【対談】ML/DSにおける問題設定術
~ 不確実な業界で生き抜くために ~
機械学習やデータサイエンスがビジネスの現場で当たり前になりつつある今、求められているのは、ビジネスの課題を実装に落とし込み、運用し、継続的な価値を生み出す視点となりつつあります。
サイバーエージェントでは、こうした実践的なスキルを持つ次世代のデータサイエンティストを育成すべく、2025年11月、新卒向け特別プログラム「DSOps研修2025」を実施しました。
「技術を社会実装する際の『問題設定』こそが重要である」 この研修のコンセプトに深く賛同いただき、特別講師としてお迎えしたのが、半熟仮想(株) 共同創業者であり、「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2022」にも選出された齋藤優太氏です。
第1部では、半熟仮想(株) 共同創業者であり、Forbes JAPAN「30 UNDER 30」に選出された齋藤優太氏をお招きし、「ML/DSにおける問題設定術」について講演いただきました。 続く第2部では、齋藤氏に加え、当社執行役員兼主席エンジニアの木村、AI Lab リサーチサイエンティストの暮石が登壇。「現場視点×経営視点」でパネルディスカッションを実施しました。
本記事では、白熱した第2部「パネルディスカッション」の模様をダイジェストでお届けします。
Profile
齋藤 優太 氏
半熟仮想(株) [写真 右]
米コーネル大学博士課程に在籍し、NetflixやSpotifyと連携して推薦システムに関する共同研究を行う傍ら、半熟仮想株式会社の共同創業者として、国内企業における機械学習技術の戦略的運用に従事。Forbes Japan「30 Under 30」選出をはじめ受賞歴多数。『機械学習のための施策デザイン入門』『反実仮想機械学習』の出版や、IBIS’24でのチュートリアル講演など、研究・実務の両面で実績を持つ。
木村 衆平
(株)サイバーエージェント 執行役員兼主席エンジニア)[写真 中央]
2011年にサイバーエージェントへ入社。現在は執行役員兼主席エンジニアとしてAI事業全体の技術統括を務め、広告技術やデータサイエンスを軸に事業の成長を支えている。エンジニア育成やAI人材のリスキリングにも注力し、著書『機械学習によるインターネット広告最適化』(講談社)を執筆。
暮石 航大
(株)サイバーエージェント / AI事業本部 AI Lab / Decision / Reinforcement Learning[写真 左]
2020年サイバーエージェント入社。DSP事業にて広告配信基盤の開発やプライバシーに配慮した広告配信の実現を目指す「プライバシーラボ」のマネージャーを経て、現在はAI Labにて非定常バンディットの研究に従事。
ビジネスインパクトの生み出し方 ~ 個人の「希少性」と組織の「持続性」~
司会:まず最初の質問です。「不確定要素や激しい変化の中で、データサイエンティストや機械学習エンジニア、AIエンジニアがビジネスインパクトを生み出すために大事なことは何か?」という質問です。まずは齋藤さん、いかがでしょうか?
齋藤氏:私の回答は「自分の付加価値を理解し定義すること、他者やAIと比較して自分にしかできない仕事に集中すること、そして時を経ても重要性が変わらない能力を鍛錬すること」です。
不確実性が高い状況では解くべき課題自体も変わることを受け入れつつ、ビジネス上の価値が生まれる本質的なポイントをうまくとらえられれば、選択と集中に至る勇気も持てるようになると考えています。
そして「自分の付加価値を図る指標」として、例えば「自分が会社を退職したとして、会社の売上がどれだけ下がるか?」という観点で測るのも一つの手です。
私の場合、営業から実際の業務まで自分一人で事業の売上を作っています。数字すべてが自分の責任であり、自分がいなくなればなくなる売上なので、自分の付加価値として測ることができます。
これが万人に最適な回答かは、それぞれのキャリアの方向性やバックグラウンドで異なります。このやりかたをお勧めしたり、正しいやり方だと言ったりするつもりはありませんが、自分なりの回答としては、自分の付加価値を証明するためにとっている戦略になります。
司会:なるほど。この回答について木村さん、いかがでしょうか?
木村:齋藤さんの話は「なるほど」と思いつつ、経営目線では特定の人が抜けて売上が大幅に落ちると会社として経営が成り立たないので、悩ましいところですね。
齋藤さんの思想と相反するかもしれませんが、属人性を減らしつつ、個人のパフォーマンスになるべくレバレッジを効かせて、事業や会社経営がうまく相互作用するようなマインドも必要だと思います。
と言うのも、通常の経営では事業単体の数字をベースに見ますが、それだけで判断するのは難しく同時に危ういと、いち技術者としては感じます。
その事業が別の事業に対してどういう相互作用があるのか、様々なデータを用いて語れる状態にしようとしています。技術者上がりの執行役員として、数式での証明まではいかずとも、しっかり情報を集めて語れる状態を作ることを、個人的には目指しています。
ゼロからのビジネス立ち上げを成功に導く「ゴール設定」と「仲間集め」
司会:では、次の質問に移りたいと思います。「ゼロからビジネスや事業を立ち上げ、軌道に乗せるために大事なポイントは何か?」という質問です。
暮石:私は「短期的なゴール、当初1年や半年レベルでのゴールを設定し、投資してくれる人を納得させること」と回答しました。
ビジネスは、資金が尽きればそこで終わりなので、お金と時間を投資してくれる人がついてきてくれる状態を作ることが必須と考えています。
一人で会社のあらゆる事業やタスクを回したいなら別ですが、一人でできることには限りがあります。私自身、税務や法務などの実務を自分で行いたいわけではありません。そういった分野は、プロフェッショナルの別の方に任せたいという気持ちが根本にあります。そう考えると、必然的に多くの人と協力して事業を行うことになります。
自分でやりたくない仕事は人に任せたい、かつ事業もやってみたいとなると、協力者は不可欠です。事業を立ち上げる立場であれ、任される立場であれ、キャッシュがないと人を雇えません。そのため、「キャッシュを出してくれる人」と「時間を投資してついてきてくれる人」の両方を納得させる必要があります。
彼らを納得させるためには、事業の存在意義や目指す方向性に加え、「この1年でここまでやる」という具体的なゴールを示すことを重視しています。具体的なゴール設定は、メンバーのモチベーションや成長機会の創出にもつながりますし、何よりチームビルディングの観点でも、船の目的地のようなものを定期的に置いてあげることが大切だと考えています。
もし「あなただから任せる」と無条件で信頼される状態なら説明は不要かもしれませんが、私はまだその段階にはありません。ですから、大局的なゴールに加え、半年や1年レベルのゴールを設定して周囲を納得させるしかありません。
目標設定も同様です。「この研究をやったらいいよね」という感覚だけで進めるのではなく、しっかりとすり合わせを行い、納得してもらった上で進めることが必要だと実感しています。
司会:ありがとうございます。一方で木村さんは「共感してくれる仲間を適切なタイミングで増やすこと」と回答されていますね。ぜひご意見聞かせてください。
木村: どれか一つというよりは、いろんな要素がかみ合わないと事業はうまくいかないと実感しています。その中でも最近特に大事だと感じるのは、「誰と一緒にビジネスや事業をやるか?」だと思っています。
私は元々アカデミックな背景を持っているので、最初は「しっかりとした事業計画を立てて、適切に始動すればなんとかなる」と考えていました。これはある種、サイバーエージェントらしい合理的な考え方かもしれません。しかし実際には、良い仲間と一緒にやることでうまくいったケースの方が多かったのです。そこは非常に重要だと思っています。
また、タイミングのコントロールは難しいものですが、「どのタイミングでどういう人が必要か」というのは確実に存在します。人にはタイプがあり、ゼロからイチを生み出すのが強い人もいれば、イチを10や100にするのが得意な人もいます。本人はあまり自覚がないことも多いですが、外から見ていると明確な違いがあります。ですので、事業のフェーズに合わせて、適切なタイミングで適切な人を配置することが重要だと考えています。
先が見通しづらい時代におけるキャリアの作り方
司会:では次の質問に行きます。「キャリア選択で大事にしていること、及びその理由」についてです。まずは木村さんの回答、「世の中に大きな変化を起こせる可能性がある事業に、より関わり続けること」「自分のスキルから選択することはほとんどない」という回答について教えていただけますか。
木村:私はやはり事業目線で自分のやることを考えることが多いですね。「これを成し遂げたら会社や世の中がどう変わりそうか?」という視点で自分の置き場所を決めています。そのうえで何をするかという仕事の中身については、私はどこでも面白さを見出せるタイプなので、より大きな変化を起こせる場所を選んでいます。
司会:ありがとうございます。次は齋藤さんの回答。「自分の希少性を理解すること」「多くの人が想像しない一見不合理な行動をとり続けること」を挙げていますね。
齋藤氏:そうですね。先の木村さんの回答にあるとおり「自分のスキルセットから選択することはほとんどしない」という点に、すごく共感しました。
言い換えると、「何ができるか」ではなく「何をすべきか」から考えるという「目的思考」とも言えますよね。以前、サイバーエージェントのようなベンチャーマインドの大企業とお仕事をする際、「最初の3ヶ月でA/Bテストを行い、良い結果が出たら契約継続を検討する」というオファーをいただいたことがあります。普通なら「A/Bテストで結果を出そう」と考えますよね。でも私は、「A/Bテストで結果を出すことを敢えて捨て、実績を出すことに注力する」という戦略をとりました。
一見意味がわからないと思いますが、「A/Bテストで結果を出すこと」ではなく、「契約を続けるためにはどうすべきか?」を考えたんです。そうすると、「A/Bテストで何かしらの新しい情報を得られる設計をする」こと自体に価値を持たせ、「この人と仕事を続ける方がいい」と相手に思わせることができれば、私としては成功です。
つまり、A/Bテストで良い結果がでなくても、契約は続くという状況を作るわけです。実際、これがうまくいったりするので、これが私なりの差別化要因です。
一見不合理に見えるけれど、多くの人がとる行動の逆を行き、そこに自分なりのロジックをつける。そうすると「面白い」と思ってもらえて、仕事につながったりしました。
司会:ありがとうございます。最後に暮石さん。「自分が納得してから選択すること」「自分の実力や周囲からの評価を考えた時に、ステップを積むようにポジションを選ぶこと」と回答されていますね。
暮石:「自分が納得して選択すること」が一番大事だと思っています。もし「今は仕事を頑張りたくない」というなら、それに最適化してもいい。どんな決断であれ、自分が納得していればそれは立派なキャリア選択です。
ただ、何かやりたいことがあっても、今のスキルセットとかけ離れていれば、いきなりそのポジションを任されることはありません。
自分の実力や周囲の評価を考慮して、次のステップで何ができるかを考え、進路を決めるようにしています。
事業内容にはあまりこだわりませんが、基本的に「レッドオーシャン」には飛び込まないようにしています。強すぎる人がいる場所で勝てる気がしないからです。自分の得意・不得意を理解し、苦手な部分は周りの得意な人に任せられる環境を選ぶのが、私のキャリア選択の考え方です。
三者が描く未来と今後のチャレンジ
司会:それでは、最後の質問に移ります。「今後どのようなチャレンジをしていきたいか」というテーマ。
齋藤氏:私の回答は「問題設計能力の重要性を身をもって示す」です。機械学習・データサイエンス・エンジニアの付加価値は、「問題設計能力 × オプティマイゼーション能力」で決まる、というものです。私自身が仕事で最も重要だと考えているのはプロブレムデザイン能力であり、その価値を示していきたいと考えています。
この式を少し変形すると、自分が生み出している付加価値、つまり売上をオプティマイゼーション能力で割ったものが、プロブレムデザイン能力になると考えられます。
この価値を最大化するためには、もちろん売上を上げることが重要ですが、もう一つできることがあります。それは、不要にオプティマイゼーション能力を高めないことです。
「流行している技術や知識を無闇に追いかけない」という選択でもあります。
オプティマイゼーションの知識がほとんどない人間が、きちんと売上を出せているとしたら、それは戦略性、つまりプロブレムデザイン能力が高い証拠になります。
最新の技術や論文を過剰に追わずに成果を出すことで、「ここに投資する価値がある」と示したい。あえて少し誇張しつつ、他にはあまりいなさそうな考え方として、エピソードトークにもなるかなと思い、このような回答となりました。
司会:続いて「サイバーエージェントをテックカンパニーとして胸を張れる状態にする」と回答されている木村さん、お願いします。
木村:私はサイバーエージェントに長く在籍していますが、技術への投資も大きく、エンジニアの数もIT企業の中ではかなり多いと思います。それでも「本当にテックカンパニーと言われるには、まだまだ出来ることがあるんじゃないか」と考えることがあります。
単に事業の選択肢を増やすための技術ではなく、経営の仕方そのものが変わるようなテックカンパニーに変わりたい。まだ明確な答えはありませんが、その違和感を起点に試行錯誤していくことが、今のネクストチャレンジです。
司会:では最後に暮石さん、お願いします。
暮石:私の回答は「研究と事業の二刀流」です。皆さんとは少しゴール設定が違うかもしれませんが、やりたいのは研究と事業の両立です。研究ではファーストオーサーとして論文を書きたいですし、事業ではオーナーとして責任を持ち、キャッシュを扱う立場で進めたいと考えています。
その両方を自分がオーナーとして担える事業を見極めていきたい。そのために必要なキャリア選択を、今まさに考えている、という状況です。
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日本のアニメーション文化を未来へ繋ぐ──。この使命を掲げ、2025年10月に設立したアニメスタジオ「Studio Kurm(スタジオクーム)」。2026年1月にはクリエイター代表として亀田祥倫が参画し、ついに新体制が本格始動しました。
代表 岡田が目指すのは、クリエイターの価値最大化と、持続可能な創作の仕組みづくり。強力タッグで挑む、次世代のアニメスタジオの展望に迫ります。