「Inbound Marketing Summit 2026」開催レポート
~PPIH、NAKED、資生堂ジャパン、日本空港ビルデングなどが登壇~
サイバーエージェントは、「Inbound Marketing Summit」を2026年4月23日に羽田空港で開催しました。昨年に引き続き2度目の開催です。
訪日外国人数の回復とともに、インバウンド市場は“旅中の消費”だけでなく、旅後の購買や継続的なブランド接点まで含めたマーケティングへと進化しています。
本イベントでは、PPIH、NAKED、資生堂ジャパン、日本空港ビルデングなど、インバウンド市場の最前線で取り組みを進める企業が登壇。訪日客の消費行動分析から、観光地・空港を活用した体験設計、旅後購買につなげるCRM戦略まで、多角的な視点で議論を行いました。
当日のセッションの様子を一部ご紹介します。
目次
“買い物”を“観光体験”へ
ドン・キホーテが描くインバウンド戦略
インバウンド消費を動かす「ナラティブ」
当社インバウンド消費行動研究室が訪日客の購買行動を読み解く
“買い物”を“観光体験”へ
ドン・キホーテが描くインバウンド戦略
Moderator:和地 隆之介(サイバーエージェント インバウンド事業本部)
和地:はじめに、「ドン・キホーテ」におけるインバウンドの現状について教えてください。
小倉氏:当社の2025年6月期におけるインバウンド売上は1,742億円となり、非常に高い水準で推移しています。現在進行中の2026年6月期についても、足元では2,000億円強が見込まれており、引き続き成長が続いています。
訪日外国人のうち、約2割※1がドン・キホーテに来店していると見ており、直近の3月度は来店率が約29%まで上昇しました。特に渋谷本店では売上構成比の約7割が免税売上で、道頓堀店や銀座本館では8割を超えるなど、一部店舗では訪日外国人のお客様が中心となっています。
また、訪日外国人数の伸びが前年比110%強で推移する一方、当社の免税売上は120~130%台で推移しています。中国・香港の構成比が一時的に落ち込む局面もありましたが、韓国、台湾、英語圏、東南アジアなどの需要が全体を押し上げています。特定の国や地域に依存せず、幅広いお客様に向けて発信してきたことが、成長につながっていると考えています。
飯尾氏:実際、訪日外国人にとって「ドン・キホーテで買い物をする」こと自体が、旅の目的のひとつになりつつあります。例えばアリナミンEXプラスのような医薬品は、ドン・キホーテにおける免税比率が約98%に達しています。日本人は医薬品をドラッグストアで買う一方、訪日外国人にとっては「日本で買うべきお土産」として認識されている傾向があるためドン・キホーテでの購入が多いのではないかと考えられます。
また、日本の文房具も人気です。キャラクター商品や和柄のお土産品だけでなく、実は一般的なボールペンもよく売れています。背景には、中国の大学受験で0.5ミリの水性ボールペンが求められるという事情があり、品質の高い日本製文房具へのニーズが高まっていることがわかりました。
和地:インバウンド向けの具体的な取り組みについても教えてください。
飯尾氏:1つ目は、日清食品様との取り組みです。インバウンド向けに売れる新たな商品の創出を目的に、乾麺タイプの商品をドン・キホーテ店頭で訴求しました。売り場には多言語対応のサイネージを設置し、商品の調理方法や魅力を動画と音声で伝えました。
動画はドン・キホーテらしい手書きPOPの楽しさを映像化し、アミューズメント性のある表現にしたことが特徴です。その結果、対象商品の売上は直前対比で800%超※2となり、その後インバウンド強化商品として展開店舗も広がりました。
2つ目は、ニチバン様の「ロイヒつぼ膏」に関する調査です。同商品は非常によく売れていた一方で、「なぜ売れているのか」が十分に把握できていませんでした。そこで、浅草店と新宿店の店頭で、実際に商品を手に取ったお客様に購入理由や非購入理由を直接ヒアリングしました。
調査用の会場ではなく、リアルな売り場で声を集めたことで、想定していなかった競合認識や購買理由が明らかになりました。こうした生の声は、商品開発や次の販促施策にも活用できる重要なインサイトになっています。
※1 PPIH2025年6月期決算発表資料 客数シェア率より
※2 企画実施期間1ヵ月と直前同期間比で算出
飯尾氏:現在当社は「ドン・キホーテ観光地化」という取り組みも進めています。マグロ解体ショーや和太鼓体験、着物体験など、買い物だけではない体験コンテンツを店舗で実施し、訪日外国人向けページでも告知しています。今後はメーカー様とのタイアップも検討しており、例えばマグロ解体ショーと醤油メーカー様を組み合わせるなど、体験と購買を結びつける施策にも可能性を感じています。
小倉氏:当社は2035年度までに免税売上4,000億円を目指すことを掲げています。その達成に向けて、今後はグローバルアプリの開発や、旅前の販促強化にも取り組んでいきます。国籍ごとの来店率や購買傾向をより深く分析し、それぞれに最適なマーケティング手法を確立していきたいと考えています。
和地:本日のお話から、ドン・キホーテが単なる買い物の場ではなく、訪日外国人にとっての観光目的地へと進化していることがよく分かりました。データと現場の声、そしてエンターテインメント性を掛け合わせることが、これからのインバウンド戦略の鍵になりそうです。
インバウンド消費を動かす「ナラティブ」
当社インバウンド消費行動研究室が訪日客の購買行動を読み解く
三木:当社のインバウンド消費行動研究室では、「訪日観光客の消費行動をいち早くつかむ組織へ」をミッションに、訪日客の購買行動やトレンドを調査しています。中国、韓国、タイ、台湾、アメリカ出身の留学生調査員が所属しており、現地メディアでの語られ方や、各国の生活者視点から見たインサイトを収集していることが特徴です。実際に日本のトレンドスポットを訪れるフィールド調査や、訪日観光客への直接インタビューを通じて、「なぜそこに行くのか」「どのメディアで知ったのか」といった定性的な情報を深掘りしています。
調査を重ねる中で見えてきたのが、訪日客の間で生まれるトレンドには共通する要素があるということです。例えば、韓国ではNetflix作品をきっかけに日本のギャルメイクが注目され、東京で実際にギャルメイクを体験する人が増えています。また、大分県の由布院は日本人にとっては温泉地のイメージが強い一方、海外では「ジブリの世界が再現された街」としてSNSで認知されています。このように、国や地域によって「日本の〇〇といえば」というイメージは異なり、その認識が来訪や購買のきっかけになっています。
当研究室では、こうしたトレンドを構成する要素として、「ユーザーニーズ」「商品価値」「文化価値」の3つを重視しています。ユーザーニーズとは、消費者の生活背景や置かれた環境に合っているか。商品価値とは、課題解決や感情向上につながる価値があるか。そして文化価値とは、日本固有の文脈や、その場所でしか得られない体験が含まれているかという視点です。
この3つを組み合わせた考え方を、サイバーエージェントでは「ナラティブ」と呼んでいます。機能的価値や情緒的価値だけではなく、文化や体験、感情まで含めて“物語に没入したくなる価値”を設計することが、インバウンドマーケティングでは重要だと考えています。
実際に中国、台湾、韓国、タイ、アメリカを対象に調査したところ、ナラティブがある商品は68.1%が自発的に想起され、訪日中の商品購入のうち54.4%でナラティブが購入理由になっていることが分かりました。さらに、すべてのカテゴリでナラティブがある商品の方が購入されやすく、3つの要素が増えるほど購入率も上がる傾向が見られました。つまり、ユーザーニーズ、商品価値、文化価値はそれぞれ重要であり、3つが揃うことでより強い購買動機を生み出します。
各国のトレンドにも、このフレームは表れています。
中国ではあるメーカー様のヘアケア商品が20~30代女性のマストバイアイテムとして人気です。忙しい日々の中で自分を整えたいというニーズや日本製品への信頼、高性能で洗練された商品価値が重なっています。
韓国では日本人男性にも人気のボリューム感満載のラーメン店が注目されており、リピーターが定番観光ではないローカル体験を求める中で、独特の注文方法や圧倒的なビジュアルが“体験そのもの”として楽しまれています。
台湾では、美白対策サプリが「日本で買うべきもの」としてSNS上で拡散されています。高温多湿で紫外線が強い気候背景に加え、日本製サプリへの安全性・効果への期待が購買につながっています。
タイでは抹茶パウダーが人気で、健康志向の高まりに加え、茶せんと一緒に購入して日本の抹茶文化を持ち帰るような行動も見られます。
アメリカでは、しまなみ海道のサイクリングがスロートラベル志向と結びつき、瀬戸内の自然景観や成熟した観光インフラが支持されています。
このナラティブフレームは、実際のマーケティング施策にも応用できます。例えば柚子胡椒であれば、日本の食卓前提ではなく、パスタやグリルソースに合うといった現地の生活に沿った提案が必要です。美容家電であれば、競合との差別化を伝えるために、店頭体験やスタッフによる説明が有効です。日本酒であれば、酒蔵の歴史や現地での飲用シーンをインフルエンサー施策などで伝えることで、文化価値を補うことができます。
当研究室では「ナラティブスコア診断」も提供しています。訪日経験のある海外の方を対象に、商品がユーザーニーズ、商品価値、文化価値のどこで評価され、どこに課題があるのかを可視化する調査です。自社商品が訪日客にどう受け止められているのか、どの要素を強化すべきかを明らかにすることで、より効果的なインバウンド施策につなげることができます。
インバウンド消費を動かすには、単に商品を紹介するだけではなく、訪日客が「なぜ今、日本でこれを買うのか」という物語を設計することが重要です。ユーザーニーズ、商品価値、文化価値を捉えたナラティブの設計が、これからのインバウンドマーケティングにおける鍵となります。
感動体験をブランドの記憶へ
NAKED, INC.が切り拓く体験型マーケティングの新たな可能性
久保氏:当社はプロジェクションマッピングや地域文化の発信、課題解決を、演出やクリエイティブの力で行っている会社です。もともとは映画制作を起点に設立された物語づくりの会社であり、現在はアートやテクノロジーを活用しながら、自然、都市、伝統文化、歴史、食など、さまざまなシーンに新たな価値を生み出しています。
今回は、観光地がこれからのマーケティングにおいて、非常に重要なブランド接点になり得ることをお伝えしたいと思います。現在デジタル上には情報があふれ、広告だけで意図した認知を獲得することが難しくなっています。その中で私たちは、旅先での感動体験の中にブランドとの接点を組み込むことで、唯一無二の記憶をつくることができると考えています。
観光地は、日常とは切り離された非日常の空間です。そこで得た感動とブランドが結びつくことで、単なる広告接触ではなく、深く記憶に残る体験になります。つまり、旅中の感動体験は、ブランドが生活者の記憶に残る大きなチャンスになります。
その一例が、コレド室町で開催した「FLOWERS BY NAKED 2019」でのスキンケアメーカー様との取り組みです。桜のイマーシブ空間に、春の新作化粧水の香りを閉じ込めたシャボン玉を飛ばす演出を行いました。空間内ではメーカー様の名称を前面に出さず、あくまで香りだけを体験してもらいます。来場者は桜の演出の中で心地よい香りに触れ、会場を出た後に「先ほどの香りはこの商品だった」と知る設計です。
演出の中で商品名を強く出しすぎると、どうしても宣伝色が強まり、没入感が損なわれてしまいます。だからこそ、まずは感動体験を最大化し、その後にブランドと接続する。この順番が、体験価値を高めるうえで重要になります。
私たちはこれを「100回の広告より10分間の体験」と考えています。断続的な広告接触よりも、旅先での圧倒的な没入体験のほうが、ブランドを強く記憶に残す可能性があります。さらに、その体験は写真や動画として来場者のスマートフォンに残り続けます。陳列棚の商品写真は撮られにくくても、幻想的な空間や桜の中で楽しむブランド体験は、自然と撮影され、旅の思い出として保存されます。
また、世界遺産や文化財のような場所で体験と結びつくことは、ブランドへの信頼感を高める効果もあります。「あの素晴らしい場所で体験したブランド」という記憶が、心理的なハードルを下げ、後日の購買や好意形成につながっていきます。
今後は、こうした体験をデータとして活用する取り組みも進めています。例えばAIカメラなどを活用し、来場者がどのエリアでどれくらい滞在し、どのブランド体験に関心を示したのかを可視化することで、次のマーケティング施策につなげることができます。リアルな演出を強みとする当社と、デジタルマーケティングやAI活用を強みとするサイバーエージェントが連携することで、体験とデータを掛け合わせた新たなブランド体験をつくれると考えています。
旅先で生まれた感動は、その場で終わるものではありません。写真として残り、記憶として残り、後日の購買やブランド想起につながる資産になります。観光地を単なる集客の場ではなく、ブランドの物語を体験として届ける場へと変えていくことが、これからのインバウンドマーケティングにおける新しい可能性です。
「旅の記憶」を継続的な関係性へ
資生堂ジャパンと日本空港ビルデングが考える空港起点のインバウンドマーケティング
Moderator:一言 優成(サイバーエージェント インバウンド事業本部 事業責任者)
一言:本セッションでは、「オールバウンド戦略と空港動線」をテーマに、日本の玄関口である空港を起点に、インバウンド消費をどのように最大化していくのかをお話します。
森氏:資生堂ジャパンでは、訪日外国人を「ツーリスト」と捉え、旅前から旅後までのジャーニーを一貫して設計する「ツーリストマーケティンググループ」を2024年7月に新設しました。インバウンドとアウトバウンド、さらに越境ECや現地法人との連携を通じて、訪日時の購買を一過性で終わらせず、帰国後の愛用につなげることを目指しています。
中澤氏:羽田空港は、世界有数の旅客数を持つ都市直結型のハブ空港です。国内線の旅客数はコロナ前にまだ届いていない一方で、国際線は大きく伸びており、特に外国人旅客は2019年比で170%まで増加しています。国際線利用者に占める外国人比率も、かつては日本人が多かった状況から逆転し、現在は外国人が約6割を占めるようになりました。
羽田の特徴は、欧米からの利用者比率が比較的高いことです。アジア圏が多い関西国際空港に対し、羽田は欧米の利用者が全体の約25%を占め、多様な国・地域の旅行者と接点を持てる場所になっています。
一方で、空港での体験にはまだ課題があります。訪日外国人への調査では、「空港での過ごし方の選択肢が限られている」「長い待ち時間が残念」といった声がありました。実際には店舗やサービス、イベントスペースが存在していても、旅行者に十分伝わっていないケースがあります。その結果、早めに空港へ来ても、ただ待つだけの時間になってしまっているのです。
森氏:化粧品のインバウンド市場においては、訪日客数は回復している一方で、市場規模はまだ2019年水準には戻り切っていません。背景には、中国本土からの購買回復が途上であることがあります。ただし一方で、その他アジアやアメリカを中心に国籍の多様化が進んでおり、これは新たな機会でもあります。
当社としては、訪日時に購入された商品を、帰国後の現地購買や越境ECでのリピートにつなげることを重視しています。中国ではWeChat※を活用し、旅中に接点を持ったお客様に対して、帰国後も情報発信や再来日促進を行っています。一方で、国によって利用されるSNSや購買チャネルは異なるため、小売企業様と連携し、現地で使えるクーポンやEC導線、SNS発信などを組み合わせながら、国ごとに最適な仕組みづくりを進めています。
この取り組みにおいて重要なのが、日本法人がハブとなり、ブランド、現地法人、小売企業様をつなぐことです。売上がどの法人に立つかという従来の縦割りではなく、ツーリストマーケティングチームが各国のニーズやトレンドを把握し、ブランド価値を守りながら柔軟に施策を進める体制をつくっています。
中澤氏:これからの空港は、単なる通過点ではなく、日本を知り、新しい発見や出会いを得る場所へと価値を変えていく必要があります。羽田空港では、ターミナル内のイベントスペースを活用し、メーカーや自治体による文化発信、商品体験、ブランディング施策などが行われています。お菓子や日本酒など、免税店での購買につながる商材だけでなく、認知向上や次回来日時の目的地づくりにも活用できる場です。
また、羽田空港では「マイフライト」というサービスを提供しており、搭乗口や検査場、ターミナル間違いの通知などを行っています。今後は、こうした仕組みをインバウンド向けにも拡張し、空港までの最適な移動手段や、空港内でできる体験を多言語で案内することで、空港滞在の価値を高められる可能性があります。
※中国のコミュニケーションアプリ。モバイル決済機能やミニプログラムと呼ばれるアプリ内での買い物、ゲーム、チケット購入、銀行取引等ができることから「スーパーアプリ」と呼ばれている。
森氏:空港は、当社にとっても非常に重要な場所です。免税エリアにはプレステージブランドが並び、空港外の小売店にはマスブランドも展開されているため、空港という場で多様なブランド接点をつくることができます。さらに、空港で体験したブランドは「その国を代表するブランド」として印象づきやすく、最後のマインドシェアを高める場にもなります。
実際に、空港で購入した商品を気に入り、帰国後に自国のECでリピート購入しているという口コミも確認されています。訪日時の購買が旅後の愛用につながる可能性は高く、インバウンド施策を現地購買へ接続することは、Kビューティーやチャイナビューティーに対抗するうえでも、ジャパンビューティーの重要な武器になると考えています。
中澤氏:空港には制約もありますが、できることは多くあります。空港単体でインバウンド消費を最大化するのではなく、メーカー、小売企業、自治体、代理店など、多様なプレイヤーと共創することで、旅行者にとっても事業者にとっても価値のある場にしていきたいと考えています。
空港は、旅の始まりであり、旅の終わりでもあります。そこでの体験が、帰国後の購買や再来訪のきっかけになる。旅前・旅中・旅後をつなぐ動線を設計することで、日本の玄関口は、インバウンド消費を循環させる重要な起点へと進化していきます。
一言:空港という場所には、ブランド体験、購買、認知、文化発信までを一気通貫で設計できる可能性があります。中澤さんからは、空港を単なる通過点ではなく、新たな発見や出会いを生む場所へと変えていく可能性を、森さんからは、訪日時の購買を帰国後の越境ECや現地購買につなげていく重要性をお話しいただきました。
「旅の記憶」をどのように継続的な関係性に変えていくかが、今後のインバウンドマーケティングの鍵になるのではないかと思います。
主催:Inbound Marketing Summit実行委員会
共催:株式会社サイバーエージェント
協力、写真提供:ad:tech tokyo (Comexposium Japan株式会社)
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