事業の最前線で研究を研ぎ澄ます。産官学の壁を超えるクロスアポイントメント制度で拓く、AI Labでの新しいキャリア
産官学の枠を超えた研究活動を推進するため、文部科学省・経済産業省が取りまとめてきた「クロスアポイントメント制度」。今、この制度が改めて注目を集めています。
契機となったのは、2024年に開始されたJST(科学技術振興機構)の若手研究者支援プログラム「BOOST」※1です。次世代AI分野の研究を強力に後押しするこの施策において、当社の研究開発組織「AI Lab」は、次世代AI分野の研究環境が充実した研究機関として、研究者の受け入れを行っています。
大学や研究機関にはない事業課題や実データに触れることで、研究者のキャリアにはどのような変化が起こるのでしょうか。実際に制度を活用しAI Labで活躍する3名の研究者に、研究の最前線とビジネスの現場を跨ぐ働き方の「リアルな実態」と「本音」を語り合っていただきました。
※1:BOOST(若手研究者支援):国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業。若手研究者がクロスアポイントメント制度を活用し、次世代AI分野の研究環境が充実した研究機関において行う研究開発を支援
目次
研究と社会を制度でつなぐ。民間企業唯一のBOOST受入体制整備済み機関「AI Lab」の挑戦
「プロ同士の対等な議論」と「事業視点での評価」が、研究者としての市場価値を最大化する
論文の「外」にあるリアルな問い。事業の切実なニーズが研究を研ぎ澄ます
Profile
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本田康平(名古屋大学 大学院工学研究科 助教 / AI Lab)
2024年名古屋大学 工学研究科 博士後期課程を修了。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員を経て、2024年12月より名古屋大学 工学研究科助教として機械学習を用いたロボットの自律走行、特に自律移動ロボットの知能化を研究。同月、AI Labにクロス・アポイントメント入社。AI LabではActivity Understandingチームに所属し実店舗というリアルな環境でのサービス展開を目指す応用研究に取り組む。 -
松原崇(北海道大学 大学院情報科学研究院 教授 / AI Lab)
2015年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了。2024年より北海道大学大学院情報科学研究院教授として深層学習と数理モデリングの融合を研究。若手研究者支援プログラム「BOOST」採択を受け、2025年、AI Labにクロスアポイントメントとして入社。AI LabではGenerative Mediaチームにて、最先端の生成AI技術の事業価値転換と社会実装に向けたモデル開発に取り組む。 -
園田翔(理化学研究所 上級研究員/ AI Lab)
2017年に早稲田大学大学院先進理工学研究科博士後期課程を修了。2018年より理化学研究所革新知能統合研究センターにて深層学習理論を研究。若手研究者支援プログラム「BOOST」採択を受け、2025年、AI Labにクロスアポイントメントとして入社。AI LabのAlgorithmsチームにて、「AIによる数学定理の証明」に関する研究テーマに取り組む。
研究と社会を制度でつなぐ。民間企業唯一のBOOST受入体制整備済み機関「AI Lab」の挑戦
―クロスアポイントメント制度とは
クロスアポイントメントとは、経済産業省や文部科学省などが連携して推進する国の制度です。研究者が大学や研究機関・民間企業など複数の機関と雇用契約を結び、それぞれの責任の下で業務を行う働き方を支援する制度で、研究者が組織の壁を越えて活躍することで、技術の橋渡し機能が強化されることが期待されています。
AI Labでは、本制度の重要性にいち早く着目し、現在、大学・研究機関から7名の研究者が当社に入社しており、当社からも1名の研究者が研究機関へクロスアポイントメントで入所しています。またJST(科学技術振興機構)が実施する、クロスアポイントメント制度の活用を前提とした若手研究者支援プログラム「BOOST」においては、プログラムが開始された2024年度から現在に至るまで、AI Labが民間企業で唯一受け入れ体制が整った機関として掲載されるなど、国内でも先駆的な産官学連携の場となっています。
今回は、当社にクロスアポイントメントとして入社し、AI Labの最前線で活躍する3名の研究者の実際の声をお届けします。
「プロ同士の対等な議論」と「事業視点での評価」が、研究者としての市場価値を最大化する
―本務先での研究を継続しながら、なぜ「クロスアポイントメント制度」を使って外の世界に踏み出そうとしたのか、その動機を教えてください。
本田:大学に留まるだけでは得られない実戦的なスキルを身につけ、自分自身のユニークさを確立したかったからです。大学教員は教育者としての役割が大きく、研究も学生指導が主軸になりがちです。若いうちにプロ同士が対等に成果を追求する現場に身を置き、民間ならではのスピード感や手法を吸収することで、他の研究者にはない独自の市場価値を築きたいと考えたことがきっかけです。
松原:前提としてJSTが実施するBOOSTの採択がきっかけではありますが、私にとっては研究者としての成長戦略という意味合いが大きかったです。今のAI分野は進化が凄まじく、大学の研究室という慣れ親しんだ環境に留まるのではなく、常に最新の知見に触れ続けられる「情報の最前線」に身を置きたいと考えました。強制的に外部の刺激が入る環境が必要だと感じたことが大きかったですね。
園田: 私もきっかけは松原さんと同じくBOOST採択です。私の専門は機械学習ですが、10年以上同じ領域で研究を続けるなかで、全く異なる文化圏への越境が必要だと感じていました。というのも、今日のAIの主要な機能である「推論」は、機械学習ではあまり扱われてこなかったためです。また、AIのフロンティアが産業にシフトしているという肌感覚もありました。そのためBOOSTの研究課題(AIによる定理証明)を遂行する場所として、アカデミアではなく、あえて異なる視点を持つ組織に片足を置くことで、自分の技術を新しい視点で捉え直し、キャリアを多層化したいと考えました。
―数ある研究機関の中で、「AI Lab」を越境の地として選んだ理由を教えてください。
本田: AI Labでは、専門性の高いプロ同士が対等にタッグを組んでプロジェクトを進めています。同じ目線で純粋に研究成果や社会実装のために議論し尽くせる環境は、一人の研究者として非常に貴重だと感じました。
また最大の理由は、「尊敬できるロールモデル」の存在です。以前から知り合いだったAI Labのシニアリサーチサイエンティストである米谷竜さんから紹介を受けたのもきっかけでした。米谷さんのように自ら手を動かしつつチームをまとめるプレイングマネージャーとしての立ち回りは大学ではなかなか学べないものだと感じ、そのマネジメント力を間近で吸収できることは、自分の将来のキャリアにとって大きなプラスになると確信しました。
松原: 大学では得られない同分野の専門家と深くディスカッションできる環境があることが決め手でした。大学の学科組織は教育的な観点から幅広い専門領域を網羅する構成のため、特定の分野を深く追求している専門家が周囲に自分一人だけ、という状況も珍しくありません 。一方、AI Labのチームには近い領域のリサーチャーが多く集まっており、同業者だからこそ通じる議論の解像度が一気に上がる環境がある。そこに大きな魅力を感じました。
園田: 他の研究機関や大学に参画する選択肢もありましたが、あらためて自分の研究をどう展開すべきか考えたとき、研究活動における評価の軸を変えてみたいと思ったんです。本務先の理化学研究所を含め、アカデミアの文化や評価基準はある程度想像がつきます。だからこそ、あえて全く異なる事業に近い視点で自分の研究を捉え直したいと考えました。自分の技術を生かして、いい意味で無茶をするなら、実質的にサイバーエージェント一択でしたね。
論文の「外」にあるリアルな問い。事業の切実なニーズが研究を研ぎ澄ます
―大学や研究機関と事業会社では、研究に対する向き合い方にどのような違いを感じますか?
本田: 明確な違いがありますね。大学は「教育+研究」が目的であるのに対し、企業は「事業+研究」が目的になります。大学では中長期的な視点でテーマを設定でき、じっくりと腰を据えて探究を行う一方、企業は事業に紐づいているため、この技術がどう価値を生むかという視点がよりシビアに、かつスピーディーに求められます。
松原: 教育の話と繋がりますが、組織としての役割の優先度の違いは大きいですね。大学は次世代を育てる教育機関としての側面が強く、教員は研究者であると同時に、教育者・そして組織運営を担う一員としての多角的な役割を全うすることが期待されています。一方でAI Labは、事業会社でありながら「研究そのもの」が組織の核に据えられています。自身のエネルギーを純粋に研究へと注ぎ込むことができる、そのスタンスの鮮明さには驚かされました。
園田:お二人の話しに共感します。所属チームにも事業部とコラボしているメンバーがいますが、彼らの報告を聞いていると、単に技術的に新しいだけではなく、生々しい問題に適切な手法を選んで解決していくという姿勢を感じます。研究テーマである定理証明は高品質なプログラミング技術とも深く関係していますが、事業会社ならではの具体的な問題設定に触れることは、学びが多いですね。
― 前提から大きな違いがあるのですね。では実際に、ビジネスの現場に近い環境に身を置くことで、研究に対する意識に変化はありましたか?
本田: 課題設定の解像度が劇的に上がりました。実はロボットの研究において、大学の研究室と実社会の間には非常に大きな壁があるんです。大学ではどうしてもシミュレーションや、整理された実験室というコントロールされた環境での検証が主になります。しかし、AI Labでは、事業を通じて繋がりのある実店舗などの、生きている現場がすぐそばにあります。そこから直接課題を吸い上げ、研究にフィードバックして再び現場で試行錯誤する。この現場での泥臭い試行錯誤は、大学の研究室ではまず経験できない、事業会社ならではの醍醐味だと感じています。
松原: 本田さんの言う解像度の話、非常によく分かります。私の場合は、技術に対する手触り感が得られるようになったことが大きいです。ネットや論文で華々しく注目されている最先端技術が、必ずしも事業現場の課題解決に直結するわけではないんですよね。世の中のトレンドに流されるのではなく、目の前の事業で本当に必要とされている技術は何なのか、を肌で感じながら形を模索していく作業は、企業研究所ならではの面白さです。
園田: お二人の話を聞いていて、モチベーションの質も変わると感じました。AI Labでは具体的な事業にどう貢献するかという極めて明確な視点があります。
― 「誰のために、何のために解くのか」がより鮮明になるということでしょうか。
園田: そうですね。事業会社特有の鋭い課題設定に触れることは、自身の研究を客観視する非常に良い刺激になっています。単に理論として正しいかを追求するだけでなく、社会実装という出口から逆算して自分の研究を捉え直す。そのリアリティに触れることで、研究の純度がさらに研ぎ澄まされていく感覚があります。
本田: 研究だけでなく、その先の「社会実装フェーズ」までを地続きで経験できる可能性があることは、一人の研究者として大きな自信につながりますね。
―他に、クロスアポイントメント実施前には想定していなかった「驚き」はありましたか?
園田: 驚いたのは、論文が採択された際の成果をちゃんと評価してくれる仕組みが、クロスアポイントのメンバーにも等しく用意されているところです。純粋に嬉しいですし、表彰制度や発表の場も含め、組織として研究を盛り上げる仕組みがしっかり作られていると感じます。
松原: 私は社内での圧倒的な情報共有のスピード感に驚きました。特に変化の激しい生成AIの分野では、Slackなどを通じて最新の知見やノウハウが常にオープンに共有されています。意識的に動かなくても、日々の業務の中で自然と最先端の技術にキャッチアップできる環境は、研究者として非常に大きなアドバンテージです。
クロスアポイントメントが直面するエフォートの壁。物理的な制約を越え、理想の「巻き込み方」を模索し続ける
―クロスアポイントメントを活用し二つの組織に所属することで、ご自身のキャリアや周囲にどのような変化がありましたか?
松原:学生に伝えるアドバイスの鮮度が劇的に変わりましたね。私は大学で就職担当も務めていますが、IT企業の最前線に身を置いているからこそ語ることの出来る、実社会のリアルな空気感は、学生にとって何より価値のある情報になります。アカデミアの視点だけでなく、現在進行形の事業感覚を還元できることは、教員としての新しい強みになっています。
― 非常にポジティブな変化ですね。一方で、始まったばかりの制度ゆえに、実務レベルでの「難しさ」を実感される場面もあるのではないでしょうか。
本田: 正直に言えば、大学側の運営システムと新しい働き方の間で、まだ調整が必要な部分はありますね。エフォート(業務割合)を設定していても、大学側での教育や運営という大切な役割はフルタイム時と変わらず存在します。このバランスを個人の努力だけに頼らず、いかに構造的に最適化していくかが、これからの重要なテーマだと感じています。
松原:私も同様の視点を持っています。拠点が遠距離ということもあり、リモート勤務中心となってしまいますが、本音を言えばもっと頻繁に現地へ足を運び、議論の場に混ざりたい。ただ現実的にはリモートかつ限られたエフォートの中で、どうしても情報のキャッチアップが断片的になってしまうため、物理的な距離や時間に壁を感じることもあります。
だからこそ、その距離を埋めるための「巻き込み方のデザイン」を構築すること。情報共有の密度を高め物理的な距離や時間の制約に左右されない新しいプロジェクトの進め方を一緒に作り上げたいですね。
本田: 将来的には場所の制約を超え、大学のリソースを生かしてAI Labのプロジェクトを動かすといった、お互いの強みを補完し合う座組みまで進化させていきたいですね。
「出口」が可視化される環境へ。越境の経験が、替えのきかない研究者を作る。
― 最後に、クロスアポイントメントに興味を持つ研究者にメッセージをお願いします。
本田: 伝えたいことはシンプルです。若手こそクロスアポイントメントという選択肢を積極的に活用して、自分自身のスキルを磨き、替えのきかない「ユニークな人材」になってほしい。大学にはないマネジメント力や事業視点を持つプロフェッショナルたちと肩を並べて働く経験は、研究者としての幅を劇的に広げてくれます。
園田: AI Labには、他の研究者の成果がオープンに共有される仕組みがあり、そこから多様な研究の出口を可視化できるのが大きな魅力です。日々新しい議論が巻き起こり、組織としても常に最適解を求めて変化し続けている。そうした発展途上のエネルギッシュなフェーズに自ら参画できる感覚は、他では味わえない新鮮な刺激になります。新しい領域に挑戦し、キャリアをアップデートしたい人にとって、最高な環境です。
松原: 大学における裁量の自由さは魅力ですが、時に暗中模索のしんどさを伴うこともあります。AI Labには事業という大きな方向性があり、その軸があるからこそ、勉強会などを通じて良質な刺激やサジェスチョンが飛び込んできます。こうした環境に身を置くことで、視野は驚くほど広がります。もし今、次の一歩をどこに踏み出すべきか迷っているのであれば、ぜひこの活気ある環境に飛び込んでみてください。
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サイバーエージェントのゲーム・エンタメ事業部は、(株)Colorful Paletteや(株)QualiArtsなど複数の子会社で構成され、グループ内での積極的なナレッジ共有を強みに、多種多様なジャンルのタイトルを開発・運営しています。今後は、さらなる成長が見込まれる海外市場での成功を目指し、グローバル展開にも注力していきます。
本記事では、その一翼を担う(株)グレンジに所属し、サイバーエージェントの主席エンジニアを務める飯田卓也にインタビュー。当社だからこそ描ける多様なキャリアパスや、中長期的に成長し続けるための心構え、そして入社後の活躍を支える学生時代の過ごし方について詳しく話を聞きました。
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