入社3年目に挑戦するMLエンジニアの
新しいキャリアモデル

技術・デザイン

ML(機械学習)エンジニアとして新卒入社、キャリア3年目で「極予測AI」新サービスのML PdMを務める小林。広告プロダクトにおけるMLエンジニアの新しい役割、全社横断の横軸プロダクトにかけるキャリア戦略、生成AIが民主化した時代における、エンジニアとして学ぶべき素養などを聞きました。

Profile

  • 小林 拓磨 (AI事業本部 AIクリエイティブディビジョン 極AI事業部)
    2021年 MLエンジニアとしてサイバーエージェントに新卒入社。極予測AIにて予測エンジンの開発後、新機能のML PdMに従事。
    2017年 在学中から映像制作・マーケティング代行業務に取り組み、2019年産総研外部研究員として研究に従事・修士卒。
    ※ ML PdM・・・MLプロダクト拡大戦略の策定、要求定義やプロダクトマネジメント

「プロダクトに生成AIを活用」が、ビジネス的なインパクトにつながる可能性

── キャリア3年目になる小林さんの、現在のミッションや役割について教えてください。

私は2021年にML(機械学習)エンジニアとして新卒入社し、AI事業本部「極予測AI」に配属されました。「極予測AI」は、研究組織 AI Lab で開発された広告効果が事前に分かるAIモデルを活用し、現在配信されているクリエイティブよりも効果の高いクリエイティブを提供するサービスです。AI事業本部 AIクリエイティブDiv. 統括である毛利 真崇のもと、私は新サービスのML PdM 兼 開発責任者を担当しています。

「極予測AI」は、広告×AIの分野で2020年から市場にローンチされていて、これまでサービスに関する多くのニュースを発信してきました。また新聞など外部メディアにも多数取り上げていただくなど、注目されています。今後も先駆者の優位性を生かしつつ、AI事業本部ならではのプロダクト開発を目指しています。私が向き合うミッションは、自社の基盤モデル・LLMを含めた生成AIをプロダクトに活用するなど、よりビジネス的なインパクトを目指すことです。

── 今の立場だからこそ実感する、壁や課題は何だと思いますか?

マーケットにおける優位性をどう出していくかという点に向き合っています。

AI事業本部は「極予測シリーズ」をはじめとして様々な「広告 × AI」製品をリリースし、最近では大規模なAI開発に対応する「NVIDIA DGX H100」を国内初導入し、今年5月には独自の日本語LLMを無償公開などAI領域での社会実装に注力しています。

一方、OpenAIやMicrosoft、Metaなどを中心に進む海外の生成AI系プロダクトの勢いは、とどまることを知りません。

マーケット的にもAI関連への投資が活発なので、良い意味で「外圧」のようなプレッシャーを感じています。私も、事業に関わる者として「外圧」を感じる状況下で、プロダクトの優位性をいかにして出すかという課題に向き合っています。

── 海外のビックテックをはじめとして、AI領域に各社が注力する中、サイバーエージェントならではの強みは何でしょうか?

「AI Labの研究開発力」と「事業ドメインの幅広さ」だと個人的には思っています。

極予測AIチームが日頃から連携している研究組織 AI Lab は、アカデミアとも連携し、コンピュータビジョンやCG、自然言語処理や機械学習などの研究で最先端を走っているチームです。AI Labは世界のトップカンファレンスで主著論文が採択されるなど、素晴らしい成果をあげています。

AI Labメンバーである兵頭が記事で述べているように、AI Labは売上や数字にもコミットしているため、プロダクトと連携がしやすく、相互協力できる体制が整っています。プロダクト開発チームにとって、トップクラスの研究組織と連携することは大きな強みです。

また、サイバーエージェントグループの事業領域が広いことも強みの一つだと考えています。広告、メディア、ゲーム、エンタメ、スタートアップなど、事業ドメインが多岐にわたり、技術とクリエイティブと多様なデータが密に連携し、その事業規模を最大化しています。

自分の所属するAI事業本部ではインターネット広告事業本部との連携を密に行い、日本国内インターネット広告代理店のトップを走り多様なお客様との関係性を持つ弊社だからこそ保有しているデータやクリエイターとエンジニアリングを掛け合わせ、弊社ならではの優位性を築いています。

このような、最先端の新技術 × 事業ドメインへの様々なチャレンジは、サイバーエージェントのパーパスである「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」につながるので、やりがいを感じています。

「MLエンジニアの新しいキャリアプランを模索」

── 生成AIを始めとして、AI分野に注目が高まっています。AI分野の中心を担うMLエンジニアとして今後、どんな役割が求められてきそうですか?

エンジニアでなくてもAI製品を活用することはできますが、プロダクトの開発には、MLエンジニアの専門知識が必要になります。MLエンジニアがプロダクトに関わると、最適な機械学習モデルやアーキテクチャの選定、プラットフォームやライブラリの選定、学習データの整備や前処理などによって、MLモデルの精度も勿論、プロダクトに組み込むモデル自体の選定や、組み込み方・運用方法自体の精度が向上します。

上記の様に特にML・AIプロダクトに関わるプロダクトマネージャー(PdM)を、最近ではAIもしくはML PdMとも呼ばれることがあります。こういったポジションは、MLエンジニアの新しいキャリアプランとして、個人的に可能性を感じています。

── MLエンジニアの新しいキャリアプランとありますが、従来のMLエンジニアの役割と異なるのはどういう点ですか?

従来の機械学習において、PoC(Proof of Concept:概念実証)を実施して、仮説や数式が実現可能かどうかを検証するエンジニアやデータサイエンティストが重要な役割を果たしてきました。しかし、PoCの実施には多大なコストがかかる上に、検証の設計をきちんと行わないとサービスに実装した際に効果が見込めない場合もあります。そのため、設計や検証、工数算出や効果検証までをトータルでマネジメントできる人材も求められてきました。その一方、PoCの正確な見積もりや、その影響を測定しながら効果検証するのは、難易度が高くもあります。

そんな中、AI分野への投資とビジネス参入が活発化している事により、PoCや検証開発のニーズも高まっているのが現状です。また、国内外でオープンソースのAIモデルのリリースも増え、これを事業に組み込む方法を、各社で検討するケースも増えています。

PoCとその設計、プロダクトへの組み込みをうまくつなぐことができると、MLモデルや生成AIを活用したプロダクトが早いサイクルでマーケットにローンチできるようになります。この点において、MLエンジニアが、従来保有するスキルだけでなく、事業戦略とのつながりを意識しながら、プロダクトアウト/マーケットインにコミットしていけると、ML PdMとしてのキャリアが広がってくるのではないかと思っています。

そのためには、MLエンジニアが担ってきた、機械学習モデルやアーキテクチャの選定やPoCと並行して
 

  • ・開発するMLモデルに何を期待するか・やらせるか
  • ・どこまでの精度を求めるか
  • ・どの精度や部分を諦めて、人間に一旦任せるか・集中させるか

などを実際のユーザーのフローを理解した上でプロダクト内で設計し、ワークフローを俯瞰し、構築・MLモデル組み込む視野を大切にしています。

これはMLエンジニアリングに関わらず「何をやるか・何をやらないか」という部分を明らかにする、と言う点において通常のプロダクトマネジメント・エンジニアリングと同様です。
 

全社プロダクトだからこそできた、300人規模のメンバーを動かす統括経験

── 業務と並行して、サイバーエージェントグループ全体のテックカンファレンスなどの横断プロジェクトにも積極的に参画し、大きな成果をあげていますね。

「全社横断のプロジェクトを早い段階で推進することで、思いもよらない経験や成果が得られるのでは?」と思い、新卒で入社した時から意識的に取り組んでいます。例えば、2023年6月に開催した「CyberAgent DeveloperConference 2023」の”NEXT” Dayでは、エンジニアやデザイナー、プランナー、広報、動画や3DCGクリエイターの方も含めて300人規模のプロジェクト統括を務めました。本業では関わらない事業部や職種の方と一緒に仕事する中で、多くの学びを得ることができました。

代表取締役社長 藤田と一緒につとめたNEXT DAYの基調講演

イベント設計や集客/ブランディングを目的とした広告宣伝、社内のバーチャルスタジオをフル活用した映像制作など、多岐にわたる分野のマネジメントに関わることができました。ちょっと人数が多すぎて不安になる時もありましたが(笑)

20代で社会人経験3年だと、数百人規模のプロフェッショナル人材の力を借りたり、様々な部署や会社を巻き込んだりするプロジェクトの統括を務める機会は、そうそうないと思います。しかし、将来的にそういった経験や推進力を業務で求められる時のために、若手の頃からこういったマネジメント経験に取り組むことが必要だと考えています。

意識しているのは「自分にとって、ちょっと難しいかも?」と感じるプロジェクトを積極的に選んで、チャレンジするようにしています。

── MLエンジニアでありながら、ML PdM、全社横断プロジェクトではテックカンファレンスの統括を務めるなど、活動は多岐に渡っています。それぞれ成果を出すために、大事にしていることはなんですか?

エンジニアとして「もの作り」が好きなことに変わりはないのですが、「事業を作っている」という視点は、常に自分の中に一貫してあります。

極端な話、ソフトウェア開発をせずにプロダクトの売上が伸ばせるなら、それも一つの事業作りの手段だと思っています。例えば、エンジニアに開発依頼をかける前に、一連の業務フローを変えたところ、ボトルネックが解消されて、生産性が向上する事もあります。

先日、「CA BASE SUMMIT」という「技術者が組織課題に対して、経営陣に提案する会議」にも参加しましたが、人事案やコスト削減案をふくめた組織課題の改善も、エンジニアリングに似た側面があるなと感じました。

というのも、新しい提案をするには、組織ごとの力学や特性・相性・得意/不得意・ミッションを鑑みた組織アーキテクトの様な、一種の設計と言う点で似たような思考が必須であり、エンジニアリングにおけるアーキテクトと同じベクトルにあると思っているからです。

生成AIが民主化した時代における、エンジニアとして学ぶべき素養とは

── AIに関するとりくみは、2014年からAI事業本部が継続的に研究してきた分野です。その一方、近年は生成AIが一般にも公開され、社会的なインパクトとなりました。そのインパクトの強さから、学生や若手の中には「エンジニアの仕事はなくなるのかも?」と不安を感じる人もいるかもしれません。このような時代に、大学や学生時代にどのようなことを学ぶべきかを教えてください。

あえて話をシンプルに「検索エンジンをどう活用するか?」で例えてみましょう。検索エンジンを利用する際には、適切な検索ワードを入力する必要があります。また、検索結果をどのように活用するかは、個人の知識や技能によってアウトプットの質も変わります。同様に生成AIを利用する場合も「どんなプロンプトを書き、どのようなアウトプットを求め、どのように活用するか」はエンジニア個人のセンスによって大きく異なります。

── エンジニアのセンスとは何でしょうか?

例えば、「ChatGPTでプログラムを生成して、開発スピードを上げる」とします。生成されたプログラムを業務で利用するのであれば、どのプラットフォームで動作し、どのようなアーキテクチャで構成されたソフトウェアに組み込むのか、運用時にどのような例外や実行エラーが発生する可能性があるか、今後の事業の方向性や仕様変更に対してどのような拡張性があるかを把握した上で、プログラムを生成する必要があります。

多岐にわたる事業におけるソフトウェア開発にはベストプラクティスはなく、事業ドメインやトラフィックなど、環境を把握した上でエンジニアが設計・選定を行う必要があり、これがセンスや経験が問われる分野でもあります。

ChatGPTは専門家に近いレベルのアウトプットを出すことが可能とも言われますが、もし専門家とレベルの高い話をするつもりなら、自分自身もレベルを高める必要があります。 検索エンジンでもChatGPTでも、使う側の体系的な知識やインデックスの量、質の高い物とはどんなものか、といった基礎・専門知識が問われることは変わりません。

むしろ基礎・専門知識があるからこそ、ChatGPTなどの生成AIを活用して、生産性やクリエイティブの面で飛躍的な品質や生産性を発揮することができるかもしれません。「エンジニアの仕事がなくなるかもしれない」と不安になるかもしれませんが、どれだけ技術が革新的に進歩しようとも、基礎・専門分野を学ぶという行為は、普遍的で変わらないと思います。

これからの時代は、好きなことに没頭し、夢中になってその分野を追求する事で、生成AIのメリットを最大限にうけることで、周りと差をつけることができる時代になっていくと思います。

サイバーエージェントを見渡すと、技術やプロダクト開発に没頭し、夢中になってプロダクトにフィードバックしているエンジニアが多数いて、日々成長と刺激を体感できます。

先行きが不透明な時代と言われますが、学びの手を止めず、自信をもって好きな技術や領域に向き合ってほしいなと思っています。

2025年度エンジニアコース新卒採用

この記事をシェア

オフィシャルブログを見る

記事ランキング

「10年以上蒔いた種が、ようやく花を咲かせてきた」主席エンジニアが語る、セキュリティ対策のあるべき姿

技術・デザイン

2022年より導入した「主席認定制度」において、10年以上当社のセキュリティ強化に真摯に向き合い続けている野渡が、主席エンジニアの1人に選出されました。

経営層、各開発責任者が絶大な信頼を寄せる野渡ですが、主席エンジニア就任時の思いを「10年以上にわたるチームの取り組みを、改めて評価してもらえたようで嬉しい」と語ります。長年セキュリティ領域に携わってきて感じる最近のセキュリティインシデントの傾向や、サイバーエージェントならではのセキュリティ対策のあるべき姿について話を聞きました。

なお、野渡が統括するシステムセキュリティ推進グループについて、詳しくは「『免疫』のようなセキュリティチームを作りたい~主席エンジニアたちが向き合う情報セキュリティ対策~」をご覧ください。

Page Top