生成AI時代を楽しむ「素直でいいやつ」が最強説。変化を味方にするデータサイエンティストのありかた

技術・クリエイティブ

生成AIの実装が急速に進む中、データサイエンティスト・機械学習エンジニアに求められる役割も「モデル構築・分析」から「事業価値の設計・評価」へと拡大しつつあります。
この変化をどう捉え、自身の武器にしていくべきか? AI事業本部で「極予測AI」の開発を牽引する中西と、メディア・ライフスタイル事業のデータ領域を支える鈴木。キャリア採用で入社した事業領域の異なる2人が、事業課題や若手の育成について語りました。
対話から見えてきたのは、技術的なアプローチこそ違えど共通する、これからの時代にデータで事業貢献するための「確かな解」でした。AI時代をチャンスに変え、データサイエンティストとして進化し続けるための「生存戦略」に迫ります。

Profile

  • 鈴木 元也 (メディア統括本部 Data Science Center(DSC))
    メディア統括本部 Data Science Center(DSC) データサイエンティスト  2017年中途入社し、Amebaブログのデータサイエンティストとしてキャリアをスタート。データマネジメントから活用の推進、また横軸のデータ組織マネジメントなど幅広い役割を担う。

  • 中西 正樹 (AI事業本部 AIクリエイティブカンパニー 極AI事業部 予測MLチーム)
    AI事業本部 極予測AI 機械学習エンジニア / 予測チームリーダー  2022年中途入社。入社以来「極予測AI」の開発に従事。機械学習モデルの改善やデータ分析をメインの業務とし、予測チームのリーダーとしてメンバーのマネジメントも担う 。

データ基盤の整備からAI実装まで。技術を「事業成果」に変えるラストワンマイルの壁

── お二人がプロダクト開発の現場において、現在どのような役割やミッションを担っているのか教えてください。

鈴木:私が現在担当しているライフスタイル事業には「Amebaブログ」や「ドットマネー」など多様なサービスがありますが、実はつい最近までAmebaブログ以外、データ基盤の整備がこれからというフェーズでした。

サービスのデータベースはあるものの、それを安全に分析できる環境が整っていなかったため、蓄積されたデータ資産を十分に活用できていませんでした。その中でもまず「ドットマネー」に対して、現状を正しく可視化し、意思決定に使うなど活用できる状態にするために、データ基盤の構築に取り組みました。

中西:運用中のサービスに対して、後追いで基盤を整備していくのは、技術的にも難易度の高いミッションですよね。ゼロベースで作るのとは異なり、日々蓄積され続けている大量のデータを扱いながらのアーキテクチャ設計になりますから。

鈴木:おっしゃる通りです。ただ、実はここが運用中のサービスにデータ基盤を構築する面白さでもあります。新規事業の立ち上げ期では、どうしても「データが溜まるのを待つ」という時間が必要になりますが「ドットマネー」には10年分の蓄積データと巨大な流通規模という資産が既にあります。

むしろ、データ基盤さえ整備すれば、すぐにでもビジネスインパクトを出せる状態と言えます。豊富なデータがあるからこそ、精度の高い施策を次々と打てる。自分の仕事が事業成果に直結する手応えを感じられる。データサイエンティストにとって非常にポテンシャルが高い環境だと思います。

── データ基盤を構築することで、どのようなビジネスインパクトを想定しているのでしょうか。

鈴木:たとえば、ユーザー行動の解像度を高めることで、意思決定の質を向上させることができます。これまでは担当者の感覚や経験に頼っていた判断を、データに基づいた精度の高い予測に置き換えていくイメージです。

中西:精度を上げて事業貢献する点は「極予測AI」も全く同じですね。ただ、運用フェーズで「実は、AIは万能ではなかった」という壁にぶつかりました。

マクロの期待値で見ればAIは人間よりも良い結果を出すのですが、ミクロの事例で見ると、必ずしもそうではないケースも多々あります。AIは全体最適には強いけれど、個別具体の勝負では負けることもある。このギャップを埋めるために、ビジネスサイドとの「期待値のコントロール」が非常に重要になります。

鈴木:それはたとえば「人間が試行錯誤して作った広告クリエイティブには、AIもなかなか勝てない」というような感覚に近いのでしょうか?

中西:おっしゃる通りです。「予測スコアが高いものが良い広告である」として、広告クリエイティブの制作フローが組まれていますが、スコアが高くても実績が出ないケースはどうしても発生します。

「AIスコアが高い=正解」というシンプルなメッセージのほうが、プロダクトの強さは伝わりやすい側面はあります。しかし現実には、突発的なイベントなどの外部要因によって予測が外れることもあります。

だからこそ、技術的な誤差やリスクをビジネスサイドに正しく説明し、どこまで許容できるかを合意形成するプロセスが不可欠です。単に高精度なモデルを作るだけでなく、こうした泥臭いコミュニケーションこそが、AIを社会実装する上での鍵になると感じています。
 

生成AI時代、「作る」競争から「評価する」競争へ

── 泥臭い調整が必要な一方で、エンジニアとして技術的にキャッチアップすべき領域にも変化は起きていますか?

中西:極AI全体では、広告クリエイティブの自動生成に注力していますが、現在は自社で開発した特化型モデルと、ビッグテックなどが提供する大規模な汎用モデルを、用途に応じて柔軟に使い分ける戦略が必要だと感じています。

選択肢が増えた分、エンジニアが技術的に追求すべきポイントも変わってきました。「モデルを一から作る」こと以上に、最適なモデルを選定し、生成されたアウトプットを「どう正しく評価するか」という点のほうが圧倒的に重要になってきているのです。

鈴木:なるほど。「作る」競争から「評価する」競争へのシフトですね。

中西:その通りです。生成AIのアウトプットには不確実性が伴います。その確からしさや変化を正しく検知し、ビジネス上の意思決定に耐えうる品質を担保する。これはAI任せにはできません。

具体的には、統計学や因果推論、効果検証といった領域へのキャッチアップを強化しています。生成モデルのポテンシャルを最大限に引き出し、ビジネス価値へと変換するための「評価設計」こそが、今のエンジニアに求められるコアスキルになりつつあると感じています。

中西:鈴木さんが担当されているライフスタイル事業でも生成AIの実装が進んでいると思いますが、具体的にどう活用し、どう品質を担保しているのでしょうか。

鈴木:最近だと2つの活用事例がありますが、どちらもやはり「品質の評価」が要になっています。

1つ目は、コンテンツに対する「アノテーション」の代替です。これまでは人間が正解データをラベリングし、それを元に予測モデルを作っていましたが、コンテンツのトレンドは日々変化するため、メンテナンスの負担が課題でした。この業務を生成AIに任せることで、運用コストの削減と変化への対応スピード向上を図っています。ただし、生成AIによるラベリング結果をそのまま使うのではなく、人間が最終的に精度を検証し、品質を担保するプロセスを設けています。

2つ目は、データ分析プロセスの変革です。分析業務における「要件整理」「設計」「実施」「報告」という一連のプロセスをAIエージェントに主導させる、最近注目されているAgentic Codingの試みです。人間が初期情報を与えると、AIがチャット形式でヒアリングを行い、要件定義書を作成し、分析コードの実行から改善提案までを主体的に行います。

ここでも同様に、生成されたコード自体は正しくても、そこから導き出された考察が的外れなことや、ハルシネーションが多々あります。アウトプットされた結果がビジネス的に正しいかどうかを見極めるレビュー工程は、まだまだ人間がやらなければなりません。

中西:そのお話は非常にしっくりきますね。結局のところ、AIに適切なコンテキストを渡せるかどうかが、成果の分かれ目になりますね。

AIをうまく使いこなせる人は、自分の中で「解決すべき問題」が明確で、それを言語化できている人です。逆に、コンテキストをうまく渡せないと、どんなに高性能なAIを使っても良い結果は出ません。その意味で、エンジニアにはこれまで以上に「問題設定を言語化する力」が問われるようになっています。
 

AIは競争相手ではなく、成長の加速装置

── Agentic Codingが浸透していくなかで、若手エンジニアの成長環境や活躍の仕方はどう変わっていくのでしょうか。

鈴木:私は非常にポジティブな変化だと捉えています。AIを活用する最大のメリットは、これまで人間だけでは物理的に不可能だった回数の「試行錯誤」が可能になる点にあります。

開発や分析において、トライアンドエラーの回数はそのまま経験値になります。AIというパートナーを活用すれば、若手でも圧倒的なスピードで試行錯誤を繰り返し、知見を蓄積できるようになります。「活躍の場がなくなる」のではなく、「より早く成長し、早期に高いレベルへ到達できる時代」になるというのが、私の考えです。

中西:成長のスピードが早まる分、逆に「課題設定能力」のような非技術的なスキルをどう磨けばいいのか、という疑問も出てきそうですね。そこを突き詰めると、「視野の広さ」を持てるかどうかが鍵になると思います。

わかりやすく例えるなら、競技プログラミングのようなコンペティション。競技者として参加するなら「与えられた問題を解いて、精度を上げる」ことに全力を注ぎます。もちろんそれも大事ですが、そこから「課題設定能力」的な視座を上げていくには、「そもそも競技プログラミングのような技術イベントを新たに立ち上げるにはどうすればいいか?」「高いスコアを出せる優秀な人たちが、さらに活躍できる場を作るにはどうすればいいか?」といった、社会貢献的な課題設定にまで視野を広げていく必要があります。

エンジニアに関しても、単に目の前のタスクを消化するプレイヤーで終わるのではなく、組織や環境そのものを設計する視点を持つこと。それが、これからの時代に求められる課題設定能力の本質だと思います。

鈴木:視野を広げていく上で、1つ壁になるのが「自分で手を動かさないことへの不安」かもしれません。AIに任せることで、中身の理解が疎かになり、スキルが落ちるのではないかという抵抗感です。

ただ、これはライブラリが普及したときの感覚に近いと思います。昔は数式を自分で実装しないといけない風潮がありましたが、今は便利なライブラリを使うのが当たり前になっています。生成AIに対しても、同じように抵抗感はなくなっていくと思います。

ただし、中身を理解していなければ、アウトプットを正しく評価することはできません。人間の役割が「実装」から「評価」に変わるからこそ、その評価ができるだけの理解は必要です。アウトプットが正しいかどうかを判断する責任は、依然として人間にあります。

中西:私も中身の理解は必須だと考えています。仕組みを理解していないと、AIがハルシネーションを起こした時に気づけませんし、事前に罠を予見して微調整することもできません。「全くわからないからAIに頼む」のと、「知っているけれど効率のために任せる」のとでは、リスク管理の面で大きな差があります。

鈴木:同感です。若手からの報告を受ける際も、「生成AIがこう言っていました」で終わらせず、なぜそのロジックを採用したのかを説明できるかどうかを見るようにしています。コードレベルで全て書く必要はありませんが、選定理由や妥当性については、自分の言葉で語れる必要があります。

中西:妥当性という意味では、「コスト意識」も重要ですよね。「開発工数が削減できた」と喜んでいたら、裏でAPI利用料が膨大にかかっていた、なんて落とし穴もあり得ますから。

このタスクにどの程度の精度が必要で、コストと労力のバランスはどうすべきか。単純なタスクなら自前の小さなモデルで処理するなど、トレードオフを適切に判断できる「設計力」こそが、エンジニアの新たな価値基準になっていくのだと思います。
 

AI時代の変化を楽しめる「素直でいいやつ」最強説

── エンジニアの価値基準が変わっていく中で、データマネジメントの領域における「事業貢献」はどう定義されているのでしょうか。直接売上が見えにくい分、難しさもありそうです。

鈴木:おっしゃる通り、データマネジメントの領域も、事業貢献の定義が非常に難しい分野です。AIの費用対効果と同様、直接売上を作るわけではありませんから。

中西:わかりやすい数字が出にくい領域なので、評価設計も難しいですよね。関係者の間で「何をもって成果とするか」の共通認識がないと、組織として成立させるのは大変だと思います。

鈴木:正直なところ、私がデータマネジメントを始めたきっかけは「誰もやりたがらなかったから」という消極的な理由でした。汚いデータをきれいにする作業をやりたい人はなかなかいませんが、誰かがやらなければ何も始まりません。そこで、泥臭い仕事を引き受けたのが始まりです。

当時は既存システムからの移行という明確な課題があったため、それを刷新するだけで劇的なコスト削減と業務効率化が実現できました。ただ、それ以降のフェーズでは「使われてなんぼ」という意識を強く持っています。

どれだけ技術的に優れていても、使われなければ無価値です。セキュリティと品質という守りを重視しつつ、活用という攻めにいかにつなげるか。利用者のニーズを最優先に考え、この両軸を回すことがデータマネジメントにおける事業貢献だと考えています。

── 技術力だけでなく、変化への適応や泥臭いコミュニケーションが重要だというお話が共通していますね。では最後に、これからの時代にどのようなエンジニアと一緒に働きたいとお考えですか。

中西:非常にシンプルですが、「素直でいいやつ」に尽きると思います。

技術や環境が激しく変化する中では、自分の殻に閉じこもらず、新しいことに次々と手を出していくエネルギーが必要です。また、チームで開発する以上、相手の意図を汲み取り、自分がこう動いた方がチーム全体がうまくいくと察して動けるコミュニケーション能力が欠かせません。素直に他者の意見を取り入れ、変化を楽しめる人が、結果として一番伸びています。

鈴木:私も同感です。メディア事業の場合、注力すべき事業やフェーズは短期間で目まぐるしく変わります。1つの技術や領域だけに固執していると、活躍し続けるのが難しい環境です。

事業が変われば、必要な技術も知識も変わります。そうした変化に対して「新しいことを覚えるチャンスだ」とポジティブに捉え、柔軟にキャッチアップできる人と一緒に働きたいですね。私自身も現在は組織の枠を超えて役割を広げていますが、やはり柔軟性と素直さという人間力が、最終的には最強のスキルだと感じています。
 

データコンペティション「CA × atmaCup 3rd」を開催

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