「ABEMA」のコンテンツ制作を加速させる。 バックオフィスから事業価値を創出するエンジニア
「ABEMA」では、ドラマやバラエティ、アニメなど、多岐にわたるコンテンツ制作を行っています。コンテンツ制作が増えるにつれて、発注から支払いに関わるバックオフィス業務も増えていきます。制作現場のスピードを維持しながら、増え続ける業務をどう支えていくのか。その課題に対して、AIを活用した新しい仕組みづくりが進んでいます。
この取り組みを進めているのが、Media Solutions Division ビジネスグロースの髙峯です。コンテンツ管理システムの開発を経て、現在は経理や法務などの専門家とともに事業の中へ入り込み、AIを活用した仕組みづくりに取り組んでいます。
本記事では、制作現場のスピードを支えるバックオフィスの仕組みづくりと、AI時代に広がるエンジニアの役割について紹介します。
Profile
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髙峯 明日希 ( AbemaTV / Development Headquarters / ビジネスグロース)
2011年新卒入社。「アメーバピグ」関連サービスや、ゲームの新規プロダクト立ち上げを経て、2015年本開局前の「ABEMA」に異動。2022年1月、同サービス内にDX Promotion Team (現ビジネスグロース)を発足。
コンテンツ管理から、バックオフィスの仕組みづくりへ
── ABEMAではどのような開発を担当してきたのか教えてください。
私は、2015年に本開局前の「ABEMA」へ異動し、翌年の開局時からバックエンドエンジニアとしてサービス開発に携わってきました。
産休・育休を経て担当したのが「ABEMA」のメディアアセットマネジメント(Media Asset Management 通称:MAM)の新規構築を手掛けるコンテンツ管理・運用の領域です。
MAMとは、番組の映像素材を登録して管理し、必要なときに必要な形で取り出して配信の枠に載せられるようにする仕組みで、「ABEMA」のコンテンツ運用の土台になるシステムです。MAMは、放送や映像配信の世界では確立された領域で、「ABEMA」も当初は海外製の標準的な製品を導入して運用していました。「ABEMA」開局から数年経った後、社内で内製する方向に切り替えることになりました。
コンテンツ管理・運用の領域を選んだ理由は、当時の社内にMAMに詳しい人がほとんどいなかったからです。だからこそ、自分が取り組む価値のある領域だと考えました。
育休明けということもあり、働く時間には制約がありました。そこで、多くの人が取り組んでいる領域で時間を競うのではなく、まだ誰も踏み込んでいない領域で専門性を身につけるほうが、自分らしく価値を発揮できると考えました。時間の制約を理由に挑戦する領域を狭めるのではなく、制約があるからこそ力を発揮できる場所を選んだ、という感覚でした。
当初は、海外製MAM製品の仕様書を読み込みつつ、動画領域の専門知識が豊富な方からレクチャーを受けたり、対話を重ねたりしました。製品の設計や考え方を理解するところから始めたため、把握が難しい点も多々ありましたが、私にはむしろ面白い作業でした。長年かけて業界標準になった設計思想を知り、「なぜこの仕組みになっているのか」を理解していくことに魅力を感じていました。
MAMを導入したことで、映像素材の品質や管理運用を標準化することができました。導入前は、一部で物理メディアを用いた素材管理など従来型の運用も残っていましたが、MAMの導入によってクラウド上で処理が完結する仕組みへと移行しました。運用の標準化と効率化が進んだことで、番組数が増えても安定してコンテンツを管理・運用できる基盤を整えられたと感じています。
── その後、バックオフィス領域に関わるようになった経緯を教えてください。
MAMの構築では、素材を扱う運用メンバーと密に連携しながら、日々の業務に合わせて仕組みをつくっていきました。その経験を通じて、現場の業務そのものを改善する仕事に面白さを感じるようになり、バックオフィス領域にも携わるようになりました。
ちょうどその頃、業務全体を可視化し、デジタル技術を活用した業務変革を推進する
DX Promotion Team (現 ビジネスグロース)が立ち上がり、私もその立ち上げに参画しました。まずは、制作や調達、運用などコンテンツサプライチェーンに関わる部署へのヒアリングからスタートしました。その過程で経理や法務など関連部門にも話を伺い、業務全体の流れを可視化していく中で、バックオフィス側と開発側のシステムやデータ、さらには文化にも分断があることに気づきました。
「ABEMA」のスピードを守るために、ガバナンスを再設計する
── 最初に取り組む課題として、なぜ発注や支払いの領域を選んだのでしょうか?
「ABEMA」の強みは、新しいコンテンツをスピード感をもって企画し、制作し、届けられることです。コンテンツ制作が増えるほど、見積書や発注書、請求書など、バックオフィスの業務も増えていきます。制作現場のスピードを維持したまま、それらの業務を支える仕組みが必要でした。
ただ、コンテンツ制作の領域は専門性が高く、支払いの妥当性を書類だけで判断するのが難しいという特徴があります。
制作現場では、プロデューサーやプロダクションマネージャーが、作品の内容や制作体制を踏まえて発注先や金額を決めています。一方で、経理は請求書や発注書などの書類をもとに確認を行います。必要な書類はそろっていても、その金額が制作内容に照らして妥当なのかどうかは、制作の専門知識がなければ判断できません。
加えて、発注内容やその判断の背景は、制作のプロダクションマネージャーが把握しています。ただ、その知識は担当者に依存しやすく、確認も属人的になりやすい構造がありました。
さらに、請求書の様式変更や保存要件など制度面で求められることも増え、経理が確認しなければならない項目そのものも年々増えています。
── 管理を厚くすれば、制作スピードに影響がでると思いますが、いかがでしょうか。
私たちが大切にしているのは、ガバナンスを強化することだけを目的にするのではなく、制作現場がこれまで通りスピード感を持って挑戦し続けられるように、その土台となる仕組みをつくることです。
そのため、制作現場の専門性と経理の確認業務を仕組みでつなぎ、人が確認しなくてもよいところはAIやシステムへ置き換えていきます。管理のためにスピードを落とすのではなく、管理とスピードを両立できる仕組みをつくることが、この取り組みで目指していることです。
── 特に難しいポイントや、注力していることは何ですか?
一番重視しているのは、問題が起きてから対応するのではなく、最初から問題が起きにくい仕組みをつくることです。
例えば、支払いの誤りや会計上の問題も、後から気づけば決算の訂正や監査対応が必要になり、取引先や視聴者からの信頼にも影響する可能性があります。事後に調べて是正するよりも、問題が起きない状態をあらかじめつくっておくほうが合理的だと考えています。
業務が複雑になり、確認する目が足りなくなれば、悪意がなくてもミスや見落としは起こり得ます。だからこそ、個人の注意や経験に頼るのではなく、仕組みとして防げる状態をつくることを重視しています。
そうした考え方をもとに、確認に時間がかかる業務やミスが起こりやすい業務から、一つずつAIやシステムを組み込みながら、バックオフィス全体の仕組みづくりを進めています。
バックオフィスの業務を、AIでアップデートする
── 具体的にどのような仕組みをつくったのですか?
最初から理想的なシステムをゼロからつくるという進め方は選びませんでした。
実は、経理のメンバー自身がGoogle Apps Scriptを使って請求書処理のフローを構築し、どの請求書がどこまで処理されているのかを管理する仕組みを開発・運用していました。まずは、その現場で使われている仕組みを生かし、その上にAIを組み込むことから始めました。既存の運用を止めることなく改善できるので、現場の業務を増やさずに導入できます。
そのうえで、AIで人の仕事を置き換えるのではなく、これまで人手だけでは網羅的に対応することが難しかった業務を、AIと人が一緒に担う形で改善を進めていきました。例えば請求書のチェックは、作業時間や担当者ごとのばらつきから、人だけで漏れなく確認することが困難でした。そこにAIを活用することで、チェックの網羅性を高め、ガバナンスの向上にもつなげています。
最初に取り組んだのが、請求書の重複や記載内容の誤りを検知する「請求書ヨミ太郎」です。同じ請求を異なる月に重ねて処理してしまったり、請求元が同じ内容の請求書を重複して発行したりすることは、業務上どうしても起こり得ます。
「請求書ヨミ太郎」は、OCRで請求書の情報を読み取り、宛名や請求内容を確認したうえで、過去に提出された請求書と照合します。AIが支払いの可否を判断するのではなく、重複や誤りの可能性がある請求書を抽出し、経理が確認すべき箇所を絞り込む仕組みです。
── 請求書以外にも、取り組みは広がっているのでしょうか?
発注から支払い、会計処理までは、一連の業務としてつながっています。そのため、支払いの確認で得られた考え方を、発注や与信など、前後の業務にも広げています。
例えば、開発中のAIプロダクト「与信みる太郎」は、新しい取引先と取引を始める際の与信申請を支援する仕組みです。これまでは請求書や発注書、見積書から必要な情報を転記していましたが、書類から申請フォーマットを自動で作成することで、確認の質を維持したまま業務を進められるようにしました。
さらに、出演者や制作スタッフへの支払い条件に関する問い合わせ対応を支援する仕組みなど、発注から支払いに関わるさまざまな業務へ取り組みを広げています。
── AIで自動化できる範囲は、どこまで広げられそうですか?
自動化の範囲を広げるときは、慎重に考えています。請求書を読み取ってAIでチェックするといった個別の業務だけを自動化しても、その場ごとの対応になってしまいます。まず業務全体を俯瞰し、どこにリスクがあり、どこへ手を入れると最も効果があるのかを見極める必要があります。
そこで、AIで何を自動化するかを考える前に、どのような場面でリスクが高まるのかという観点から業務の流れを整理しました。例えば、発注や承認などの業務が特定の人に集中すると、確認が十分に機能しないリスクが高まります。そのため、発注前に第三者の確認が入る業務フローを設計しています。AIは、その確認を大きな負担なく継続して回すための手段として活用しています。
業務全体のリスクを漏れなく洗い出すために、貸借対照表の勘定科目を一つずつ確認し、それぞれの科目でどのようなリスクが起こり得るのかを整理していきました。私自身、当初は会計の知識がほとんどなかったため、まず貸借対照表や損益計算書の基本から学びました。
一般的なリスクアセスメントの手法を参考にしながらも、そのまま導入するのではなく、現場のメンバーが自分ごととして捉えられる形に落とし込むことを意識しました。例えば、リスクの状態を「あんしんマップ」として可視化し、「ゲキアツ」「ほどほど」「ぬるめ」といった親しみやすい表現を取り入れるなど、ABEMAらしい工夫を加えながら独自の指標を整備していきました。
そして大切にしたのは、「なぜこの取り組みを進めるのか」をチーム全員が同じように説明できる状態をつくることです。自分自身が納得できていないことは、人にも伝えられません。だからこそ、リスクの考え方や優先順位を共有し、同じ認識を持ってから開発を進めました。このプロセスを大切にしたことが、プロジェクトを継続して進められている理由だと思っています。
事業の中に入り込み、新しい価値を創造するエンジニア
── 今後、どんなことに取り組んでいきたいですか?
目指しているのは、現場のスピードとガバナンスを両立できるバックオフィスです。
一般的には、ガバナンスを強くすると現場のスピードは落ちると言われます。でも私は、ガバナンスを強くするほど、事業も速くなる状態を実現したいと思っています。確認を仕組みやAIへ任せることで、人は判断に集中できるようになります。守りを固めることが、事業のスピードを支える状態をつくりたいんです。
そのためには、支払いや与信などのデータを一か所に集めることが重要です。現在も取引先の情報や発注履歴は取得できますが、それぞれ別のシステムで管理されているため、横断的に分析することは簡単ではありません。
例えば、BigQueryをデータウェアハウスとして活用し、支払いや与信などのデータを一元的に扱えるようになれば、経験や勘だけではなく、データをもとに判断できるようになります。
データが整えば、AIの役割も変わります。今は人が決めたルールに沿って書類を確認することが中心ですが、将来的にはデータ全体を見ながら、「この取引はいつもと違う」といった変化やリスクをAIが先に知らせられるようになります。人がルールを書き足すのではなく、データから気づきを得て、より良い判断につなげる世界を目指しています。
「ABEMA」の強みであるスピードを維持しながら、ガバナンスも強くする。テクノロジーとAIによって、その両立を実現したいと思っています。
── この仕事を通じて、ご自身の仕事に対する考え方はどのように変わりましたか?
この仕事を通じて大きく変わったのは、エンジニアリングだけではなく、事業そのものを見る視点が身についたことです。
向き合う相手は、経理や法務、事業部の担当者です。現場の業務を理解し、一緒に課題を見つけ、仕組みを変えていく。その過程で、「業務が楽になった」「判断しやすくなった」といった変化を目の前で見られることに、大きなやりがいを感じています。
また、この仕事を通じて、企業や社会がどのようなルールのもとで成り立っているのかを学ぶことができました。発注や支払いの仕組み、会計や監査の考え方は、「ABEMA」だけに限らず、世界中のあらゆる企業に共通する普遍的な知識です。開発だけをしていたら触れることのなかったこうした領域を学べたことは、自分にとって新しい専門性となり、エンジニアとしての視野も大きく広がりました。
私自身、育休明けに知見のない領域へ飛び込みました。技術に加えて会計という新しい専門性を身につけられたことは、自分にとって大きな成長でした。
AIが広く活用されるようになったことで、エンジニアに求められる役割も少しずつ変わってきていると感じています。依頼を受けて実装するだけではなく、現場と一緒に課題を見つけ、「何をつくるべきか」を考えるところから関わる。プロダクトだけではなく、業務そのものを設計し、事業の価値につなげていく。そうした役割は、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。
私自身、この仕事を通じて、技術だけでは生み出せない価値があることを実感しました。現場を理解し、さまざまな専門家と一緒に課題を整理し、その中にAIを組み込んでいく。技術と専門性を掛け合わせながら、事業そのものをより良くしていくことが、この仕事の一番の面白さだと思っています。
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