値引きの常識を問い直す。サイバーエージェントが仕掛ける「値引き革命」
原材料や人件費の高騰が続くなか、企業は値上げや値引きの見直しを迫られている。
「貴社が投じている販促費、その70%は利益や顧客育成への投資に変えられるかもしれない」
もし経営者であるあなたが、こう告げられたとしたらどう感じるだろうか。にわかには信じがたい話に聞こえるかもしれない。しかし、それはすでに現実になりつつある。
DXやAI活用が叫ばれる一方で、マーケティングの4Pの中でも「価格(Price)」は、長らく手つかずの領域だった。だが今、AIと経済学によってこの“聖域”を経営レバーとして捉え直し、販促費のムダを削減しながら成長投資へと組み替える道が開かれている。私たちはこの取り組みを「値引き革命」と呼んでいる。
本記事では、長年の広告運用で培った当社の実装力とアカデミックな経済学の知見を融合させ、値引き革命に取り組む「価格エージェント」事業責任者の藤田光明と、DXダイレクトビジネスセンター統括の會澤佑介に、その本質と未来、そして彼らが「やらない理由はない」と断言する理由を聞いた。
目次
「AIの活用」が目的化していないか?見過ごされた経営レバー「価格」
なぜ当社だけが「価格」を扱えるのか。アカデミックと実装力の融合
販促費70%削減と顧客育成への再投資。「値引き革命」のインパクト
「AIの活用」が目的化していないか?見過ごされた経営レバー「価格」
― まず、価格エージェントとはどのようなサービスでしょうか。
藤田 光明(以下、藤田):価格エージェントは、AIと経済学を活用して「誰に」「何を」「いくら」値引きすべきかを導き出すソリューションです。企業の販促費のムダを削減しながら顧客育成への投資に組み替えることで、「値引き革命」を実現します。
参考)
AI×経済学でクーポン原資の無駄を削減するソリューション「価格エージェント」提供開始
価格エージェント(AI×経済学による価格最適化)
― こうしたユニークな事業が生まれた背景から伺わせてください。クライアント企業にどのような課題を感じていたのでしょうか?
會澤 佑介(以下、會澤):原材料費や人件費の上昇を背景に、企業はこれまで以上に利益構造そのものを見直す必要に迫られています。そのため、勘や経験に頼った判断ではなく、データに基づく精度の高い意思決定が求められるようになりました。その中で近年、多くの事業会社様が「AIを使いたい」「データを使いたい」と非常に関心を寄せてくださっています。ただ、詳しくお話を伺うと、「何のために使うのか?」という最も重要な“出口”が曖昧で、AI活用そのものが目的化してしまっているケースが少なくありません。
私たちの仕事は、まず散在しているデータを「整える」ことから始まります。そしてそれを分析してビジネスの状態を「見える化」し、課題や機会を「言える」状態にする。最終的に、データを「使える」ようにして広告配信やCRM施策を投じ、事業会社様の収益最大化に繋げる。この一気通貫の支援を行う中で、ある共通のパターンが見えてきました。
― といいますと?
會澤: それは大半の事業会社様は「Promotion(販促)」「Product(製品)」「Place(流通)」に比重を置くことが多く、根幹であるはずの「価格(Price)」に手をつけていないという事実です。
ものを売るためには、本来「誰に」「何を」「どこで」「いくらで」売るかを最適化する必要があります。私たちは広告事業を通じて「誰に」「何を」という部分は得意としてきましたが、「いくらで」という価格の部分は、いわばブラックボックスでした。でも、ここには絶対に大きな経営レバーがあるはずだ、と。そこで、経済学を専門とする藤田と連携し、「価格」という未開拓領域に踏み込む体制を整えました。
― 藤田さんは、まさにその「価格」の領域で、経済学をベースにした事業構想を持っていたわけですね。
藤田: はい。日頃連携している当社の研究組織 「AI Lab」 が、10年ほど前から経済学領域の研究に注力していたことも背景にあります。AI Labの知見や、私自身が事業開発を行う中で見えてきた「経済学 × AI でプライシングを最適化する」―そんな構想を以前から描いていました。
例えば、あるドラッグストア公式アプリの利用・売上拡大を支援する中で、経済学の因果推論の手法を用いることで、クーポン配布のターゲティングを最適化できるという強い手応えを得た事例もありました。その実感をもとに、きちんと事業として確立しようとしたのが、このサービスの始まりです。
東京大学経済学研究科修士課程を修了後、株式会社サイバーエージェントに入社。デジタル広告配信プラットフォームのアルゴリズム開発や、大手コンビニエンスストアのPOSデータを活用した広告プロダクトの立ち上げ、ドラッグストアアプリのグロース戦略などをリード。共著論文がトップ国際会議で複数採択されるなど学術実績も豊富で、2023年には「Forbes Japan 30 Under 30」に選出された。
なぜ当社だけが「価格」を扱えるのか。アカデミックと実装力の融合
― 価格最適化のサービスは他にも存在するかと思いますが、「価格エージェント」の独自性、他社には真似できない競合優位性はどこにあるのでしょうか?
會澤: 最大にして唯一無二の強みは、藤田が持つような「アカデミックな知見」と、数多くのお客様と向き合う中で培った「顧客課題への深い理解」、そして当社がアドテクノロジー事業で培ってきた圧倒的な「実装力」を組織内で完全に融合させている点です。
AIや経済学に詳しい大学教授やコンサルタントは世の中にたくさんいます。しかし、その高度な理論を実際のビジネスの現場に落とし込み、泥臭くチューニングしながら、事業として確実に成果を出す実装力まで持ち合わせている組織は、私の知る限り他にありません
― その「実装力」は、具体的にどこで培われたものなのでしょうか?
會澤: それは、当社が自社でプロダクトを開発・運営してきた経験に尽きます。例えば、私たちはインターネット広告の配信プラットフォームで、ユーザーが広告枠にアクセスした瞬間に、どの広告をいくらで表示するかをリアルタイムで決定しています。その数は、実に「1秒間に数十万回」。これは見方を変えれば、1秒間に数十万回、「この人にこの広告を表示する価値はいくらか」を判断し、価格決定を行っているのと同じことなんです。
この、天文学的な量のデータをリアルタイムで処理し、最適なマッチングと価格決定を繰り返してきたノウハウこそが、我々の実装力を支える揺るぎない土台になっています。
― なるほど。アカデミックな専門家と、ビジネスの最前線にいるチームが、これほど密に連携できる組織は珍しいですね。
藤田: まさにそうです。一般的な事業会社では、研究開発部門と事業部門の間には大きな壁があり、研究者が営業と一緒にお客様の元へ行くことなど考えにくいケースが多いです。
しかし当社には、もともとアドテクのプロダクトを研究とビジネスの両輪でグロースさせてきた成功体験とカルチャーが深く根付いています。會澤のチームがクライアントのデータ環境を整備し、課題を整理し、我々が最も成果を出しやすい状況を整えてくれる。その上で、我々の専門的なソリューションを投入するという、極めてシームレスな連携がごく自然にできています。
會澤: AIに対する根本的な思想も、他社とは一線を画しているかもしれません。多くの人々が「AIに何ができるだろうか」という受け身の発想で考えますが、私たちは常に「AIをどう扱えば事業が伸びるか」という能動的な視点で考えています。AIの挙動を深く理解し、それをビジネス成果に繋げるためにどうコントロールするか。この10年以上の試行錯誤の歴史が、我々の飛び抜けた存在感に繋がっているのだと思います。
販促費70%削減と顧客育成への再投資。「値引き革命」のインパクト
― 非常に強力なタッグであることが分かりました。では、実際に価格エージェントを導入すると、クライアントにはどのようなインパクトがあるのでしょうか?
會澤: 我々がお約束するのは、極めてシンプルかつパワフルな一点。「利益」です。あるクライアント様の事例では、年間数億~数十億円規模で投じていたあるクーポンの原資を、実に70%も削減できるという実績が出ました。仮に販促費が100億円なら、70億円がそのまま営業利益に上乗せされる計算です。このインパクトは絶大で、お話を聞いた経営者の方々からは「やらない理由が見つからない」という言葉をいただきます。
― なぜ、それほど劇的なコスト削減が可能なのでしょうか? そのメカニズムを教えてください。
藤田: メカニズムは非常にシンプルです。「クーポンがあってもなくても買ってくださるお客様」と「値引きのときだけ利用が増えるものの、定着にはつながらないお客様」への投資の仕方を見直す、ということです。前者は、まさにロイヤルユーザーのような、価格ではなく商品やサービスそのものに魅力を感じてくださっている方々です。一方で後者は、いわゆるチェリーピッカーのように「安いから買う」比重が高く、値引きがなくなれば離れてしまうことが多い層です。後者の層に対して恒常的に大きな値引きを続けることは、長期的にはブランド価値や収益性を損ないかねません。
データを深く分析すると、どの事業会社様にも、そういったお客様が驚くほど多く存在することが分かります。
― しかしユーザー目線では、もらえるはずだったクーポンが貰えなくなることは、ネガティブではないでしょうか?
會澤: ここで重要なのは、価格エージェントによって生まれた原資を「顧客育成」に再投資するサイクルを回すことです。新商品の開発や、アプリ/WebサイトのUI・UX改善、ロイヤルユーザーへの先行体験の提供、ロイヤリティプログラムの拡充など。
これまで一律で提供していた「とりあえず値引き」を、ユーザー1人ひとりに最適化された価値提供へと進化させていく。それこそが、この事業が目指す最終的なゴールです。
― 単なるコスト削減ではなく、企業とユーザー双方の利益を生む構造をつくっているわけですね。成果報酬型のビジネスモデルを採用しているのも、その自信の表れでしょうか。
藤田: はい。我々は自分たちの技術で必ず成果を出せるという強い自信があるので、成果報酬を基本的なプランとしてご提案しています。
サービス提供から1年ほどがたちますが、すでに100社近くから相談いただいており、値引き戦略を見直す動きが確実に広がっていることを実感しています。
勝敗はデータで決まる。一日でも早く「値引き革命」に取り組むべき本質的な理由
― この記事のターゲットである経営層の方々に、「立ち止まっている暇はない。一日でも早く始めた方がいい」というメッセージを伝えるとしたら、何を最も強く訴えますか?
會澤: それは「AI活用における、先行者利益の絶大な大きさ」です。
多くの人が、いつか魔法のようなすごいAIが突然登場して、あらゆるビジネス課題を一瞬で解決してくれる、といった幻想を抱いています。しかし、それは完全な間違いです。AIは、あなたの会社のデータを与え、何度も試行錯誤を繰り返しながら学習させることで初めて賢くなる。つまり、一日でも早く自社のデータを使ってAIのチューニングを開始した企業が、競合に対して圧倒的に有利なポジションを築くことになるのです。
藤田: ソリューション導入の初期段階から大きな成果を出すためには、AIが学習しやすい形での良質なデータを、愚直に蓄積していることが大事です。とくに、「誰に」「どの商品を」「どれだけ値引きしたらどう反応するか」を学習できるデータは、一朝一夕では貯まりません。この「データの質と量」というスタートラインの差が、将来的に追いつくことのできない決定的な差になります。
會澤: 広告の世界も全く同じです。クリエイティブのパフォーマンスデータなどを大量に学習させたアカウントと学習データの少ないアカウントでは、そのパフォーマンスに絶対的な差が生まれます。値引きの設計も全く同じゲームです。早く始めて試行錯誤の回数を増やし、自社独自の「勝ちパターン」のデータを蓄積した企業が、市場の勝者となる。もはや、躊躇している時間は残されていないのです。
インターネット広告事業にて複数クライアントのコンサルティングを経験後、データ基盤の構築から分析、施策活用までを一気通貫で支援するデータ本部の立ち上げを牽引。Cookie規制後のマーケティング環境を見据え、企業の1st Party Data活用を軸としたDX推進をリード。Google CloudやGoogle Marketing Platformとの連携を深め、企業のLTV最大化に貢献している。
「価格」から日本を強くする。サイバーエージェントが見据えるこれからの未来
― 価格エージェントという事業を通じて、どのような未来を目指しているのか、その展望についてお聞かせください。
會澤: まずは、販促費の削減によって生まれた潤沢な利益を、新たな商品開発や効果的なマーケティング活動に再投資していただく、という健全な成長サイクルを確立することです。売上を上げるノウハウと、コストを利益に変えるノウハウ。この両輪を回すことで、クライアントの事業成長を力強く支援していきます。
藤田:その先に私たちが見据えているのは、より大きなビジョンです。事業会社様が「良いものを、できるだけ安く売る」ではなく、「本当に価値あるものを、価値に基づく価格で売る」ことができる世界を実現したいと考えています。そこで生まれた利益が開発投資や賃金上昇につながり、いずれは日本全体の国際競争力を高める原動力へ。私たちは、価格決定を通じて日本を強くすることを本気で目指しています。
― 他にも、価格エージェントを通して社会に残したい価値はありますか?
藤田:「研究を事業価値に変える」ことは、当社が創業以来こだわり続けてきた姿勢です。価格エージェントの取り組みが成功事例となり、アカデミックな研究開発への投資が事業として回収できるという認識が広がれば、日本の企業はもっと強くなる。その一助になりたいと、本気で考えています。
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10月19日に行われたセッション「AI時代のその先に挑む、ブランド体験の可能性」では、当社の 坂井 嘉裕がモデレーターを務め、バスキュール 朴 正義氏 / NO MORE Inc. 広屋 佑規氏 / れもんらいふ 千原 徹也氏とともに、AI時代に突入した今、AIではつくれない 「人の心を動かす余白」をどう形にするか、クリエイターがその余白にどう介入し、真のビジネス効果を生み出すのか。その先にある未来の広告の役割と、クリエイターに求められるセンスについて語りました。