【前編】デジタルとブランドの視点で考える、これからのマーケティング

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サイバーエージェント・ストラテジー※1の共同代表彌野氏(Bloom&Co. 代表取締役/ M-Force 共同創始者)をファシリテーターに、同社と協業※2のM-Force共同創始者の西口氏(Strategy Partners代表)、そして当社内藤が「変容し続けるマーケティングのこれから」について話した、セッションの様子をお届けします。
【前編】では、これまでのマーケティングや広告宣伝の課題を、デジタルマーケティングとブランドマーケィングの両方の視点からひも解きます。
※1 2020年4月、マーケティング戦略の策定と実行を支援するBloom&Co.とサイバーエージェントの合弁会社
※2 2020年8月、顧客戦略を起点に経営とマーケティングを支援するM-Forceとの協業を開始

Profile

  • 西口一希氏
    1990年P&Gマーケティング本部入社。『パンパース』『パンテーン』『ヴィダルサスーン』『ヴィックス』『プリングルズ』などのブランドマネジメント担当。2006年にロート製薬に入社、執行役員マーケティング本部長として60以上のブランドマーケティングを統括。2015年4月よりロクシタンジャポン代表取締役社長として2016年にグループ最高利益達成し、その後、アジア初のグローバルエグゼクティブメンバー、社外取締役戦略顧問。2017年からスマートニュースへ日本と米国のマーケティング担当執行役員として参画。2年で日本と米国を大きく同時成長させ累計5,000万ダウンロード、月間使用者数2000万人を達成、2019年8月に、企業評価金額が10億ドル(約1000億)を超える国内3社目のユニコーン企業までの急成長に貢献。

  • 彌野泰弘氏
    米国大学卒業。P&Gにてブランドマーケティングを、日本・シンガポール・スイスなどで約9年間に渡って担当。日本・シンガポール・スイスにて、多国籍なチームメンバーと共にマーケティング戦略の策定、および実行の指揮を取る。2012年にDeNAに入社。執行役員 マーケティング本部 本部長として、モバイルゲーム事業、EC事業、新規事業、スポーツ事業やコーポレートブランディングの刷新も含め、全社のマーケティング活動を統括。2015年4月に株式会社Bloom&Co.を設立。CNET Japan CMO Award 2014 受賞。Ad Tech Tokyo、Google Think、Play with Twitterなどで登壇。KDDI ∞ Labo社外アドバイザー、VRize アドバイザー、経済産業省主催「始動」メンター、電通主催スタートアップ支援 GRASSHOPPERアドバイザー(マーケティング)

HOW=手法に偏重してきた2000年代以降

氏名

彌野氏

早速ですが、今回はマーケティングに携わる人ならご存知であろう西口一希さんと、サイバーエージェント常務執行役員の内藤貴仁さんを迎えて「変容し続けるマーケティングのこれから」をテーマに話し合いたいと思います。
まず西口さん、これまでのマーケティングや広告宣伝の変遷と課題について、うかがえますか?

氏名

西口氏

大きくは、2000年ごろ、そしてまさに今と、2つのターニングポイントがあると思います。
これらの時期を境に、企業と代理店の関係性も変わりつつあります。
特に今起きている変化は、「自社は誰に(=WHO)、どんな価値を(=WHAT)提供するのか?」が問われているという、本来のマーケティングに立ち戻るフェーズにあると思います。

氏名

西口氏

まず、私が若手だった90年代はデジタルが浸透する前で、今から比べるととてもシンプルなマーケティングが展開されていました。
プロダクトの独自性と便益を磨き上げ、それをしっかりと広告で打ち出していく。

代理店さんにちょっとあいまいなブリーフィングをしてしまうと、怒られた時代でもあります。
何が価値で、なぜそれがこのターゲットに響くのかを説明できなければ、広告に落とし込めない、と返されていました。

2000年代以降、デジタルが浸透し始めると、この関係性と業務内容が変わっていきます。
平たくいうと、伝える手段=HOWが爆発的に増え、企業も代理店もそれを追うのに集中していった。
同時に商品のコモディティ化や生活者の多様化も重なり、個々のプロダクトを磨き上げるよりも「広告で売る」「バズで売る」ことが志向されるようになりました。

さらに、そうした状況下でマーケティングに本腰を入れようとした企業は、「どう売るか」を考えるのがマーケティングだと勘違いしてしまった。それがこの20年ほどの状況でした。

氏名

彌野氏

私もそれは実感します。
とにかく、インパクトのある広告で認知を獲得できれば売れるのだと、”認知神話”とも言える誤解が蔓延していたと思います。
実際には、広告がバズって認知は上がったが売上につながらないケースは非常に多い。

認知を目的とする広告は、大きなお金を使うわりに売上にはつながりにくい、けれど止めると落ちるのではという恐怖もあって止められない。
広告がそんな存在にもなってきているのは、大きな課題だと思います。

広告配信ではもはや差がつかない

氏名

彌野氏

一方、内藤さんはデジタルの興隆とともに、HOW=手法を中心に提供されてきた立場ですよね。この20年ほどのマーケティングと広告宣伝の変化と課題を、どう捉えていますか?

氏名

内藤

おっしゃるように、デジタルという新しい領域を主戦場に、HOWを追求してきたのが当社です。
いわゆる伝統的な広告業界に対し、意識的にデジタル手法に集中した戦い方をしてきた。それが私たちが勝つ道だったんです。

ただ、西口さんが指摘されたように、HOW偏重の活動がマーケティングだという誤解や、本質的な価値提供を妨げている可能性があることも、認識しています。
だからこそ今後は我々も、HOWで解決できない問題に取り組むべきだと考えています。

2020年発表の「日本の広告費」で、とうとうインターネットがテレビを超えました。クライアントのデジタルにかける予算が、どんどん増えているということですね。
するとおのずと、解決すべき問題もHOWだけではどうにもできない性質のものになってくる。そこをどう支援していくかが、まさに今の課題です。

氏名

彌野氏

HOWといっても、広告配信の部分と、クリエイティブの部分があると思います。それぞれどう捉えていますか?

氏名

内藤

細かくいうと、広告配信はもはや自動化したので、どの代理店が手掛けてもほぼ差がつかないと思います。
その分、クリエイティブでしか差がつかなくなっているとも言えます。
そして、クリエイティブは本来「WHO+WHAT」が明確になった上で考案していくので、必然的にその部分にも踏み込むことになると思います。

氏名

彌野氏

今後、代理店はいずれにしても「WHO+WHAT」の戦略立案に関与する必要性が高まる、と。
原点回帰でありながら、昔と違って今はデジタルが当たり前になっているので、今の時代に即した形で実現していくことになるのだろうと思います。

氏名

西口氏

内藤さんの「広告配信では差がつかない」というのは、クライアント企業のコンサルティングをする立場としても、強く感じているところです。
出稿メディアの最適化や、パーソナライゼーションなどですね。で、クリエイティブはそこまで自動最適化できていないというのも、同意です。

ただ、補足すると、クリエイティブが効くためには前提条件があります。それは、プロダクトの便益がある程度は強いこと。その場合、クリエイティブは便益をブーストしますが、便益が弱い、もしくはよくわからないのにクリエイティブで勝負することはできません。

広告認知や好感度は適切なKPIなのか?

氏名

彌野氏

そこを、無理やり広告で何とかしようとすると、広告は好かれるけれど売上に反映されない事態にもなりますね。

氏名

西口氏

そうですね。クリエイティブが誤解して使われているがゆえに、本来のパワーを発揮しきれていないし、無駄も多い。
そもそもクリエイティブを評価するKPIに、広告認知や好感度を用いていることも問題です。これらは売上とはあまり相関関係がありません。

冒頭の話と重複しますが、大前提としてクライアント側がプロダクトの強さをしっかり見極め、代理店さんに明示しないといけないですね。
デジタルの施策はテクノロジードリブンで、ABテストなどで機械的に成果を高めていけますが、どこかで頭打ちになります。WHOとWHATを把握できていないと、その次の策が見出せません。

ものづくりの本質がないままに、マーケティングや広告投資がどんどん行われているのは、業界全体の課題です。

氏名

彌野氏

ものづくりの本質とはどう定義しますか?

氏名

西口氏

例えば今、コロナウイルスに対するワクチンが開発されたとしますよね※3。すると全世界が注目し、メディアがどんどん報道してくれるので、1円のマーケティングコストもかけずに世界に広がり購入されていく。
これが、独自性と便益を備えた強いプロダクトです。ものづくりは本来、こうあるべきだと思います。

氏名

彌野氏

確かに、プロダクトに独自の価値がないままに広告の力だけに頼ろうとして、代理店さんに誤ったKPIを突き付けているのは、不毛な戦いですね。

お二人の意見とも重なりますが、私としては大きく3つの課題があると捉えています。

1つは前段で西口さんが指摘されたように、事業会社のマーケティング部自体がマーケティングを好感度や話題性、単純なブランド認知を狙った広告出稿をマーケティングと定義してしまうこと。
だから、売上に繋がらない不毛な戦いに陥ってしまう。

2つ目は、広告の役割の変化を把握できていないことです。
広告は「広く告げる」と書きますが、昔と違って今は生活者の好みが細分化しているので、広くというより「独自の価値を」「それを求める人に」伝えることが大事になっている。
それに気付かず、”広く”の呪縛から逃れらない企業が多いと感じます。

3つ目は、広告宣伝費のROIをしっかり見ていないこと。
広告宣伝費は通常、売上の10-20%、多ければ30%にも上る多大な投資なのに、売上・利益に対する成果を把握していないのは大きな問題です。

……と、現状の課題を次々と挙げてしまいましたが、西口さんの「今が『WHO+WHAT』に立ち戻るフェーズ」という指摘には希望があります。
では続いて、「これからクライアント企業と代理店には何が必要か、何ができるのか」を話していきたいと思います。

【後編】へと続きます。

※3 対談時にはワクチンの開発成功のニュースは開示されていませんでした。ニュースの開示と共に、PRやマーケティング投資無くして、瞬時に全世界に拡散され一般消費者まで知りうるニュースとなりました。

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