サステナブルな地域社会へ向けた、未来志向の行政DX

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【対談】福井県×サイバーエージェント

昨今、耳にしない日はないDX。当社では小売・行政・医療の分野をはじめエンターテインメント業界でもDX推進を支援しています。
2020年に立ち上げた行政DX専門組織※1では、「誰一人取り残されない」行政のDX支援を目指していますが、本記事では、行政におけるDXがどのように持続可能な社会につながっていくのかを考えます。

お話を伺ったのは、福井県のDX推進監(CDO)米倉氏。福井県は全国で初めて道路規制情報に関する問い合わせ対応にAI音声対話サービスを導入したり、国内外の企業が持つ技術・サービスを用いた実証プロジェクトを誘致するなど、自治体DXの成功例と言っても過言ではありません。

行政DXの「3大課題」は人材・現場の抵抗・予算という調査結果※2もありますが、福井県ではどのように“現場主体”でDXを推進しているのか。また、DXの先に描く未来とは。米倉氏と、当社の淵之上が行政DXの意義について語ります。
※1  2020年4月官公庁・地方自治体向けDX推進支援の専門部署「デジタル・ガバメント推進室」。11月開発組織「GovTech開発センター」設立。
※2「DXの取り組みに関する調査」/日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ

写真右:米倉 広毅/福井県 地域戦略部 DX推進監(CDO) 2021年にNTTドコモより福井県CDOに就任。NTTグループ(東日本、持株会社、ドコモ)において、光ファイバインターネットサービスやベンチャー投資会社の立上げ、グループ経営戦略策定、携帯電話料金見直し、監督官庁渉外等に従事。 
写真左、前:淵之上 弘 / インターネット広告事業本部 デジタル・ガバメント推進室長 /AI事業本部 DX本部 GovTech開発センター長 人材業界を経て、2008年サイバーエージェント入社。マネージャー、局長を経験し2015年に営業統括に就任。Webマーケティング、運用コンサル部門、オペレーション設計部門、オペレーションエンジニア部門の官公庁向け組織の責任者として従事。
写真右:米倉 広毅/福井県 地域戦略部 DX推進監(CDO) 2021年にNTTドコモより福井県CDOに就任。NTTグループ(東日本、持株会社、ドコモ)において、光ファイバインターネットサービスやベンチャー投資会社の立上げ、グループ経営戦略策定、携帯電話料金見直し、監督官庁渉外等に従事。
写真左、前:淵之上 弘 / インターネット広告事業本部 デジタル・ガバメント推進室長 /AI事業本部 DX本部 GovTech開発センター長 人材業界を経て、2008年サイバーエージェント入社。マネージャー、局長を経験し2015年に営業統括に就任。Webマーケティング、運用コンサル部門、オペレーション設計部門、オペレーションエンジニア部門の官公庁向け組織の責任者として従事。

デジタルは目的でなく手段、行政が行うべきDXとは

淵之上:DX推進に力を入れる福井県の考え方は、多くの自治体にとって、参考になると考えています。今回は宜しくお願いします。
早速ですが、具体的にお話を伺う前にまずは、DXの意味合いを狭義にする必要があるなと思っています。

米倉氏(以下敬称略):そうですね、今やDXは流行り言葉で、人によって捉え方が全く違います。ツールを活用して紙や手作業をデジタル化する話か、業務フローやプロセスを改善する話か、さらにはユーザ体験やバリューチェーン全体の再構築まで見据えるか。また行政に限った話ではなく、県民の方においても、年齢や属性などによって異なりますし、県下の企業が考えるDXと、行政実務におけるDXも違います。関わる方が非常に多岐に渡る行政DXだからこそ、まずはその定義を整理しないと同床異夢を招きますね。

米倉:福井県では昨年度から生活・産業・行政の各分野でのDX推進に注力していますが、デジタル技術を活用することで、生活の利便性や魅力、産業の生産性を高め、人を呼び込み産業を創出し、福井県の将来を持続可能なものへ変革していくことを目指しています。その目的達成に向けて、デジタル技術やデータを積極的に活用し、県民目線で、政策や実行の仕組みを再設計しよう、と。それが福井県のDXであると。慣れない横文字に惑わされて、デジタル技術を使うこと自体を目的としない、ということをよく言っています。

元来、行政の仕事とは、県民本位で、県民の皆さまが過ごしやすい地域、それを持続的に発展させる社会をつくっていくこと。だから目的はこれまでと何も変わらず、ただやり方にデジタルという非常に強力な選択肢が増えたというだけです。

淵之上:デジタルは目的ではなく手段、はまさにそう思います。当社も2年前に行政DX推進の専門組織を立ち上げて、行政手続きや窓口業務のデジタル化、コロナワクチン接種の電話予約やコールセンターの自動化、HPのデータ解析・最適化...など色々取り組んでいますが、それらはあくまで手段。その先にどんな未来にしたいのか、そのために何をすべきかをしっかり見据える必要があります。

米倉:そう思います。例えばですが、仮に町の本屋さんがAmazonになる程大きく変わるのがDXだとするならば、キャッシュレス端末を入れるだけではなく、物理的な店舗を構えず少量多品種の本も取り扱えて世界中の人に販売できる、そしてデータを利活用してお勧めを自動的に提案したり翌日配送が可能な仕組みを整えるといったユーザ主体でビジネス構造自体を見直す世界観まで持っていく。
では、それを目指して行政は何をすべきかというと、単に情報や窓口をデジタル化するだけではなく、皆さんが情報を探したり役所に足を運んだり書類を積み上げたりせず、行政からそれぞれの人に必要な手続きをご案内してそれがクリックひとつで終わる世界、さらには行政の本来の機能である政策形成などに皆さんが参加する、デジタルの力で広く民意を反映する仕組みを創っていくことだと思います。
 

DXの機運を高めるための取り組み

淵之上:政策や実行の仕組みを再設計、とのことですが、具体的にはどんなことを?

米倉:大きなことを言ってもまずは足腰が重要ですから、DX推進を支える土台・仕組みづくりとして、以下に挙げた6つの観点から取り組みました。行政の守備範囲はとても広い一方、現場の職員こそが実務や条例等の制度に精通していますので、如何に現場の人々にデジタルの力を掛け合わせていくか、積極的に取り組んでもらうかが重要です。熱量や機運を高めるための研修や支援体制の構築、デジタルシフトを進める制度設計やそれらの基盤となるシステム整備などをこの1年間進めてきました。

米倉:あわせて、職員がDXに迷い手が止まることがないよう合言葉を作り、「リアルな空間での取り組みを“データ×AI×機械化”できないか考えよう」と言っています。
技術の専門家でなくても、時間や場所の制約なく業務遂行できないか、状況やニーズが可視化できないか、データを使って分析や予測・提案が出来ないか、人手を介さず機械で自動処理できないか、一歩立ち止まって考える。そうしてDXを推し進めて生産性を高め、より多くの時間を現場に足を運び、職員だからこそ発想できる仕事に集中してもらいたい、と。

米倉:また、進め方も、DX遂行の土台・仕組みづくりと、県民の方々が利便を実感できる取り組みを同時並行的に行ってきました。この氷山の絵は多くの方が使われていますよね。

これは、地方の実情も多分に関係していますが、都市部と比べて、DXにお悩みの方や生活の質が高い故に変化の必要性を感じていない方も多数おられ、またインフラやサービスといったデジタルの利用環境も異なります。そのため、デジタルサービスの恩恵を日々の生活レベルで実感頂くことから始めて、デジタル自体にご理解を得る、またそのための土台・仕組みを作る、この両面から始める必要がありました。

淵之上:見えない部分の土台や基礎データをそろえて、どこからでも情報を取れ、それらを柔軟かつ機動的に活用する仕組みづくりが重要ですね。

米倉:そうですね。そのうえで生活に密着したサービスについて申し上げれば、例えば、豪雪地帯の福井県では、大雪対策は安心安全の確保における喫緊の課題です。そこで行ったのが全国初の大雪対策DXです。大雪・天候の影響などによる道路規制への電話問い合わせ対応をAIを活用して自動化したり、除雪車の走行軌跡等の道路状況をインターネットでご覧いただけるようにしました。

こうした利便が実感できるデジタルの取組み等を進め、令和3年度は、DX関連の事業が当初47事業ありましたが、前述の土台・仕組みづくりを進めた結果、庁内の熱量も高まり、期中で15事業を追加でき、最終的には62まで拡大したんです。

淵之上:期中にそんなに増えるのは凄いです。 基盤となる体制やデータが整備されているから、何か始めるときの最初のハードルが下がっているんでしょうね。職員の方々の中で課題や機会があったときに「デジタルを活用して、こんなことをやってみよう」という機運が生まれている証拠だと思います。
 

「県民接点の再デザイン」のための共同プロジェクト

当社が提案した、スマートフォンにおけるトップページのデザイン推移。
当社が提案した、スマートフォンにおけるトップページのデザイン推移。

米倉:そして昨年10月、未来技術活用プロジェクト「CO-FUKUI」を始めました。行政課題が複雑・多様化する中で、その解決には行政の射程を超えた発想やスキルが必要として、国内外の企業と協働しながら、革新的な技術・サービスを活用して地域課題の解決に取り組みました。

淵之上:当社からは行政HPのデータ解析を通じたHP最適化・政策ニーズ分析をご提案しました。県民の皆さまのデジタルへの接点の再デザインを行う目的で参加させていただきました。

行政が持つメディアにおいてHPはユーザ数も影響力も大きく、また自分が住む街に関する情報取得手段として必要とされているにも関わらず正しく情報が届いていない、特に住民のニーズが増加しているスマートフォン向け情報発信を十分に活用できていないということは、福井県のみならず多くの自治体の課題です。

ユーザビリティテストの様子。
ユーザビリティテストの様子。

米倉:そうですよね。正直、私もこれまでは、字がずらーっと並ぶHPを見て迷子になるので、人生で数回ぐらいしか見てこなかったと思います(笑)。ただ実際は、行政手続きに関することだけでなく、災害対策や子育て支援策といった、生活に密着した情報や必要なメッセージも沢山示されているのですよね。残念なことに、それが伝わっていない、必要な人に必要な情報が届いていない。

淵之上:必要な情報が見つけやすく、スムーズにアクセスできる仕組みを構築する必要があると感じました。そこで、検索キーワードや福井県公式HP全体のアクセス状況の分析を活用し、県民の方々が必要としている情報や潜在的ニーズの調査を実施。県民の方にもご協力いただき、パソコンやご自身のスマートフォンで操作や検索をしながらの対面インタビューもさせていただきました。

米倉:まさに、政策形成に広く民意を反映したいと言うならば、しっかりと県民の皆さまのニーズを理解し、判断に資する情報やデータをお届けし、広く意見を聴いて議論できる仕組みも準備し、結果としての政策やメッセージをしっかりと届けていくことが大切ですよね。

淵之上:今回、当社が提案したHPの見直し案について、より簡単に見たい情報に辿り着けると約8割近い方が評価してくださり、また県の訴求したい情報にも10倍近いアクセスが得られるなどの改善が見られましたが、データ解析とそれを踏まえたUI/UXデザインの運用が要です。それを繰り返して運用していくうちに、必要とされる情報や政策等が適時適切に分かりやすい形で提供されるようになります。その結果、県民の皆さんにとって最も身近で重要な情報のタッチポイントとして機能するようになると考えています。

米倉:メディア運営やデータ解析、そして特にスマートフォンにおけるUI/UXの優れたノウハウを持つサイバーエージェントさんだからこそ、ですね。何かを思いつく度に、「こんなことできますか?」と色々とお願いさせていただき、状況にあわせてお互いに足りないものを補完しあえるプロセスで進めさせていただいことに本当に感謝しています。

こういう取り組みは、ともすれば、課題と実証フィールドだけ提供して後はお任せ、みたいな丸投げにもなりかねない。そうではなくて、福井県がやる理由は何か、行政が提供できるアセットは何か、そしてパートナーの方にとってのメリットは何か...そうしたことをきちんと明確にすべきですよね。加えて、知事や私がコミットするという意思もしっかり示す、つまり、意思も武器も仲間も揃えて、信頼できるパートナーとして一緒に取り組む体制をつくることが、協働において一番大切なことだと思います。

必要なのは「近く、尖ったコミュニティ」 コミュニティ形成がDXを加速させる

淵之上:では最後に、DX推進における今後の展望を教えてください。

米倉:繰り返しになってしまいますが、DX=デジタルツールを使いましょう、ではありません。福井県のビジョン「地域社会・経済を活性化し、福井県の持続的な将来」を守るためにデジタル技術を上手に活用する、ということです。
私はずっと都市部にいて、昨年4月のCDO着任でこの地に移住してきたんですが、福井県って本当に生活の質が高いんですよ。自然も食も豊かで、子育て・教育環境も整っている。みんな温和で、満員電車で怒鳴っているような人いないですよ(笑)。全国の「幸福度ランキング」でも4回連続1位というのも頷けます。

その一方で、人手不足や持続可能な地域経済の確立といった地方が概して抱える課題や、雪害などの自然災害、全国トップの車社会における将来の地域交通の確保といった福井県ならではの課題も数多く存在します。行政においても、職員数や財源等の制約が増す中で、複雑・多様化する行政ニーズへの対応は待ったなしです。
そうした良い面を残し発展させ、課題の解決に努める上で、即効性が高い手段であるDXに早期に取り組むことが重要だと。

今、私たちがアクションを起こさなければ、10年後、20年後、今の豊かな地方の風景は残せないかもしれない。衰退した悲しい未来を、子どもたちや今一緒に働いている若者に背負わせないためにも、我々は今出来ることを精一杯取り組むべきだと考えています。

淵之上:10年後、20年後の未来のためにという考え方に、すごく共感します。我々も「2030年の当たり前をつくる」というのが組織のビジョンです。そのために、当社の強みであるデジタルマーケティングや運用力、AI・ブロックチェーン技術の豊富な知見とアカデミックとの産学連携などを活かして「誰一人取り残されない」行政のDXを支援したいと考えています。

淵之上:私たちの調査で、行政DX推進の鍵は住民と自治体との心理的近さ、という結果がでています。自分が住む自治体との“近さ”を感じるのは、「地域のイベントに参加したとき」「選挙や住民投票のとき」「災害が発生したとき」と。

米倉:コミュニティですね。自分の住む街を信用しているか、自分が街の一員と思えているか、すごく大事です。

淵之上:だから、皆さんのデジタルに対する“心のバリア”が取れるかどうかが、DXが進む大きなポイントだと思っています。デジタル化って、手段・方法論は数多くあれど、実際は中の人が本当にやりたいと思うか、未来を想像できるかどうかですね。変化を恐れるんじゃなくて、変化を楽しめるようになるところまで持っていけると、DXは一気に加速すると思います。

米倉:アフリカのことわざに「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」って言葉がありますよね。それと同じで、守備範囲が広く、セーフティネットの役割を担う行政だからこそ、一人だけで最先端を走るのではなく、職員と県民皆さんの意思を丁寧に汲んだDXを行う必要がある、と着任した時から感じています。デジタルは今後さらに社会インフラかつ社会保障的な側面が強くなると思います。地域社会をしっかりと底支えしていくためにも、皆さんの理解を得る、一緒に取り組む、前向きに仕掛けていく仲間を増やすことがとても大切ですよね。人々が集まってくる魅力的な場所を創っていくことも我々の役割です。

淵之上:自分の経験も含め、自分の半径5m内に何人DXに興味を持って、恐れてない人がいるかで場の流れってすごく変わると思うんです。だから意思の部分が一丁目一番地なのは間違いない。福井県の未来が楽しみです。

米倉:ありがとうございます。福井県では、県民一人ひとりのアクションにDXを取り入れ、誰もが挑戦できる地域社会を目指しています。そして近い将来、出来るならば、日本が誇れる豊かな地方における新たな生活モデルをこの福井県から創り出したいと思います。色々とチャレンジできる尖った場所にしていきたいと思いますので、皆さん、ぜひ福井県にお越しください!という、最後に営業トークでした(笑)。
 

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