「競争ではなく共闘」AIドリブン推進室が語る、エンジニア版「AI番付」の熱量と裏側

技術・クリエイティブ

2026年4月に実施した、各部署のAI活用レベルを相撲の番付のように格付けし、可視化する当社独自の取り組み「AI番付」。全社版とエンジニア版の2軸で同時展開しましたが、エンジニア版「AI番付」を運営したのが、AIドリブン推進室です(参照:「エンジニアとAIエージェントが協働する革新的な開発組織を目指す、サイバーエージェントの現在地」。

2025年8月の発足以来、同組織では「AI開発リアルタイムアタック」やAIエージェント開発スキルを競う、部署対抗コンテスト「AI Agent Arena」、勉強会を通したナレッジ共有の仕組みづくりなど、開発組織のアップデートへ向けて様々な取り組みを牽引してきました。こちらの記事では、AIドリブン推進室 室長 峰岸、マネージャー 神谷にインタビューを実施。「エンジニア版『AI番付』によって、さらなるAI活用に向けて全社一丸となるための共通目標ができた」と、その大きな意義を語る2人に、本取り組みの手応えと今後の展望について詳しく話を聞きました。

Profile

  • 峰岸啓人
    AIドリブン推進室 室長
    2012年新卒入社。エンジニアとしてメディアサービスの開発に携わったのち、2016年に人事にキャリアチェンジ。エンジニアのための全社人事組織「技術人事本部」の責任者として採用、育成を担う。2025年8月より現職。

  • 神谷優
    AIドリブン推進室 マネージャー
    2008年新卒入社。入社以来、複数のサービス立ち上げに携わる。2015年以降3度の育休を挟みつつ、定額制音楽配信サービスにてソフトウェアエンジニアとして、子ども向けプログラミングサービスにて海外開発部門責任者として長くtoC向け開発に携わる。Developers Connect室長を経て、 2025年8月より現職。また、2023年1月よりTech DE&I Leadとして当社開発組織におけるDE&Iを推進。社外ではWomen Techmakers Ambassadorを務めたほか、Forbes Japan 「Women in Tech 30」2024にも選出。

エンジニア版「AI番付」によって、全社共通の指標が生まれた

── 当社の開発組織では、2028年までの開発プロセス完全自動化を掲げています。エンジニア版「AI番付」はこのビジョンに向けて、どのような位置付けであると考えていますか?

神谷: 「AI番付」は、2028年までの開発プロセス完全自動化という目標に向けて、各開発組織の現在地を可視化し、次に何を目指すべきかを明確にするための取り組みです。AIドリブン推進室として様々な施策を展開する中で、特に重要な取り組みの1つとして推進してきました。共通の評価指標がなければ、組織ごとにAI活用の解釈や目指す姿が異なってしまうからです。
第1回を実施して感じたのは、本取り組みがトップダウンのメッセージとボトムアップの活動をつなぐ役割を果たしたということです。対象プロダクトのエンジニアと話していると、責任者はAI活用への危機感を持つ一方で、メンバーの一部には活用へのハードルを感じているケースがあることも分かりました。そうした中、エンジニア版「AI番付」の存在が、責任者にとってチームを牽引するための良い意味での大義名分となり、スムーズにメンバーを巻き込めるようになったようです。自分たちの立ち位置が見えた、次に何を目指せばいいのか明確になったという声を多くもらい、第2回に向けた温度感が高まっているのを感じます。

各部署のAI活用状況を可視化することで、当事者意識をさらに高めることが「AI番付」の目的の1つでしたが、活用が途上にある部署に対しても、時代の変化を他人事とせず、挑戦のサイクルをより一層加速させなければいけないというポジティブな意識づけを行える仕組みにできたと感じています。 

峰岸:2025年10月に開催された、社内イベント「CA BASE VISION 2025」 にて、専務執行役員 技術担当の長瀬より、2028年には全プロダクトが最低でも「AI成熟度」Level4に到達するという目標が発表されました(参照:「2028年までに全社の開発プロセスを自動化する。サイバーエージェントAI活用のこれまでとこれから」)。「AI成熟度」とは、プロダクト開発チームにおける「AI成熟度」を5段階で定義したもので、Level4は要件策定から本番環境への展開まで、開発プロセスを完全に自動化している状態を指します。エンジニア版「AI番付」では、このLevel4が大関に相当します。

このビジョンに向けて、我々が中心となってさらなるAI活用に向けた多様な施策を推進していましたが、エンジニア版「AI番付」があることで、このような状態がLevel4なんだと具体的に理解でき、次に何を目指すべきか、具体的な目標に落とし込めるようになったことが非常に大きかったですね。「2028年までにLevel4を目指そう」と言われても、現場にとっては少し遠い目標に感じられます。一方で、自分たちは今どのランクにいて、次にどこを目指すべきなのか明確に示されることで、現在地と次の一歩が分かりやすくなりました。

実際に第1回の番付発表後には、うちは小結だから次は関脇を目指そう、この施策なら大関の基準を満たせそうといった会話が組織横断で生まれており、AI活用について議論するための共通言語ができたことは、大きな成果だったと感じています。全チームが番付で大関以上を目指していけるよう、各チームに伴走していくのが現在の私たちの役割です。

また、我々と共に評価指標を作ってくれた、グループ全体の技術戦略を策定する、CTO統括室やDeveloper Expertsなどの存在も大きかったです。各組織のCTOや開発責任者を務める面々が、前向きに取り組んでくれたことがこのプロジェクトのもう1つの醍醐味でした。

すでにAI活用は高い水準で進んでいる、それでも横綱・大関ゼロな理由

── 第1回の結果について、どのように受け止めていますか?

  エンジニア版「AI番付」の格付けと評価の仕組み
横綱 開発プロセスがほぼ完全に自動化され、複数のAIエージェントが協調。人間はビジネス判断と戦略レベルの意思決定に専念している
大関 開発プロセス全体をAIが自動実行。人間は最初の要求定義と監督・軌道修正を担う
関脇 開発プロセスの半分以上をAIが自律実行。人間は要所の確認・軌道修正を担う
小結 開発プロセスの複数ステップをAIが連携実行。人間が各ステップで関与・判断しながら開発を進める
前頭 特定のタスク ( 機能実装、テスト作成等 ) を AI で自動化。散発的・部分的に活用している
十両 チーム全体でコード補完や AI エージェントの利用が日常化している
幕下 AI によるコード補完や AI エージェントを個人レベルで利用しているが、組織として支援・投資できていない

各基準は、当記事掲載のために編集し、一部のみ記載

エンジニア版「AI番付」の格付けと評価の仕組み
横綱

開発プロセスがほぼ完全に自動化され、複数のAIエージェントが協調。人間はビジネス判断と戦略レベルの意思決定に専念している

大関

開発プロセス全体をAIが自動実行。人間は最初の要求定義と監督・軌道修正を担う

関脇

開発プロセスの半分以上をAIが自律実行。人間は要所の確認・軌道修正を担う

小結

開発プロセスの複数ステップをAIが連携実行。人間が各ステップで関与・判断しながら開発を進める

前頭

特定のタスク ( 機能実装、テスト作成等 ) を AI で自動化。散発的・部分的に活用している

十両

チーム全体でコード補完や AI エージェントの利用が日常化している

幕下

AI によるコード補完や AI エージェントを個人レベルで利用しているが、組織として支援・投資できていない

各基準は、当記事掲載のために編集し、一部のみ記載

峰岸:番付で最も低い幕下を、AI活用が個人レベルに留まり、組織としての支援・投資が不十分な状態と定義していたのですが、今回はその幕下に該当する組織はなく、すでに全社的に一定以上の水準でAI活用が進んでいることが分かりました。

一方で、第1回における最高位は関脇で、横綱・大関に該当する組織はありませんでした。ただ、私たちはこの結果には大きな意味があると考えています。エンジニア版「AI番付」では、単に各組織の現在地を示すだけでなく、エンジニアたちが自発的にもっと上を目指したいと思えるような、厳密かつ成長を描ける評価基準を設ける方針をとりました。特に横綱・大関については、2028年の開発プロセス完全自動化を見据え、あえて非常に高い到達基準を設定していたんです。これによって、第2回の番付に向けて社内勉強会などの場で、大関を目指すには何が必要かといった議論が活発になっています。

高い目標に対して、自分たちの技術力で挑んでいこうという前向きな気運が生まれたことは、大きな収穫だったと感じています。次回以降、どの組織が最初に大関や横綱に到達するのか、私たちも非常に楽しみにしています。

神谷:AIドリブン推進室として、技術の本質的な向上を見据えた評価基準にこだわって良かったと感じています。実は企画段階では、初回から横綱が出たほうが取り組みとして盛り上がるのではという意見もありました。しかし、私たちが目指していたのは見栄えの良い結果を作ることではなく、各組織が現場を正しく把握し、次のステップにつなげられる状態を構築することです。その意味で、実態に即した精緻な評価ができたことには大きな手応えを感じています。
エンジニア版「AI番付」では全14項目・5段階の評価マトリクスを作成し、明確かつ厳格な定義を設けていました。そのため、各組織も客観的な視点で自分たちの現在地を見極めやすかったのだと思います。また、番付の審議にあたっては、自己申告形式を採用しました。半年間の活動実績をもとに、各組織の責任者がエビデンス資料を添えて自組織のランクを申告する仕組みにしたのですが、参加組織の多くが、自らの立ち位置を正確に把握できていることが分かりました。詳細なエビデンス資料の提出など、現場には一定の負荷をかけた側面もあるものの、組織全体を俯瞰して現在地を可視化できたことは、全員にとって非常に意義のある成果になったと考えています。

── 対象組織への伴走支援を行う中で、特に工夫した点は何ですか?

峰岸: 今回44の開発組織が対象となりましたが、全組織の責任者に対して1人ひとりヒアリングを行いました。効率だけを考えればアンケートや説明会だけで進める方法もありますが、AI活用の状況や課題は組織によって大きく異なります。実際に話を聞いてみると、すでにAIエージェントを開発プロセスに組み込んでいる組織もあれば、何から着手すべきか模索している組織もありました。まずは顔を合わせて対話することで、それぞれの組織が置かれている状況や悩みを理解できましたし、「AI番付」の目的や評価基準に対する納得感も高められたと感じています。その結果、エビデンス資料の提出や追加ヒアリングなど、その後の協力も非常にスムーズに進みました。

単に評価する側とされる側という関係ではなく、一緒にAI活用を前進させるパートナーとして伴走できたことは、今回特に意識したポイントですね。

エンジニア版「AI番付」審議のために開発したダッシュボード。各基準や名称等は、当記事掲載のために編集し、一部のみ記載
エンジニア版「AI番付」審議のために開発したダッシュボード。各基準や名称等は、当記事掲載のために編集し、一部のみ記載

神谷:その他、エンジニア版「AI番付」審議のためにダッシュボードを開発しました。ダッシュボードには、対象組織の基本情報だけでなく、提出されたエビデンス資料も格納し、 申告ランクが該当番付の定義に則っているか、上位ランクを申告した場合に適切な資料が提出されているか等を観点とした独自ロジックをもとに、スムーズな審議のためにAIで一次レビューされた状態で審議を実施しました。なお、AIによるレビューだけでなく、審議会前には運営が目視によるチェックを行っています。

── 2026年10月に、第2回エンジニア版「AI番付」が開催されます。今回の結果を踏まえて、どのような点をアップデート予定ですか?

神谷:組織全体でAIの活用が進むにつれて、利用量やコストを適切に管理する重要性が高まっています。実際、主要なAIプラットフォームでは、サブスクリプション型から従量課金型への料金改定が相次いでいます。
こうした背景から、社内におけるAI活用のコスト最適化は避けられない課題ですが、「AI番付」としては、制約下でも継続的に成果を出せる組織になっているかという視点に重きを置きつつ、AI活用の推進にブレーキがかからないよう慎重に精査していく考えです。

峰岸: 評価指標だけでなく、AIドリブン推進室としての伴走体制もアップデートします。2025年8月の発足以来、これまではメンバーが個別にそれぞれのミッションと向き合っていましたが、エンジニア版「AI番付」という共通の指標ができたので、全組織の底上げと、より高いレベルを目指す組織の創出を目標に、伴走体制やヒアリングの強化を行います。

私たちがエンジニア版「AI番付」で最大のテーマとして掲げているのは、「競争ではなく 共闘」です。当社ではドメインやフェーズ、規模の異なる多種多様なプロダクトがあるからこそ、それぞれの成功事例や知見を共有し合いながら、全員で横綱・大関を目指していく。その状態をつくることが私たちの役割だと思っています。
今回は初めての取り組みでしたが、想定以上に開発組織に深く浸透し、大きな熱量を生み出すことができました。この熱をここで止めず、さらに広げていくために、現場には社内のナレッジ交流の場などを積極的に活用し、知見を共有し合ってほしいと伝えています。1,200名以上のエンジニアが在籍し、多様なプロダクトを展開するサイバーエージェントだからこそ、全員が同じ目線で一つの目標に向き合ったとき、圧倒的なシナジーを生み出せるはずです。

「AIフレンドリーな組織」からその先へ。発足1年で見えた確かな手応えと次のステップ

── AIドリブン推進室発足から間もなく1年が経ちます。「エンジニアとAIエージェントの協働」という目標に対して、現在地はいかがでしょうか?

神谷:この1年で、開発プロセスの中でAIエージェントを活用することが当たり前になりつつあり、組織全体として確実に前進している実感があります。
一方で、私たちが目指しているのは単にAIへ仕事を任せることではありません。AIを活用しながらも、人間が適切に判断し、価値を最大化していく。その考え方も開発組織全体に浸透してきている実感があります。
私たちが目指す横綱、つまり “AI前提組織” に向けては、まだ道半ばではありますが、組織全体で着実に前進できているという、確かな手応えを感じています。

峰岸:AIフレンドリーな開発組織というロードマップ初年度の目標については、エンジニア版「AI番付」だけでなく、「AI開発リアルタイムアタック」や社内勉強会など当社独自の取り組みを短期間で積極的に推進したことで、達成できていると確信しています。
一方で、2028年までの開発プロセス完全自動化という目標から逆算すると、まだまだ挑戦の途中だといえます。今後は大関や横綱を目指す組織を増やしていくだけでなく、その先にある“AI前提組織”としての開発のあり方も考えていく必要があります。AI時代においてもリーディングカンパニーであり続けるためには、さらなる挑戦と飛躍が必要だと感じています。

神谷:「AI番付」では、横綱を開発プロセスがほぼ完全に自動化され、複数のAIエージェントが協調しながら開発を進め、人間はビジネス判断や戦略的な意思決定に専念している状態と定義しています。ただ現時点でそのレベルを実現できている企業は世界的に見てもまだ存在していません。目指す世界観自体は想像できていますが、そこに到達するための最適な方法は、まだ誰も答えを持っていないのが実情です。グローバルトレンドは刻一刻と変わっていくため、常にキャッチアップしながら、多くのプロダクトが横綱に到達するための道筋を示すと同時に、AI時代の新しい開発組織のあり方そのものをつくっていきたいと考えています。

峰岸:私たちが目指しているのは単なるAI活用の推進ではありません。AI時代における新しい開発組織のあり方を模索し、そのスタンダードをつくっていくことです。
世界中でまだ誰も答えを持っていない領域だからこそ挑戦を続け、業界をリードする存在でありたいと思っています。

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