日本発エンタメを世界へ ネルケプランニング×BABEL LABEL社長が語る、グローバル戦略と未来図

技術・クリエイティブ

世界クオリティのプロダクト創出を目指すサイバーエージェント。今回は、2.5次元ミュージカルで海外進出を牽引するネルケプランニング代表 野上、映像制作で新たな潮流を生み出すBABEL LABEL代表 山田を迎え、両社のグローバル戦略、そして日本のエンターテインメントが世界を魅了する可能性について深く掘り下げていきます。
二人のトップランナーが描く、日本発エンタメの未来とは。その貴重な対談をたっぷりとお届けします。

アジアを足がかりに世界へ 両社のグローバル戦略

─ まずはネルケプランニングの海外展開のきっかけや、手応えについて教えてください。

野上:日本の2.5次元ミュージカルを海外の皆様にお届けしたいという一心で、私たちが最初に海外公演を行ったのは2008年。台北とソウルでのミュージカル『テニスの王子様』The Imperial Presence 氷帝 feat. 比嘉でした。
当時は前例のない挑戦で、大きな期待と未知への不安を胸に臨んだことを覚えています。
その後、海外への思いはさらに強まり、2014年に上海に現地法人を設立し、海外公演活動を本格化させました。

様々な経験を経て感じるのは、日本の漫画やアニメの面白さを舞台を通して直接体感していただきたいという強い願い。だからこそ、今も新たな挑戦を続けています。

近年ではアジア圏外へも積極的に展開しており、2024年10月にはニューヨークで「進撃の巨人」-the Musical-を日本人キャストで上演しました。世界中から原作ファンが集まってくださり、現地の物凄い熱気は今も忘れられません。  

―北米やイギリスでの“Pretty Guardian Sailor Moon” The Super Liveも大盛況ですね。

野上:おかげさまで本作には、親子で劇場に足を運んでくださるお客様も多く、日本のコンテンツが世代を超えて深く愛されていることを実感しています。

とくにコロナ禍で舞台が上演できなかった日々を経て、劇場の幕が上がり、作品が上演される日常がどれほど尊く、平和の象徴であるのかを強く感じています。“Pretty Guardian Sailor Moon” The Super Live や「進撃の巨人」-the Musical-のような日本発の作品が、その象徴の一端を担えていると考えると、本当に素晴らしいことだと思いますし、エンターテインメントの奥深さと喜びを感じています。

だからこそ、責任を持って日本のコンテンツを海外へ届けたいという思いが一層強くなっています。  

2025年2月~3月 ロンドン公演(右上)/2025年3月~4月 北米ツアー(右下)
2025年2月~3月 ロンドン公演(右上)/2025年3月~4月 北米ツアー(右下)

―BABEL LABELでは、国際プロジェクト「BABEL ASIA」の始動や、各社との戦略的提携など、世界へ向けた動きが活発化していますね。

山田: 「BABEL ASIA」は、日本発のコンテンツをアジア全体へ、そして世界へと発信していくためのプロジェクトです。
その第一弾となった日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』が、アジア全域で観客動員数280万人を突破するなど、大きな反響を呼んだことは、今後の展開への手応えとなりました。

Netflixとのパートナーシップも、私たちの作品を世界中の視聴者にお届けするための強力な後押しとなっています。
BABEL LABEL 藤井道人の監督映画『正体』がNetflixランキングにて世界3カ国でTOP10入りを果たすなど、その成果も感じています。 
※ Netflixランキング【週間映画TOP10(2025.1.27~2.2)】  

最近では、韓国のカカオエンターテインメントとの連携を通じて、藤井道人監督をはじめとする才能あるクリエイターが、グローバル市場を見据えた映像制作を積極的に展開しています。

さらに、プロデューサーのMEGUMIさんがカンヌ国際映画祭で「JAPAN NIGHT」を開催するなど、これまで遠い存在だった「世界」が、具体的な協力者や舞台として、より身近なものになっていると感じます。

―カカオエンターテインメントとのパートナーシップ締結も大きなニュースですね。

山田:同社は、原作IPの開発、人気俳優のマネジメント、ドラマや映画の制作まで、エンターテインメントに関わる全ての機能を備えた企業です。

サイバーエージェントグループに入って、強く目指すのは、日本のコンテンツを日韓・アジア、そして世界へと広げること。圧倒的なスケールと展開力を持つカカオエンターテインメントとの連携は、その目標を達成するための大きなチャンスだと感じています。

野上:BABEL LABELさんのような新しい視点やエネルギーこそ、これからの日本コンテンツのグローバル展開に不可欠だと常々感じています。

私はBABEL LABELさんが手掛ける作品はもちろんのこと、韓国ドラマも大好きで、制作技術や脚本構成にいつも感銘を受けています。だから今日こうして、その期待を直接お伝えできて嬉しいです。

実はひそかに韓国原作のウェブトゥーンを2.5次元ミュージカル化するというアイデアを温めており、日本と韓国のノウハウが融合したハイブリッド作品が生まれる日も近いかもしれません。  

   野上祥子     株式会社ネルケプランニング 代表取締役社長   大学在学中に劇団制作を経験し、1998年に株式会社ネルケプランニングに入社。同社制作の舞台やTVアニメ、イベントのキャスティングを担当し、2016年に社長に就任。2.5次元ミュージカルを中心に多ジャンルの作品を生み出し、本年4月からは関西エリアのFMラジオ局「 FM COCOLO 」にてラジオDJに初挑戦するなど常にチャレンジを続けている。1児の母。代表作はミュージカル『テニスの王子様』、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」、舞台「呪術廻戦」、劇場版アニメ「雲の向こう、約束の場所」(監督:新海誠)他。
野上祥子  株式会社ネルケプランニング 代表取締役社長
大学在学中に劇団制作を経験し、1998年に株式会社ネルケプランニングに入社。同社制作の舞台やTVアニメ、イベントのキャスティングを担当し、2016年に社長に就任。2.5次元ミュージカルを中心に多ジャンルの作品を生み出し、本年4月からは関西エリアのFMラジオ局「 FM COCOLO 」にてラジオDJに初挑戦するなど常にチャレンジを続けている。1児の母。代表作はミュージカル『テニスの王子様』、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」、舞台「呪術廻戦」、劇場版アニメ「雲の向こう、約束の場所」(監督:新海誠)他。

世界で愛される、日本コンテンツの普遍的な魅力

―世界市場における日本のコンテンツの強みは何だと考えますか?

野上: 日本の漫画やアニメを原作とする2.5次元ミュージカルの強みは、原作の精神を尊重し、それを丁寧に舞台化する点にあります。この真摯な姿勢が、IPの価値を高め、長く愛されることに繋がると信じています。

日本のクリエイターの細やかな表現力は、世界中の人々の心に響く可能性を秘めており、ネルケプランニングでは、原作の面白さや感動を深く捉え、舞台ならではの演出と融合させ、新たな感動体験を提供することを目指しています。

山田: 日本のコンテンツは海外からの関心も高く、質の高い作品は国境や世代を越えて広く受け入れられています。一方で、韓国コンテンツの躍進を見ると、日本ならではのオリジナリティをさらに追求し、その魅力を際立たせていく必要性を強く感じています。

先日韓国で、現地のプロデューサーや監督が、昭和の日本のドラマから多大な影響を受けたと話されていたのが印象的でした。
日本の丁寧な制作力と、コンテンツそのものが持つ普遍的な力は、世界に誇れる強みです。この強みを生かし、独自性のある作品を届け、新たなファン層を開拓したいですね。  

   山田久人     BABEL LABEL代表取締役社長   1986年生まれ。BABEL LABEL代表取締役社長。大手CM制作会社勤務後、BABEL LABELに入社。CMやMVのプロデュースから始めドラマでも『八月は夜のバッティングセンターで。』や『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』などをプロデュースし、映画『最後まで行く』では製作を担当。
山田久人  BABEL LABEL代表取締役社長
1986年生まれ。BABEL LABEL代表取締役社長。大手CM制作会社勤務後、BABEL LABELに入社。CMやMVのプロデュースから始めドラマでも『八月は夜のバッティングセンターで。』や『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』などをプロデュースし、映画『最後まで行く』では製作を担当。

―良質なコンテンツを生み出すために、制作現場で大切にされていることは何でしょうか?

野上:何よりも大切にしているのは、原作への深い理解と尊重です。舞台では、原作の最初のページを開く時のドキドキ感を、オープニングから追体験していただけるよう努めています。
舞台ならではの臨場感を追求し、観客の目線を想像し、原作者が本当に伝えたかったことを舞台上で表現する。原作へのリスペクトは、創業以来変わらないネルケプランニングの信念です。

山田: 私が大事にしているのは、社会の潜在的なニーズに応え、人々に感動や興奮といった普遍的な価値を提供できるかどうか、ということです。もちろん、作り手自身が情熱と自信を持って届けたいと思える作品であることも、すごく大切です。

クリエイターの独創性を尊重しつつ、時代の流れを冷静に見る客観性や、社会が求めているものを追求していく姿勢こそが、世界中の人に響く、本当に面白いコンテンツが生まれるのだと思います。  

高いクリエイティビティとチーム力の源泉

―お二人が培ってこられたクリエイティビティの高さは、どのような経験や考え方から生まれたのでしょうか?

野上:私のクリエイティビティの源泉は、常に「もしも?」と考える習慣です。日常のあらゆることに対して想像力を働かせ、多様な視点を持つようにしています。

ネルケプランニングとしては、「お客様の目線」で考えることを大切にし、演者もスタッフもお客様に最高の体験を提供することを第一に考えています。その結果、チーム全体がお客様ファーストとなり、クリエイティビティの幅も広がります。

山田:自分たちが本当に面白いと感じているか、まだ顕在化していないニーズを捉えられているかを、常にチームで深く掘り下げています。
BABEL LABELは、志を同じくする友人たちのつながりから始まり、一つの信念と夢を共有することで成長してきました。それぞれの強みを生かし、異なる意見も尊重し合える環境が基盤です。

野上:BABEL LABELさんの素晴らしい点は、友人同士という繋がりを持ちながらも、成長の軸が揺るがないことです。
個々の才能が集まり、組織として着実に力をつけている。友人でありながら、クリエイターとして互いを尊重し、社長を信頼する。その質の高い関係性が、素晴らしい作品を生み出す原動力になっていると感じます。

山田:ありがとうございます。私は、ネルケプランニングさんの演劇分野で確立されたビジネスモデルと多くの実績を大変尊敬しています。

収益性が高いとは言えない舞台の世界で、情熱を持って多くの人々を魅了し、ビジネスとしても成功している姿は、私たちの大きな目標です。

実は、グループ参画前から、ネルケプランニングさんの熱量と創造力に注目していました。アニメーションと比較して、実写コンテンツの海外展開には特有の困難が伴いますが、長年成功を収めていらっしゃるネルケプランニングさんは大先輩です。舞台ならではの観客との触れ合いはエンタメの究極の形だと感じていますし、ぜひ色々と教えていただきたいです。

野上:同じ志を持つ山田さんがグループにいてくださることは心強いです。これからも共に切磋琢磨し、世界に通用するコンテンツを生み出していきたいですね。  

―サイバーエージェントグループに参画されたことで感じる変化などはありますか?

野上:グループ参画後の最初の1年は、上場企業としてのガバナンスや経営体制について学ぶことに注力しました。2年目に入り、クリエイティブでお客様をワクワクさせるもの、シナジーのある事業を模索する段階に進んでいます。

アニメ事業の強化や「ABEMA」との連動、IP横断的に仕組み化、相互出資・コラボ事業の構築など、新たなムーブメントの土台ができつつあると感じています。
これまで個別に動いていた点が線、さらに面へと広がる予感があります。

山田:グループに加わったことで、より大きなネットワークの中でコンテンツを展開できる可能性を実感しています。「ABEMA」を通じた企画や配信、宣伝部との連携など、従来の映像制作会社だけでは困難だった領域に視野が広がりました。

ドラマや映画だけではなく、サッカーやプロレスなど他のエンターテインメント領域とのクロスオーバーや、グループ内での新たな出会いから生まれる未知の可能性にも期待しています。現時点ではまだ“芽”の段階ですが、近い将来、グループ横断で新しいコンテンツやIPシナジーが生まれる手応えを感じています。
 

日本発のコンテンツ、世界へ新たな潮流を拓く

―両社のさらなる飛躍、そして今後のグループシナジーが楽しみです。では最後に、グローバル戦略における展望をお聞かせください。

山田: 世界市場への展開は一朝一夕に成し遂げられません。私たちは一歩一歩、着実に信頼と実績を積み重ね、「日本のドラマや映画が、もっと、世界へ届く」未来を切り拓きたいと考えています。

日本独自の丁寧で誠実な制作スタイルを堅持しながら、最新テクノロジーも積極的に取り入れ、進化し続けるコンテンツスタジオとして日本の映像作品が持つ普遍的な魅力を世界中に広げていきたい。
そして、この挑戦を通じて、エンターテインメント業界に新たな可能性を示していきたいと思っています。

野上:ネルケプランニングも、日本の2.5次元ミュージカルを世界に広げることに情熱を注いでいきます。そのために「インバウンド」と「アウトバウンド」の両方に力を入れています。

海外進出では、作品をローカライズし現地のキャストやスタッフで上演すること、そして訪日観光客向けには、観光の合間に立ち寄れる新たなスポットを作りたいと考えています。憧れのキャラクターに会えたり、質の高いショーを楽しめる場を提供し、訪日客の特別な思い出となるエンターテインメントを目指します。

そのためには、国内でしっかりとした基盤を築くことが不可欠。国内外問わず同じ熱量で取り組み、一歩一歩前進していきます。

リアルな舞台でお客様の反応を直接感じることで、新たなアイデアや次の挑戦へのヒントが生まれます。これからもグループや業界の仲間と手を携え、世界に通用するエンターテインメントを育てていきたいと考えています。  

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