2025年末には全エンジニアの半数がAIを駆使できる開発組織に。「生成AI徹底理解リスキリング」1年目の成果を振り返る
全社的なAI人材育成をより強化することを目的に、2023年10月より社内向けに開始した「生成AI徹底理解リスキリング」。対象を全社員・エンジニア・機械学習エンジニアの3つの階層に分け、約1年様々な育成施策に取り組んできました。
こちらの記事では、専務執行役員 技術担当 長瀬と、「生成AI徹底理解リスキリング」カリキュラム責任者 友松が、エンジニア・機械学習エンジニア向けプログラムが開発組織にとってどのような効果があったのか振り返りました。
なお、全社員向けプログラムの詳細については、「サイバーエージェントの99.6%にあたる社員・全役員が受講した『生成AI徹底理解リスキリング』とは?」をご覧ください。
Profile
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長瀬 慶重
サイバーエージェント 専務執行役員 技術担当
通信業界での研究開発を経て、2005年サイバーエージェントに入社。「アメーバ」をはじめとするコミュニティサービスなどの開発に携わり「ABEMA」の開発本部長を担当。2014年執行役員に就任。 2020年10月常務執行役員に就任し、2022年10月より現職。 -
友松祐太
AI活用を推進する子会社 (株)AI Shift 執行役員CAIO
2018年新卒入社。コールセンター向けのプロダクトである、AI Messenger Chatbot/Voicebot/Summaryおよび生成AIを活用した企業の業務改善プロダクトであるAI Workerの開発に従事。データサイエンスチームリーダーとして音声対話やテキスト対話ロジックの研究開発、大学との産学連携、データの可視化などに取り組んでいる。2024年10月より現職。
リスキリング受講後、日常の困りごとを生成AIで解決するのが当たり前の光景に
── 「生成AI徹底理解リスキリング for Developers」「生成AI徹底理解リスキリング for ML Engineers / Data Scientists」について詳しく教えてください。
友松:エンジニア向けに実施した「生成AI徹底理解リスキリング for Developers」では、受講者がLLMを取り入れた機能設計や実装を行えるようになることが目標です。様々な事業部に所属するエンジニアから応募がありました。
座学では主要な技術を体系的にeラーニングで学習。特にトレンドの移り変わりが速い技術領域のため、教材内のコードがアップデートに追従できていないことがあり、急遽補助教材を用意することもありました。加えて1Day開発イベント「Challenge Camp」を開催した際には、「生成AI徹底活用コンテスト」で決勝プレゼンに進んだ案を実装テーマにするなど、 “リアルさ” にもこだわりました。また、受講者は日頃から生成AIを活用したプロダクト開発に携わる者から未経験者まで様々だったため、テーマごとに3段階の実装レベルを設定しました。
約1ヶ月におよぶプログラムを経て、2024年3月には当社グループに所属するエンジニアの1割にあたる152名が受講を完了しました。なお、その後は「生成AI徹底理解リスキリング for ABEMA Developers」と題し、新しい未来のテレビ「ABEMA」に所属するエンジニア向けにカスタマイズしたプログラムを実施しました。
一方、「生成AI徹底理解リスキリング for ML Engineers / Data Scientists」では、実務でLLMを活用している機械学習エンジニア、データサイエンティストの中から30名をこちらで選定しました。LLMの活用において事業KPI等から問題設定への落とし込み、モデルの選択、データ選択・収集、チューニング、評価サイクルを推進できるプロフェッショナルな人材を増やすことを目的にしていたからです。当初はLLMのモデル構築やチューニングに特化したプログラムを想定していたのですが、生成AIを取り巻く状況も大きく変化したため、事業に活用できることを目標にカリキュラムを用意しました。
2ヶ月にわたって各講師による講義やハンズオン、ケーススタディを行った後、特別講義として自然言語処理の第一人者である東京科学大学情報理工学院 岡崎直観教授に登壇いただきました(参照:「東京科学大学情報理工学院 岡崎直観教授に聞く、企業におけるAI活用・AI人材育成のあり方」)。
長瀬:「生成AI徹底理解リスキリング for ABEMA Developers」では、職種やグレードの異なる様々なエンジニアが受講しましたが、参考になる有意義なプログラムだったという声が多く聞かれました。受講後、各エンジニアがプロダクト開発において生成AIを活用し、業務の質を向上させている場面を何度も目の当たりにしました。
例えば何らかの障害が起こった際、様々な関係者がSlackの専用チャンネルでやりとりしますが、後からチャンネルに入ってきた人でも一目でこれまでのやりとりが分かる要約ツールをSREチームが開発していました。このように、日々のちょっとした困りごとを生成AIで解決しようとする文化が根付いたことは、リスキリングの大きな成果の1つだと思います。AIを使ってある機能をアップデートさせようという大層なものでなくとも、日々様々な改善を積み重ねることで、生成AIが自身の業務プロセスに自然と溶け込んでいることが大切なのではないでしょうか。また、それと同時に、経営層が生成AIについての考えや方針をしっかりと伝えていくことが、活用を促す推進力につながると考えています(参照:「AIの発展をサイバーエージェントの競争力とするために」)。
生成AIネイティブな組織を目指して、「変化対応力」を武器にいま全力を尽くす
長瀬:変化の激しいインターネット業界において、サイバーエージェントは「変化対応力」を強みに時代に合った事業を次々と立ち上げることで、持続的な成長を実現してきました(参照:「サイバーエージェントグループ技術経営のコア「変化対応力」を推進する、3つのエンジン」)。開発組織においても、PC・フィーチャーフォン中心だったメディア事業をスマートフォンへシフトするにあたって、ネイティブアプリを開発できるエンジニアを社内で育成するためのプログラムを実施するなど、時代にあわせた開発体制を構築するための取り組みを積極的に行なってきたのが特長です。
2006年に「技術のサイバーエージェント」を掲げて以降、20年弱にわたって大小様々な技術トレンドの移り変わりに対応し、エンジニアの学び推進・キャリアアップ支援を行ってきましたが、生成AIほどの大きな変化はこれまでにないと感じています。「生成AI徹底理解リスキリング for ML Engineers / Data Scientists」のように、専門性が高い技術者をさらに増やす意図もありますが、一番の狙いはAIツールや技術を活用することが、当社のエンジニアにとって常識になること。ソフトウェア開発のプロセスにおいて、当たり前にAIを活用する組織でなければ時代に追いついていけない、という強い危機感があります。
というのも、小学生向けプログラミングコンテスト「Tech Kids Grand Prix」の審査員を務めているのですが、参加している小学生はまさしく “生成AIネイティブ” の世代なんですね。例えば機械学習を活用して、あるスマホアプリを開発した子がいましたが、決して技術の凄さをアピールするわけではない。一生懸命プレゼンする姿からは、あくまで技術は手段であり、自分が感じる社会課題を解決したいという熱い想いが伝わってきました。そんな姿を見ていると、当社のように20-30代のエンジニアが中心である技術組織では、経営層がしっかりマインドセットして社員が生成AIを徹底的に活用することが欠かせないと感じます。そして、より価値のある仕事にシフトするという大前提を皆が持っておくことが重要だと考えています。
友松:これから入社してくる次世代にとっては、生成AIを活用することがごく当たり前です。生成AIを使うことが "目的" ではなく "当たり前" となる近い未来に向けて「技術のサイバーエージェント」として、全社を挙げて今取り組まなければ、現役世代は一気に差をつけられてしまうと感じています。
また、リスキリングプログラムを始めてから改めて感じたのは、会社全体で生成AIを学ぼうという雰囲気をここまで醸成できたのは、非常に貴重な例だということです。全社一丸となって新たなことに取り組むカルチャーがしっかり根付いているのは、サイバーエージェントの大きな強みですね。
長瀬:代表 藤田が「会社として今AIを徹底的に活用することは、歴史的に見ても大きな価値がある」と話すなど、生成AIのような大きなトレンドが現れた時には、いわば会社の大号令のようにトップが強いメッセージを伝えることが重要です(参照:『CyberAgent Developer Conference 2024』イベントレポート)。
サイバーエージェントでは人材が大きな競争力であり、企業成長の源泉と考えているため、優秀な技術者のパフォーマンスを最大限向上させることが必要不可欠です。今後も世の中が大きく変わるタイミングに合わせ、先手を打ってリスキリングプログラムを実施するなど様々な取り組みを推進していきます。
2025年末には、AIを駆使できるエンジニアを50%まで引き上げる
友松:リスキリングを開始して約1年、社員1人ひとりの意識が大きく変わっていると日々感じています。当初は全社員が生成AIについて学びたいと思えるためのアプローチを必死に行っていましたが、今は具体的にどう活用するべきかという考えにフォーカスできる、より良い土壌ができたように思います。
長瀬:頻繁にアップデートを重ねている社内向け「生成AIガイドライン」が社内に浸透しているため、社員1人ひとりが生成AIにおける倫理的、法的、社会的リスクを理解しているし、それらを適切にマネジメントするフローが構築できました。また、社内LT会を通して各部署の活用事例が共有される文化も根付いていますね。
サイバーエージェントでは、現在約10%であるAIを駆使できるエンジニアを、1年後には50%まで引き上げたいと考えています。ただ、定量目標を追えば追うほど、それを前向きに楽しむカルチャーの醸成が大切だとこれまでの経験で強く感じています。ソフトウェア開発とAIの橋渡しができるエンジニアをスピード感を持って増やせるよう、これから社内でより一層インプットとアウトプットの機会を創出していきます。そういった意味では、2023年から開始した「生成AI徹底理解リスキリング」の対象者を3つの階層に分け、1年で一気に全社展開したことでたくさんのノウハウが蓄積できたのは大きな意義がありました。
友松:今後は、「生成AI徹底理解リスキリング for ABEMA Developers」のように各部署向けにカスタマイズしたリスキリングプログラムを展開することで、担当事業においてLLMを取り入れた機能設計や実装を担える人材を増やしていきたいと考えています。トレンドの移り変わりが激しい領域だからこそ、期間を空けるとその分キャッチアップが難しくなるので、引き続きスピード感を持った展開が必要です。
数年後振り返った時に、このリスキリング施策全体が「技術のサイバーエージェント」の転換期に重要な構成要素だったと位置づけられるよう、今後も熱意を持って推進していきます。
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