「アクセシビリティ向上 は “崇高なもの” ではない」
意識せずに取り組める状態を創るために、組織に必要なこと

技術・デザイン

2022年5月19日に開催される「GAAD JAPAN 2022」 世界各地でアクセシビリティを考えるこの日、同カンファレンスで「ABEMA」Webフロントエンドエンジニア 久保田が登壇します。サイバーエージェントの次世代Developer ExpertsであるNext Expertsにも就任し、社内のアクセシビリティ向上の旗振り役として活動する久保田に、そのきっかけや具体的な取り組み、目指す先について聞きました。

Profile

  • 久保田 翔太
    「ABEMA」Webフロントエンドエンジニア / Next Experts(アクセシビリティ) / ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会2(実装) 委員

    SIerやWeb制作会社、ソーシャルゲーム会社でのWebフロントエンド開発を担当した後、2017年4月中途入社。「ABEMA」のWebフロントエンドエンジニアとして機能開発やWebパフォーマンス向上に携わる。また、「ABEMA」のアクセシビリティタスクフォースやアクセシビリティエキスパートの活動を通じて、社内のアクセシビリティ向上の旗振り役としても活動。

「やるべきことをしていないのはなぜか」聴覚障害者の方から寄せられた意見

── アクセシビリティ向上に強く興味を持つようになったきっかけを教えてください。

約3年前に、「ABEMA」で放送したとある番組に対して「字幕をつけるべき。聴覚障害者を排除することに自覚がないのか、自覚があってもやるべきことをしていないのはなぜか」といった意見を聴覚障害者の方から頂きました。その後開催されたアクセシビリティに関するイベント「Japan Accessibility Conference digital information vol.2」(以下「JA11YC」)で、意見をくれた当事者の方とお話する機会がありました。改めて直接お話を伺うことで、運営側の都合でサービスを使えなかったり楽しめない方々がいる状況を改善したいという想いを強く持ちました。また、「JA11YC」終了後に視覚障害者の方を駅まで案内した際に、これまで自分が気づいていなかっただけで街には不便を感じる点が多くあることに気づきました。それら全てを是正するのは自分1人の手にはとても負えないけれど、せめて自分の手の届く範囲から行動を起こしたいと思い、アクセシビリティ向上により熱心に取り組むことを決めました。

なお、先ほどお話した字幕対応については、その後テレビ朝日と「ABEMA」で共同開発したリアルタイムAI字幕システム「AIポン」を導入しています。直近では2022年4月に「変わる報道番組#アベプラ」内で放送した特集「耳が聞こえぬ両親を持つ子"コーダ"とは? "普通の家族と違う" 当事者の葛藤は」にて同システムが使われていました。

── 「ABEMA」ではアクセシビリティ向上に対して現在どのような取り組みを行っていますか?

従来「ABEMA」ではアクセシビリティ向上に伴うプロセスや仕組みが組織としてデザインされておらず、個々人に依存している状況でした。これらの課題を解決するべく、2020年にアクセシビリティタスクフォースを発足し様々な取り組みを行いました。取り組みの一覧は次の通りです。
 

  • チームビルディング
  • OKRの策定
  • ビジョン・ミッションの浸透
  • アクセシビリティの浸透
  • アクセシビリティチェック
  • リニューアル後アプリのお触り会
  • デザイニングWebアクセシビリティの輪読会
  • アクセシビリティガイドライン作成
  • アクセシビリティ向上施策

取り組みの一つを紹介すると、アクセシビリティタスクフォースとして各四半期ごとのOKRと中長期的なOKRを設定しました。合わせてOKRに対する進捗確認を行うチェックインミーティングやウィンセッションも週に1回開催しています。
 

アクセシビリティタスクフォース 中長期のOKR

Objective
ABEMAにアクセシビリティ向上のためのプロセスや文化がある

KeyResult
・ABEMAの事業KPIとアクセシビリティ向上の関連性が見える化されている
・ABEMAのアクセシビリティガイドラインを作成し、運用している
・各プラットフォームごとにアクセシビリティ向上に関する施策が定期的にリリースされている


その他の取り組みは、「ABEMA のアクセシビリティタスクフォースは何をしてきて何をやるか」と題した資料にまとめているので、興味のある方はぜひご覧ください。

タスクフォース発足後は、2021年10月の「ABEMA」大型リニューアル「マイリスト」機能追加の際、各プラットフォームにてアクセシビリティ観点でのチェックを実施し、改善につなげるフローも徐々に整ってきました。
 

── タスクフォースの発足で、アクセシビリティ向上の取り組みに変化はありましたか?

アクセシビリティタスクフォースに所属する各メンバーと各クライアントアプリチームで少しずつ熱量が高まってきたように思います。組織全体にこの熱量を広げていくことで、アクセシビリティ向上を  “崇高なもの” “特別なもの" として捉えるのではなく、情報インフラの責務として、息を吸うかのように意識せずに取り組みたいと考えています。

「ABEMA」では、「FIFA ワールドカップ カタール 2022」において、全64試合を無料生中継します。その告知動画で「いつでも、どこでも、ワールドカップをすべてのひとに」というキャッチフレーズが登場します。これを実現するためには、アクセシビリティ向上が不可欠です。これまで以上に誰もがサービスを思い通りに利用できるよう、業務フローにアクセシビリティ向上を取り入れたいです。具体的には、ワールドカップに向けて行う機能開発において達成したいアクセシビリティの品質を段階ごとに分けた文書を作る予定です。それらを事前に定義しておくことで、忙しい業務の中でも無理なくアクセシビリティ向上に取り組めると考えています。


また、アクセシビリティ分野でサイバーエージェントの次世代Developer ExpertsであるNext Expertsに選ばれたので、ワールドカップにおける取り組みを積極的に発信していきたいと考えています。さらに、担当部署を超えたより広い範囲にアクセシビリティ向上を広げていく役割も担っていきたいです。

アクセシビリティ向上がビジネスKPIに寄与できる事例を出したい

── 業務以外でアクセシビリティ向上に関する知識を習得する機会はありますか?

かねてよりイラストを描くことに挑戦したいという思いがあり、2022年から京都芸術大学 通信教育部芸術学部デザイン科イラストレーションコースに在学しています。そこではイラストだけでなく、色彩についても学べるので、「色彩検定UC級」を受験しようと考えています。UCとは「色のユニバーサルデザイン」のことです。UC級の受験に伴い誰もが見やすい色使いを習得し、社内のアクセシビリティ向上推進に活用していきたいです。

── アクセシビリティ向上におけるご自身の役割を考える上で、ロールモデルとなる存在はいますか?

かつてサイバーエージェントに所属していた、@masuP9さんです。入社当初から「アクセシビリティおじさん」と名乗って、積極的に勉強会開催を行ったり、プロダクト開発を通して社内外にアクセシビリティ向上を広めていました。先ほどお話したタスクフォースができたきっかけも彼です。実は私自身入社前は、アクセシビリティに対して “高齢者や障害者の方向けに行う対応” だと考えていました。その認識を大きく変えるきっかけを与えてくれた方ですね。

── 最後に、今後の展望を教えてください。

アクセシビリティ向上がビジネスKPIに寄与できる事例を出したいです。現状そのような事例を出せていないため、どうしてもCSRやSNS上などの定性的な評価、また法律的なリスクを持ち出してアクセシビリティ向上の重要性を説きたくなるときがあります。ビジネスKPIに寄与できる事例を出すことができれば、ビジネス的にもアクセシビリティ向上がより重要になるだろうし、社内にもその重要性がさらに伝わりやすくなると考えます。それによって会社全体で取り組みが加速し、結果としてアクセシビリティ向上を担うことが、ごく自然な状態として定着するのではないでしょうか。
 

この記事をシェア

オフィシャルブログを見る

記事ランキング

入社10年目Unityエンジニアが、組織横断の活動に積極的に取り組む理由

技術・デザイン

100以上の子会社に約2000名の技術者が携わるサイバーエージェントの特色の一つが、部署や子会社の垣根を超えて積極的に実施されている横軸の取り組みです。技術的課題の解決や、ナレッジの共有、採用、育成、活性化施策などその対象は実に様々です。グループの中でも特に横軸の活動に力を入れているのが、ゲーム・エンターテイメント事業部 (SGE)。
「自分たちの組織は自分たちでつくる」という考え方のもと、技術者たち自ら、組織課題の解決のため積極的に取り組んでいます。同組織のエンジニアボードメンバーとして様々な横軸施策に携わる吉成に話を聞きました。

Page Top