【隈研吾×FC町田ゼルビア】環境と調和したサステナブルなクラブハウス
2022年シーズンのJリーグ開幕にあわせて完成した、FC町田ゼルビアのクラブハウス。屋根や梁など、建物全体に木材が多く使用されています。
設計は国立競技場などを手掛けた建築家 隈研吾氏。緑あふれるこの土地を見た瞬間に、「自然との調和」というデザインコンセプトが浮かんだと話します。
「建築によるサステナビリティの実現」をめざし、木を使った建築・空間のデザインに数多く取り組んでいる隈氏ですが、今回はどのようにサステナビリティを取り入れたのか。クラブへの想いとともに聞きました。
サステナビリティはスポーツとも関係が深い
クラブハウスのデザインコンセプトは「自然との調和」です。
ここは全面天然芝のグラウンド、桜並木にも囲まれていて、非常に緑に囲まれた環境。その利点を活かし、自然と一体となった、開放的で温もりを感じられる建物にできればと、デザインを進めてきました。
私自身、これまで「建築によるサステナビリティの実現」という考えのもと、木を使った建築・空間のデザインに取り組んできましたが、このクラブハウスも同様です。
サステナビリティというのは社会にとって重要なだけではなく、スポーツとも関係が深いもの。だからスポーツ施設においてもそういった配慮、視点が必要だと考えています。
木を使うことで、大気中の二酸化炭素を減らし、地球温暖化の対策になることは様々なシミュレーションで分かってきており、日本だけでなく世界中で木を使った建築デザインがトレンドになっています。
自然と調和させるためのデザインのしかけ
使用した木材も環境に配慮した素材です。例えば、天井の梁に使っているのは、製材の有効利用率が高いことに加え、独自の加工によって木材特有の環境の違いによる原木の“バラツキ”(節の有無、耐力の違い等)を解消することで端材量を削減している製品。
その梁を隠さず“見せるデザイン”にし、人々の目に触れるようにしました。誰もがより良く暮らせる社会を持続させるには、共生していくためのしかけが必要。環境を守ろうということを、日常的に意識できるような設計にしています。
屋根の部分には、耐震強度の高さから高層建築にも使われる製品を使いました。性能の良さゆえ、世界で注目されている素材です。
その木材を使って、ボールが跳ねるように屋根を跳ね上げるデザインにしました。
例えるなら「ロンシャンの礼拝堂」。 緑の中に白い建物があって、空に向かって伸びるような建築です。ゼルビアが上へ、上へとあがっていくような、そんな願いをこめています。
そして、窓はランダムに音楽のリズムを刻むような配置になっています。 ここは、オフィスビルではなく、スポーツ施設。だから外観からも楽しさを表現したかったんです。その窓からは緑が見え、太陽の光がふんだんに入ります。
クラブからの要望の1つに、トレーニングルームの充実があったので、大きな窓を設け、やわらかな自然光が降り注ぐ、明るい空間にしました。もし私が運動するなら、と選手の気持ちになって丁寧に設計したつもりです。
また、壁や床はゼルビアブルーに。サッカーのピクトグラムを取り入れるなど、ゼルビアらしさを各所にちりばめ、利用する人々にとって居心地の良い空間となるようにしています。
コミュニティの場にもなる、クラブハウスの新たな在り方
従来のクラブハウスはクラブのためだけの施設でした。
でも、FC町田ゼルビアは、豊かな自然や地域の方々と共存しながら成長していったクラブです。
だから、地域のコミュニティの場となり、みんなの“家”と感じられるような、開放的で温かみのある施設にしたいと思いました。
スポーツを通じたまちづくり、地域の活性は今後ますます重要になっていくでしょうし、このクラブハウスの在り方がモデルケースとなればいいなと思います。
こと私に関してですが。もともとサッカーが好きでしたが、現在、パリの「スタッド・ドゥ・フランス」※の最寄り駅の設計を担当していて、サッカーとの関係性が深まるばかりです。FC町田ゼルビアのことも他人事とは思えず、試合結果から目が離せません。
このクラブハウスは必ずや選手たちの活躍の後押しをしてくれるはず。そして、コンセプトの通り、周囲の環境と調和しながら、さらなる進化を遂げることを心から願っています。
※パリ郊外にあるフランス最大のスタジアム。1998年サッカーのワールドカップ、フランス開催の折に建設。
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