AI時代のその先に挑む、ブランド体験の可能性

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虎ノ門広告祭セッションレポート

2025年10月17日から24日にかけて虎ノ門ヒルズの情報発信拠点・TOKYO NODEにて開催された虎ノ門広告祭。国内最大規模の広告クリエイティブフェスティバルで、大盛況のうちに幕を下ろしました。会期中には日本初のCMプランナー小田桐 昭氏やコピーライター糸井  重里氏をはじめ、原 研哉氏、大貫 卓也氏など広告界のレジェンドから、平野 紗季子氏、深井 龍之介氏、藤原 ヒロシ氏など総勢約400名のクリエイターが参加し、120以上のセッションやイベントが開催されました。
当社はゴールドスポンサーとして協賛のほか、クリエイティブメンバーがサイト制作、SNS運用、セッション企画・運営にも一部参画しました。

10月19日に行われたセッション「AI時代のその先に挑む、ブランド体験の可能性」では、当社の 坂井 嘉裕がモデレーターを務め、バスキュール 朴 正義氏 / NO MORE Inc. 広屋 佑規氏 / れもんらいふ 千原 徹也氏とともに、AI時代に突入した今、AIではつくれない 「人の心を動かす余白」をどう形にするか、クリエイターがその余白にどう介入し、真のビジネス効果を生み出すのか。その先にある未来の広告の役割と、クリエイターに求められるセンスについて語りました。

Profile

  • 朴 正義
    (株)バスキュール 代表取締役 / クリエイティブディレクター
    2000年にバスキュールを設立。以来、テクノロジーとクリエイティブを駆使し、新たな体験価値の創造に挑む。広告、メディア、サービス、イベント、都市開発、万博など多岐にわたる領域で活動。近年では、国際宇宙ステーションと地上を結ぶ「KIBO宇宙放送局」、AIデザインラボ「SaySay」を立ち上げる。カンヌ、OneShow、CLIO、NY ADC、D&ADなど、数多くの広告賞を受賞。「TOKYO NODE LAB」のエグゼクティブディレクターも務める。

  • 広屋 佑規
    NO MORE Inc. Chief Creative Officer
    没入型ライブエンタメカンパニー「Out Of Theater」を設立し『喰種レストラン』など数多くのイマーシブシアターを制作。またコロナ禍において劇団ノーミーツを旗揚げし、株式会社Meetsを創業。『VIVA LA VALENTINE』『夢路空港』『AGASA』といった物語作品や体験型エンタメをプロデュース。ACC、文化庁メディア芸術祭、AMDアワードなど受賞。現在はNO MORE Inc.を創業。Chief Creative Officerとして『ネトフリ極悪プロレス』『思考実験展』などを手掛け、日本発で世界に届く体験型エンタメを生み出すことを目指す。

  • 千原 徹也
    (株) れもんらいふ 代表取締役 / アートディレクター
    1975年京都府生まれ。2011年に、デザイン会社れもんらいふを設立。広告、ブランディング、CDジャケット、ドラマ制作、MV、CM制作など、さまざまなジャンルのデザインを手掛ける。映画監督としての作品「アイスクリームフィーバー」が2023年7月に公開。2024年には、東急プラザ原宿「ハラカド」に、事務所を移転させ、オープンな場所でのコミュニティ、ショップ、スクールなどが融合した新しい形のデザイン会社に取り組んでいる。

  • 坂井 嘉裕
    (株)サイバーエージェント 執行役員
    新卒でサイバーエージェントに入社。一貫して広告事業に従事し、現在は同社の執行役員として、主に広告事業を担当。営業部門に加え、マーケティング、ストラテジックプランニング、ブランディング、ブランドクリエイティブ等の部門を管掌。
    (株)サイバーエージェント・ストラテジー 事業責任者、次世代生活研究所 所長、(株)新たな細胞 | Cybor 取締役、(株)Cyber AI Productions 取締役 などを兼任

AI時代の今、なぜ「体験」が求められるのか

坂井:今、AIの急速な発達によって、私たちの暮らしからコミュニケーションのあり方が大きく変わる時代になっています。その一方で、リアルな体験があらためて注目され、全国各地で没入型・体験型展示会が増えています。
AIによる効率化が進む今、リアルな体験が人の心を動かす理由を改めて考えてみたいと思います。

広屋氏:インターネットカルチャーやAIが発達するにしたがって、自分の知りたいことはすぐに見つかるし、興味のあるものはレコメンドされる。そうすると「今、生きている」という感覚がどんどん希薄になっているんじゃないかと思っています。
体験の場に行くと、その場限りの体験を、同じ関心の人たちと共有する空気感や時間自体が何よりも尊いもので、生きている実感が得られると思っています。

千原氏:確かに歳を重ねると、感傷的になりやすくなるじゃないですか。些細な出来事でも生きていると感じる瞬間って、やっぱりリアルな体験でしか得られないような気がします。AIが急速に発達していく中で仕事をしていると、リアルな体験が1日の中で1度もないという日もあります。だからこそリアルな体験で得られるものは増やしていきたいです。

坂井:インターネットやSNSが発達する以前は情報は今ほどは溢れていなかったと思います。AIが急速に発達し、情報が爆発的に増えていく中で、情報の信頼性の担保が難しくなってきています。広告においても、信頼をどう築くかが課題です。だからこそ、体験の価値がとても注目され始めているのかもしれません。
では実際に、どのような体験の場を創り出しているのか、皆さんの取り組みを教えてください。

朴氏:ここ、TOKYO NODEで開催した「デザインあ展neo」を紹介します。
「デザインあ展」はこれまで複数回開催しており、今まではモノをテーマにしてきましたが、今回は行為(動詞)をテーマに開催しました。
動詞をテーマに、それぞれのクリエイターが自分のテーマのモチーフとなる動作を見つけて、それぞれが作品を作っていく形にしました。テクノロジーを前面に出すのではなく、来ていただいた子供やファミリーが体験したものに手触り感があり、満足して楽しんでいただけた本当にいい作品になったと思っています。ここTOKYO NODEは普段は最先端の体験・発信・共創施設で大人が多いのですが、多くの家族連れで賑わいました。1つのコンテンツや映像を作るよりも、体験しに来た人が見る側と表現する側の両方が楽しめる座組みをデザインすることは素敵なことだと思っています。

広屋氏:我々は「思考実験展」を手掛けました。これは「もしも別の世界に行けたなら、あなたはどう生きるのか?」をテーマに、その思考を実験していく新たなじぶん没入体験エンターテインメントです。ある物語の中に入り、空間を進んでいくと自分の価値観がむきだしになっていき、自分の価値観を再発見するような体験ができます。
最後まで進むと、自分の価値観診断表を受け取ることができ、リアル性格診断や体験型MBTIと話題になり、様々なメディアで取り上げていただきました。

話題となった理由として、体験しながら展示で遊べることが若い方に受けていると思っています。映画や演劇だと2、3時間スマホを触れないことがネックになることもあるようですが、展示会だと1時間前後で行けて途中でスマホも触れる、一緒に体験できることからお互いの感情や共感、対話をしやすいことが週末にちょうどよく遊べるものとして今すごくポジションが上がっていると感じています。

千原氏:僕は原宿にある「東急プラザ原宿 ハラカド」のオープンに携わっていて、自社のれもんらいふの事務所をハラカドの3階に設けています。ブティックや飲食店が入っているところに、デザイン会社があり、誰でも出入りできるような空間にしたらどうなるのか、という実験的なものも含めています。

もともと僕は京都出身で、学生時代はよく深夜バスに乗って東京に来て、レコードや服など買い物をしていました。原宿にいると、雑誌で見たことがあるデザイナーやアーティストを実際に見かけたんですよね。そういった非日常の体験が今の自分の感性やセンスを培っていると思っています。

かつてのクリエイティブには隙間があったと思っていて、今は何をやっても隙間がない。偶然から生まれたものではなく、計画に基づく制作が主流になる一方、偶然や隙間から生まれる新しいことはあると思っています。その余白を意図的に残すことが重要かなと。
事務所を設立してから1年半ほどですが、事務所で偶然生まれた会話から生まれたモノもありますし、今までなかった新しい仕事の生まれ方を実感できています。
 

AIやテクノロジーが拡張する「体験」のかたち

坂井:ここまで皆さんのリアルな体験づくりを伺ってきました。一方で、AIやテクノロジーが発達する中、体験の形そのものも大きく変えつつあります。その拡張の可能性について伺っていければと思います。

広屋氏:私はフェイクを受け入れて楽しむことが体験の広がりになると考えています。イギリスでは、ABBA Voyageというホログラムコンサートが3年前から常設で公演されています。1970年代に大ブレイクしたABBAというポップグループの最盛期の姿をバーチャルのアバター技術を使ってライブを行っており、連日大盛況とのことです。

最盛期の姿を高精度に再現し、思い出を追体験できるライブは、エンタメのアーカイブ化とも言えます。フェイクではあるけれど、フェイクという言葉で片づけていいのか。体験の制作において、その線引きのセンスが問われていると思います。

坂井:我々全員でも、リアルかフェイクかという考え方や自分たちの子供たちはそういったことを気にするのか?という議論をしましたね。実際に朴さんもABBA Voyageをご覧になったということで、どう感じられましたか?

朴氏:本当に最高でした。世代的にもABBAの曲をよく知っているからというのもありますし、テクノロジーを使ったエンターテインメントでたくさんの70代、80代の人がフロアで熱狂的に踊っていたのがいいな、と思いました。

同じフェイクでもやっていいフェイクとそうでないものがあると思っていて、ABBA Voyageのように誰かの思い出やポジティブな気持ちをみんなで共有したい、といった類のフェイクがいいものだと思います。そのあたりのセンスの線引きができるかどうかがこれからの時代結構大事になってくるんだろうな、と思います。

坂井:朴さんはまさに、テクノロジーの発展とともに表現の幅を広げてきたお一人ですよね。
会社としてもどんな変化がありましたか?

朴氏:はい、2000年に会社を作って25年間、私達はずっとモノづくりをしているのですが、根底にはインターネットがあります。インターネットはこの25年間で見えなかったものが見えるように、繋がらなかったものが繋がるように、扱えなかったものが扱えるように拡大しています。
制作物もインタラクティブコンテンツの制作から体験を含めたライブ、都市体験、宇宙空間まで広がっています。

視覚と聴覚だけでなく、触覚や味覚、嗅覚まで五感をフルで使える体験を制作していきたいと思っています。また、体験が流行っている理由の1つに、情報を受け取るだけのものではなく、みんなが発信したいという欲望をのせられるというところもあると考えています。
 

体験×広告の時代に問われる、クリエイターのセンス

坂井:ここまで体験そのものの価値を伺ってきましたが、広告や企業の発信においても、この体験をどう活かせるのかが大きなテーマになっています。
皆さんは、実際にどんな取り組みをされていますか?

広屋氏:体験と広告を掛け合わせるには、ユーザーの好きという感情に寄り添うことが大事だと思っています。寄り添うことで、広告としてもユーザーにより受け入れやすく届くと思います。
実際にNetflix様と一緒に取り組んだ『極悪女王』という作品で、配信直前プレミアムイベントとして「ネトフリ極悪プロレス」というイベントを開催しました。

このイベントを開催するにあたって、Netflix様とコアなプロレスファンの方に熱狂してもらうということを大事にし、プロレスファンに寄り添ったイベントを作りました。
具体的にはプロレスの聖地の後楽園ホールを貸し切り、会場のポスターを全て貼り替え、
作品が描いている80年代の女子プロレスの世界にタイムスリップしたかのようにイマーシブ体験ができる空間づくりをしました。
イベント自体も、大盛況で応募倍率30倍を超えて1,500名の後楽園ホールが満席、『極悪女王』も配信視聴合計が300万再生を超え、大きな話題となりました。

坂井:まさに、ファンの熱量をリアルな体験で広げ、それが配信の話題化につながっていったわけですね。
広告の枠を超えて、物語を体験させる広告という形が見えてきた気がします。

朴氏:以前の広告は企業が「伝えたいものを伝える」ものでしたが、PRしたい企業からの一方通行ではなく、ユーザーに寄り添った内容の中に自社ブランドの情報を盛り込むことが大事なのかもしれないですね。

坂井:そうですね。好きに寄り添うためには作る側もそのものに没入できることが大事で、そういった人がプランニングやクリエイティブを手掛けていくべきだと思います。そしてそこに必要な能力やセンスをどう身につけていくべきなのかは非常に難しい問題ですね。

千原氏:そうですね。サイバーエージェントさんもAIを活用した広告クリエイティブを制作していますよね。何年か前に初めて知った時は衝撃的でした。
少し前は広告でもテキストの書体を選定したり、クリエイティブを制作したり技術的にも3年くらいかけて学んだことがAIを活用することですぐできるようになっています。

デザインの仕事には技術面とアイディア面があり、今までは技術面があればデザインの仕事はできました。イラストレーターとして少し絵を描いたり、起業した友人の会社の名刺を作ったりとか。
AIが発達し、技術面をAIがやれるようになるほど、本当に面白いことを考えられるとかセンスがいいか、はとても求められるようになっていくと思います。

坂井:そうですよね。体験が広告の届け方を拡張する一方で、作り手にはより高い「センス」が求められます。ここからは、その磨き方に踏み込みたいと思います。センスを磨くことに関して、広屋さんが日常的に意識していることはありますか?

広屋氏:誰もが一度はやってみたいと思ったことはあるけれど、まだやったことがないことを日常から探すことを意識しています。例えば「無人島に何か1つだけ持っていくなら何を持っていく?」という話があると思いますが、実際に友人たちとやりました。
こういったことが自分の原体験になっていて、それをどう制作する体験にどう落とし込むか、を日常から意識しています。

坂井:そうですね。成功しているものを研究して、良いポイントとかを引っ張って落とし込むのは、すごくいいことですが、それよりもやっぱりオリジナリティを出して、いい体験をクリエイティブとして作っていくためには、自分がこう日常で感じていることや体験が線になってみたときに、自分らしさやセンスが磨かれていくということではないでしょうか。
 

AI時代を生きる、若いクリエイターたちにむけて

坂井:最後に、これからの時代をつくっていく若いクリエイターの皆さんに向けて、それぞれメッセージをお願いします。

朴氏:頑張ってトライしている人を応援してくれる人が必ずいます。とにかくたくさんトライして、たくさん失敗することからセンスが磨かれていきます。
今の時代はSNSも発達していますし、昔よりもやりたいことや努力を見つけてもらいやすい時代になってきました。クリエイターの皆さんは制作したいが上手くいかない、と悩むことがきっとたくさんあると思います。案外なんとかなるし、悲観的にならずにポジティブにいることが大事なことかなと思います。
そして私自身としては新しい領域に飛び込みたいクリエイターやチームと出会いたいです。

広屋氏:1人の記憶に残るような体験を作りたいと思って日々活動しています。皆さんが生きてるっていいな、と思える空間を作っていきたいですね。ぜひ機会があったら一緒に物語を作れればと思います。

千原氏:わりと「千原さんはセンスいいですから」と言っていただけることが多いのですが、これからAIが発達していくなかで技術や数字といった部分はAIに任せておけばいい気がします。
だからこそ、センスを磨くことがとても重要だと思っています。

これはある種、技術で、知識なんですよね。人に合うとか話を聞く、映画を見る、本をたくさん読む、といったことでセンスはどんどん磨かれていきます。引き出しが多いのが結局センスに繋がる。そこをどれだけやっていけるかがセンスに繋がり人生が豊かになっていくと思います。
 

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