マネージャーの葛藤に寄り添う。新設「マネージャーエンパワーメント室(ME室)」が推進する伴走と共創による組織づくり
【前編】次世代人事組織の挑戦
全社視点で組織戦略や横断施策を担う「人事本部」と、各事業の成長戦略に寄り添い人事戦略を推進する「管轄人事」。2つの組織が連携しながら人材戦略を展開する当社では、社長交代を機に、持続的な組織づくりの強化が重要なテーマの1つとなっています。
昨年から今年にかけて、 全社的な組織課題を解決するための次世代人事組織として「マネ-ジャーエンパワーメント室(以下、ME室)」と「ゴールデザイン室(GD室)」が人事本部において発足しました。
今回、新組織のキーパーソンへのインタビューを実施。本記事では、ME室の室長を務める若林に、ミッションや具体的な取り組みについて聞きました。
Profile
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若林 真悟 人事本部 ME室 室長
2011年サイバーエージェント新卒入社。インターネット広告事業本部を経て、AI事業本部にて事業責任者として複数事業の立ち上げを牽引。その後、宣伝本部にて「ABEMA」等のマーケティングに従事する傍ら、メディア管轄の新卒育成責任者として人材育成にも携わる 。2025年9月の「あした会議」決議を機に、同年10月より現職。現場に深く入り込み、伴走と共創によるマネジメント強化・組織開発支援を推進している。
マネジメント起点の組織課題に伴走する専任組織
ME室は、マネージャー支援の専任組織として、マネージャーや事業責任者に寄り添いながら、マネジメントを起点として生じるさまざまな組織課題の解決を支援している。
特徴は、単なる相談窓口や研修運営ではなく、マネージャーや事業部と伴走しながら課題解決を共創するスタイルにある。活動は大きく「個人支援」「組織支援」「全社支援」の3つの領域に分かれる。
立ち上げ当初の約3か月間は、約100名のマネージャーとの1on1を実施し、現場で起きている課題や悩みの把握に注力した。しかし、対話を重ねる中で見えてきたのは、マネージャー個人への支援だけでは解決できない課題の存在だった。
組織課題の多くは、マネージャー本人だけでなく、その先にいるメンバーや事業責任者との関係性、さらには組織全体の構造とも密接に結びついている。そのため現在は、個人支援や全社支援を継続しながらも、組織そのものに深く入り込む組織支援の比重を高めている。
経営陣との対話設計や組織合宿の実施、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定支援など、組織全体の変化を後押しする取り組みもその一例だ。
マネージャーの葛藤やジレンマに寄り添う「コンシェルジュ」が原点
ー2025年9月に開催した「あした会議」での決議が発足のきっかけとのことですが、提案の背景や狙いとは?
背景には、以前から若手マネージャー向け研修などはありましたが、現場で生まれる悩みや葛藤に対して気軽に相談できる窓口やスキルアップに繋がる定期的な機会がもっと必要なのではないかという課題意識がありました。
マネージャーという役割は、事業成果を出す責任を負う一方で、メンバーの成長や人生にも向き合わなければなりません。私自身も事業部でマネージャーとしてメンバーを率いていた頃、「この決断は本当に事業成果に繋がるのか」「今メンバーにここまで求めていいのだろうか」といった葛藤を日々抱えていました。ただ、私の場合は社外のメンターのような存在やマネージャーとして活躍する同期がいたため、壁打ちができる環境に恵まれていました。
一方で周りを見渡すと、相談相手がおらず、一人で悩みを抱えながら意思決定をしているマネージャーも少なくありませんでした。そうした課題感から、コーチング研修に一緒に参加していた同期とともに、社内マネージャー向け研修を自主的に企画するなど、業務の枠を超えた活動を行っていたこともあります。
あした会議での当初の提案は、新任MGRを対象に、実務と並走しながら半年間かけて体系的にマネジメントスキルを習得する長期プログラムをはじめとする、研修型の育成施策でした。 課題意識については経営陣の共感を得ることができましたが、解決策については「マネジメント育成は研修だけで実現できるものではない。むしろ一人ひとりのマネージャーに寄り添うコンシェルジュのような存在になってほしい」というフィードバックを受けました。この考え方こそが、「伴走しながら、課題解決を支援する」という現在のME室の原点になっています。
組織文脈起点の施策設計
ー マネージャーや事業責任者からどのような相談が多いのでしょうか。
相談の内容を整理してみると、大きく以下の4つのテーマに分けられます。
1:マネジメントへの戸惑いやあり方
プレイヤーとして最前線で成果を出してきた人ほど、マネージャーになった途端に戸惑うことがあります。「人を育てる・見るとはどういうことか」という、マネジメントの根本的な考え方そのものに悩むケースです。
2:周囲とのコミュニケーションや人間関係
マネージャーとメンバー、あるいは局長や事業責任者との関係性です。お互いに「こういう組織にしたい」という強い思いがあるのにうまく噛み合わない、双方の理想や期待値のズレをどう埋めるかという相談です。
3:仕事の「意味付け」
会社や事業部が目指す方向性と、メンバー一人ひとりの人生やWILLをどのように接続し、やりがいにつなげていくか。組織の目標と個人の想いをどう重ねるかというテーマです。
4:次世代リーダーの育成
主に事業責任者層からの相談です。事業が大きくなるにつれてマネジメントの難易度も上がっており、さらに多様な価値観を持つ人材が増える中で、「まずは任せてみる」だけでは育成しきれない場面が増えています。
ー そのような相談や組織課題に対して、どのように施策設計を行っていますか。
一般的な組織開発の理論がそのまま自社にハマるわけではありません。サイバーエージェントやそれぞれの事業部、子会社ならではの「文脈」に合わせ、世の中のフレームワークや自社のノウハウをどうカスタマイズするかが重要であり、私の役割でもあります。
施策設計において強く意識しているのは、事前に事業責任者と「目的(ゴール)」を徹底的に議論し、すり合わせることです。「施策のあと、誰がどのように変化していたら成功なのか」というゴールを明確に握ったうえで、アプローチの手法については実行しながらチューニングしていくようにしています。
【事例】CASMと伴走した組織づくりとMVV再策定
ー 具体的な施策事例を教えてください。
(株)CASM(キャズム)は、設立6年目を迎え、組織の拡大フェーズに差しかかっていました。これまでは日々の密なコミュニケーションを通じて組織は機能していましたが、事業・組織のさらなる成長を見据えたときに、組織運営の仕組みを次のフェーズへ進化させる必要がありました。そこで「これからの成長を支える組織づくりの基盤を一緒につくりたい」と、代表の下田から相談をもらいました。
当時、特に課題となっていたのが、仕事の意義がどうしても「広告の売上」や「数字の達成」といった成果面に偏りやすいことでした。また、今後さらに事業領域を広げていくことを見据えたときに、既存の事業や業務の枠組みだけでなく、より大きな視点で組織や仕事の意味を捉え直す必要もありました。 もちろん成果は重要ですが、組織がさらに成長していくためには、一人ひとりが「なぜ自分はこの仕事をしているのか」を自身の人生や価値観と結びつけて考えられる状態をつくる必要があると考えました。そこで、組織全体で仕事の意味付けを見直し、組織の未来像を再定義するプロジェクトをスタートしました。
具体的に行った施策は大きく2つです。
1:個人のWILLと組織の未来をつなぐワークショップ
個人のやりたいこと(WILL)の解像度を高めると同時に、「キャズムが今後どのような組織を目指していくのか」という未来について議論を重ねました。個人の想いと組織の方向性を接続することで、日々の業務に対する納得感や主体性を高めることを目指しました。
2:MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の再策定
経営陣との対話を重ねながら、従来のミッションをより大きな社会的インパクトを生み出せる内容へとアップデートしました。あわせて、バリューの策定には現場のマネージャーも参加し、組織全体で共通の価値観をつくり上げていきました。新たなMVVは今月発表を予定しています。
ー様々なマネジメント支援に取り組んでいますが、そうした取り組みを通じて、どのような手応えを感じていますか?
人や組織の取り組みなので、すぐに大きな成果が出るものではありません。ただ、わかりやすい変化として、みんな合宿や議論を経た後、参加者の表情や発言が明らかに前向きになっていると感じます。
悩みや葛藤を抱え続けるとエネルギーは出にくくなりますが、「自分たちはどこを目指すのか」「なぜこの仕事に取り組むのか」が整理されると、納得感を持てるようになります。その結果、前向きにチャレンジする姿勢や組織としての一体感も生まれてきていると感じています。 最終的には、それらの変化が組織や事業成果につながっているかを検証していく必要がありますが、現時点では、組織やメンバーに前向きな変化の兆しが見え始めていることが大きな手応えになっています。
マネジメントを資産化し、競争優位へ
ー 最後に、ME室が今後目指しているゴールや理想像について教えてください。
究極の理想状態は、「ME室が必要なくなること」だと思っています。すべてのマネージャーや事業責任者が自らの力で「毎日の仕事が最高に楽しい」「組織も最高だ」と思える状態をつくり出し、前向きにチャレンジし続けられる環境を当たり前にしたいです。
そのためにマネジャーや事業部と伴走する中で得られた知見を言語化・仕組み化し、これまで個人のセンスに依存していたマネジメントを「組織の資産」として再現可能な形にしていきたいと思っています。
そしてもう1つの大きな目標は、「サイバーエージェントのマネジメントレイヤーそのものが、会社の圧倒的な競争優位性になっている状態」をつくることです。
以前、社外の方から「サイバーエージェントのすごさは、リーダーの数が圧倒的に多いことだ」と言われたことがあります。リーダーとは「決断し、その結果に責任を持ちながら推進できる人」です。当社には若いうちから責任者として意思決定を経験する機会が数多くあり、この経験を積んだリーダーが多いことは大きな強みです。
一方で、こうしたリーダーの力をさらに引き出していくためには、マネジメントの力を組織全体でより高めていくことが、次の大きな成長テーマだと感じています。決断経験を軸とした強みは大切にしながらも、今後は仕組みや成長機会も充実させることで、マネジメントそのものをサイバーエージェントの競争優位性にしていきたい。
世の中では「マネージャーは罰ゲーム」と表現されることもありますが、サイバーエージェントから「マネージャーってこんなに面白いんだ、かっこいいんだ」と思ってもらえるような事例を、もっと生み出していきたいですね。
サイバーエージェントの魅力は、規模が大きくなっても挑戦を楽しむ文化を持ち続けているところにあると感じています。だからこそ、組織が拡大しても、スタートアップ精神を持ち続けながら、チームで高い目標に挑み、その過程そのものを楽しみながら大きな事業インパクトを生み出していく。そんなサイバーエージェントらしさをこれからも育み続け、日本企業や社会全体に元気を届けていきたいと思っています。
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