異なる文化を持つ会社と、新しい価値をつくる。3社合弁「セブン‐イレブン・アドコネクト」でサイバーエージェントが担う役割
スマートフォンやEC、生成AIの普及によって、消費者の購買行動は変化を続けています。小売企業が持つ店舗や購買データなどの顧客接点を生かし、新たな体験や広告価値を生み出す「リテールメディア」への注目も高まっています。
その最前線で2026年9月1日、セブン‐イレブン・ジャパン、電通、サイバーエージェントの3社による合弁会社「セブン‐イレブン・アドコネクト」が事業を開始します。
なぜ新たに会社を立ち上げるのか。その中でサイバーエージェントは何を期待され、何を担うのか。
セブン‐イレブン・ジャパンでリテールメディア事業を牽引し 新会社の代表取締役社長に就任予定の杉浦克樹氏と、当社常務執行役員の内藤貴仁が、合弁会社設立に至るまでの歩みと、リテールメディアの未来を語りました。
「実際に店舗を回ってきました」—ネット企業のイメージを覆す、"足で稼いだ"クリエイティブ提案
― セブン‐イレブンがリテールメディア事業を本格化させる中で、当社をパートナーに選んだ最初のきっかけは何だったのでしょうか?
杉浦氏:最初にお会いしたのは、2021年。私がセブン‐イレブンアプリの責任者をしていた頃です。「小売の会社に、どうしてインターネット広告の会社が来たんだろう」というのが率直な印象でした。
風向きが大きく変わったのは、店舗にサイネージを設置することが決まったときです。コンテンツを準備して配信しなければいけない。せっかくやるなら、すごくいいものを流したい。そのコンテンツ制作を行う企業を決める中で、サイバーエージェントさんを選んだのが、すべての始まりです。
IT会社ですから、インターネットらしい提案が来るんだろうと思うじゃないですか。ところが提案書の冒頭で、いきなり「実際に店舗を回ってきました」と。セブン‐イレブン数十店舗を一軒ずつ足で回って、どんな立地で、どんな客層なのか、店頭にはどんなポップがあるのかを徹底的に見たうえで、それを踏まえたクリエイティブを動画で持ってきた。資料をつくるより先に、まず現場に足を運んでいたんです。「あれ、ネットの会社じゃなかったっけ」と、ちょっと面食らいました。
セブン‐イレブンは小売ですから、現場を知ってもらうことは何より大事です。先にお店を見てくる、現場から始める姿勢は本当にいいなと、今でも強く記憶に残っています。
1998年、株式会社セブン‐イレブン・ジャパンに入社。約20年にわたり現場での業務に従事した後、2021年にセブン‐イレブンアプリの責任者を経て、2022年にリテールメディア推進部を立ち上げ、総括マネジャーに就任。店舗サイネージを活用したコンテンツ配信や広告営業の基盤構築を牽引し、リアル店舗のメディア化と新たな顧客体験の創出に注力している。
内藤:当時、「資料を作る前にまず実際の店舗を自分の目で見て回ろう」と担当チームに話をしました。オフィスにこもって机の前にいるだけでは、店舗サイネージのようなリアルなメディア事業には入り込めない。その姿勢は今も変わっていなくて、現在もクリエイティブ責任者自身が泥臭く店舗に足を運び、現場を見ながらクリエイティブを考え続けています。
― 新たに取引をする会社に任せることへの不安はなかったのでしょうか。
杉浦氏:当時、社内では「今まで通りうちをよく知っている会社にやってもらうほうがいい」という意見もありました。商品部との連携が必要ですから、当然の意見です。ただ、社内のルールを知ってもらうことは、時間をかければどの会社でもできる。それよりも、本当に顧客にとっていいものを作るパートナーを選ぶことが重要でした。
「セブン‐イレブンを主語に」全力を尽くす専任チームの存在
― サイバーエージェントが、セブン‐イレブンとの取り組みにこれほど注力してきたのはなぜでしょうか?
内藤:市場を作る上では「一番の会社が、一番力を入れて、成功している」ことが成立の必要条件なんです。セブン‐イレブンには、杉浦さんという、本当に「やろう」と先頭を切る人がいた。覚悟をもって先頭を切ってやろうという人は、マーケットにそんなにいません。その人を見つけられたことが一番大きかったですね。
―サイバーエージェントは2017年ごろ、まだ黎明期のリテールメディア市場に参入しました。その背景には、どのような戦略があったのでしょうか?
内藤:当時、海外ではAmazonをはじめとする小売企業がリテールメディア事業を拡大しており、国内でも小売企業が持つ店舗や購買データの価値が注目され始めていました。リアルのデータを持つ小売企業をデジタルの力で支援できれば大きな仕事ができるはずだと考えて、まだ市場が立ち上がる前から100人、200人というまとまった規模の人材を投じました。それによって、インターネット企業がリテールメディア事業に参入していくことに対して信頼してもらえた、という側面もあるかもしれません。
杉浦氏:その本気度は、こちらから見ると異常でした。どうなるかわからない市場に人員を投資するのは、言葉で言うほど簡単じゃない。
当時、セブン‐イレブンのリテールメディア事業はまだ小さく、社内からも「そんなに言うならやってみれば」という温度感でした。その時期に、サイバーエージェントさんは当社の専任チームを作ってくれた。本当に心強かったです。コンテンツ制作に加えて、広告販売の営業組織もワンチームで立ち上げていただき、すべて「セブン‐イレブンを主語に」してもらえるんです。うちのために一生懸命になってくれる人たちがいるのは、率直にうれしいですよね。
―取り組みにあたり、サイバーエージェント側は当時20代の若手メンバーを広告販売責任者に抜擢しました。杉浦さんは当時驚かれたそうですね。
杉浦氏:そうなんです。広告の向き合いはどこの会社もベテランの方が多かったので、正直驚きました。ただ、それ以上にインパクトがあったのは、その抜擢を決めた内藤さんの考え方です。
内藤:新しい分野は、新しい人を抜擢して任せる。当社は会社として、ずっとそれを繰り返してきました。リテール市場は当時、まさにその「新しいところ」だったのです。
2001年、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。インターネット広告事業本部の統括を経て、現在は常務執行役員としてAI事業本部を統括。アドテクノロジー・AI・クリエイティブ領域と並行して、早期からリテールメディア領域への参入を主導し、小売企業のリテールメディア立ち上げ支援を推進。
杉浦氏:その考え方が、会社の枠を越えてセブン‐イレブン側の組織にまで影響しました。実は当社でも当時かなりの若さでマネジャーに抜擢した社員がいます。サイバーエージェントさんの采配に完全にインスパイアされたんです。昔なら経験を問われましたが、新しい分野は経験を問われない。合弁会社は事業の器であると同時に、新しいカルチャーの器でもあると思っています。
新しいことをやるなら、異なる文化を持つ会社と。3社合弁会社設立の背景
― 今回、業務提携や戦略的パートナーシップではなく、3社での合弁会社設立という強固な体制をとりました。なぜその形を選んだのでしょうか。
杉浦氏:実はセブン‐イレブンでは、今回のように事業部門から会社の設立を提案することは極めて珍しいケースです。 それでも「会社」という形にこだわった理由は、意思決定のスピードをさらに上げたかったから。技術的な業務支援なら、業務委託で十分です。でも同じ理想に向かってワンチームで事業を成長させるなら、同じ会社にいてもらいたい。それが全てです。新しいことは、一緒になって面白がってやってくれる人たちとやりたいじゃないですか。
また、新しい会社、新しいチームを作るなら、カルチャーも新しく挑戦したい。
セブン‐イレブンと電通さんは長くご一緒してきて、お互いを深く理解し、確かな信頼を築いてきました。その強固な土台があるからこそ、新たにサイバーエージェントさんという異なる文化を掛け合わせる挑戦ができる。これまでにないチームをつくれると確信したんです。
サイバーエージェントさんには特徴的な企業文化が多くあります。例えば、リーダーとメンバーが一緒になって未来をディスカッションする「合宿」文化や、自分たちで立てた目標を宣言する「プロジェクトレポート(プロレポ)」など。目標に向けて全員が考え、動く。そういった独自のカルチャーは僕たちにとっても学びがありました。新しいことをやるなら、今までと違う文化を持った会社と組む必要がある——そう考えていました。
―セブン‐イレブン・電通・サイバーエージェントの3社は、この合弁会社にそれぞれどのような強みを持ち寄るのでしょうか。
杉浦氏: 3社それぞれの強みが明確だからこそ、一緒にやる意味がありました。
セブン‐イレブンには全国に広がる店舗やアプリという圧倒的なリアルの接点。電通さんは、長年培ってきた生活者を理解しているからこその統合プランニング力と、それを形にするクリエイティビティ。
そしてサイバーエージェントさんは、何よりAIの技術力です。サイネージの立ち上げから本気でコミットしてくれた姿勢も含めて、当社の役員からも「サイバーエージェントさんのAI技術力だけは絶対に取り逃すな」と言われたほど、技術への期待は大きいものでした。
この3社なら、広告を届けるだけでなくその先の購買まで含めて、新しい体験を作ることができると思いました。
内藤: 「広告を配信する仕組み」も「作る技術」もずっと磨いてきました。複数のアドテク開発を経験した豊富な知見を持つエンジニアも多くいますし、AI研究者も100名規模で活躍している。そういった技術面を評価してもらえたのは、素直にうれしいですね。
当たり前を疑い、技術で変化に先回りする。今「コンビニを再定義」する理由
― コンビニのリテールメディアは、既存のメディアとは違うどんな可能性があるのでしょうか?
内藤:コンビニのリテールメディアには「棚があること」「大量リーチ」「ローカル性」の3つの側面があります。
まず1つ目は「棚がある」という物理的なアドバンテージ。広告のすぐ先に商品と購買がある。コンビニのリテールメディアは売上に一番影響できるメディアであり、購買データで効果検証まで一気通貫で行うことができます。
2つ目は「大量リーチ」。視聴の入り口が多様化する中で「1日でたくさんの人にリーチしたい」というニーズに応えられるメディアは限られていきます。毎日多くのお客様が来店するセブン‐イレブンの店舗網は、その受け皿になれる。将来的には、例えば災害情報などを広く伝える社会的な役割を引き受けていく可能性すらあると思っています。
最後に「ローカル性」。全国にあるコンビニの店舗網は、地域ごとにマーケティングしたいという企業のニーズにきめ細かく応えることができます。例えば、地域の歯医者さんが店舗に広告を出す。「犬を探しています」でも、少年サッカーのメンバー募集でもいいんです。AIによるクリエイティブ制作・運用の自動化でそれを実現して、地域のみなさまが誰でも気軽に広告を出せるようにする。それが本来のメディアの役割ですし、コンビニのリテールメディアなら形にできると思っています。
この3つは、必要な技術革新がそれぞれ違います。3つの側面をきちんと形にすることはもちろんですが、そもそもこれからのコンビニの在り方も再定義しながら、来る変化に技術で先回りすること。それが当社の役割だと思っています。
― 『コンビニの再定義』という話がありましたが、セブン-イレブンはこれからのコンビニの在り方をどう考えていますか?
杉浦氏:セブン‐イレブン社内でも「コンビニの再定義が必要だ」ということはずっと言い続けています。
約50年続いてきた現在の物販中心のモデルの延長線上だけでは、10年・20年後は難しいかもしれない。そういう危機感からです。店舗の役割も、物販だけでなくサービスや物流の拠点へと広がっていくでしょう。
コンビニにお客様が普通に来ることすら、今後どうなるかわからない時代になる。ECも生成AIも広がれば、お店に行って選んで買うという体験そのものが減っていくかもしれない。今のリテールメディアは、お客様が来店してくださる前提で成り立っていますから、その前提を当たり前だと思わないようにしなければいけません。数年後には、リテールメディアも今と同じやり方では通用しなくなっているはずです。
だからこそ、変化を先取りして柔軟に対応できるサイバーエージェントさんに、これからも期待しています。
マーケットを作るのは、結局「本当にやろう」と先頭を切る人です。今回の合弁会社「セブン‐イレブン・アドコネクト」なら、それができると確信しています。
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数千万人のユーザー基盤を持つ国内最大規模の通信キャリア、NTTドコモ(以下、ドコモ)。同社が今、時代の変化に合わせて推進している「顧客起点の事業運営」において、当社は現場への常駐を通じて深く並走を続けてきました。
本記事では、ドコモの猪俣氏と、当社の上野、野々山の対談を実施しました。社内の意識変革を促し、現在はプロダクトの継続的な改善・成長を共に担うパートナーへと関係性を発展させてきた両社。ドコモが持つ強固な事業基盤に、当社のプロダクトへの圧倒的な熱量と機動力を掛け合わせ、どのようにしてUI/UXを軸とした持続的な事業成長を共創しているのか。一つのチームとして挑んだリアルな変革の軌跡に迫ります。