専門性があるからこそ、切り拓けるフロンティアがある。データサイエンスとビジネスの境界を越える、「ビジネスリードエンジニア」の歩み

技術・クリエイティブ

当社では2026年8月、AI時代における新たなエンジニア職種として、総合的な技術力を基盤に、事業現場へ深く踏み込んで一気通貫でビジネスインパクトを創出する「ビジネスリードエンジニア(BLE)」を新設しました。

こちらの記事では、「ビジネスリードエンジニア」の一人として活躍するAI事業本部の早川へのインタビューをお届けします。自ら企画・立ち上げを担った、メーカー・小売業の業務プロセスを自律的に推進するAIエージェント「AI POS(エーアイポス)」のプロダクト責任者として、プロダクト開発から事業推進まで幅広く手掛けている早川。当職種に至ったキャリアの原体験や、技術力を事業成果に繋げるための向き合い方など、詳しく話を聞きました。

Profile

  • 早川 裕太
    AI事業本部 協業リテールメディアカンパニー AI POS プロダクト責任者
    東京工業大学(現 東京科学大学)大学院修士課程修了後、2019年当社新卒入社。アドテク領域にて分析及び研究開発に従事し複数の国際会議に論文を発表。2020年より小売との協業事業において、POSデータを活用した広告配信プロダクトの立ち上げに参画。その後小売企業のデータを用いたデジタルマーケティングの改善やリテールメディア事業の立ち上げ支援に取り組む。

技術を成果に変える思考法ーーマーケットの構造を見極め、ビジネスと技術を地続きで捉える

── はじめに、現在に至るまでどのようなキャリアを歩んだのか教えてください。

2019年に新卒入社し、AI事業本部の前身組織であるアドテク本部でデータサイエンティストとしてのキャリアをスタートしました。大学院ではAIの研究に取り組んでいたため、その学びを実務で存分に活かせる環境を求めていました。サイバーエージェントを選んだ決め手は、研究開発組織「AI Lab」と営業を含めた現場との距離の近さです。ここなら自分の専門性を事業の最前線まで直接届けられると確信しましたし、入社後もその強い連携を改めて実感しました。

入社後はデータサイエンティストとしてプロダクト分析に従事する中で新たな技術アイデアを発案。「AI Lab」との共同研究へと発展させ、入社1年目のうちにその技術の社会実装まで成し遂げることができました。

入社2年目の後半には(株)データ・ワンの広告配信基盤の立ち上げに参画し、3~5年目には大手家電量販店やドラッグストアの巨大な購買データを活用した、広告配信メニューの立ち上げを担当しました。この頃は営業と一緒にクライアントのアポに同席し、フィードバックを直接いただく日々。データサイエンティストでありながら現場の最前線に立ったこの経験が、「ビジネスリードエンジニア」という役割に繋がる原点でした。

── これまで携わったプロダクトにおいて、技術力をどのように活かし、具体的な事業成果につなげてきましたか?

入社3~5年目にかけては、データサイエンスとビジネスをつなぐマーケティングサイエンスを、自身にとっての新たな専門領域と位置づけ、深く取り組んでいました。この分野を習得し、その限界までを一通り経験する中で掴んだのは、「厳密に測定できる範囲は、想定よりもはるかに狭い」という事実です。

たとえば、「ブランドの成長要因は既存顧客の購買頻度向上ではなく、新規を含む顧客数の拡大である」といった法則は、大量の購買データによって実証可能です。また、広告接触群と非接触群を比較することで、売上に対する広告の純粋な寄与分を正確に抽出することもできます。

一方で、なぜその人がその商品を選んだのかという顧客の内面までを特定することはできず、どこまでも仮説の域を出ません。だからこそ、何が検証可能で、どこからが仮説なのかを明確に切り分け、意思決定の判断材料として提示すること自体に大きな価値があるのだと学びました。

ありがたいことに私は、業界トップクラスの企業との協業を通じ、実務に根ざしたデータ分析やプロダクト開発に携わる機会に恵まれました。そのため、単に理論を適用するだけでなく、分析の仮説やストーリーを大切にしながら、クライアントやユーザーが納得できる価値を届ける仕組みづくりに注力できたのです。具体的には、定性調査と定量データを掛け合わせた分析レポートの作成や、効果の高い配信メニューの開発・提供を行いました。このようにお客様やパートナーの方々と検証を重ね続けたことで、借り物の知識ではなく、確固たる自分の実力になったと感じています。

── 現在担当されている「AI POS」は、どのようにして生まれたプロダクトなのでしょうか。

企画の出発点は、自分自身が担っている作業の多くが、今後AIに代替されていくという見立てでした。2022年にGPT-3.5が登場した際、データサイエンティストの仕事は大きく変わると感じました。本来の役割である、事業やプロダクトを伸ばすための問いの設計は人が担う一方、コードを書くといった定型的な作業の多くは今後AIに置き換わるのではないかと考えたのです。

そこで、データサイエンティストである自分自身をユーザーに見立て、作業部分を支援・代替するAIプロダクトの開発に着手しました。現在では、データ分析だけでなく、資料作成や営業先への提案など、AIエージェントが担う領域を広げ、データ分析に馴染みのない方でも直感的に活用できるUXへと進化させています。(参照:「AI POSが変える小売の未来:AI Lab連携による社会実装アプローチ」)
 

── そうした成果を出し続ける上で、大切にしている視点があれば教えてください。

2つあります。まず1つ目は、技術のマーケット動向と、その背景にある産業構造を理解することです。 過去に大手グローバル企業主催のデータサイエンスコンペに参加し、受賞した経験があります。当時は、その企業が推進する特定技術を活用することで技術力を証明できました。それだけでなく、なぜその技術が世界的に注目されているのか、どのようなビジネス構造やエコシステムが背景にあるのかを肌感覚で理解する機会となりました。 社会実装と技術、双方のフロンティアがどう結びついて動いているかを俯瞰する視点は、今も常に大切にしています。

2つ目は、事業推進のために新たな専門性を身につけることです。具体的には、因果推論や前述のマーケティングサイエンスといった領域です。 入社1年目で出会った因果推論は、私の大切な原点となりました。技術による事業・社会へのインパクトを模索する中で、その貢献度を正しく測る専門分野が存在することに深く感動したからです。 この経験を経て、一見ビジネス領域に見える課題も技術と地続きの構造で捉えられるようになり、自身の大きな強みにつながっています。

コンテキスト外の生の知見と、自身の経験を繋ぎ合わせることこそ人間独自の強み

── 当社では2028年までに「開発プロセス完全自動化」を掲げています。AIによって開発生産性が大きく向上する中で、「ビジネスリードエンジニア」だからこそ発揮できる、AIには代替できない価値とは何だと考えていますか?

私は、一つの職種やキャリア、さらには人間だからこその価値に過度に固執しないようにしています。そう思えるようになったのは、1年目のときに一緒に働いていた異職種から転職してきた先輩社員の存在が大きいです。これまでの華やかなキャリアに安住することなく、ゼロからプログラミングに挑戦し、第一線で活躍する姿を見て、キャリアや役割の定義に縛られる必要はないのだと深く実感しました。

その上で、現時点で人間が持つ構造上の強みを挙げるならば、AIのコンテキストウィンドウで扱えない情報を扱えることだと思います。AIのコンテキスト長(保持できる情報量)は急速に伸びていますが、人間にはそれを超える時間軸の深さや、自ら足を使って文脈を取りに行く力があります。具体的には、現場で直接人に会い、対話を通して得られる非構造な生の知見と、5年・10年といった歳月をかけて積み重ねてきた記憶やコンテキストを深く結合させる力です。

例えば、日々の新しい体験が過去の原体験や知識と結びつくことで、自分ならではの提案が生まれることがあります。 AIのデータに乗らない現場の生情報を取りに行き、自分自身の長期的な知見と繋ぎ合わせる。それこそが、いま「ビジネスリードエンジニア」として発揮できる本質的な価値の一つだと考えています。

── その価値を発揮し続けるために、日頃どんな試行錯誤やインプットを意識していますか?

学びと経験を止めない姿勢を持ち続けることです。 学びは、より良い経験を得るための “道具” だと捉えています。例えばプロダクトマネジメントの知見も、技術者出身で体系的に学ぶ方は現状そこまで多くない印象です。 もちろん、学んだ知識も現場では教科書通りにはいきません。だからこそ自ら泥臭く手を動かし、生きた最適解を掴みに行く。そして知識という土台があるからこそ、経験から独自の視点を生み出せるーーこの「守破離」のサイクルを回し続けることを強く意識しています。

ビジネスと技術はトレードオフではない。生きた知識や体験を力に変えるために

── 2028年卒の新卒採用から「ビジネスリードエンジニア」の採用枠が新設される予定です。当職種に興味を持つ学生のへ、メッセージをお願いします。

私たちが大学や大学院の6年間で手探りで学んできたような知識も、今の学生の皆さんはAIをはじめとする最新ツールを使いこなすことで、はるかに早いスピードで吸収できる環境にあります。そうしたアドバンテージを存分に生かして、ぜひ恐れずに色々なことに挑戦してほしいと思います。自分たちの世代では思いつかなかったような、新しい価値を生み出すルーキーの登場を本当に楽しみにしています。

また、「ビジネスリード」という言葉から、ビジネス寄りになることでエンジニアとしての専門性が薄れるのでは、と不安に思われる方もいるかもしれません。しかし、両者は決してトレードオフではありません。専門性があるからこそ見えてくるビジネスのフロンティアがあり、それを自らの手で切り拓いていける面白さがあります。

さらに言えば、専門性の定義をもっと自由に広げて捉えてもらえたら嬉しいです。今手に取っている教科書にある技術的な知識だけが、専門性ではありません。まだ見ぬ分野の知識、言葉や本になっていない現場での工夫、特定の業界やビジネスに関する深い理解も、全て立派な専門性です。ご自身の得意な技術を大切にしながら、ぜひ現場の生きた知識や体験を貪欲に吸収していってください。

── 最後に、「AI POS」や自身のキャリアにおける今後の展望を教えてください。

まずは現在「AI POS」が扱っているtoB向けのAIエージェント領域をもっと盛り上げていきたいです。ありがたいことに小売や消費財のクライアントを中心に活用が進んでおり、この時代だからこそ生み出せる新しいアウトプットやユーザー体験が形になり始めています。今後はサイバーエージェントが持つ営業組織やデータ組織、研究組織などの強みを掛け合わせながら、対応領域をさらに広げていきたいですね。

私個人のキャリアについては、役割の枠にとらわれず柔軟でありたいと考えています。大切なのは、ものづくりを通していかに面白いプロダクトを生み出し、人々をワクワクさせられるかという点です。 グローバルで進化するAI技術を素早く取り入れていくことはもちろん重要ですが、単なる開発の効率化にとどまらず、その先にある新しい価値やユーザー体験まで自分たちの手で創り出してこそ面白いと感じています。当社の強みを活かし、私たちだからこそ作れるプロダクトを、これからも仲間とともに世の中に届けていきたいです。

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