全エンジニア約1,200名のAI活用レベルを計測。2028年までの全社開発プロセス完全自動化を目指して
当社では「2028年までに全社の開発プロセスを完全自動化する」という目標を掲げ、AIドリブン推進室が中心となり、開発組織のアップデートへ向けて様々な取り組みを牽引しています。
2025年8月の発足以来、「AI開発リアルタイムアタック」やAIエージェント開発スキルを競う部署対抗コンテスト「AI Agent Arena」、各部署のAI活用レベルを相撲の番付のように格付けし、可視化する当社独自の取り組み「AI番付」など、様々な角度から全社のAI活用における文化醸成に取り組む同組織。現在新たに注力しているのが、約1,200名の全エンジニア一人ひとりのAIスキルの底上げです。当社Developer Expertsが個人のAIスキル向上のための仕組み作りやeラーニング監修を行い、AIドリブン推進室が実行を担いました。こちらの記事では、実行責任者である吉岡へのインタビューをお届けします。
Profile
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吉岡 賢
AIドリブン推進室所属。2016年当社新卒入社後、ゲーム事業を展開するグループ会社 (株)サムザップにて、主力サービスのオンプレミスからAWSへの移設における設計や運用、開発に従事したほか、エンジニア統括組織のメンバーとしてエンジニアの採用育成責任者などを担当。同社にてEnabling SREとして運用改善と文化作りに取り組んだ後、2025年8月より現職。
「挑戦と安心はセット」全社一丸で挑むAIスキルの底上げ
── エンジニア一人ひとりのAIスキル底上げを図ることになった背景を教えてください。また、一連の取り組みはどのようなものなのでしょうか。
サイバーエージェントでは、「2028年までに全社の開発プロセスを完全自動化する」という目標を掲げていますが、もちろん、ただ放置していればAIが勝手に自動化してくれるわけではありません。エンジニア一人ひとりが、AIを前提とした開発スキルを身につけ、自らの手で実現していく必要があります。そのためサイバーエージェントでは、組織と個人の両面からAI活用を底上げする取り組みを進めています。
組織面では各組織のAI活用レベルを可視化し底上げすべく、2026年4月に第1回「AI番付」を実施しました。一方で、開発プロセスの完全自動化を進めるためには、組織単位だけではなく、約1,200名の全エンジニアのうち誰一人取り残さずに、AI駆動開発の考え方や概念、AI前提での開発スキルを身につけることが欠かせないと考えています。
そのための具体的なステップとして、まず、一人ひとりが開発AIエージェントをどこまで上手く使いこなせているかを可視化する、個人向けAI活用レベルの計測を開始しました。
2028年に達成を目指している開発プロセスの自動化に向けて、AIエージェントをどれだけうまく使いこなしているかを測る基準を当社独自の基準で5段階に策定し、2027年3月までに全員がLevel3のAIオーケストレーター(このレベルがAI時代に対応するスタートライン)まで到達することを目標としています。
さらに、当社Developers Expertsが作問と監修のeラーニング研修「AI駆動開発 いいラーニング」を展開し、約1,200名のエンジニアがAI駆動開発の共通言語と基礎スキルを身につけられるようにする取り組みも行なっています。
── AI活用におけるトップ層を引き上げるのではなく、全エンジニアを誰一人取り残さないことにこだわったのはなぜでしょうか?
一部のリードエンジニアだけがAI活用を牽引し、他のメンバーが追随する形よりも、全員のスキル底上げを図った方が、圧倒的に全社一丸となってAI推進を行いやすいと考えたのが大きな理由です。
当社が大切にしている考え方の1つとして、「チーム・サイバーエージェント」という価値観があります。これは、所属部署や職種を横断し、全社一丸となって新たな領域に熱量高く取り組むカルチャーを指しますが、AIが得意な一部の社員が利活用を強制するのではなく、組織全員が理解し、使いこなせる状態を作った方が推進スピードは格段に上がると考えています。もちろん、自ら主体的にキャッチアップできるトップ層の牽引力も不可欠ですが、1,200名全員がAIを使いこなせる状態と、上位2割だけが使いこなせる状態とでは、2028年に見える景色やできることは全く違うはずです。
また、サイバーエージェントでは人事制度や福利厚生において「挑戦と安心はセット」という考えを大切にしていますが、このカルチャーが「誰一人取り残さない」というアプローチにも体現されていると個人的に感じています。これまでAIに触れてこなかった社員に対して、ただ挑戦してねと求めるだけでなく、挑戦できる土台やサポートは会社でしっかり用意するよという「挑戦と安心のセット」を、AI活用においても提供していると言えるのではないでしょうか。
私自身、元々はSREとしてインフラ運用や管理をメインに担っており、いわゆるプロダクト開発がメイン業務ではなかったため、開発にAIをどう組み込むか最初はピンときていませんでした。しかし、異動前からAIに触れ始め、変化を求められる中で 機械学習、生成AI、そして AI駆動開発の学習機会が与えられるなど、しっかりとサポートしてもらえたという実体験も、この考え方に強く共感している理由です。
点数ではなく “気づき” を生む、独自のAI活用レベル計測
── 個人向けAI活用レベルの計測について詳しく教えてください。
大元はグループ会社の一社で始まった取り組みで、それをグループ全体に展開しました。設計者の意図とはずれてしまうかもしれませんが、実行者としての見解を回答します。
大きな特徴として一般的なテスト形式ではなく、自己評価アンケート形式を採用しています。その理由は大きく3つあり、1つ目はこの取り組みにおける最大の目的として、振り返りに重きを置いているからです。テストで点数を出して序列を決めるのではなく、自分の現在地と会社が求めるレベルのギャップを振り返ることが重要であり、組織の評価と自分の評価に差があるという気づき自体が、自己成長のチャンスになると考えています。
2つ目は、業務や組織ごとの違いに柔軟に対応するためです。AIエージェントの使用頻度はプロダクトや業務によって異なります。そのため、組織全体で共通の指標(AI前提で開発できるスキル)を定義しつつ、必要に応じて各組織でカスタマイズして活用してもらえば良いと考えています。
3つ目は、サイバーエージェントが社員を信頼して任せる性善説のカルチャーで運営されているという点です。正直、自己評価は見栄を張ろうと思えば張れます。でも、当社の社員は「素直でいい人」が多く、アンケートの設問意図を深く考えすぎて私たちに質問が来るほど、真面目に答えてくれます。仮に見栄を張ったとしても、そのレベルに合わせてスキルを上げようと努力する社員の気質に合っていると感じています。
また、この取り組みは一度レベルを計測し終わりではありません。一定期間ごとに計測とフィードバックを繰り返し、エンジニア自身が現在地を振り返りながら成長していくサイクルを作っています。
当初は3ヶ月に1回のサイクルを想定していましたが、2026年6月の初回はエンジニア版「AI番付」に参加した44組織のみを対象としたため、7月に参加外組織も含めて再度計測を行いました。以降は、例えば立ち上げフェーズの子会社は開発ライフサイクルが安定するまで待つなど、各組織のフェーズに合わせて伴走しながら、個人の成長を継続的に支援していく予定です。
── 初回の計測が終了し、Level3未満のエンジニアが共通してつまずいているポイントなどは見えてきましたか?またその対策については、どう考えていますか?
年次や職種に関係なくレベルの高い人がいる一方で、Level3未満の方に共通していたのは、日常業務にAIを組み込む機会が少ないという環境要因です。
ビジネスサイドの要件やステークホルダーとの関係でAIが使いづらいプロダクトもありますし、技術投資の状況によって活用機会に差が生まれることもあります。一方で、開発業務が中心ではないにもかかわらず高いレベルでAIを活用している社員もいるため、環境だけでなく、自ら活用の機会を見つけて試していく姿勢も大事になると感じました。
今後の対策としては、Lv.1~2相当のエンジニア向けに、AIを使う前提となる基礎知識のカリキュラムや、通常業務から離れてAI活用と向き合う1dayイベントなどを準備しています。全体向けのカリキュラムを公開しつつ、各組織のAI推進担当者と連携し、組織ごとの開発環境や課題に合わせた最適なレベルアップ方法を個別に模索していく予定です。
── 現場エンジニアからはどのような声がありましたか?
一番多かったのは、自分の現在地と、会社が求めるレベルが明確になって良かったという声です。自分では十分AIを活用していると思っていたけれど、Level3の基準と照らし合わせることで「まだ伸ばせる部分がある」と気づくきっかけになったようです。
また、計測頻度についてもフィードバックがありました。当初は毎月計測する予定でしたが、1ヶ月で劇的に変化するものではないし、フィードバックや話し合いの時間が負担になるという意見をもらい、頻度を落とす決断をしました。2027年3月までに全員がLevel3になるという長期計画の中で、振り返りに重きを置いて現場が考える時間をしっかりと確保できたのは良かったと思います。
1,200名の共通言語を作る。受講率95%超えを達成した最大の要因
── 続いて、「AI駆動開発 いいラーニング」について詳しく教えてください。
Developers Expertsが作問する上で大切にしたのは、テスト内容を最新トレンドではなく考え方や概念に絞ったことです。AIのトレンドは切り替わりが非常に早く、特定のツールに関する知識を問うテストを作っても1~2ヶ月後には陳腐化してしまいます。一方で、AI駆動の考え方や概念は簡単に変わらない普遍的なものです。例えば、スクラム開発のベース知識があれば様々な開発スタイルに適応できるのと同じで、ベースの考え方さえしっかりしていれば、新しいAIツールが出てもすぐに対応できると考えました。
また、もし概念や用語の理解にズレがあると、後々そのズレが大きくなってしまいます。だからこそ、1,200名の全エンジニアが共通言語として考え方や概念を持つことが、2028年の目標に向けた組織の強い足腰になると確信しています。
さらに、メインで作問を務めた担当者は、問題の難易度設定にもこだわっていました。あえて、資料をしっかり読み込まないと正解できないレベルに設定し、「理解したつもり」で終わらないように設計されています。受講者からは、骨太な資料で実務に活かせそう、AI駆動開発の用語の中身がクリアになったという声を多くもらい、難易度設定は適切だったと感じています。さらに、全エンジニアのうち、受講率95%という目標を超える結果を残すことができ、AI駆動開発の共通言語を開発組織全体へ浸透させる第一歩として、大きな成果になったと考えています。
── 約1,200名のエンジニアのうち、受講率95%という驚異的な数字を達成できた最大の要因は何だったのでしょうか?
テクニックではなく、地道で泥臭い積み重ねとメッセージ性が功を奏したのでは、と考えています。事業部ごとの進捗を毎週アナウンスし、締切1週間前には、もちろんツールを利用しながらではありますがSlackで数百件のDMを送りました。それでも受講しない人たちに対しては、各事業部のAI推進担当に未受講者リストを提供して直接声をかけてもらいました。
単に「受講してください」とお願いするのではなく、受講するとどんなメリットがあるのか、なぜ今学ぶ必要があるのかを泥臭く説明した結果、推進者の皆さんが当事者意識を持ち、力強く現場を巻き込んでくれました。トップダウンの推進力と、現場の粘り強いコミュニケーションの両輪がうまく回ったのだと思います。
また、アンケートなどで感想を募ったわけではないにもかかわらず、一部の受講者からは、今後の開発に活かせそうといった意見や、共通言語をしっかり作れて良かった、骨太な内容で資料の読み応えがあったというDMをいくつももらい、とても嬉しかったです。
一方で、PDF資料の読み込みが大変といった学習体験に関するフィードバックをもらったので、次回同様の施策を行う際は必ず改善したいと思っています。今回でAI駆動開発の基本概念は浸透したので、今後も基礎スキルとして共通言語化すべきものがあれば実施していきたいです。
2028年の完全自動化へ。全員の成長が創る強固な土台
── 最後に、今後の展望を教えてください。
AI時代に誰一人取り残さないという点においては、受講率100%の達成は非常に大事なゴールですが、あくまで短期的な指標に過ぎません。私たちが目指すのは、”2028年までに全社の開発プロセスを完全自動化すること”に加え、AIリーディングカンパニーであることです。現在の取り組みは、そこへ向けて1,200名全員がAIオーケストレーターに到達するための土台作りであり、まだまだ道半ばです。
AIによって開発のあり方が大きく変わる今こそ、開発組織そのものを変革する絶好のタイミングだと考えています。個の突出した技術力に頼るだけでなく、一人ひとりの成長がチームの力に繋がり、それが会社全体の競争力につながる、そんな足腰の強い開発組織を作っていきたいです。
社員一人ひとりの “挑戦と安心” を大切に守りつつ、共に大きな目標に挑戦してもらう。今回の取り組みを、会社の次なる大きな挑戦を支える強固な土台にできればと強く願っています。
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この取り組みを進めているのが、Media Solutions Division ビジネスグロースの髙峯です。コンテンツ管理システムの開発を経て、現在は経理や法務などの専門家とともに事業の中へ入り込み、AIを活用した仕組みづくりに取り組んでいます。
本記事では、制作現場のスピードを支えるバックオフィスの仕組みづくりと、AI時代に広がるエンジニアの役割について紹介します。