「あなたならできるよ、と背中を押す大人を増やしたい」Waffleと歩む、IT業界のジェンダーギャップ解消への道のり
本日3月8日は国際女性デーです。「Tech DE&I プロジェクト」では、IT業界ならびに当社開発組織におけるジェンダーギャップ解消を最優先課題に掲げ、全エンジニアを対象にした勉強会や女性エンジニア向けカンファレンス、女子大学での特別イベントの開催など、発足後1年間で様々な取り組みを行なってきました。NPO法人Waffle(以下、Waffle)との連携もその1つです。「IT分野の教育とエンパワーメントを通じ、ジェンダーギャップを解消する」をビジョンに掲げ、2019年の設立以来女子およびノンバイナリーの中高生・大学生へのIT・STEM教育の機会を提供し続けてきたWaffleに強く共感し、スポンサーとしてだけでなく、当社社員を「Waffle College」のメンターやティーチングアシスタント(以下、TA)として派遣したり、育成プログラムを共に開催してきました。
Waffle ディレクターである森田氏と当社Tech DE&I Lead 神谷が、これまでの両者の歩みやジェンダーギャップ解消に向けて今後何が必要か語り合いました。
Profile
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森田久美子氏
NPO法人Waffle ディレクター
新卒でNTTドコモに入社。ネットワークエンジニアとして、巨大データセンターのプロジェクトマネジメントや、アジア各国の携帯キャリア向けのネットワーク構築のコンサルティングなどに従事。その後、米国・NY現地法人にて、技術調査や新規事業開発、ワシントンDCにて業界団体や連邦通信委員会(FCC)などの政策調査・提言を行う。帰国後、女性エンパワーメントを目的とする日本初の企業内LEAN INサークル「LEAN IN DOCOMO」の立ち上げに参画。人事部の公認を得て、在職中に約1,000人へのワークショップやセミナーの機会を提供。2020年に創業されたばかりのWaffleにプロボノとして関わり始める。2022年にNTTドコモを退職し、3人目のフルタイムメンバーとしてWaffleに参画。現在は、パートナー企業との協業や政策提言などを担当。 -
神谷優
2008年新卒入社。Tech DE&I Lead及び子ども向けプログラミング教室を展開する子会社キュレオ ソフトウェアエンジニア兼プロジェクトマネージャー。
複数のAmeba関連サービス開発を経て、様々な新規事業の立ち上げに参画。2013年には社会人大学院生として修士課程を修了(国際情報通信学)。
2015年以降は3度の育休を挟みつつ、定額音楽配信サービス「AWA」や子ども向けプログラミング教育を展開する「キュレオ」の開発やプロジェクトマネジメントを担当。2020年より女子およびノンバイナリーの中高生・大学生へのIT技術・キャリア支援を行うNPO法人Waffleにてプロボノに取り組む。2022年、Google運営Women Techmakers Ambassadorに選出。
男女比が20:1、中高生向けプログラミングコンテストで感じた大きな違和感
── 2023年1月に「Tech DE&I プロジェクト」を始動してから1年経ちました。社内外で何か変化を感じる出来事はありましたか?
プロジェクト発足後、女性エンジニア向けのカンファレンス「Women Tech Terrace」やインターンシップ「Women Go College」の開催、社内向けにはIT業界ジェンダーギャップ勉強会や無意識バイアスワークショップ、社内ポータルサイトでのTech DE&I プロジェクト専用ページの掲載等、多くの活動を推進してきました。そんな中で、例えばこれまで社内で当たり前に使っていた「キーマン」という表現を「キーパーソン」の方が適しているのではないかという声が自然に出てきたり、技術カンファレンスの運営責任者から女性登壇者を増やすにはどうしたら良いかと相談をもらったりと、変化の芽が開発現場のあちこちで着実に出ているのを感じています。
また、とある技術領域において社内外への発信を積極的に進めているエンジニアが、自らが運営するコミュニティにおいてどうすれば女性や地方在住の学生を自然とインクルードできるのか、ウェブサイトでの表記等工夫するようになったいう話も耳にしました。手前味噌ですが、サイバーエージェントには世界をより良くしていきたいと願う素敵な志を持った社員が多いと改めて感じ、嬉しい気持ちです。年次や肩書きに関係なく、多くのエンジニアが前向きにこのプロジェクトを受け入れ、勉強会等を通して熱心に学んでくれたことに大いに感謝しています。
サイバーエージェントで実施していた「Women Go College」のように、色々な企業で女性向けの取り組みが増えてきていますが、女性エンジニアに来て欲しい、会社としてしっかり育成したいという強いメッセージも発信できる良い機会だと感じています。エンジニア採用というと、理系の学士や修士を取得した人というイメージが強いように思いますが、実際には女子学生のうちの5%しかいません。エンジニアの裾野を広げるという意味でも、理系以外の女性を育成し入社のチャンスを掴めるこのような取り組みは、ジェンダーギャップ解消にとって効果があると考えています。
代表の田中が前職で小中学生向けのプログラミング教育を普及するNPOで働いていたのですが、小学校だと女子生徒も楽しそうにプログラミングをやっていたそうなんですね。であれば、今後は女子もどんどんIT業界に来てくれるのかなと思っていたところ、中高生向けのプログラミングコンテストに行くと参加者の男女比が20:1ほどで衝撃を受けたという原体験がありました。成長するにつれて女子がプログラミングを楽しめない状況をなんとか解決したいと考え、2019年にWaffleが設立されました。
設立当初はIT業界のジェンダーギャップについて今ほど議論になっていなかったように思いますが、次第にサイバーエージェントのように我々のビジョンに共感し、サポートしてくださる企業も増えてきました。また、2021年から連続して「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる「骨太の方針」:政権の重要課題や翌年度の予算編成の方向性を示す方針)に女子中高生向けのIT教育を強化する旨が記載されたことで、企業だけでなく国も、IT業界のジェンダーギャップ解消に向けてより一層動きを加速させているように思います。
現在我々が特に注力しているのが中高生への働きかけです。小学生の頃は、算数や理科が得意な子というのは特に男女の差がありません。ただ、日本だと高校で文理選択があるので、その段階で理系の楽しさやITを学ぶことに意欲が湧くよう様々な取り組みを推進しています。
コロナ禍で幼い子供たちを自宅保育せざるをえず、開発に集中することができなくてエンジニアとして落ち込む日々が続いていました。そんな時、たまたま代表の田中さんの講演を視聴したんです。これまでジェンダーについて特に意識することもなく、知識もなかった自分にとって、学術的資料を用いてきちんとエビデンスを提示しながら解説されるジェンダーギャップの問題やダイバーシティの考え方に衝撃を受けました。女性エンジニアとして自分に何かできることがあればと思い、田中さんにDMを送ったのがきっかけです。最初はイベントでの登壇など個人で活動に参加していましたが、Tech DE&I Leadに就任してからは、サイバーエージェントとしてWaffleを応援させていただくことになりました。
お子さんが3人いながらも、開発現場の第一線で働く女性エンジニアが日々どのような苦労を抱えていらっしゃるのか、実際にその立場になってみなければなかなか理解できないと思います。我々も様々なデータを通してマクロでは知っていても、ミクロの視点でリアルな当事者の声を聞けるのはありがたいことでした。ご協力いただいた「Waffle Camp」のキャリアトークでも、ご自身の言葉で活き活きとエンジニアになるまでの過程をお話されていたのが印象的でした。中高生にとってはそんなリアルな声が響くんですよね。有名なサービスに携わっている女性エンジニアにも、そんな一面があったのかと。
神谷さんは今後エンジニアを目指す女子学生にとって素晴らしいロールモデルなので、Waffle初の書籍「わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書」にも、掲載させてもらいました。神谷さんのような素敵なエンジニアが活躍できる社会でありたいと願っています。
人の成長を自分の成長と喜べる方に、ぜひメンターや講師として参加してほしい
── 現在は神谷さんだけでなく、当社の様々な社員がメンターや講師として「Waffle College」などに参加しています。参加した社員からはどのような声がありましたか?
参加前は少し緊張していたものの、学生からたくさんのエネルギーをもらえたおかげで参加してよかったと感じた、という感想をよく聞きます。例えば実際の開発現場の様子を話した際、学生の皆さんにとっては新鮮だったようで皆ワクワクした様子で熱心に話を聞き、色々な質問をしてくれたことが嬉しかったと言っていました。
また、受講者はプログラミング初学者が多いため、実際にプログラムを実行できたことを喜ぶ姿を目の当たりにし、社員自身も純粋に楽しかったという感想もありました。自分がお手伝いすることが誰かの原体験になり得るという、大きなやりがいを感じたそうです。
先日私が参加したプログラムでは、平日の昼に1時間、なんでも相談コーナーという形式で学生からの質問に答えました。このように、場合によっては事前準備が不要で時間帯的にも気軽に参加できるメンター業務があるので、初めての方はこういったものからスタートしてみると良いかと思います。
求められる役割や所要時間も様々ですし、ご興味をお持ちの方はまずは一度経験してみてはいかがでしょうか。
誰かの原体験作りに関わったり、学生が成長していく姿を見たい、共に喜びを分かち合いたいという方は男女問わずメンターやTAに向いていらっしゃるかなと思います。また、実際にお手伝いくださる方々にその理由を聞いてみると、現状への問題意識があって次の世代にはこんな思いをさせたくない、自分で進路を選べる時代であってほしいから応援するために来たと言う方もいます。
「Waffle Camp」などは企業での育成に近いので、人の成長を自分の成長と思えるようなマネージャーにも向いているかと思いますし、まだ部下のいない方々にとっても今後の勉強になるかもしれません。まだまだ環境を整えている最中ではありますが、ワンタイムで入ってくださる方がスムーズに指導できるよう、オンボーディングも用意しています。
若い人だけに期待するのではなく、「あなたならできるよ」と背中を押せる大人を増やすために
── 最後に、IT業界のジェンダーギャップ解消に向けて今後必要だと思うことを教えてください。
生成AIが日々めまぐるしく発展しており、例えばコード生成AIツールを使えば自然言語でちょっとしたアプリケーションを開発できるようになりました。とは言っても、生成AIによるアウトプットの良し悪しを判断するには、理論や経験が不可欠だと考えています。コンピュータサイエンスやネットワーク、プログラミングの根幹となる知識は生成AI時代においても大切だと思いますし、今後は発想を言語化、具現化できる複合的なスキルがより一層重要になるのではないでしょうか。そして、その複合的なスキルを考える上では、多様な価値観を持つ人々がフラットに議論することが欠かせないと考えています。
私自身15年以上エンジニアとして働いていますが、自分たちの手で実際に動くものが作れる日々は純粋に楽しいです。その楽しさに加え、様々なライフイベントを乗り越えながら、長く自分らしく働けるエンジニアという職業は素晴らしいものだと次世代のみなさんに伝えたいです。既存の枠組みに囚われず、より多くの女性が自らの意思で理系やエンジニアを目指すことは、ジェンダーギャップの解消のみならず日本経済の底上げにも貢献すると考えています。
現在の構造を変えていくには、さまざまなステークホルダーの連携が大事だと考えています。サイバーエージェントのような企業を増やすだけでなく、政治や教育も変わるよう働きかけることで、連携してIT業界におけるジェンダーギャップを解決していく素地を構造として作っていく必要があります。プログラミングを学んでIT業界を志す人が増え、多様化するのは良いことですが、受け入れ先企業のDE&Iが進んでいなかったという状態は避けなければいけません。我々は学生だけに向き合うのではなく、安心してキャリアを築ける企業が増えるよう、引き続きIT業界全体に働きかけていきます。
すでに多くの女子は、個人レベルでとてもよく頑張っています。理数系の成績は世界的にもトップクラスですが、ステレオタイプによって理系選択が進まない現状というものがある。若い人たちだけに期待するのではなく、少しずつお二人のようなロールモデルを見せることで、周りの大人の意識を変えていくことも大切です。「Waffle Camp」の6割以上の生徒が大人の声かけによって参加したというデータがあります。ステークホルダーの連携とロールモデルの提示によって、「あなたならできるよ」と背中を押す大人を1人でも多く増やしていきたいと思います。
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サイバーエージェントでは、運営するメディアサービスにおいて、青少年の保護及びすべての方に安心、安全にご利用いただける環境を目指し、健全な運営のための取り組みを実施しています。悪質な目的でサービスを利用するユーザーを検知し、排除するため、24時間365日体制で厳重なサービス監視を行う上で重要な役割を果たすのが、監視基盤システム「Orion」です。「Orion」は2013年4月のリリースから現在に至るまで、サイバーエージェントの数々のメディアやサービスの健全化を支えてきました。プロジェクト発足当初から開発に携わってきた藤坂に、テクノロジーで社会課題に向き合う姿勢や、変容する社会に対して「Orion」がどうあるべきかをインタビューしました。