日本のマンガ文化を大切にしながらインパクトある作品作りにチャレンジする「STUDIO ZOON」
縦読み漫画の面白さと魅力に迫る

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サイバーエージェントが運営する縦読み漫画コンテンツスタジオ「STUDIO ZOON(スタジオズーン)」。「Amebaマンガ」をはじめ、各大手電子書店にて、2024年4月より日本独自のマンガ文化を兼ね備えたオリジナルの縦読み漫画を続々とリリースしています。
本記事では、「STUDIO ZOON」編集長の村松 充裕に、約2年間の制作期間を経て作品をリリースした今の気持ちや、縦読み漫画にチャレンジする上で大切にしていること、魅力について聞きました。

Profile

  • 村松 充裕(STUDIO ZOON第二編集部編集長)
    新卒で出版社に入社し、マンガ編集者として従事。主な企画立ち上げ作品は『食糧人類』『中間管理録トネガワ』『一日外出録ハンチョウ』。累計部数は約1500万部超。その後、2022年にサイバーエージェントへ中途入社。マンガIP事業部「STUDIO ZOON」にて編集長として多くの縦読み漫画の制作を手がけている。

約2年前にゼロからスタートしたコンテンツスタジオ

─ 「STUDIO ZOON」が立ち上がってから、作品がリリースされるまでの約2年間はどのような期間でしたか?

まずは、制作体制を含めた様々なものをゼロから作りました。私は普通のマンガしか作ったことがなかったため、縦読み漫画をどういう体制で作るか、もう1人の編集長である鍛治(第一編集部編集長)と一緒に頭を悩ませながら考えました。

一般的にマンガ業界は、原稿料や契約形態など大体業界の標準が決まっているため、編集部の体制はどこもあまり変わりません。
しかし、縦読み漫画は着彩という工程が1つ多く、その予算のかけ方やクオリティの追求、どういう体制で作るかは各社さまざまでとても幅があるんです。
答えがない中で作らなくてはいけなかったので、この2年間はそれが大変でしたが、楽しくもありました。

「STUDIO ZOON」では、作家さんの作家性がしっかり活きる作品作りをして、関わった作家さんがきちんと幸せになれるといいなと思っています。
私がマンガ編集者出身、鍛治がマンガ家出身ということもありますが、クリエイターの力が最大限に発揮されることと、幸せになれることを中心に据えています。

例えば、「STUDIO ZOON」では着彩を内製しています。それは「作家さんの作品に合った着彩を、しっかり判断できる中の人間を育てたい。それがないと作家性が活きない」という考えのもと、大事にしているポイントです。
外注や分業制の多い縦読み漫画の業界で、「STUDIO ZOON」は内製である程度出来るようにしています。

─ 試行錯誤しながら世にインパクトを与える作品作りにチャレンジしてきた中、どんな気づきがありましたか?

やはり縦読み漫画と通常のマンガは大きく異なると感じました。
「絵と文字で人の心を動かして、お金をいただく」という意味では根幹は一緒で、私のこれまでの経験ももちろん活きていますが、ルールが違う部分があります。特に縦読み漫画はプラットフォームが少ないため、限られた出面の中で読者に「読みたい」と思ってもらえる作品作りが求められます。
一方、マンガは出面が広くて作品数が多い分、埋もれる可能性もあります。
多様な作品が大量にあるが故に作品が埋もれそうになる状況でマンガを作るという戦いと、限られた出面でユーザーに求められる作品を上位に食い込ませないと埋もれそうになるという戦いはだいぶ違うと思うんです。

─ 作品性における違いには何がありますか?

作品を読んでもらうための大きな違いは、マンガは「他と違っている」こと、縦読み漫画は「他と違っていない」ことをアピールする必要があることです。一度読者を引き込めば面白さで勝負する点は一緒ですが、マンガの場合は出面がたくさんあるので、「私はあの子と違う、いや私はもっと違うぞ!」と、個性を主張し、縦読み漫画は少ないプラットフォームの中で人気なものを読みに来ている人に向けて「大丈夫です、安心してください。私たちみんなと一緒だよ」と主張する必要があります。

─ しかし、「STUDIO ZOON」の作品は日本のマンガのように個性が強いところが評価されて海外展開の話が多く舞い込んでいると聞きます。

そうですね。日本の縦読み市場が他に合わせないと読んでもらえないというだけで、読者は個性的な新しいものを求めています。STUDIO ZOONは「合わせるのも大事だけど、作家さんの個性をしっかり出すのはそれ以上に大事」という考え方でやっているので、そこが海外の方に評価されたんだと思います。
プラットフォームが少ないとどうしても属性が固定化されます。その属性をクリアすることが必要条件になって、面白いことが十分条件になる。これは投稿小説サイトでも同じことが起こっていますよね。
仮に異世界転生系小説が主流の投稿サイトで、誰が読んでも面白い刑事小説を投稿したとしても、ランキングに上がってこない。なぜなら、そこにいる読者が一目見て「ここで読みたいのとは違う」と思うからですよね。とはいえ、この刑事小説を出版し書店やプラットフォームに並んだら売れる可能性は十分にあるわけです。
日本の縦読み漫画にも同じような現象が起こっていて、まずはしっかり他と同じであることを示さなくてはいけない。しかし、読者が求めているのは実は他と違う個性。この塩梅を探るのが非常に難しいところだと思います。

 

担当作品が大手電子書店にて4冠を達成

─ 8月にリリースした『ヒトグイ』で、ヒット作品が出ましたが、今の心境はいかがですか?

半日だけホッとしました。でも全然油断はしておらず、ようやく始まったという心境ですね。ずっと息を止めていた感覚だったので、言葉通り「一息つけた」という感じでした。
そもそもランキング上位に入るサバイバルホラーは縦読み漫画ではほとんどなかったので、いけるかどうかも未知数でした。『ヒトグイ』は比較的従来のマンガらしく作っているんですが、その中でも、なるべく縦読み漫画として読みやすく、面白いものにしようとはしました。だから『ヒトグイ』が縦読み漫画では受け入れられない可能性もありました。
1位をとれたのは、1つは作家さんにネームバリューがあるからだと思います。
出版社時代に担当した、シリーズ累計500万部を超えた(2024年8月時点)『食糧人類』の作家さんのタッグに「縦読み漫画にチャレンジしてみませんか?」とお願いしたんです。

あとは、縦読み漫画ではこの手のジャンルでのヒットはなかったのですが、マンガだとパニックホラー系はよく売れていたりします。つまり、こういうジャンルを読みたい人はいるはずだけど、その期待に応えられる作品が縦読み漫画にそれほどないだけではないか?という仮説のもとに作っていました。
 

─ 「STUDIO ZOON」ならではの強みはなんでしょうか?

話せる編集者が揃っているところですね。
「STUDIO ZOON」は編集経験のある優秀な人を採用していますし、未経験者への育成もできているので、作家さんとしては割と安心してコミュニケーションができる現場の人間が揃っていると思います。

─ 今後どんなことにチャレンジしていきたいですか?

やはり幅を広げて新しいことをしていきたいという思いがあります。
なので『ヒトグイ』は「新しいことをする」のいい例です。新しい生きる道があるんじゃないかという賭けをしたわけですから。
新しさがないとかっこよくないじゃないですか。

─マンガと比較すると、市場に出ている縦読み漫画はまだまだ目立たないような実感があります。

おそらく縦読み漫画の存在感が日本でまだそんなにない理由は、あまり新しくないからだと思います。
つまりある種の衝撃を与えるような作品や、みんながその話をしたくなるという縦読み漫画が、市場にまだ少ないと思っているんです。一方、マンガにはそういった作品が多くあります。だからこそ、読んで「すごい!」と思われて、読者に広がっていく。縦読み漫画も今の2倍、3倍そういった流れが欲しいですよね。
存在感というのは、新しさやかっこよさがないと出ないと思うんです。それは作品にも作家さんにもスタジオにも言えることだと思います。
 

“伴走の仕方”が絶妙な会社のマインドに助けられている

─ サイバーエージェントだからできることはありますか?

「STUDIO ZOON」がヒット作品を4つも5つも作れてから、サイバーエージェントのアニメ、ゲーム、舞台といった機能と相乗効果が生まれてくると思います。
逆に言うと、私たちが複数ヒット作を作れるまでは、サイバーエージェントの機能的な良さを発動させようがないんです。なので、それまでは粛々と良い作品を作っていくしかないと思っています。
今はこの会社のマインドの良さに支えられていますね。
例えば、コンテンツをこれまでやってきたことがない会社が、コンテンツ事業を始めるとき、ビジネス側の人がその事業にどこまで口を出すか、出さないのか、どこまで管理するのか、しないか、というグリップの塩梅を間違えてしまいがちです。
コンテンツはある種の余裕みたいなものからしか生まれないものですが、ガチガチに管理して、結果として握り潰してしまうことが多いんです。
逆に「分からないからもう任せた」と言って野放しになって、事業自体がフワフワしてしまうパターンもあるんですけど。

サイバーエージェントは色々な事業を見てきたり、コンテンツも様々な形で関わってきた経験があるので、「まずは握り潰さない」というスタンスがあります。
握りつぶさないけど、野放しにしない、といういい塩梅で進めさせてもらっている感じがしてますね。それは責任者の技量でもあるし、会社としてのそのマインドに、今は助けられてます。
そんな風に支えてもらっているので、ヒット作を複数生んで、相乗効果を出していけたらと思っています。

─ 最後に、作り手としての縦読み漫画の魅力は何でしょうか?

色々な意味で、まだまだやれることがあるということですかね。課題も多いですが、その課題に率先して取り組んだ先には「こんなヒット作があるの!?」というような、まだ誰も掴んでいない果実がたくさんぶら下がっているはずです。
縦読み漫画は幅が狭い分、新しい果実を最初に取れる可能性、つまり、かっこいいことをやれる可能性が高い。それが一つの魅力です。

マンガだったら、例えばトキワ荘の時代は、そういう新しい果実まみれだったと思うんですよ。石ノ森章太郎先生が『仮面ライダー』を考えて、手塚治虫先生が『ブラックジャック』という本格医療マンガを考えて、赤塚不二夫先生が『天才バカボン』というギャグマンガを考えて…それぞれが新しい果実を取っていったんです。今に時代を移すとマンガには果実はいっぱいあるんですけど、誰も取ったことのない新しい果実をとれることはもうあまりないと思うんです。別にそれが悪いというわけではないですが。
私としては、新しい果実を取ることがかっこいいと思っていて、つまるところ、かっこいいことがしたい、という感じです。
 

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