました。「CAITAC」もまた、社員が新しいAIツールを迅速に試せる環境づくりや、利用状況・コストの可視化を推進しています。新しい技術への挑戦を後押ししながら、適切なガバナンスを両立させることで、社員約8,000名規模のITガバナンス強化を実現しています。