AIの発展をサイバーエージェントの競争力とするために
2024年10月29日、30日の2日間にわたり、サイバーエージェントグループのエンジニア・クリエイターによるテックカンファレンス「CyberAgent Developer Conference 2024」を開催しました。進化しつづけるサイバーエージェントの技術と創造力のカンファレンスとして「Expanding Inspiration」をテーマに、様々な技術領域における65のセッションをお届けしました。
こちらでは、基調講演の中から専務執行役員(技術担当)長瀬慶重の発表の様子を一部編集してお伝えします。
目次
技術戦略2025「AIの発展を会社の競争力にする」:(1) 迅速なAI導入
技術戦略2025「AIの発展を会社の競争力にする」:(2) イノベーションの推進
サイバーエージェントの競争力について
変化の激しいインターネット業界において、当社は創業以来「変化対応力」を強みに時代に合った事業を次々と立ち上げることで、27期連続での持続的な成長を実現してきました。2023年は「生成AI徹底活用」を宣言し、数多くのプロジェクトを推進しました。
2023年4月に「生成AIガイドライン」を策定し導入を開始したほか、2023年9月には「生成AI徹底活用コンテスト」を開催。業務効率化やコスト削減、既存サービス改善や新規事業案など約2,200件のアイデアが集結し、大成功のうちに終わりました。加えて、翌月には全社を挙げて生成AI活用を推進する専門組織「AIオペレーション室」を設立。同組織では現在約20名のエンジニアが在籍し、業務効率化を推進する様々なプロダクトや、コンテスト案実現のための開発を行っています。
また、2023年11月からは、全執行役員を含む6,200名を超える社員を対象に「生成AI徹底理解リスキリング」を実施しました。これらの様々な取り組みを通じて、昨年1年間で生成AIを徹底的に活用するための基盤を整えることができたと感じています。
サイバーエージェントでは、AIに対する基本方針を「AIを徹底的に活用するためにあらゆる手を尽くし、変革を推進する。」と定めています。数年後、AIを徹底的に活用している会社と、そうでない会社には大きな差が出ると考えているからです。あらゆる手段を活用し、変革を進めていきます。
技術戦略2025「AIの発展を会社の競争力にする」:(1) 迅速なAI導入
当社では2025年度の技術戦略を「AIの発展を会社の競争力にする」と策定しました。本日は、当戦略において特に重要なポイントを抜粋してお話しします。まず1つ目は、迅速なAI導入です。メディア事業、広告事業、ゲーム事業を軸に、多様なプロダクトを展開している中で、各プロダクトが主体性を持って生成AIの活用にチャレンジしているのが当社の特長です。
現在、社内で生成AIを扱う施策やプロジェクトの数は52件。そのうち3割が業務効率につながるもので、7割が事業のアップサイドに貢献する取り組みでした。こちらでは、事業の成長や競争力につながった事例をいくつか紹介させてください。
広告事業
広告効果を高めることでシェアを拡大し続け、インターネット広告市場でトップシェアを誇るサイバーエージェントですが、様々なプロダクトにAIを活用しており、今回はその一部をご紹介します。
「極予測」シリーズでは、広告効果を事前に予測するAIと、生成AIによる広告素材の自動生成によって、広告効果を飛躍的に向上させています(参照:「『極予測AI』データサイエンティストに聞く『生成AIを活用した商品画像の自動生成機能で、広告クリエイティブ制作はどう変わるか』」)。生成AIの活用により、トップAIクリエイターの広告制作量は従来のクリエイターの最大15倍に。広告効果を高める大きな原動力の1つとなりました。
今、私も「極AIお台場スタジオ」で収録を行なっていますが、2023年にオープンしたこのスタジオは、LEDウォールや4Dスキャンなど最先端設備を備えています。「極予測AI」で広告効果を予測しながら広告を制作するという、新しい撮影プロセスを実践しているのが特長です。
また、新たに広告クリエイティブの審査にもAIを導入しました。すでに広告制作や配信、解析の領域でAIを活用していましたが、この度導入した「審査AI」により、高度な自動審査や企業独自のチェックを迅速に行えるようになりました。
メディア事業
新しい未来のテレビ「ABEMA」の事例を2つご紹介します。1つ目はAIナレーションです。現在、エンタメニュースを中心に月60本配信し、ニュース制作のさらなるスピードアップを実現しました。
2つ目は、現在開発を進めている、AIによる映像解析を搭載したクラウド編集システム「VMC」です。音声AIや映像AIを活用し、使いやすいインターフェイスを提供することで、ニュースやスポーツの映像から素早く簡単に記事執筆やハイライト制作が行えます。
ゲーム事業
ゲーム事業では、AIによるゲームバランス調整支援を行っています。カードゲームには膨大な組み合わせがあり、ゲームバランスを崩すカードがあっても、これまで人力で見つけるのは非常に困難でした。
そこで、膨大な組み合わせの中から有望なデッキを探す「デッキ探索AI」と、あらゆる状況で高速にプレイできる「カードゲームAI」を開発しました。他にも、AIを活用したサムネイル画像の制作支援やカスタマーサポート支援で成果が出ています。
このように当社では各事業が主体的にAI活用にチャレンジしておりますが、それぞれで得た学びを、社内向けの勉強会で全体に共有することで、グループ全体のシナジーを生み出しています。
技術戦略2025「AIの発展を会社の競争力にする」:(2) イノベーションの推進
私たちは「オープンイノベーション」と「クローズドイノベーション」をうまく活用しながら、イノベーションを推進しています。
オープンイノベーションにおける1つ目の取り組みは2016年に設立された、デジタルマーケティング全般に関わる幅広いAI技術の研究開発組織「AI Lab」です。現在約100名の研究者が在籍しています。
「AI Lab」の主な実績として、権威ある国際カンファレンスや国際査読誌で59本の論文が採択されました。また、45以上の大学や研究機関と連携しています。研究成果をプロダクトに導入し、多くの社会実装を進めているのが「AI Lab」の強みの1つです。
2つ目の取り組みは、独自の日本語LLM(大規模言語モデル)の一般公開です。「CyberAgentLM3」は、当社が開発した日本語特化型LLMで、2024年7月にOSSとして公開しました。外部企業によって公開されたLLM評価の特集において、日本勢でトップの評価をいただきました。
続いてクローズドイノベーションについてです。社内でも様々な取り組みを行っていますが、その中でも特にユニークな事例が、当社の持続的成長に欠かせない重要な経営会議として位置づけられる「あした会議」です。
「あした会議」を技術者向けに横展開した「CA BASE SUMMIT」では、毎年約50名の技術者がチームに分かれ、会社の未来に繋がる提案を代表取締役 藤田に行い、その場で決議を受けます。過去5年間で78案が決議されました。先ほどご説明した「生成AI徹底活用コンテスト」や「生成AI徹底理解リスキリング」も、当会議から生まれたものです。
また、主要なLLMを簡単に使える生成AIツール「Harmonica」も社内向けに開発しました。現在、OpenAIやGemini、Azureなど、17種類のモデルが利用可能です。
このようにサイバーエージェントでは、オープンイノベーションとクローズドイノベーションを組み合わせることで、さらなる発展を遂げてきました。特に技術進化の速いAI分野では、自前主義にこだわらず、外部のイノベーションも積極的に取り入れていきたいと考えています。
技術戦略2025「AIの発展を会社の競争力にする」:(3) 研究倫理・リスクマネジメント
AIを活用する際には、倫理的、法的、社会的リスクを理解し、それらを適切にマネジメントする必要があります。そのため、私たちは「研究倫理ガイドライン」を策定するとともに、「研究倫理審査委員会」を設置しました。同委員会では、健全な研究開発を推進するべく、公平で中立な審査を行えるよう、外部委員の方々を招聘しています。2023年度は6件、24年度は7件の審査と承認を行いました。この他にも、AI利用に関するガイドラインのアップデートや、社員へのリスキリング、法令遵守の徹底を通じて、リスクマネジメントに力を入れています。
技術戦略2025「AIの発展を会社の競争力にする」:(4) AI人材の育成
2024年より「生成AI徹底理解リスキリング」ではエンジニアを対象に、より専門性の高いプログラムを提供しています(参照:「東京科学大学情報理工学院 岡崎直観教授に聞く、企業におけるAI活用・AI人材育成のあり方」)。「生成AI徹底理解リスキリング for developers」では、LLMを活用してプロダクトに組み込むことを目的に、約2ヶ月間のeラーニングに加え、1日の開発合宿を実施しました。当プログラムを受講したエンジニアの約7割が、得た知見を業務で効果的に活かせていると回答しています。
また、「生成AI徹底理解リスキリング for MLEngineers」は、モデルの選定やデータの選択・収集、チューニングと評価のサイクルを推進できる人材を育成することを目的とし、約3ヶ月に及ぶオンライン講義とケーススタディを実施。高度な専門知識の習得を後押ししたほか、このプログラムを通じてエンジニア同士の交流を深め、社内コミュニティ作りのきっかけにしたいとも考えています。
現在2024年10月時点では、当社におけるAIを駆使できるエンジニアは約10%ですが、独自の育成目標を掲げ、今後3年間で80%まで引き上げたいと考えています
サイバーエージェントではAIを単なる技術として取り入れるだけでなく、持続的な競争力の柱として位置づけ、戦略的に活用します。変化の激しい時代だからこそ、当社らしく「自由と自己責任」をモットーに、スピード感を持って今後も挑戦し続けていきたいと考えています。
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