サイバーエージェントグループ技術経営のコア「変化対応力」を推進する、3つのエンジン
2023年6月28日、29日の2日間にわたり、サイバーエージェントグループのエンジニア・クリエイターによるテックカンファレンス「CyberAgent Developer Conference 2023」を開催しました。進化しつづけるサイバーエージェントの技術と総合力のカンファレンスとして「Always Fresh」をテーマに、AI・インフラ・バックエンド・SREネイティブ・フロント・3DCG・クリエイティブなど様々な領域において約50のセッションをお届けしました。
こちらでは、基調講演の中から常務執行役員(技術担当)長瀬慶重の発表の様子をお届けします。
サステナブルな成長を描くサイバーエージェント
当社は2006年に「技術のサイバーエージェント」を掲げて以降、技術力の強化に取り組み、変化の激しい業界の中でも持続的な成長を実現する「技術経営」を追求してきました。「変化対応力を推進する3つのエンジン」と題し、特に大事な3つのポイントについてお話したいと思います。
成長産業であるインターネットを軸に、時流に合った事業を展開してきた当社では、2021年にパーパス「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」を新たに発表しました。テクノロジーとクリエイティブを会社の競争力と捉え、今後さらなる進化を遂げていきます。また、変化が激しい業界において、大きな企業買収を実施することなく、創業以来25期連続での増収を実現しています。
サイバーエージェントの成長戦略の要は「挑戦」です。既存事業が好調なうちに、インターネット産業の進化に合わせた新規事業への先行投資を強化し、新たな事業を次の柱に成長させることで、持続的な成長を実現してきました。
インターネット業界は実に変化に富んでいますが、コロナ禍で市場環境はさらに大きく変わり、多くのビジネスチャンスが生まれました。情報やエンタメなどのコンテンツ消費も様変わりし、デバイスやクラウド、AIなどの技術の発展も目覚ましく、数年先の未来を正しく予測することも難しい状況です。このような環境下で私達は「変化対応力」を競争力にすべく、「創出力」「技術力」「人材力」に磨きをかけてきました。「変化対応力」と「技術力」にフォーカスして、本日はお話します。
【変化対応力を推進するエンジン(1)】イノベーションの推進
変化対応力を推進する3つのエンジンとして、「イノベーションの推進を継続的に実現する仕組み」、「開発総合力」、「オーナーシップ・カルチャー」が挙げられます。まず、1つ目のエンジンであるイノベーションの推進を継続的に実現する仕組みについてお話します。
イノベーションの推進を継続的に実現する仕組みの1つが、「あした会議」です。これまでに累計37社の子会社設立を決め、それら新規事業から累計売上高約3,639億円、営業利益約497億円を創出しました。部門や職種の垣根を超えて会社の未来のために知恵を絞ることで、ビジネス・テクノロジー・クリエイティブの観点でとらえた機会やリスクへの対処を捻り出すことができます。
また、エンジニア・クリエイターが中心となって実施する、「技術版あした会議」も毎年実施しています。技術者版あした会議では、1. 最新技術を利用した新たな価値創造、2. サステナブルな成長を実現する組織、3. グループ内の技術資産の最大化、この3点を推進するアイデアをはじめ、現場が直面するクリティカルな組織課題の解決策も提案されるのが特長です。このように、「事業」と「技術」の2つの側面で継続的にイノベーティブなアイデアを捻り出す機会が、当社では経営のサイクルとしてしっかりと組み込まれています。
また、イノベーションの推進を行う上で、「技術経営」と「専門技術」の両輪を伸ばすことが重要です。技術が企業の競争力に直結する時代になった現在、「技術経営」の重要性は一層増しており、事業領域の拡大に連動して、組織能力としての「技術経営」をスケールさせる必要があると考えています。事業領域が多岐にわたり事業の数も増えると、中央集権的な意思決定でその多くを賄えなくなるからです。
そのような背景の中で、2022年「主席認定制度」を導入いたしました。テクノロジー及びクリエイティブ領域において、極めて高い専門性を有し、当社に大きな貢献をもたらしている特別な人材を処遇する制度です。
また、日々進化する技術を最先端でキャッチアップし、事業に還元するサイクルを創ることは企業の競争力に直結することから、専門技術の強化にも注力しています。「Developer Experts制度」では、当社が注力する技術領域に対してエキスパートを育成し、業界をリードする技術組織を目指しています。現在特定の分野に抜きん出た知識とスキルを持つ11名が存在しており、社外には公開していないものの、次期エキスパートとして10名以上の技術者が活動を行っています。
さらに、2016年に設立した、デジタルマーケティング全般に関わる幅広いAI技術の研究開発を行う「AI Lab」では、権威ある国際学会や論文誌において多数の論文が採択されており、2022年の実績では査読付き論文採択数は約50本。AI研究と社会実装に意欲的な大学・研究機関と様々な研究領域で産学連携も行っており、その数は約25に及びます。
極シリーズを始めAI広告クリエイティブ領域で基盤モデル開発に取り組み、LLMでは130億パラメータまで開発を完了しプロダクトへ社会実装しています。2023年5月には国内のAI技術発展に貢献するため、最大68億パラメータのLLMも一般公開しました。
最後にご紹介するのが、「Tech DE&Iプロジェクト」です。2008年にエンジニアとして新卒入社した神谷優をTech DE&I Leadに任命し、最優先課題であるジェンダーギャップ解消に取り組んでいます。まず最初に注力したのがリテラシー教育で、全エンジニア対象の「IT業界ジェンダーギャップ勉強会」、マネージャー以上対象に「無意識バイアスワークショップ」、新入社員向け「DE&I研修」を開催しました。
多くの技術者から反響があり、一人ひとりの意識が変わっていく手応えを感じました。今後も継続的にリテラシー教育に取り組み、意識の変化から行動の変化に繋げていきます。
また、IT分野のジェンダーギャップの解消を目指す、特定非営利活動法人「Waffle」の活動を支援しています。スポンサーとしてだけでなく、メンターや講師の派遣や育成プログラム、女子大学でのキャリア講演会などを実施しています。
【変化対応力を推進するエンジン(2)】開発総合力
続いて、2つ目のエンジンである開発総合力についてお話します。
開発総合力とはアイデアを実現する力のことで、競争が激しい市場においては、「最高か最速」が成功を左右すると言えます。この開発総合力は、個人の技術力とチームの開発力の掛け算で高めることができると考えています。
個人の技術力について重要なのは採用と育成です。この3年間で当社のエンジニアは1.4倍に増えたものの、その分社内のジョブグレードにおいて、ハイレイヤーの比率を高めることができました。開発総合力を高める上で、組織の拡大と能力密度の向上を同時に実現することが大事ですが、当然一朝一夕で叶えられるものではありません。一人ひとりのミッション設計と育成計画に向き合う組織文化の重要性を改めて学んだ3年でした。
当社のエンジニアは新卒入社とキャリア入社がほぼ半々で構成されていますが、ニーズの拡大に伴い、この5年で新卒採用人数は48名から80名と1.6倍に増えました。これら新卒採用エンジニアの入社後のパフォーマンスについて、私達が設定した全ての評価項目を改善することができたのですが、大小様々な施策を実施した中で特に大切なものを3つご紹介します。
1つ目は採用基準のアップデートで、これまで「能力の高さより一緒に働きたい人を集める」ことに重きを置いて採用を進めてきましたが、これに加えて再現性のある人材の発掘を目的に、入社後に伸びる技術者の共通点を調査しました。その結果、技術への好奇心、やり切る力、チームワーク、オーナーシップの4つの共通点が大事だと分かり、これらを新たな採用基準に加え、新卒採用の質を年々高めています。
2つ目はエンジニア向け評価制度の刷新です。13段階のジョブグレードとグレード毎に求められる職務、職能のキャリアラダーを作成しました。特に工夫したのがグレードに対して職務と職能の重みをつけた点で、ハイグレードほど職務の重みが増します。短期中期の視点で目指せるものができたことで、成長角度の加速とエンジニアの定着に繋がったと感じています。評価制度は会社からのメッセージだと考えているため、キャリアラダーを作成する際にはオーナーシップ、フォロワーシップの2つを技術力と同レベルで評価することにしました。元々当社の企業文化の根底にあり、組織に根付いていた価値観ではあるものの、改めて1人ひとりのコンピテンシーが強化されたと感じています。
一方、チームの開発力はチームの開発生産性と捉え、その強化に取り組みました。これまで当社グループでは、チームの開発生産性に関して体系的な見える化ができておらず、2022年の「あした会議」で開発生産性向上を推進する全社横断プロジェクトを決議しました。このプロジェクトを通して開発生産性向上を文化として根付かせ、事業競争力に繋げたいと考えています。
まずは当社グループのメディア事業、ゲーム事業、広告・DX事業を展開する80プロジェクトを対象にFour Keysに関するデータ収集を行いました。その結果、デプロイの頻度、変更のリードタイム、変更障害率は比較的高いパフォーマンスであることが判明しました。これまで開発チームにおけるパフォーマンスの見える化を進めていなかったため、初見ではありましたが想定より高く、安堵しました。
さらに、 DevOps Research and Assesment (DORA) チームが提唱する「DevOpsの能力」から7カテゴリー計40項目を独自に抽出し、ケイパビリティ評価を実施しました。例えば、継続的デリバリではデプロイにて作業が介在しないか、テストにおいてはテストが開発プロセス全般にわたって、継続的に自動的に行われているか等です。
その結果、トランクベース開発やテストで伸びしろがあることが分かりました。具体的に見てみると、コードの同期的なレビューを行っているかについては低い結果となりました。小さい単位でコードレビューを繰り返し実施することで、コンフリクトが解消され開発速度の向上が期待できます。また、各事業ドメインごとの課題も顕在化したので、各ワークショップや社内Meetupを開催し、継続的な改善ループを機能させていければと考えています。
【変化対応力を推進するエンジン(3)】オーナーシップ・カルチャーの醸成
最後に3つ目のエンジンである「オーナーシップ・カルチャー」についてお話します。オーナーシップ・カルチャーを醸成するには、技術者による自主性と責任感を持った創造性の発揮、変化への柔軟な対応、包括的な取り組みの積み重ねが欠かせませんが、その上で最も大事なことは、機会と裁量です。自分が担当するサービスをもっと良くしたい、所属するチームをもっと良くしたいと思った時、自ら提案し実行できる環境が重要です。そして、そのような模範的な行動に対ししっかり評価することで、機会と評価の好循環を回す必要があります。
「自由と自己責任」をベースに、本人のWillやポジションに合わせた様々な機会と裁量を与え続けるべく、「キャリアエージェント」や社内異動公募制度「キャリチャレ」など、様々なキャリア支援を拡充してきました。社内ヘッドハンター組織であるキャリアエージェントは年間1,000件にも及ぶ面談や、「GEPPO」を通じて社員一人ひとりのキャリアの希望や中長期的な志向を引き出す一方、動画コンテンツや求人サイトでは社内のポジションニーズの可視化に努めています。
加えて、当社では「挑戦と安心はセット」と掲げ、技術者向け支援制度をはじめ、安心して働けるための様々な制度を用意しています。挑戦と安心はそれぞれ相互に作用するもので、両方を高めるには工夫が必要です。安心して働ける環境づくりにもこれまで以上に取り組んでいきます。
これからの展望
一言で言えば、本日お話した3つのエンジンである「イノベーションの推進」、「開発総合力」、「オーナーシップ・カルチャー」を継続的に磨き続けることですが、中期的には会社の成長と共に組織が拡大しても能力密度を高め、開発総合力を高めていくことを目標としています。持続的に向上する仕組みに磨きをかけ、またこのような機会でご紹介できればと思っています。さらに、AI技術の社会実装をはじめ、最新技術を新たな価値創造につなげる動きもより一層強化してまいります。
2006年に「技術のサイバーエージェント」を掲げてから、事業拡大と共に「技術経営」に取り組んできました。その中でも本日お話した変化対応力を推進する3つのエンジンは当社の「技術経営」のコアと考えています。今後どれほどの規模になろうとも、技術者一人ひとりの主体性と創造性が発揮できる組織風土を醸成し、変化を楽しめる開発チームを作っていければと考えています。
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多くの著名なクリエイターを輩出している日本大学芸術学部(以下:日藝)と共同で、未来のクリエイターのためのビジネス視点を養うための産学連携講座「芸術総合講座Ⅳ コンテンツビジネス実務」を実施いたしました。この記事では、共同で実施した背景や実施内容について、本講義の責任者である日藝 加藤准教授と、Ameba事業本部責任者下山に話を聞きました。