「1年目で主導した、VertexAIのMLOps基盤開発が転機に」Next Expertsの機械学習エンジニアが抱く大きな志

技術・デザイン

当社の子会社であるCAMでは、エンタメコンテンツやビジネスバラエティメディア、ライフスタイルメディアを主軸に30以上のサービスを展開しています。新規・既存問わず多くのサービスを生産性高く開発できる理由の1つが、CAMの共通プラットフォームの存在です。共通プラットフォームには様々な機能を有していますが、機械学習エンジニアの原が担当するMLOps基盤の構築やレコメンドモデルの開発は、ユーザーと新たなコンテンツとの出会いに日々大きく貢献しています。

2023年5月、「Google Cloud Platform(以下、GCP)」 を活用した機械学習領域における「Next Experts」(「Developer Experts」の次世代版)に選出された原に話を聞きました。

Profile

  • 原和希
    2021年新卒入社。株式会社CAM所属 機械学習エンジニア。GCPを活用した機械学習領域における「Next Experts」。
    CAMが展開する様々なサービスにおけるレコメンドロジックの開発や、それらを運用するためのMLOps基盤の構築・運用を担当。2023年3月「Google Cloud Champion Innovators(Cloud AI/ML)」に選出された。

MLOps基盤開発で培ったノウハウをグループ全体に還元

── CAMにおいて、現在どのような役割を担っているのか教えてください。

CAMでは自社のプラットフォーム上で様々なサービスを開発することで、共通機能を活用できる仕組みを整えています。一部を除けば、各サービスごとに機能開発を行う必要がないため、開発速度を向上することができます。私が開発しているAIや機械学習系の機能、MLOps基盤も共通プラットフォーム全体で利用可能であることが欠かせません。そのため、新機能や新たな機械学習モデルの開発、アーキテクチャ設計時には横展開できるよう、常に意識しています。また、IU Data Science Center ※ にも兼務で所属しているため、共通のプラットフォームではないものの、マッチングアプリ「タップル」への横展開を意識した開発や技術選定も心掛けています。

※専務執行役員 飯塚が統括する、CAMやタップルなど約10のスタートアップに特化したデータ活用、分析、機械学習を担う横断組織

── GCPを活用した機械学習を、自身の専門領域として志したきっかけは何だったのでしょうか?

きっかけは、入社1年目で主導したMLOps基盤の構築において、 Google CloudのプロダクトであるVertexAIを使用したことです。2021年5月のVertexAIリリース時からいち早く検証、活用し、約半年という短期間で基盤を構築しました。その際、Googleが長年培ったデータや機械学習領域のノウハウが詰まったプロダクトへの魅力を感じました。そして、Google Cloudのその他のサービスも駆使することで、AIや機械学習による新たな価値を生み出し、自社サービスに還元したいと考えるようになりました。

当時の私は、GCPだけでなくクラウドの活用経験すらほとんどない状態でしたが、初めて0からプロジェクトを主導する経験を積んだことで、スキルが格段に伸び、大きな成長実感を感じることが出来ました。今の自分を形作る基礎となっている経験だと言えます。経験値のない私に、基盤開発を任せてくれたチームメンバーには非常に感謝していますし、サイバーエージェントの「若手が挑戦できる文化」があってこそだと感じました。現在も、この基盤の運用・改善に取り組んでいます。詳細についてはブログ記事「Vertex AIを活用したMLOpsの実現」に執筆したので、ご興味のある方はぜひ読んでみてください。

── 「Next Experts」に選出されるために、どのような努力を重ねてきたのか教えてください。

ブログの執筆や、サイバーエージェント主催の若手技術者中心のカンファレンス「CA BASE NEXT 2022」での登壇を通して、Google Cloudの機械学習プロダクトの活用に関する発信を積極的に行いました。VertexAIについては、リリース後にドキュメントや導入事例が少なかったこともあり、これらの発信を通して、社外コミュニティへも貢献できました。その成果が、Google CloudのChampion Innovators(Cloud AI/ML)選出にも繋がったと考えています。

また、CAMだけでなく、サイバーエージェントグループの他部署からも、VertexAIの導入やリプレイスに関する相談を受けました。具体的には、VertexAIを用いたMLOps基盤のアーキテクチャレビューや、VertexAIの各プロダクトの使用感等の共有、実装時のエラー解消のためのアドバイスといったサポートを行っています。MLOps基盤を0から開発した経験があるからこそ、横断的にレビューを行えるのが自分の強みだと考えています。各部署がスムーズにVertexAIを導入するための手助けができ、嬉しく思います。

生成AIによって変化する開発プロセス。機械学習エンジニアはどう向き合うべきか?

── サイバーエージェントグループにおいて、機械学習エンジニアとして活躍できる環境は他にも多くあると思います。その中でも、CAMで働く面白さはどんなところにありますか?

私自身、アイドルなどのエンタメが好きなことが大きな理由の一つです。CAMではエンタメ領域のWebサービスを多く展開していますが、自分のスキルである機械学習の技術でサービスの課題を解決したり、ユーザーがさらに熱狂するための手助けが出来ることに大きなやりがいを感じています。

例えば、私が開発しているレコメンドモデルでは、ユーザーとコンテンツを繋げることで価値提供をしています。前提として、増加し続ける膨大なコンテンツの全てにユーザーが触れることは困難であり、その中から自分が魅力を感じるコンテンツに出会うことはある種、運命とも言えると思います。そこで、機械学習によるレコメンドを活用することで、自分の人生を支えるようなエンタメに出会う可能性を高めることができます。
私自身が日々エンタメに支えられているからこそ、一生かけても自力では探し出せなかったかもしれないコンテンツとの出会いを生み出し、人とコンテンツとを繋げる手助けができればと考えています。

── エンタメへの熱い想いが、自身の技術力を向上させる大きなモチベーションの1つになっているのですね。

私の専門領域であるMLOpsは、機械学習による価値を安定的に届けるために必須の技術だと考えています。例えば、レコメンドのモデルの学習が失敗してしまい、それにより一時的に推薦が出来ない状態や、精度の低下が発生すれば、ユーザーと新たなコンテンツとの出会いを妨げてしまうかもしれません。このようなことが起きないよう、安定かつ確実に機械学習モデルを運用するために、MLOpsのノウハウや基盤を活用する必要性があるのです。

少し話が変わりますが、さらに将来の話をすると、生成AIの登場で新たなエンタメの形も生み出せるのではないかとも考えています。生成AIによって、自分が好きなものを生み出せるのであれば、ユーザーによってパーソナライズされた、その人だけのコンテンツ生成もいずれは実現可能かもしれません。しかし、サービスを提供する上で、それらがユーザーにとって本当に熱狂を感じるコンテンツなのかという視点は決して忘れてはいけないと思います。

── 生成AIの登場によって、職種に関係なく誰でもそれらを活用できる社会に近付きつつあります。生成AIを事業や開発プロセスに活用する上で、機械学習エンジニアだからこその強みは何だと思いますか?

現在、生成AI関連の技術を今後の事業や業務効率化に繋げるべく、調査と検証を行う中で、生成AIによって実現可能なことと、実運用とのギャップを日々体感しています。そこで感じた生成AI時代の機械学習エンジニアの強みの1つは、データサイエンス / 機械学習の理論を理解した上で生成AIを活用できることです。生成AIは従来の機械学習と全く別ものというわけではなく、あくまで延長線にすぎません。そのため恐れることなく、今まで培った技術やノウハウを活かす姿勢が重要だと思います。

例えば、生成AI自体の技術理解を踏まえた活用提案や、モデルチューニング、評価方法、リスク判断、そして運用するためのMLOps基盤など、機械学習エンジニアとして培ってきた知見が活かせる領域は多岐に及びます。世界的に生成AIの活用が進み、データ活用を専門としていない誰もが利用可能な今だからこそ、専門家としての正しいアドバイスと、正しい運用をサポートする立場である必要を感じています。

また、そのために最新情報のキャッチアップとチームへの共有を欠かさないことも重要です。データ活用に関するバックグラウンドがあるからこそ、キャッチアップと最新技術に対する理解も早いと思います。

さらに、キャッチアップした情報をもとに将来を想像することも重要だと考えています。単に流れに身を任せるのではなく、各生成AIの技術はどのように進歩していくのか、それを実現するためには何が必要なのか。たとえその通りにならなかったとしても、まずは自分なりの考えを持つことが大切だと思います。

── 生成AIによって開発プロセスが変化する環境下で、機械学習エンジニア自身はどう変化・進化していくことが必要だと考えていますか?

最も重要なのは生成AIの活用を恐れないことだと思います。技術進歩の速度にしっかりと向き合って、スピード感をもって積極的に日々の業務に取り入れることが大切です。

また、自分が関わるサービスやコンテンツに対する愛も、より一層重要になると考えています。生成AIによって、高速かつ多種多様なアウトプットが容易に実現出来るようになったからこそ、サービスに対する理解や、ユーザーが何を求めているのか深く理解することが欠かせないからです。何を、誰のために、なぜつくるのかという本質的な部分が、これまで以上に重要になると思います。

そして最後に、生成AI×クラウドの活用スキルの向上です。基盤モデルを自社で開発することによるメリットも大いにあります。ただ、Google Cloudなどで提供されている大規模基盤モデルを活用することで、検証と導入を高速に実現することが可能です。全てを0から自分たちで作るのではなく、効果的に活用するスキルがさらに重要になるのではと考えています。

好きな技術領域を極めるには、早い段階で大きな挑戦に向き合うこと

── 今後の目標を教えてください。

大きく3つあります。1つ目は、「Next Experts」の役割を活かした社内におけるMLOpsの促進です。サイバーエージェントのMLOpsをトップレベルに引き上げられるよう、自分がリードできる立場になることが目標です。具体的な取り組みとしては、まずは所属部署を超えた技術選定のサポートをさらに推し進めることと、技術共有のためのコミュニティの立ち上げを検討しています。

2つ目は、Google Cloudを駆使した生成AIの活用です。VertexAI(PaLM2, Imagen, Codey)やDuetAI、LLMによるembeddingと、それを用いたVertexAI Search等のベクトル検索など、生成AIのプロダクトと活用するための機能が多くリリースされています。これらを用いて、既存のレコメンドシステムをより高精度なものにリプレイスしたり、LLMを活用した新機能の開発、業務効率化、クリエイティブの作成支援などを実現することが目標です。

3つ目は、社内での貢献にとどまらず、社外の技術コミュニティでのプレゼンスを向上させることです。Google CloudのChampion Innovators(Cloud AI/ML)認定を活かして、カンファレンスへの登壇や社外のエンジニアとの技術交流を積極的に行いたいと考えています。

── 今後キャリアを築く上で、自分が好きな技術領域を極めたいと考えている学生は多いと思います。「Next Experts」としての立場から、そんな学生のみなさんへのメッセージをお願いします。

専門領域を武器に活躍するには、最新技術へのキャッチアップだけでなく、手を動かすことを決して止めないという心構えが大切だと思います。AI/MLの領域はとりわけ技術の発展が激しいですが、私も業務の傍ら常に最新の技術をキャッチアップし続け、最先端を走り続けられるよう意識しています。そして、培った技術を駆使して、担当サービスにどのように価値貢献できるのか、アウトプットを意識することも必要不可欠だと思います。

加えて、まだ誰もやっていないことに取り組む姿勢も重要だと考えています。先ほどもお話ししたように、私のターニングポイントは新卒1年目でVertexAIのMLOps基盤構築プロジェクトを主導したことでした。リリースされたばかりで情報が多くなかったVertexAIをいち早く検証し、約半年で基盤を構築させた経験が、機械学習エンジニアとしての高みを目指すきっかけになったのです。自分にはまだスキルが足りないと感じたとしても、早い段階で新しいチャレンジに向き合うことで、自分を大きく成長させられると思います。

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