造形の基礎から、クリエイティブを強くする
基礎力強化プログラム第一弾「デッサン講座」
クリエイターの基礎力を磨く取り組みとして、当社では「Core Program(コアプログラム)」を開始しました。分野横断でクリエイターの土台を強化していくプログラムです。
その第一弾として実施したのが、造形の基礎に向き合う全4回のデッサン講座。講師を務めていただいたのは、御茶の水美術学院で長年指導を行い、東京藝術大学合格者を多数輩出してきた酒井氏です。本プログラムでは約50名のクリエイターが参加し、半数以上がデッサン未経験者でした。
なぜ企業でデッサンに取り組むのか。そこに込めた意図と、実施して見えてきたことについて、酒井氏とプログラム設計者の庄司・青柳に話を聞きました。
酒井 一 氏(写真右)
1991年、東芸美術研究所の講師として指導を始め、2006年から、御茶の水美術学院の講師に就任。美術やデザインを志す多数の生徒たちを指導。現在では、芸大デザイン科の合格者の半数以上を輩出しており、「日本一藝大デザイン科に合格させる予備校講師」として広く知られている。
青柳 諒(写真中央)
東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。2022年にサイバーエージェントへ新卒入社し、ゲーム・エンタメ事業部(SGE)にて新規開発および運用を経験。2025年に株式会社アプリボットに異動後、新規タイトルのアートディレクターに従事。
庄司 拓弥(写真左)
東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。2009年にサイバーエージェントへ新卒入社し、Amebaブログを担当。2010年よりゲーム事業もゲーム・エンタメ事業部(SGE)にて新規開発および運用を経験。2011年に退社後、広告デザイン事務所にて約2年間勤務。2013年にサイバーエージェントへ再入社し、2016年からは(株)QualiArtsにて3Dゲームの開発に従事。2021年、同社執行役員に就任。
造形の基礎は「見ること」から始まる
― デッサン講座を実施した背景について教えてください。
庄司:クリエイター全体の基礎力を強化していきたいというのが理由です。生成AIによって誰でも手軽に一定のクオリティのアウトプットが出せるようになりましたが、クリエイターの感性やさまざまなバックグラウンドから生まれる創造性がこれまで以上に重要になっていくと感じています。個々の感性をどう磨き、それを社会や事業の価値へとつなげていくか、その土台となる力を改めて強化する必要があると考えました。
そこで、当社では昨年から「創造性の強化」と「スキルの拡張」の両輪で、クリエイティブを企業の競争力としてさらに進化させるための全社施策を進めています。創造性の基礎力強化プログラム「Core Program(コアプログラム)」、スキル拡張プログラム「Expand Program(エキスパンドプログラム)」の2つです。
デッサン講座はコアプログラムの第一弾として実施しました。
ーなぜ第一弾がデッサンだったのですか?
庄司:クリエイターとして不可欠な基礎力である、「モノを見る力」「正確に把握する力」「腕を使って落とし込む力」を身につけてもらいたいと思い、それを身につけるにはデッサンが一番適していると思ったからです。
当社のクリエイターはバックグラウンドが様々で、美芸大出身ではなく総合大出身の社員も多く在籍しています。そこで今回は教育機関で造形力を学んでこなかった社員を対象に、希望者を募って実施しました。
― なぜ酒井先生に依頼することになったのでしょうか?
庄司: 私が学生時代酒井先生の教え子だったんです。3年間学ぶ中で強く印象に残っているのは、指導が単なる画力向上にとどまらなかったことです。ものの見方、構造として捉える力など、「どう見るか」を徹底的に教わった記憶があります。
テクニックのような表層的な話ではなく、観察の仕方そのものを学ぶ経験だったため、今回のプログラムでも、社員にそうした本質的な部分に触れてほしいと思い、先生にご依頼しました。
― クリエイターにとって、改めて「見る力」が必要だと感じたきっかけがあったのですか?
庄司:これからの制作現場では、出てきたアウトプットをどう判断するか、どう方向づけるかがより重要になると感じています。そのときに必要なのは、感覚的な好みではなく、「なぜ良いのか」「どこが違和感なのか」を説明できる力だと思っています。
デッサンは、うまく描くための訓練というよりも、形や構造を丁寧に観察する訓練です。構造が見えるようになると、良し悪しの理由も少しずつ明確になり、判断の基準が自分の中に蓄積されていきます。その積み重ねが、アウトプットに説得力を持たせる土台になる。その先に、クリエイターとしての審美眼が育っていくのだと思います。
― 依頼があった時、どう感じましたか?
酒井氏: お話をいただいたときは、率直にうれしかったですね。私個人として企業と組んで本格的に取り組むのは初めてでした。
庄司さんから「見る力を鍛えたい」という意図を伺って、方向性はすぐに見えました。デッサンは観察して描くものですが、実際には「どこに着目するか」で見え方が大きく変わります。
鉛筆の使い方といった技術を細かく伝えるよりも、どこに着目しているのか、その視点を少し変えてみることのほうが大切だと考えています。見るポイントが変わると、描いている線や形の質も自然と変わっていきます。
“似ていない”を実感して成長する
― 講座の内容についてお聞かせください。初心者も多い中で、モチーフに「石膏像」を選んだのはなぜですか?
酒井氏: 初心者向けのワークショップでは、「りんご」や「円錐」など、手軽なモチーフが選ばれることが多いです。ただ、りんごであれば自宅でも描けますし、円錐は形として理解しやすい反面、そこに強い動機を持ちづらい面もあります。石膏像はそれ自体が彫刻作品なので、そこからさまざまな印象を受け取ることができます。「どう捉えるか」「どう見せたいか」という意識が自然と生まれやすいモチーフだと感じました。
また、石膏は白一色なので、光と影の関係を学ぶのに適しています。普段見慣れない存在だからこそ、先入観に頼らず、純粋に観察することが求められます。今回、石膏像をご用意いただけたのは非常にありがたかったですね。
青柳:今回の講座のために石膏像を購入しました。先生が「“似ていない”と感じる体験こそが成長につながる」とおっしゃっていたのが印象的でした。
参加者は約50名で、半数近くが未経験者でしたが、さすがクリエイターだと感じる場面が多くありました。観察の仕方や捉え方にそれぞれの個性があり、全体として非常にレベルが高かったと思います。単にりんごを描くだけではすぐ形になってしまって物足りなかったかもしれません。石膏のような複雑な立体物を前にすると、「どう捉えればいいのか」と必ず立ち止まるので、その試行錯誤の時間が今回の講座の価値だったと思います。
― カリキュラムは全4回構成でしたね。
庄司: はい。1~2回目はそれぞれ好きな石膏を選んで描き、3~4回目はひとつの作品を2回にかけて仕上げる構成にしました。また、今回は藝大出身のデモンストレーターを数名入れて、実際に描いている様子を間近で見られるようにしたり、その社員がフロアを回って直接アドバイスができる設計にしました。複数の視点からフィードバックがもらえて、すごく効果的でしたね。
― 実際に講座をやってみて、社員の反応はいかがでしたか?
酒井氏:皆さんの学ぶ姿勢が非常に印象的でした。好奇心を持って質問してくださり、声をかけるとすぐに試してみる。その前向きさが、場の雰囲気をつくっていたと思います。
青柳:いきなり石膏像を描くことになりますし、難易度が高い分、途中で離脱する人が出るのではないかと心配はありました。
ですが、実際には雑談もほとんどなく、高い集中力で向き合っていましたし、回を重ねるごとに熱量も高まっていった印象があります。実務にもつながるという声が多く、手応えを感じています。
基礎力を磨き、組織の創造性を高める
― この講座を通じて、クリエイターの皆さんに持ち帰ってほしかったことはなんですか?
庄司: 一つ挙げるとすると、俯瞰して見ることの重要性でしょうか。制作に没入する時間は大切ですが、ときには一歩引いて全体を捉え、バランスを見直す視点も必要だと思っています。
酒井氏: 講座の後半になると、自然と席を立って、自分の絵を遠くから見る人が増えていました。上手な人ほど、画面から離れる回数が多いんです。近くで描き込む時間も大事ですが、離れて全体を見ることで、バランスの崩れや違和感に気づきやすくなります。そうして視点を行き来することが、結果的に作品の完成度を高めていきます。
デッサンに限らず、制作全般に通じる姿勢だと思います。
― 参加した社員からは、どのような感想がありましたか?
青柳: たとえばUIデザイナーからは、「文字組みや余白の取り方が、デッサンでの空間把握と同じだと気づいた」という声がありました。画面を一つの四角い枠として捉え、その中のスペースをどう構成するか。普段のレイアウト業務で無意識に行っていることが、実はデッサンの基礎とつながっていた、という再発見があったようです。
ほかにも、3Dクリエイターからは「クオリティチェックの視点が変わった」「造形のディレクションに活かせそう」といった声がありました。業務内容は異なっても、造形を捉える力は共通しているのだと感じました。
酒井氏:今回、イラストレーターの方も参加されていました。普段はデジタルで制作している方でも、鉛筆と紙というアナログな手法に立ち返ることで、新たな気づきがあったのではないかと思います。「仕事でドローイングはしているけれど、石膏デッサンは初めて」という方もいて、それぞれの専門領域を越えて、デッサンが共通の土台として機能していたように感じます。
社会人になってからも、「できなかったことができるようになる」という体験は何よりの喜びです。今回の講座が、皆さんの仕事や創作活動の中で、新しい視点を持つきっかけになっていればうれしいですね。
― 最後に、今後のコアプログラムの展望をお聞かせください。
庄司:参加したメンバーが、ふとした瞬間にコアプログラムで実施した学びが仕事で活きていると感じられるようなプログラムを提供していきたいと思います。 今回のデッサン講座は第一弾ですが、コアプログラム自体は今後も継続していく予定です。美術概論的なアプローチも含め、クリエイターの基礎力を体系的に磨いていきたいと思っています。
クリエイティブを競争力にし続けるために、クリエイターとしての土台づくりをこれからも続けていきます。
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この度、AI基盤のバンディットアルゴリズムにおける初のDeveloper Expertsに選出された「AI Lab」所属の蟻生に、当技術の持つ魅力やさらなる応用の可能性、今後の自身の展望など話を聞きました。