AI時代も現場の熱量を止めない。全社横断のITガバナンス推進プロジェクト「CAITAC」

技術・クリエイティブ

メディア&IP事業、広告事業、ゲーム事業といった幅広い領域で展開する当社では、各事業部が大きな裁量を持ち、自由闊達に組織づくりや技術開発を行ってきました。この強みを活かしつつ、グループ全体でシステムやSaaSを通じた生産性向上とコスト最適化を推進するため、2023年に誕生したのが横断プロジェクト「CA IT Acceleration Center(以下、CAITAC)」です。

全社一丸となって新たな領域へ熱量高く挑む当社のカルチャーは、AI時代におけるITガバナンスの領域にも深く浸透しています。当社では「AI番付」をはじめとする全社的な取り組みを通じて、AI活用事例の共有や活用促進を進めてきました。「CAITAC」もまた、社員が新しいAIツールを迅速に試せる環境づくりや、利用状況・コストの可視化を推進しています。新しい技術への挑戦を後押ししながら、適切なガバナンスを両立させることで、社員約8,000名規模のITガバナンス強化を実現しています。

自由な開発文化と「見えないコスト」の課題から生まれた全社最適

「自由と自己責任と挑戦」というカルチャーが深く根付いている当社では、開発組織においても、これまで各事業部が個別にシステムやSaaSを導入するボトムアップ型の文化が浸透していました。これは自由な開発を支える強みである一方で、全社横断で利用状況や契約状況を把握することが難しく、契約やライセンスの最適化余地が見えづらい状況も生まれていました。

こうした課題を受け、2023年に開催された「あした会議」にて、部門の垣根を超えて全社最適を推進するプロジェクト「CAITAC」の発足が決議されました。同プロジェクトには、サイバーエージェントグループのITガバナンスを強化し、未来を切り拓きながら成長を加速させるという想いが込められています。

プロジェクトには、役員陣をはじめ、全社の技術戦略を策定する「CTO統括室」、クリエイターに関わるマネジメントやガバナンス整備を担う全社横断組織「CA Creative Center」のメンバーなど、多角的な視点を持つ面々が集まりました。SaaSの契約周りやライセンス管理、データの可視化を通じた全体最適化を担う担当者が中心となり、強力な体制で推進しています。

アクティブ率へのこだわりと、コスト削減を実現した仕組み

プロジェクト開始から3年が経過し、AI開発支援ツールを含む様々なツールにおいて、契約の集約や利用実態に応じた最適化を進めてきました。各事業部や子会社ごとに個別契約していたものをグループ契約へと一本化するなど、継続的な取り組みにより大きな成果へと繋がっています。

単にコストを削減するだけでなく、実態に即したアクティブ率にこだわっている点も「CAITAC」の特長です。必要な人には適切なライセンスを提供しながら、利用されていないライセンスを継続的に見直すことで、投資対効果を高めることを重視しています。運用は大きく、可視化 → 抽出 → 対応判断 → 反映のサイクルで回しています。 

まず、各SaaSの利用ログやライセンス情報をもとに、直近30日間ログインがないといったツールごとの基準を設け、未利用・低頻度のユーザーをデータで抽出します。さらに、その後の対応方法はツールの特性や影響度に応じて使い分けており、業務影響が大きいツールや個別事情があり得るものについては対象ユーザーに個別で連絡し、利用予定の有無を確認しています。一方で、利用実態が明確なケースや影響が限定的なものについては、一定期間の未利用をもって一律でライセンスを整理し、削除後も必要であれば再申請できる仕組みにしています。

継続的なモニタリングによりアカウントの棚卸しを定期的に行い、様々なツールにおいて高いアクティブ率を実現
継続的なモニタリングによりアカウントの棚卸しを定期的に行い、様々なツールにおいて高いアクティブ率を実現

この個別確認とルールベースの整理を組み合わせて継続的に回すことで、最適なアクティブ率を維持しています。同時に、各ツールの年間請求額や利用状況を可視化し、管理者や関係者がいつでも把握できる状態を作りました。削減を強く働きかけるのではなく、コストを見える状態にして意思決定しやすい環境を整えることで、各現場が自律的に最適化できる状態を目指しています。

現場のスピードと生産性を向上させる、サイバーエージェントらしいガバナンス

また、これまでは新しいツールを導入する際、誰に相談すればいいのか分からない、契約や条件がバラバラで非効率といった課題がありましたが、「CAITAC」によって役員がコミットする体制が整い、意思決定と実行のプロセスが明確になったことで、導入スピードが大きく向上しました。結果として、現場のエンジニアやクリエイターがツール選定や契約に悩む時間を減らし、本来の業務に集中できる環境が整ってきています。

加えて、コミュニケーションの場作りにも力を入れており、Slack上に数千人規模のツールごとのユーザーコミュニティを設け、誰でも気軽に質問や契約の相談ができる環境を整備しました。運営メンバーが日頃から個別の細かい質問にも応えることで現場との距離を縮め、現場がこっそり始めるのではなく、まずは「CAITAC」に相談すればより良い条件で利用できるという信頼関係を築いている点が特長です。

AI導入についても、各部署の利用状況やコスト推移を継続的に可視化することで、実態に基づいた予算確保や、投資判断を迅速に行える環境を整えています。その結果、新しいAIツールの導入から活用までをスピード感を持って進められるようになりました。

さらに、ありがたいことにベンダー側からも当社の活用レベルの高さを評価いただく機会が増えています。例えばClaude CodeやOpenAI Codexの利用数は日本でも国内有数の規模です。先進的な活用事例を発信していくことがベンダーとの信頼関係構築に繋がり、ひいては全社的な契約の最適化として還元されています。

こうした先進的なツールの導入や高度な活用が進む背景にあるのは、プロジェクト発足からの3年間で培われた土台です。各ツールのアカウント棚卸しや利用状況の可視化を徹底し、それを全社の “当たり前” として定着させてきたことで、変化が激しく難易度の高いAI時代におけるITガバナンスにおいても、迅速な対応を実現できました。取り組みの初期こそ、効率化に対する現場との間に温度差が生じることもありましたが、現在ではコストが最適化されて助かるといった前向きな評価が現場から多く寄せられています。ITガバナンスの強化という目標に対し、全社が同じ方向を向いて歩みを進める組織風土が着実に形成されています。

運営メンバーに聞く、今後の展望

最後に、「CAITAC」の中核を担う運営メンバー2名に、当プロジェクトの今後の展望を聞きました。

 

  • 黒崎 優太
    CTO統括室 / (株)AbemaTV エンジニア
    2015年当社新卒入社。AI事業本部にて広告配信プラットフォームの開発責任者を務めるほか、小売企業や行政向けDXプロジェクトに従事。現在はABEMAの広告配信システム開発を担当する傍ら、グループ全体の技術戦略を担うCTO統括室を兼務し、CAITACプロジェクトなどに携わる。

 

「運用は続いていくものなので、この熱量を絶やさず、継続的に取り組める体制を強化していきたいですね。『CAITAC』の価値は、単にコストを削減することではなく、全社でITガバナンスに前向きに向き合う文化をつくれたことだと思っています。実際に、以前は各組織が個別に抱えていた課題や知見が、今では全社で共有され、より良い形で活用されるようになってきました。AI時代は変化が激しく、これからも新しいツールやサービスが次々と登場します。その中で、挑戦を止めるのではなく、安心して挑戦できる土台を整え続けることが私たちの役割です。現場の熱量を支えながら、全社最適との両立をさらに推進していきたいと考えています。」

 

  • 鷹雄 健
    グループIT推進本部 全社データ技術局 データエンジニア
    2011年CyberAgent America, Inc.入社。フルスタックエンジニアとしてサンフランシスコに3年間駐在。帰国後は約5年間、広告事業に従事したのち、現部署に異動しDX推進を担当。現在は、AI活用を牽引するデータエンジニアとして、従業員の生産性向上、コスト最適化、ガバナンス強化などを推進。

 

「今、最も難易度が高いのはAI領域です。次々と新しいサービスが登場し、契約形態も提供内容も目まぐるしく変わります。特にサイバーエージェントでは、AIの利用データ収集に力を入れており、利用の変動にいち早く気付けるよう努めています。コストも上がりやすいため、常に注視して経営層にアラートを上げ続ける必要があります。これだけの規模で、AIの契約・活用に正面から向き合えている会社は少ないのではないでしょうか。 『CAITAC』の発足に伴い、役員陣も含めて全社でポジティブにITガナバンスに向き合う文化ができました。これからも当プロジェクトの価値を最大化し、クリエイティビティとガバナンスが両立する組織を支えていきたいです。」

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