「Women Tech Terrace 2024」で考える、IT業界ジェンダーギャップ解消の未来地図と現在地
「女性エンジニアが "長く自分らしく" 働くことを応援する」をコンセプトに、2024年6月22日(土)に開催した女性エンジニアのための技術とキャリアのカンファレンス「Women Tech Terrace 2024」。
当カンファレンスの最後には、「DE&I責任者と語る、IT業界ジェンダーギャップ解消の未来地図と現在地」と題したパネルディスカッションが行われました。ゲストスピーカーとして、公益財団法人 山田進太郎D&I財団COO 石倉秀明氏、株式会社日立製作所 デジタルシステム&サービス人事総務本部 Chief Diversity, Equity and Inclusion Officer中田やよい氏、bgrass株式会社 代表取締役CEO/CTO 咸多栄氏の3名をお迎えし、当社Tech DE&I Lead 神谷優がモデレーターを担当。こちらの記事では、当日の議論の様子を一部お届けします。
Profile
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【ゲストスピーカー】
中田やよい氏
株式会社日立製作所 デジタルシステム&サービス人事総務本部 Chief Diversity, Equity and Inclusion Officer
15年間の在豪を経て日本に帰国後、UBS投資銀行に20年、Novartis Pharmaに3.5年、2022年10月より現職。UBSでビジネステクノロジートランスフォメーションプロジェクトに多く携わった後、人事に転身。人財開発、組織カルチャー、DEIの領域に従事。「Unleash the power of our people」をモットーに日々課題にチャレンジしている。 -
【ゲストスピーカー】
石倉秀明氏
公益財団法人 山田進太郎D&I財団COO
大学を中退し、フリーターから3社経験後、株式会社キャスター取締役として2023年10月に東証グロース市場上場に貢献。その後退任し、2024年2月より現職。 STEM領域のジェンダーギャップ解消を目指して活動を行う。その他にLive News αやアベマヒルズでコメンテーターを行うなど発信活動も積極的に行っている。 -
【ゲストスピーカー】
咸多栄氏
bgrass株式会社 代表取締役CEO/CTO
新卒からエンジニアとして開発に従事、その傍ら女性エンジニア向け1on1サービス個人開発。IT業界のジェンダーギャップ解消を目指し、2022年7月にbgrassを創業。2023年7月、女性エンジニア向けハイスキル転職サービス「Waveleap」をリリース。2022年女性リーダー支援基金採択。2024年「BEYOND MILLENNIALS 2024」選出。 -
【モデレーター】
神谷優
株式会社サイバーエージェントTech DE&I Lead兼Developers Connect室マネージャー兼ソフトウェアエンジニア
当社新卒エンジニア職1期生入社。入社3年目よりスマートフォンDivisionボードメンバーとして複数のサービス立ち上げに携わる。2015年以降3度の育休を挟みつつ、定額制音楽配信サービスにてソフトウェアエンジニアとして、子ども向けプログラミングサービスにて海外開発部門責任者として長くtoC向け開発に携わる。2024年2月よりDevelopers Connect室マネージャーを兼務。 業務外ではIT業界のジェンダーギャップ解消をライフワークとしており、NPO法人Waffleにてプロボノとして、Ms.Engineer株式会社にてco-founderとして参画。 2022年Women Techmakers Ambassador就任。
大切なのは、今働いている女性エンジニアがその楽しさを伝えること
IT業界におけるジェンダーギャップを解消するためには、2つの軸が必要だと考えています。1つ目は、理系の女子学生を増やすことで女性エンジニアの母集団を作ること。2つ目は、女性エンジニアの皆さんがIT業界で長く働き続けたいと思える環境を多くの企業が用意することです。思想や感情論に頼るのではなく、データやファクトに基づいた分析を行った上で、ジェンダーギャップを解消するためのアクションを考え、早急に行動に移さないといけない時代が来ていると感じます。
咸さんにはスタートアップ目線でお話いただきましたが、日立製作所のような大手企業がこの点をどのように考えていらっしゃるのか、ぜひお伺いしたいです。
母集団形成が最も大きな課題だと考えています。我々も様々な取り組みを行っていますが、日立のような大手企業の強みは、日本以外にもマーケットを広げられることです。例えばインドでエンジニアの採用を行ったところ、男女比がほぼ同じで、最近では女性の方が多いくらいなんですね。カーストや日本とは異なる次元での男女格差がある中で、多くの女性が一所懸命勉強してSTEM(Science:科学、Technology:技術、Engineering:工学、Mathematics:数学)領域に加わり、人生のゲームチェンジを図っています。
我々の財団では、何か事業を作るというよりは、世の中の様々な企業や団体と連携することで、いかに社会にムーブメントを起こせるか考えています。多くの企業は女性エンジニアを増やそうと努めていますが、そもそも大学進学時に理系や理工系の学部に行く女性が少ないため、新卒採用市場においても女性比率が低いことが課題です。これらの環境を変えるには、いち企業の取り組みだけでは難しいのが現状です。
そのため、私たちは文理選択のタイミングで働きかけられるよう、女子中高生を大学の研究室に招待して日々どのような研究を行っているのか体験してもらう機会を作ったり、高校1年生には奨学金の給付を行っています。10万円なので学費にはならないのですが「誰かが背中を押してくれている」と感じてもらうことが非常に重要だと考えています。奨学金をきっかけに自己肯定感が増したことで、両親を説得し頑張って理系に進学しましたという声を頂くこともありました。
IT業界においてジェンダーギャップに関する課題はまだまだたくさんあるけれども、その点ばかり強調すると女子学生は不安に思って、IT業界を避けてしまうかもしれません。女性エンジニアの皆さんが楽しそうに働いていること、そしてそれを若い世代の人たちに伝えることが実はとても大切なのでは、と最近感じています。
見たことのない職業は目指せない、早くからロールモデルを知る重要性
また、女性エンジニアの比率を増やすには、文理選択のタイミングでの働きかけだけでなく、進路を選ぶ前に職場体験の機会をどれだけ増やせるかという視点も欠かせないと考えています。
自分が高校生だった頃のことを思い出してみても、文理選択と職業というのはそれほど密接に結びついていないと思うんです。例えば医者や薬剤師になりたいという明確な目標がある子ももちろんいますが、なんとなく数学が苦手だなとか、文系の友達が多いからといった理由で選ぶことも実際多いのではないでしょうか。
ドイツでは、約20年前から政府主導で ”Girls’Day” という職業体験の機会を設けています。国内で女性の比率が40%を下回っているSTEM領域の職業を体験でき、1日で約12万人の女子学生、1万社以上の企業が参加する大規模なイベントです。
この20年の間に、ドイツでは大学で理系学部に進学する女性の比率が2倍に増えたそうです。日本でも中高生が進路を選ぶ前などにこのような職業体験の場を増やすことで、女性比率が大きく変わるのではないかと思っています。
そうですよね、やはり女子学生が目指したいと思えるロールモデルがいることが、非常に大切だと思います。これまで見たことのない役割にはなれませんから。女性比率は約20%、管理職比率は約6%というIT業界において、活躍する女性リーダーを増やし、私もリーダーになりたいと思える環境を創りたいと考えています。
女性がエンジニアになるメリットは数多くあるのに、それらがほとんど知られていない現状があるよね、と 先日弊社のインド人女性エンジニアとも話していました。例えばエンジニアは世界中のどこでもできる仕事ですし、何らかのライフイベントをきっかけにキャリアを中断してもすぐに再開できます。安定的な収入も望めるし、スマホ1つで社会に大きなインパクトを残すこともできる。このようなメリットを若い人たちにもっとアピールしたいです。
行動経済学のとあるデータによれば、STEM領域のように男性の方が得意とされている分野は、自己肯定感が高い女性でも避ける傾向にあるそうです。STEM領域における職業体験の機会を提供するだけでなく、今IT業界で働く我々にはバイアスを取り除く責任があると考えています。
あえて「女性」と付け加えることで、未来が変わるかもしれない
将来エンジニアとして働くことを考えると、IT業界しかないのではと考える人がまだまだ多いかもしれませんが、現在あらゆる業界でたくさんの企業がIT人材を求めています。もはや業界は関係ないので、女子学生の皆さんにはぜひエンジニアを目指してほしいです。
そうですよね、私も知らなかったのですが例えば某大手鉄道会社では、新卒で募集する4分の3が理系職だそうです。現在は、エンジニアという選択肢が様々な業界で活きる、非常に良い時代だと思います。
本日参加くださった皆さんが、実際にエンジニアとして働く上で楽しいことや、大変だけどやりがいに感じることを率直に伝えるだけでも未来は変わると信じています。
なぜ今さら「女性」エンジニアと言われなければならないのか、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、今だけでもあえて「女性」と付け加えることで、自分たちが誰かのロールモデルになれるかもしれないし、エンパワーメントできるかもしれません。皆さんと一緒にジェンダーギャップ解消を推し進めるべく、頑張っていきたいです。
本日は、それぞれの立場からの視点や意見を交え、IT業界におけるジェンダーギャップ解消の現状と未来について議論してまいりました。この会場にいる皆さまが自分らしく歩むことで、誰かのロールモデルとなり、その連続によりジェンダーギャップの解消が加速する未来が見えたように思います。
引き続き、お三方、そして会場にいる皆さまと共に課題解決に向けたアクションを続けていきたいと思います。本日はご参加いただき誠にありがとうございました。
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