「AI × 経済学」で社会に貢献するために、データサイエンティストが創出し続ける新たな価値
2023年8月に発表された、世界を変える30歳未満 「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」、<GROUP4>SCIENCE & TECHNOLOGY & LOCALにおいて、AI事業本部所属のデータサイエンスマネージャー 藤田光明が選出されました。
2018年に入社した藤田は、広告配信プロダクト「Dynalyst」での広告配信アルゴリズムの開発を経て、2020年より活躍の場を小売業界のDX推進に移しました。より一層の事業貢献を目指して、データサイエンティストとしての新たな価値を創出し続けています。
かねてより、経済学・因果推論の知見を応用した新しいプロダクト作りを志していた藤田が、現在注力しているのが「AI × 経済学」を活用した新規事業です。なぜ「AI × 経済学」なのか、そして新規事業の立ち上げや協業DXにおけるデータサイエンティストとしての新たな価値とは?話を聞きました。
Profile
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藤田光明
2018年当社新卒入社。AI事業本部 協業リテールメディアディビジョン データサイエンスマネージャー。
入社後は、経済学の事業活用を推進し、広告配信プロダクト「Dynalyst」において広告配信アルゴリズムの開発を担当。その成果はThe Web Conferenceなどの国際会議に共著採択された。2020年より小売業界におけるDX推進を担うデータサイエンスマネージャーとして、リテールメディアの構築や価格の最適化に注力している。
“斜め上”の需要に乗ることで、データサイエンティストとしてさらに事業に貢献できる
── 小売業界のDX推進において、どのような役割・領域に日々挑戦しているのでしょうか?
大きく3つありまして、1つ目は「AI × 経済学」を活用した、価格最適化の新規事業におけるプロダクトマネージャーとしての役割です。約3年前に実施した前回のインタビュー「『データサイエンスを通して事業をスケールさせたい』経済学を活かしたビジネス価値創出への挑戦」で、今後は経済学・因果推論の知見を応用した新しいプロダクトを作りたいとお話させてもらいました。まさにそれが目下取り組んでいる「AI × 経済学」の新規事業です。
2つ目は、複数の小売企業と協業したリテールメディアの開発です。主に小売アプリのグロースを担当しており、データサイエンスや経済学を活用したUI/UXの改善、販売促進施策を行っています。
3つ目は、担当領域に関わらず、データサイエンスで事業成果を出す組織作りを推進する、AI事業本部を横断した取り組みです。横軸組織「Data Science Center」のボードメンバーとして、新卒研修など育成や評価、採用活動に取り組んでいます。
── なぜ経済学が重要なのでしょうか?
今もなお、AIがあたかも万能であるかのように捉えられることが多いと感じますが、AIを導入して一発でうまくいくケースはほぼありません。AIを事業成果に結びつけるためには、本当に万能であるかを疑い、改善をしていくことが大切です。改善とは、AIの導入による効果を検証し、生まれた仮説から施策を立案・実施し、再度効果検証するといったサイクルを回していくことです。そのプロセスにおいて、経済学や因果推論のフレームワークがとても有用であると私は考えています。
── 担当が自社プロダクトから協業プロダクトに変わったこの3年で、データサイエンティストとして新たな価値を生み出すためにどのような取り組みを行ってきたのか、教えてください。
新規事業の立ち上げ期であること、そして協業プロダクトであること、どちらにおいても従来の動き方では難しい局面が多くあり、当初は壁にぶつかりました。
グロース期の自社プロダクトと異なり、立ち上げ期の新規プロダクトでは、データが各所に分散していたり、データを使って改善したい施策が存在しなかったりするため、データサイエンティストとして、どう事業に貢献すべきか試行錯誤していました。その際得た気付きを、若手技術者を中心に開催した当社の技術カンファレンス「CA BASE NEXT 2021」にて、「事業立ち上げにデータサイエンティストは必要なのか?」と題したセッションでお話しました。
その中で、事業立ち上げ期に貢献できるデータサイエンティストは、経営コミット前提でデータ活用を力強く推進し、データサイエンスで事業成果を出せる環境を整備できる人だと定義しました。そのために取り組むべきこととして、データサイエンスを活用したプロダクトグロースのロードマップ作成、データ生成過程の設計やデータ分析基盤の整備、予測機能の実装という3つを挙げています。ご興味をお持ちの方は、ぜひスライドをご覧ください。
── 新規事業の立ち上げ期には、データ活用を力強く推進できる人材が必要なのですね。では、協業プロダクトにデータサイエンティストはどのようなスキルが求められていると考えますか?
ただ、データサイエンティストが事業成果を出すための環境が整備ができたとしても、協業先からの需要がなければ事業に貢献することはできません。そこで、先日開催された「CyberAgent Developer Conference 2023」にてお話したのが「協業DXにおける『斜め上の需要』に乗るデータサイエンスとその先」です。
私が関わってきたような広告配信プロダクトなど、Web系の自社プロダクトであれば、データサイエンティスト自身が深いドメイン知識を持っていますし、施策がソフトウェアで完結するため介入コストが低く、A/Bテストを行うなどして失敗コストも低く抑えられます。そのため、データサイエンティスト自らがボトムアップでタスク(需要)を生み出し、事業に貢献することが可能です。
その一方で、協業プロダクトでは、自らが作ったタスクがクライアントの課題の芯を食わないことが多く、仮に芯を食った提案ができたとしても、クライアント社内のオペレーションや組織構造によって、施策の実行コストが高くなるケースが多々ありました。これらは全てクライアントとの情報格差が要因です。このギャップを埋めるために、社内の情報を踏まえて出てくることが多い、クライアントからの“斜め上”の 需要(クライアントからのAIに関する要望で、データサイエンティストが想定する範囲を超えているもの)と向き合うことの重要性を痛感しました。
自分ではハンドリングできない“斜め上”の 需要にすぐに対応するために、今あるデータの分析から何かしらの知見を蓄積することが必要なのですが、そこで有用なのが経済学における自然実験です。自然実験とは、ルールやビジネスロジック、偶然などによってあたかも施策が実験のように実施された状況を用いて、因果関係を推定する方法のこと。「新しい実験を行なって、〇〇という施策の因果効果を明らかにしましょう」ではなく「(実験をせずとも)過去のデータから〇〇という施策の因果効果はありそうだ」などという示唆を出すことができます。
自分も含め、数年前は「それはAIではできません」と、“斜め上”の 需要を跳ね除ける風潮がデータサイエンティストにあったように思います。でも、それはもう時代遅れです。今は、斜め上の需要に乗り、ボトムアップでは改善できない新たな領域に挑戦することで、データサイエンティストが事業貢献できる領域を広げていくことができると考えています。
「AI × 経済学」で日本の閉塞感を打破するために
── 学生時代、経済学の研究者としての道も考えたものの、アカデミアの知見をビジネスの現場へ応用することに興味を感じ、サイバーエージェントに入社したそうですね。
この数年で社内外問わず、経済学出身のデータサイエンティストも増えてきたように思いますが、振り返って当時の決断についてどう思いますか?
学生時代の同期や先輩のレベルの高さや研究に対する熱意を見ると、もしあのまま研究の道に進んでいたら厳しかったように思えます。まずそういう意味で、ビジネスの現場に来てよかったです(笑)。実際に現場で働いてみて、研究では所与のものとされるデータ生成過程を自分でデザインできたり、自分が考えたアルゴリズムや意思決定ルールをプロダクトに即座に反映したりできるのは楽しいですね。
また、アカデミアの経済学者とお仕事させていただく上で、経済学という共通言語を持ちながら、どのような視点がビジネスの現場として価値があるのか提案できることも、自分ならではの強みが活かせていると思います。
── 日々の業務を通してデータサイエンティストとしての新たな価値を創出し続けていますが、それらを会社だけでなく社会全体に還元するために、今後どのような目標を掲げていますか?
「AI × 経済学」を活用して価格の最適化を実現させるプロダクトをつくり、小売業界のみならず日本社会全体に貢献していきたいと考えています。
現在日本では、企業や行政などにおける様々な意思決定の場で少しずつ経済学が活用されるようになりました。とはいっても、経済学が実務に役立つのだということはまだまだ伝わっていないと感じています。経済学を武器に良いプロダクトを生み出すことで、様々な意思決定の場に経済学を活用することが当たり前の社会にし、当社のパーパスにもある通り日本の閉塞感を打破したいと考えています。今回の受賞で、私たちが推進する「AI × 経済学」に少しでも興味を持ってくださる方がいれば、嬉しいです。
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当社には、特定の分野に抜きん出た知識とスキルを持ち、第一人者として実績を上げているエンジニアを選出する「Developer Experts制度」があります。その次世代版である「Next Experts」として選出したエンジニアは、各専門領域において培った知見をサイバーエージェントグループ全体に還元すべく、技術力の向上に努めています。
2018年に新卒入社し、数々のXR関連(※)のプロジェクトに関わり、現在はXR研究所の所長を務める岩崎は、Mixed Reality領域のNext Expertsも担当しています。XR研究所のミッションに「サイバーエージェント全体にXR技術を啓蒙し、新たな事業の種を育てる」を掲げる岩崎に、サイバーエージェントにおけるXR領域の現在地と、次世代の技術に対するチャレンジについて聞いてみました。
※ XR(extended reality、cross reality)は、現実世界と仮想世界を組み合わせ、新しい体験を実現する技術の総称です。AR(拡張現実)、MR(複合現実)、VR(仮想現実)などの先端技術を総称します。