危機感から、新たな広告事業の創出へ
高い技術力とクリエイティブ力を武器に、広告ビジネスを切り拓いてきたインターネット広告事業。
常務執行役員でAI事業本部責任者の内藤は、時代の先を見据えた視点で、最先端技術を取り入れ広告効果の最大化を実現してきました。
AI技術の活用に至った経緯や今後の展開、新規参入領域の可能性について、聞きました。
「手動の限界」で踏み切ったAI技術の研究開発
─ この1年ほど、AI関連のニュースを目にしない日はありませんが、広告代理店としては、比較的早い段階でAI技術の研究開発をスタートしていたと思います。その経緯や背景を教えて下さい。
当社のインターネット広告事業では、2014年頃から構想し2016年にデジタルマーケティング全般に関わる幅広いAI技術の研究開発を目的に「AI Lab」を設立しました。
2019年には、AI技術を活用したインターネット広告事業の開発や、新たなAI事業の創出を目的に専門部署「AI事業本部」も発足しています。
インターネット広告はテレビや新聞などのいわゆるマス広告とは異なり、ターゲットにあわせて広告表現をパーソナライズすることができ、特に運用型広告は広告効果を維持するために、短期間で多種多様かつ大量な広告クリエイティブの制作と、迅速なクリエイティブ運用が必要となります。
この膨大かつ今後も増え続ける作業量は、デジタル広告を制作する代理店にとって大きな人的負担です。
そして、新たなクリエイティブの創り方、価値を生み出していかなければならないといった危機感もあり、これらの課題を解決するためには生成AIの活用は不可欠で、将来的な優位性になると考えました。
以降、機械学習を用いた効果的な広告配信や、テキスト、バナー、動画など広告クリエイティブの制作支援、自動データ分析などへのAI技術活用を実現させています。
そうして開発に至った、「極予測シリーズ(生成AIを用いた広告プロダクト)」は高い広告効果を誇り、顧客への広告効果最大化に貢献できていると自負しています。
─ 「AI Lab」は、大学や学術機関との産学連携も強化していますね。
これまでにも国内外の多数の大学・機関(大阪大学、Yale大学、東京工業大学、東京大学等)と各研究分野において提携しており、主要研究室との産学連携は約30件にのぼります。
世界的なロボット研究の第一人者である大阪大学の石黒教授や、自然言語処理の研究を牽引し多くの書籍も発行されている東京工業大学の奥村教授、経済学のマーケットデザイン研究において世界的研究者の一人である東京大学の小島武仁教授など、各研究分野におけるトップ研究者の方々と共同研究を進めてきました。
AI技術によるビジネス価値の創出と学術貢献を並行して目指す「AI Lab」は、各学問・研究領域において世界で権威のある国際学会で多くの論文を投稿し、発表しています。年間約50本の論文が査読付き採択されており、2022年度の採択率は約45%と高い比率になりました。
「AI研究をリードするトップ100企業」※にもランクインし、サイバーエージェントは日本4 位、世界49 位の実績も収めています。
また2016年からは研究者専用の採用担当者を設けるなど、高度な専門知識を持つ人材の採用や育成にも注力。事業開発のみならず、日本の技術力強化にも貢献できればと思っています。
パートナーと創る、新たな広告事業
─ デジタル広告は様々な変遷を経てきましたが、今後どのような転換が起こると予想していますか。
昨今、GoogleやFacebookなど大手グローバルメディアが主要な広告掲載先となっていますが、今後同様のワールドワイドなプラットフォーマーが出てくる可能性は低いと考えています。
代わりに、企業が持つ購買データ、ECサイトやアプリでの行動データなど、いわゆるファーストパーティーデータを保有している各企業が広告事業を展開する「ローカルプラットフォーム」が多数出てくるのではないかと考えています。
近年、個人情報保護の観点からサードパーティーデータの利用規制が強化され、広告に使えるCookie(閲覧したWebサイトの記録データ)やIDFA(iOS端末の広告識別子)の取得が困難になってきました。
そこで、前述した「企業が持つ独自データ」の活用への期待が高まっています。
2021年5月には銀行法が改正され、銀行の業務範囲が大幅に拡大し、広告事業への参入も可能になりました。
このようなことも手伝ってサイバーエージェントでは、金融をはじめ、小売、モビリティ、通信を主とした日本の大手企業といち早くパートナーシップを締結し、新たな広告事業の創出に努めています。
現在、広告事業と親和性が高い領域の企業を中心に協業契約を終えており、事業化に向けて邁進中です。
当社はインターネット広告事業において業界トップクラスの実績をもつ広告商品販売網に加えて、デジタル広告の運用・配信基盤の開発技術や、AI技術の研究開発実績を活かすことで、顧客の新たな事業創造に取り組み、インターネット広告事業を持続的な成長産業へ繋げていければと考えています。
生成AIやLLMの今後の活用
─ インターネット広告事業において早期にLLM(大規模言語モデル)の開発から一般公開を行いましたが、生成AIやLLMの今後の可能性をどのように考えていますか。
社内では、生成AIやLLMを用いて「極予測AI」や「極予測TD」における広告テキスト生成などを進めていますが、広告以外の当社サービスへの応用や、社内オペレーションの改善等の業務効率化にも活用を開始。
また他企業と連携し、業界に特化した独自データを学習させた「業界特化型のLLM構築」や、各社のLLM活用支援事業の立ち上げも予定しています。
これからも変化の激しいインターネット産業において、技術革新を取り入れながら、テクノロジーとクリエイティブで、インターネット広告の未来を創って行きたいと思っています。
※ Thundermark CapitalCapital「AI Research Ranking 2022 」(2022年5月)
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