「AI Worker」と自律型AIエージェントが実現する 人とAIが協働する世界とは?

技術・クリエイティブ

(株)AI Shiftが提供する企業専用のAIエージェント構築プラットフォーム「AI Worker」は、2025年3月のリリース以来、大手商社をはじめ多くの企業で導入が進んでいます。その中で、AI プラットフォームを円滑に導入するためのコンサルティングや技術支援へのニーズも急速に高まっています。本記事では、「AI Worker」開発を牽引する同社CTOの青野とCAIOの友松の2名に、AIエージェント開発の背景から導入事例、業務効率化で得られた具体的成果、さらにはAI技術がもたらす働き方の変化について聞きました。また、「AI Worker」を通じて明らかになった市場ニーズと今後の展望についてもお届けします。

Profile

  • 青野 健利 (株)AI Shift 執行役員 CTO
    2011年サイバーエージェント入社。広告配信システム開発、広告トラッキングシステム開発、タグマネージメントサービス開発等に従事。またOSS活動として、Google社のV8 Javascript Engineの改修実装を行い、Google Chrome・MS Edge・Nodejs等のjavascript実行速度の改善等を実施。フロントエンド領域を専門とし、AI Shiftの執行役員CTOとして技術面で事業を支える(株)AI Shiftの創業メンバー。

  • 友松 祐太 (株)AI Shift 執行役員 CAIO
    2018年サイバーエージェント新卒入社。コールセンター向けAIエージェント「AI Messenger Voicebot / Chatbot」の開発に携わり、その後「AI Worker」の研究開発に従事。テキスト・音声対話を中心としたAIエージェントのロジック開発や、大学との共同研究を推進するデータサイエンスチームのリーダーを務める。AI Shift創業メンバーで、2024年10月より同社執行役員Chief AI Officer(CAIO)に就任。

「AI Worker」リリースが映し出した市場ニーズと、自律型AIエージェント開発の流れ

── 2025年3月にリリースした「AI Worker」について、クライアント企業からのフィードバックや反響をぜひお聞かせください

青野:リリース以降、大手商社をはじめとして「AI Worker」の採用事例が増えています。あわせて「これからAIプラットフォームを本格導入したい」というクライアント企業からの問い合わせも急増していて、中でも「AI Worker」への関心は非常に高まっています。

当社サービスの大きな特徴は、AIプラットフォームを円滑に導入するためのコンサルティングをセットで提供している点です。お客さまの業務課題やデータ環境を詳しくお伺いし、そこからAIプラットフォーム活用のロードマップを策定します。そのロードマップに沿って、「AI Worker」をはじめとしたAIプラットフォームをワークフローに浸透させていくのが、当社のサービスの特徴です。

友松:その「AI Worker」を支える2つの柱の1つが、開発当初から採用している「ワークフロー型AIエージェント」です。この機能は、人間が設計したワークフローに基づいてノードを組み合わせ、大規模言語モデルや検索機能を各ステップに適用しながら、業務を自動化する機能です。明確な手順を自動化したいタスクに最適で、安定した業務効率化を実現します。

そして、リリース後のユーザーヒアリングや運用時のフィードバックを受けて開発した機能が、もう一つの柱である「自律型AIエージェント」です。人間から与えられた業務課題をAIが自ら分析し、タスクを消化していくのが「自律型AIエージェント」の特徴です。人間と対話しながら、次に取るべきアクションを自律的に判断しますので、複雑で不定型なタスクにも柔軟に対応可能です。

これら二つのAIエージェントを用途に応じて使い分けることで「AI Worker」は「定型的な業務の自動化」と「高度な意思決定を伴う業務支援」の両面をカバーできるプロダクトとなっています。

── ニュースでも話題の「AIエージェント」ですが、実際に何ができるのかイメージしづらい印象もあります。そんな中、「AI Worker」ではAIエージェントをプロダクトに組み込み、クライアント企業の課題解決に活用しています。企業のビジネスシーンでどんな効果を生み出しているのか教えて下さい。

青野:「AI Worker」が目指しているのは、企業の定型業務やビジネスプロセスの、自動化・最適化です。「AI Worker」は一般的なSaaS製品とは異なり、クライアント企業の業務フローごとにAIエージェントをカスタマイズできる点が最大の強みです。

具体的なイメージとして、表計算ソフトのように日常業務で欠かせない存在になることを目指しています。ただし、従来の表計算ソフトとは異なり、実際に操作する時間は大幅に短縮されます。
例えば、これまで1回8時間くらいかけていた作業が15分で終わるようなイメージです。朝に「AI Worker」にタスクを依頼し、その間に自分の本来の仕事に専念。昼休憩を終えた頃には完了報告が届いているといった使われ方を目指しています。

「AI Worker」導入事例が示す、企業競争力強化のカギ

── AIプラットフォーム導入を成功させるために、クライアント企業側では、どんな準備や受け入れ体制が必要でしょうか?

青野:AI導入で重要なのは、解決すべきビジネス課題を明確にすることです。長年の運用や大規模な組織になるほど「誰が、どの業務の、何の問題を解決するのか」「組織課題に対して、どんなソリューションで解決に挑み、何をもって成功とするのか」を定義するのも難しくなります。

また、業務フローやユースケースが企業ごとに異なるため「AIに何でも任せられる状態」を目指そうとすると、導入や運用のハードルが一気に高くなりがちです。

当社が導入前のコンサルティングを重視するのはこのためです。まず各業務を細かく切り出し、現場の課題を丁寧に把握し、ソリューションを提案します。

重要なのは「AIを導入すること」自体ではなく、複数の業務を線で結んで課題を解決し、確実に業績向上やコスト削減につなげることです。

── 受け入れるクライアント企業においても、従業員のスキル向上や意識改革も必要になりそうですね。

友松:もちろん、従業員のスキル向上や意識改革も欠かせない要素となります。当社では、サイバーエージェントの社員99.6%が受講した「生成AI徹底理解リスキリング」の講義資料やノウハウをもとに、クライアント企業にも同様の研修プログラムを提供しています。

これまで7,500名以上の方に受講していただき、非常に高い満足度をいただいています。AIの活用が進む中で、組織全体でのスキルアップが競争力の維持・向上において重要な要素になると考えています。そのため、自社での成功体験に基づいた体系的な人材育成プログラムを通じて、企業の変革をサポートしています。

── 企業がAI導入を検討する際、数多くの業務の中から、どの領域にAIを導入すべきか判断に迷うケースが多いと思います。導入しやすい業務の見極め方など、具体的な基準やアプローチを教えてください。

青野:まず押さえておくべきなのは、「自動化」や「工数削減」だけを目標に据えると、本来の目的を見失ってしまうことです。「トータルで◯時間の業務を削減できた」という実績を追いかけるあまり、その先にある売上や業績への貢献が不透明になりかねません。AI導入の真価は、「業務時間を短縮する」ことそのものではなく、その先にあるビジネス的成果を生み出せるかどうかにあります。

そこで私たちが進めているのは、「明確に定義されたKPIをもとに業務フローを設計し、その達成度をきちんと検証する」という方法です。

── AI導入を進める上で、データの整備や既存業務のワークフロー見直しは避けて通れない課題だと思います。多くの企業では、データが散在していたり、現行の業務プロセスがAI活用に適していないといった問題を抱えているのではないでしょうか。こうした基盤整備にはどのように取り組むべきでしょうか?

友松:まず取り組むべきは、社内のあらゆる情報を一元化し、散在しているデータをクレンジングしていくことです。CRMやERP、各種スプレッドシートなどで同じデータが複数保存されていないか、フォーマットは統一されているかを確認しながら、不要な重複を削除し、品質を担保していきます。このプロセスを軽視してしまうと、AIはノイズを含むデータを参照してしまい、本来の価値が引き出せません。

並行して、現行の業務フローを可視化する作業が必要です。現場担当者とともに業務における一連の流れを整理し、どこに非効率や重複があるかを見つけ出します。可視化によって、AIを組み込む最適なポイントや優先的に整備すべきデータが明確になります。重要なのは、As-Isの業務フローの一部を置き換えるのではなく、本質的な業務のTo-Beを描き、その中で業務プロセス自体を見直すべきポイント、AIを組み込むべきポイント、システム連携によって効率化すべきポイントを明確化することです。

そして、この段階で「いつ、どの業務にAIを活用するか」が定まると、AIがアクセスしやすいデータパイプラインを構築できるようになります。たとえば、受注情報をデータベース化し、次に必要な見積書作成や請求書発行のワークフローに自動的に連携させるといった仕組みです。こうしてプロセスごとにデータの流れを整理し、AIモデルがリアルタイムに利用できる環境を整えます。

「AI Worker」では、データ集約・クレンジングから業務フローの再定義、パイプライン構築までを伴走型で支援しています。最初にお客さまと一緒に「今ある業務のどの部分をAIに置き換え、何を目指すのか」を細かくヒアリングし、そのうえで必要なデータ整備とフロー設計を進めていきます。こうして基盤をしっかり固めたうえでAIを導入することで、「期待した結果が得られない」といったリスクを大きく軽減することを可能にしています。

人とAIの協働の実現。AIエージェント普及で変わる働き方。

── 「AI Worker」の導入によって、今後どのような業務領域が変化し、働き方はどう変わると考えますか?

友松:注意すべきは、AIとエンジニアリングはあくまで役割を分けておくことです。たとえば配車業務のように、精密なアルゴリズム設計や制約条件に沿った最適化が必要な領域では、引き続きDXなどのエンジニアリングが不可欠です。

一方で、自律型AIエージェントが真価を発揮するのは、これまでルール化しづらかった業務です。営業やカスタマーサポートのように、企業や担当者ごとに判断基準が異なる領域では、「誰がどんなルールで対応しているのか」が共有しにくく、どうしても属人化してしまいがちです。

しかし自律型AIエージェントと対話を重ねることで、現場に散在していた暗黙知やバラバラの運用ルールを整理し、業務フローに落とし込むことができます。その結果、これまでトップセールスマンだけが持っていたノウハウをチーム全体で活用できるようになる。こうした変化によって、組織全体の底上げが期待できます。

また、「AI Worker」を継続的に利用すると、業務ナレッジやドメイン知識がプラットフォーム内に蓄積されるという大きなメリットがあります。たとえば営業活動であれば、これまでは取得しづらかったオフラインの商談結果や会議の詳細などもエージェントを通じてデータ化されます。長く運用していくことで、よりAIプラットフォームとしての利用価値や効果があらわれると考えています。

── 最後に。変化の早いAI関連において、AI Shiftのエンジニアが意識している姿勢や考え方も教えて下さい。

青野:AI関連は技術の進化が極めて速いため、新しい技術をフラットに捉える視点がますます重要になります。プロダクトへの愛着を持ちつつも、目の前の製品や機能、UIがいつまでも使い続けられる保証はありませんし、数カ月後には開発したものの多くが不要になる可能性もあります。

そうした目まぐるしく発展するAI技術の潮流の中で、常に最新動向をキャッチアップし、「開発するプロダクトが、お客様にどのような価値や利益をもたらせるか」を第一に考えるマーケット的な視点が、AI Shiftのエンジニアに求められています。

AI Shiftの掲げるミッションは「人とAIの協働を実現し、人類に生産性革命を起こす」です。まずは「AI Worker」を通じてAIエージェントが業務に自然と溶け込み、人間がより創造的・戦略的な仕事に集中できる未来を目指します。その先にある生産性革命に向けて、「AI Worker」の次のプロダクト開発にも注力したいと思います。

お知らせ

AI Shiftはこのたび、世界的なAI企業のリーダーをお呼びして、これからの新たな競争力となるエンタープライズ向けのAIエージェントについて語り尽くす「AI Shift Summit」を2025年6月23日、Abema Towersにて開催いたします。
本サミットでは、AIエージェント革命の最前線で活躍する世界的リーダーたちが一堂に会し、人間とAIの新たな協働モデルに挑む企業だけが語ることのできる、真のエンタープライズAIの未来を提示します。

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