エンジニアを目指す学生と共に考える、生成AIでエンジニアの未来はどう変わるのか

技術・デザイン

先日開催されたエンジニアを目指す学生のための日本最大のオンラインカンファレンス「技育祭2023(秋)」に、当社専務執行役員(技術担当) 長瀬とAI事業本部 毛利が登壇しました。

講演では、当社事業におけるAIの活用や、生成AIに関連した社内の取り組みについてお話しました。さらに、生成AIの台頭でエンジニアの未来はどう変わるのかというテーマで学生からの質問に長瀬と毛利が回答。配信中は参加者からのたくさんのコメントで、チャットが大いに盛り上がりました。こちらの記事では、当日の一部の様子をお届けします。

Profile

  • 長瀬慶重
    当社専務執行役員(技術担当)
    通信業界での研究開発を経て、2005年入社。「アメーバブログ」やコミュニティサービス「アメーバピグ」、ソーシャルゲーム、コミュニティサービスなどのサービス開発を担当し、2014年に執行役員、2020年に常務執行役員に就任。「ABEMA」をはじめ当社のメディア事業に携わるエンジニアの採用や、技術力をさらに向上するための評価制度などの環境づくりにも注力している。現在はサイバーエージェント専務執行役員(技術担当)を務める。

  • 毛利真崇
    AI事業本部 AIクリエイティブDiv 統括
    2005年当社新卒入社。 広告代理事業の営業に従事した後、セントラルアカウントデザイン室を立ち上げ、広告プロダクトのアルゴリズム解析および運用設計、自動化ツールのプロダクトマネージャーを担当。2017年にAIクリエイティブDivを立ち上げ、AIや3DCGを活用した広告クリエイティブの効果予測や自動生成の研究開発のビジネス開発責任者・統括として従事。

早々にプロダクトに実装し、着実に広告効果を改善。当社のAI活用事例

サイバーエージェントが展開する事業においてAIをどのように活用しているのか、独自開発の各種事例をご紹介します。

CyberAgentLM(CyberAgent Language Models)

2023年5月に自社開発のLLMを一般公開し、非常に多くの注目をいただきました。実はこの開発は約2年前からスタートしており、公開までにあらゆる情報を学習させてきました。先ほどご紹介した極シリーズにおける広告キャッチコピーなどで、既に社会実装しています。なお、2023年11月には70億パラメータ・32,000トークン対応のバージョン2を一般公開しました。

極シリーズ

事前に広告配信効果を予測する「効果予測AI」を搭載している極シリーズは、革新的な制作プロセスで広告クリエイティブを制作し、広告効果の最大化に貢献するプロダクトです。2020年のリリース以来、当社でお取引のある広告主様の約8割以上に導入いただいており、広告効果改善を実現しています。

極AIお台場スタジオ

また2023年9月には、AI・CGを活用し広告効果最大化の追求に特化した、国内最大級のクリエイティブ制作スタジオ「極AIお台場スタジオ」をオープンしました。LEDウォール3台構成のほか、4Dスキャンなど様々なスキャンシステム、モーションコントロールカメラのBOLTといった最先端設備を備えています。当スタジオを活用し、広告効果と映像クオリティのさらなる向上に努めていきます。

「エンジニアが将来コーディングする必要ってありますか?」学生からの様々な質問

長瀬:続いて、生成AIによってエンジニアの未来はどう変わるのか?というテーマで、学生のみなさんからの質問に答えていきたいと思います。事前にいただいたアンケートから、上位6つを厳選しました。

質問1「エンジニアが将来、コーディングをする必要ってあると思いますか?」

毛利:将来的にゼロになることはないと思いますが、生成AIの登場によって、コーディングする機会自体は格段に減ると考えています。

長瀬:サイバーエージェントでは現在6~7割以上のエンジニアがGitHub Copilotを活用しており、Copilotで推薦されたコードの3-4割が採択されている状況です。今後5年以内にはその比率がさらに上昇すると考えられるので、コーディングの量はかなり減るでしょう。現場のエンジニアによると、感覚的に2割前後は生産性が改善したとのことでした。

質問2「生成AIで様々なことができるようになりましたが、今後エンジニアとして1つの技術を極めるべきでしょうか?それとも様々な職種を知っておいた方が良いですか?

長瀬:まず1つの技術をしっかり確立した後に、他の領域についても知見を広げることが非常に大事な時代になると思います。これまでは特定の専門性だけで成立していた一面もありましたが、今後はより総合的な技術が求められるようになると思います。

毛利:私も同じ意見です。私のチームのエンジニアを見ていて思うのは、1つの技術を極めることの難しさです。本当にその技術が好きな人って、仕事以外にも技術検証を進めたりと趣味と仕事の間がないほど没頭しているんですね。素晴らしいことですが非常に大変なことでもあるので、1つの技術を学習した後に知識をどんどん広げていくことを多くの学生におすすめしたいです。

質問3「生成AIが大事なのはわかるのですが、何から学べばいいのかわかりません。」

毛利:自分の専門ではないものに生成AIツールを活用することがすごくおすすめです。例えば私はデザイナーではないので、画像生成のMidjourneyとかStable Diffusionを触っていると、自分の能力が本当に拡張されているように感じました。

長瀬:確かにそれはありますね。先日、新しい未来のテレビ「ABEMA」で放送したドラマのデータを使って、脚本のレビューを行うツールを作ってみたのですが、自分が知り得ない領域で検証すると、生成AIの凄さが一気に分かると思います。

毛利:100点を出すために使うというよりは、自分の能力では20点くらいにしか到達できない領域を生成AIによって80点まで上げてくれる、という感覚で使うとすごく利益を得られると思います。

質問4「エンジニアは、これからも価値の高い職種であり続けると思いますか?」

長瀬:私は毎年小学生のためのプログラミングコンテスト「Tech Kids Grand Prix」の審査員を務めているのですが、年々レベルが上がっていることを感じます。とはいっても、その子たちが皆将来エンジニアを志しているわけでもない。そう考えると、今後はまるでExcelを触るかのように、当たり前にプログラミングする時代が来るかもしれないと感じます。

ただ、コンピュータサイエンスなど根本的な部分に興味がなければ、技術を深掘りできません。エンジニアとしての自分の強みや軸をしっかり持った上で、例えばマーケティングなどその他貢献できる分野を探していく、いわば掛け算的な働き方が主流になるのではないでしょうか。

毛利:私は、エンジニアという言葉の定義をどう捉えるか次第で、これからも最も価値の高い職種の1つであり続けると考えています。単にコードだけを書く人の価値はどんどん下がってしまいますが、クリエイティビティに溢れ、生成AIを活用してスピーディに何かを創り出せる人の価値はさらに向上していくと思います。

質問5「生成AIを使わなくても、エンジニアとして活躍できる可能性はありますか?」

毛利:可能性としてはあると思いますが、生成AIの各ツールでどんなことができて何が得意なのか、何が苦手なのか、といった点を理解しておく必要はあると考えてます。ものすごい勢いで発展しているので、とにかくこのスピードに追いつくためには今生成AIを使って、技術の変化をキャッチアップすべきだと思います。

長瀬:サイバーエージェントで活躍している若手や、会社を代表する優秀な技術者の共通点の1つとして挙げられるのが、知的好奇心があって変化に寛容な点です。生成AIに限らず大事なのは、新たな技術やトレンドをキャッチアップして、興味を持てる気質であること。生成AIの登場によって、コーディングに限らず様々な業務が効率化することは明らかなので、それをいかに取り入れ、自分自身のバリューをどう高めていくかという発想が不可欠だと思います。

質問6「海外と日本のAI技術の差について聞いてみたいです」

毛利:最後に、チャットで多かった質問に回答しますね。私のチームでLLMを開発していることもあり、技術の差については特に感じません。

ただ違いとしてあるのが、GPUとデータ量です。グローバルと日本の約1億人しかターゲティングしない環境だと、そのマシンリソースに圧倒的な差がついてしまいます。また、やはり英語と日本語のデータ量にも大きな差があるので、生成という観点では英語圏の方がやりやすさはあります。

長瀬:ただ逆に言えば、日本語というドメスティックな領域で生成AIによって生まれるビジネスチャンスにグローバル企業は参入できません。そういった大きなチャンスに向かって、毛利はじめ私たちが引き続き取り組んでいければと思います。

成長産業で、AI時代にも自分なりの価値が提供できるエンジニアに

長瀬:最後に、サイバーエージェントでの生成AIに関する様々な取り組みをご紹介します。
先ほどご紹介した全社で利用を促進しているGitHub Copilotに加え、生成AIの台頭により採用要件のアップデートも検討しています。

上記資料のグレーの領域について、作業のほとんどをAIが担うと考えています。そのため、今後は上流過程でバリューをどう発揮するのかがエンジニアにとって重要なポイントになるでしょう。AIを手段として駆使する技術力や効率化によって空いた時間を新たな価値創出につなげる機会を有しているか、そして挑戦する組織文化を推進していけるかどうかで、エンジニアの二極化が大いに進むと思います。

ハードスキル、ソフトスキルの両面でAI時代に求められるスキルをまとめました。これらをもとに、私たちの採用定義も刷新している最中ですが、学生の皆さんもぜひ参考にしてみてください。

さらに、2023年10月に全社横断の生成AI活用推進組織「AIオペレーション室」を新設したほか、「賞金総額1,000万円!生成AI徹底活用コンテスト」を開催。全従業員を対象としたコンテストで「業務効率化」「サービス改善」「サービス提案」「その他視点からの斬新な活用アイデア」の4つのテーマで募集を行い、約2,200件の応募がありました。

加えて、AI技術の研究開発組織「AI Lab」とアニメ事業本部、ゲーム事業部が「アニメーションAI Lab」「ゲームAI Lab」をそれぞれ共同で設立しました。これまで広告事業で培ってきた実績と知見をもとに、 AI研究とビジネスを繋げ、生成AIを用いたゲーム開発・ アニメーション制作の新たな手法の構築を目指しています。

また、2023年11月より開始した「生成AI徹底理解リスキリング」では、3段階に分けた育成プログラムを用意。生成AIの基礎知識を身につけられるeラーニング形式のプログラムで、「生成AI徹底理解リスキリング for Everyone」では全社員の基本リテラシーの向上を図ります。

このように当社では生成AIに関する様々な取り組みを進めていますが、代表の藤田が学生のみなさんによく言っているのが、成長産業に身を置くことが非常に重要だということです。
インターネット産業が生まれてから20年以上経ちますが、生成AIなど刺激的な変化が常に起きていますし、我々が展開する事業もこれからさらに大きく成長していきます。ぜひ成長産業に身を投じ、みなさんがAI時代に大いにバリューを発揮するエンジニアとして活躍できることを心から願っています。

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