「目標はセンス」を、集合知に。新設「ゴールデザイン室(GD室)」が目指す目標設計の科学

カルチャー

【後編】次世代人事組織の挑戦

社長交代を機に、サイバーエージェントでは持続的な組織づくりの強化が重要なテーマの1つとなっています。 その一環として、マネージャー支援を担う「マネージャーエンパワーメント室(以下、ME室)」に続き、新たな次世代人事組織として発足したのが「ゴールデザイン室(以下、GD室)」です。  

ME室がマネジメントを起点に組織課題の解決に取り組む一方、GD室が向き合うのは「目標設計」。 社員一人ひとりが主体的に目標を描き、達成に向けて自走できる状態を目指して、これまで属人的になりがちだった目標設定の考え方やノウハウを構造化・言語化し、再現可能な「目標設計」の型として体系化する取り組みを進めています。
本記事では、GD室の室長を務める門倉に、発足の背景やミッション、具体的な取り組みについて聞きました。

Profile

  • 門倉 拓哉 人事本部 GD室 室長
    2022年サイバーエージェント入社。採用戦略室にて新卒採用人事やビジネスコースの新卒採用責任者を担当するほか、シニアマネージャーとして組織運営や採用AXを推進。 2026年1月、次世代人事組織として新設された「GD室」を立ち上げ、室長に就任。現在は、各組織のゴールデザインを通じて個人と組織の成長を支える仕組みづくりを推進している。

目標設計を担う専門組織

「目標設計」という領域に特化し、社員一人ひとりの目標に対する向き合い方を変えていくことをミッションとして新設されたGD室。
従来の目標設定施策である「プロレポ」※が、組織目標をスローガンに落とし込み、組織目標の自分事化を促すものであるのに対し、GD室は目標設計のやり方自体をフレーム化し、特に個人目標にフォーカスすることで、社員一人ひとりのWillやミッションの言語化を支援し、自走を後押ししている。

一言で表すなら、「目標設計を科学する組織」である。これまで属人的になりがちだった目標設定の考え方やプロセスを構造化し、個人の経験やセンスに依存せず、誰もが再現できる型として組織全体で実践できるフレームワークの構築を目指している。

一般的に目標というと、上司から与えられるもの、管理や評価のためのものというイメージを持たれがちだ。しかし、サイバーエージェントでは以前からそうした考え方とは少し異なる。
「いい目標さえ設定できれば、達成したも同然」という考え方が根付くサイバーエージェントにおいて、目標とは進むべき方向を示すものだ。管理のためではなく、自走を促すためにある。主体的に考え、決めた目標こそが、人を動かす原動力になる。GD室があえて「目標“設計” 」という言葉を使うのも、こうした考え方が根底にあるからだ。

※半期の期初に、組織全員で組織目標やビジョンを共有・言語化し、それらをプロジェクトレポートとして可視化する取り組み、およびその仕組みのこと

「目標はセンス」
属人化した知見を集合知へ

ーYMCAあした会議での提案が起点になっているとのことですが、GD室発足の背景を教えてください。

若手から経営への提案を行う「YMCAあした会議」において、私たちは「若手だからこそ見えている現場のリアルな課題に、正面から向き合うべきだ」という強い考えを持って臨みました。サイバーエージェントがこれまで大切にしてきたカルチャーの中で、現在の若手世代に十分継承されきっていないテーマを整理したところ浮かび上がってきたのが「目標」という領域でした。
これまでもサイバーエージェントでは、経営陣が繰り返し目標設定の重要性を語ってきました。 一方で、「目標設定はセンス」という藤田会長の言葉が表すように、目標の作り方や捉え方が属人化しており、事業部の責任者やマネージャーのセンス頼みになっていたという課題がありました。

今回の組織立ち上げにあたり、経営陣からいただいたオーダーは「これまでの目標設定のやり方や考え方を、一つの集合知にしてほしい」というものでした。 サクセッションを推進する中で、知見を属人化させるのではなく、きちんと科学し、再現可能な形で次の世代へ受け継いでいく。当初は若手世代の課題を起点としていましたが、議論を重ねる中で、これは全社で向き合うべきテーマだという認識になっていきました。 

 

ー「目標設計」というテーマに絞り、あえて専任組織とした理由とは

目標設計が全社共通の重要課題でありながら、事業・組織・個人によって最適解が大きく異なる領域だからです。例えば広告事業であれば、比較的成果を定量的に追いやすく、目標も設計しやすい。一方でゲーム事業は、半年から1年、場合によっては数年先を見据えて取り組む必要があり、短期的な成果だけでは測れません。そのため、他事業でうまくいった目標設計の型をそのまま持ち込むと、かえってうまく機能しないこともあります。

事業ドメインや組織フェーズによって前提条件が大きく異なるからこそ、それぞれの文脈に合った目標設計が求められます。重要でありながら難易度が高く、画一的な正解を当てはめることもできません。だからこそ、各組織の状況や事業特性に合わせて向き合い続ける専門性が必要でした。人事施策の一つとして扱うのではなく、専門組織として立ち上げたのはそのためです。 
 

経営陣の思想を体系化した
目標設計フレーム「DRIVE」

ーそうして属人化していたノウハウを体系化する中で生まれたのが、独自のフレームワークですね。 

はい。GD室が新たに提唱しているのが「DRIVE」という目標設計フレームです。
これは、会長の藤田が大切にしてきた目標づくりのエッセンスである「絞られたセンターピン」「適切な難易度」「明確で測れる指標」と、CHOの曽山が提唱してきた「P&P(Passion & Purpose)」が示す“自分軸”と“組織軸”の考え方を統合したフレームワークです。 

「どこを目指すのか」「どれくらい背伸びするのか」「自分にとってどんな意味があるのか」「組織にどんな価値を生むのか」「その成果をどう証明するのか」という5つの観点から考えることで、自走につながる目標を設計できるようにしています。 

 

「仕掛け」と「仕組み」で
カルチャーに変えていく

ー目標設計を組織に定着させるためにどのような取り組みをしていますか? 

「仕掛け」と「仕組み」を組み合わせています。
まずは「仕掛け」です。 研修や合宿を通じて、組織ごとに「良い目標とは何か」をみんなで考え、共通言語や共通認識をつくっています 。具体的には、3つの施策を展開しています。

1:目標科学設計合宿(ボードメンバー向け)
その組織にとっての「良い目標」の定義をつくります。ここで定義するのは、半期ごとの定量目標や一時的な定性目標ではありません。事業のフェーズや組織の規模が変わっても指針となる価値観や目指す姿を言語化し、経営陣の共通言語としていく取り組みです。
 

例えばデータ本部では、「LTVを感じられる目標」という考え方が生まれました。目標が短期的な数字やタスクの達成に終始しがちな中で、日頃から使っている「LTV」の考え方を目標設計にも応用。今の取り組みが顧客や組織、自分自身の将来にどのような価値を生むのかを意識しながら目標を設計し、目標を長期的な価値につなげて捉えるという考え方です。

このように組織ごとの価値観やフェーズに応じた目標のあり方を言語化していきます。
 

2: 目標設計ハンズオン研修(組織メンバー向け)
「なぜ良い目標が必要なのか(Why)」「良い目標とは何か(What)」「どう作るのか(How)」を学びながら、目標設計フレーム「DRIVE」を活用して実際に自分の目標を設計します。単なる座学ではなく、問いを通じて目標への理解を深め、目標設計の解像度を高めながら、自分にとってやる気が出る目標へと磨き上げていくのが特徴です。
 

3: 目標キャリブレーション研修(組織メンバー向け)
ハンズオン研修で作成した目標を研修に参加するメンバー間同士で共有し、フィードバックを交わしながら目標をブラッシュアップしていきます。自分では気づけなかった視点を得られるだけでなく、お互いの目標への理解も深まります。
さらに、この研修には組織の一体感を高める効果もあります。お互いの目標を深く理解し合うことで自然と協力関係が生まれますし、目標を周囲に宣言することで「やり切ろう」という主体的な責任感や、「応援し合おう」という前向きな空気も醸成されていきます。


ーもう一方の軸である「仕組み」とは?

研修や合宿で得た学びを継続的な実践につなげるため、目標設計を継続的に支援するAIコーチ「ゴルキャンくん」を開発しています。
目標設計は一人で考えるには難易度が高く、客観的な問いかけや壁打ち相手がいることで思考が深まります。ゴルキャンくんは、AIとの対話を通じて「DRIVE」の観点から考えを整理し、自分自身が納得できる目標へと仕上げるためのサポートツールです。重要なのは、AIが目標を作るのではなく、本人が目標を設計するプロセスを支援することです。

合宿・研修という「仕掛け」と、AIを活用した「仕組み」の両面から、社員一人ひとりの目標設計を支援しています。

自走設計、そして対話へ

ーこうした取り組みによって、最終的にどのような組織や個人の姿を実現したいと考えていますか? 

すべての起点は、自ら目標を考え、設計する 「自走設計」です。世界的にも知られる「自己決定理論」では、人は自ら選択し、決定したことに対して高い意欲を発揮するとされています。 上司から与えられた目標ではなく、自分で考えて決めた目標だからこそ、人は本気になれます。「DRIVE」も「ゴルキャンくん」も、その自走を支援するための道具にすぎません。

ただ、自走設計だけでは終わりません。私たちが最も大切だと考えているのは、その目標を上司との対話を通じてブラッシュアップをし、設計しきることです。目標設計において重要なのは「見立てる力」だと考えています。自分の力を少し超える挑戦的な目標を描ければ 、人は成長できます。しかし、自分一人でその最適なラインを見極めるのは簡単ではありません。市場環境や組織からの期待、自分の成長の可能性を踏まえて見立てるためには、上司との対話が欠かせないのです。だからこそGD室では、「自走設計できているか」と「上司との対話ができているか」の2つを重要な指標として捉えています。

AIが普及する時代だからこそ、最後に価値を生むのは人と人との対話です。部下が主体的に上司を巻き込み、応援される目標を持つ。その状態を組織の中に増やしていきたいと考えています。

 
ー最後に、GD室のこれからの決意を聞かせてください。

「自分で考えて決めてやる」「自由と自己責任」「決断経験が人を育てる」。これらはサイバーエージェントが創業以来大切にしてきたカルチャーです。私たちは目標設計を通じて、そのカルチャーをより強く体現していきたいと考えています。目標設計は単なる人事施策ではなく、自走人材を育てるための重要な決断経験の機会です。

中長期的に目指しているのは、「日本一、目標設計を科学している会社」と言われる状態です。そのためにはまずは、社内で「目標設計に迷ったらGD室に相談しよう」と自然に思われる組織になることが第一歩です。その先に、目標設計に本気な社員が増え、目標達成に向けた意欲を最大化しながら自走する人材が増えることで、事業成果の向上にもつながっていくと考えています。

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今回、新組織のキーパーソンへのインタビューを実施。本記事では、ME室の室長を務める若林に、ミッションや具体的な取り組みについて聞きました。

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