「本質を伝えるクリエイティブ」とは?
~HALと「ABEMA」による『大相撲LIVE』産学連携プロジェクト~
新しい未来のテレビ「ABEMA」と専門学校HAL(東京・大阪・名古屋)との産学連携プロジェクトとして、『大相撲LIVE9月場所』の1日を、学生が制作したクリエイティブでジャックしました。
テーマは、相撲の持つ華やかさ、躍動感を表現しつつ、現代的な若々しさも兼ね備え、「従来のイメージを刷新させる」ためのビジュアルとオープニング映像のリニューアル。
今回のプロジェクトを担った番組プロデューサーとデザイナーへ、本企画に込めた想いなどについて聞いてみました。
目次
HALの学生が、ABEMA『大相撲LIVE』生中継をジャック!?
クリエイティブ制作だけではない。デザインの現場でプロとして求められるものとは?
コアなファンにも、新しいファンにも受け入れられる挑戦を続けたい
Profile
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兼子 功(カネコ イサオ)
株式会社AbemaTV スポーツエンタメ局 / プロデューサー -
遠藤 直人(エンドウ ナオト)
株式会社AbemaTV ABEMACreative Center / デザイナー -
大野 雄一(オオノ ユウイチ)
株式会社AbemaTV ABEMACreative Center / 映像クリエイター
HALの学生が、ABEMA『大相撲LIVE』生中継をジャック!?
―今回どのような経緯で、学生が制作するクリエイティブでジャックする、という大胆なプロジェクトへ至ったのでしょう?
『大相撲LIVE』制作サイドでは、元々「日本の伝統文化である大相撲へ新しい視点を取り入れ、若い人にも楽しんでもらいたい」という想いをもっていました。そこで多くのHALの学生の方が「ABEMA」を視聴しているという背景から、今回の産学連携プロジェクトが実現しました。
最優秀に選ばれた学生チームの作品が番組を1日ジャックし、オープニング映像が配信されました。
ー どのような形で産学連携プロジェクトが進んでいきましたか?
約半年ほどの制作期間のなか、学生の皆さんが企画 / 制作をし、ABEMAのデザインチームが定期的にフィードバックをしながら監修しました。
オリエンテーションでは私たちから直接、オンラインにて学生の皆さんへ説明させていただきました。
お題だけではなく、『大相撲LIVE』が何を目指していて、どんな未来を実現したいのか。意義の部分もお伝えしながら、企画コンセプトの作り方やアートディレクションの考え方の部分などを説明し、メインビジュアルとオープニング映像の制作に取り組んでもらいました。
クリエイティブ制作だけではない。デザインの現場でプロとして求められるものとは?
― 今回の産学連携を通じて、学生に何を学んでほしかったですか?
デザインの仕事には「企画を通す力」と、プロジェクトの企画をより面白く見せるために「定着させる力」が求められます。産学連携プロジェクトを通して、この2点を学んでもらうことを目的にしました。
例えば今回の「大相撲の魅力を伝える」という課題。企画をチームで考え、実際に提案書や絵コンテに落としてみる。それを第三者に見せると、思った以上に魅力が伝わらないんです。これはクリエイターであれば誰もが通る道で、私も若い頃に苦い経験があります(笑)。
視聴者は「動画のコンセプト」みたいな前提条件を知り得ないし、尺も30秒と限られています。不特定多数の視聴者に対して、限られた条件の中で伝えたいことをきちんと伝えるのは、経験や訓練が必要。課題としての難易度はかなり高かったと思います。
プロジェクトに参加した約120名の学生も、大相撲を積極的に見ているわけではないので、「大相撲の魅力とは何だろう?」を自分たち自身で掘り下げ、言語化し、企画書に落とす必要がありました。
あまり馴染みのない「相撲」という指定のなかでアウトプットをつくる経験は、クライアントワークに近く、見守る我々にも、その歯がゆさや試行錯誤が伝わってきました。
まず「相撲イコール和。日本の伝統文化。」という既成概念から、いかに抜け出せられるかを観察していました。
従来のイメージをどこまで壊していいのか、学生側も戸惑っていたところがあったかもですね。ABEMAの『大相撲LIVE』では、それこそHIPHOPを楽曲として使ってプロモーションをつくるなど、新しい表現に挑戦し続けています。それに対し学生たちは和太鼓など和風の音楽を使うチームが多かったり。
自分が学生だったらそうなりますよ(笑)。殻を破るって、人からアドバイスされてできるものではなく、内発性が求められますからね。難しい。
自由にやるのと、枠の中で既成概念を破って「なにこれ!?こんな大相撲の見せ方があるの!?」をつくるのは違う。自由に動画を制作し、気軽に配信できる時代だからこそ、仕事で求められるクリエイティブとは何なのかが、今回のプロジェクトで体験できたと思います。
コアなファンにも、新しいファンにも受け入れられる挑戦を続けたい
ー 「企画を通す力」の他にもう1つ、企画をより面白く見せるための「定着させる力」とはなんでしょう?
今回の最優秀作品を選んだ理由は、30秒という限られた尺の中で「チャレンジャーの勝ち上がりと、新たなチャレンジャーの登場が繰り返される」という強いストーリー性があったこと。金剛力士像をモチーフにしていたことも、世界観の形成として成立していたことが挙げられます。
産学連携プロジェクトを知らない視聴者が観ても、「ABEMAが相撲の新しい表現に挑戦しているな!」と思ってもらえそうなので、その点を評価しました。
企画をより面白く見せるための「定着させる力」とは、「背景を何もわからない人に、本質的な魅力をいかにシンプルに伝えられるか」でもあります。
学生の中で当初は「自分がやりたいことベース」の話し方だったのが、今回のプロジェクトの中で徐々に「どうやったら本質的な魅力が伝わるのか」に変わっていったのも、印象的でした。
ー 本質的な魅力とは?
大相撲では「力強さ」もその一つです。例えば、番組内のテロップデザインにおいては、大相撲がもつ本質的な力強さや、真剣勝負の厳しさの部分は大事にしつつ、相撲に詳しくない若い人にも分かりやすいように、対戦する力士の番付差をビジュアルで表現し、「いかにワクワクさせられるか」というのがクリエイターとしての腕の見せどころ。
コアなファンも、たまたまチャンネルをスクロールしてきたユーザーも、どちらも楽しめるような番組作りが理想です。
伝統や歴史など大事な部分はリスペクトしつつ、「ABEMAは新しい見せ方に挑戦しているよね」「こういう見せ方はABEMAじゃなきゃできないよね」というところを突き詰めていく。ABEMAで産学連携をやるなら、それを学んでほしいと思っていました。
制作の敷居が下がり、誰もが気軽に発信できる時代だからこそ、これからのクリエイターが意識するべきこと
― 動画制作や動画配信が生活の身近にある今の学生たちを見ていて、そのスキルセットや考え方についてはどういった印象を持ちましたか。
YouTubeなどの動画サービスも増え、今は昔よりもずっと動画が身近になりました。動画制作ソフトも目まぐるしく進化していますし、我々が学生だった時よりもはるかに高いクオリティのものが作れていると思います。
昨今のデザイン業界では「誰もが一定以上のクオリティで作れるようなナレッジ化・仕組み化」など「再現性」がより求められているように感じています。
その一方、大相撲のクリエイティブの中で、特にグラフィックの表現においては「再現性」を意識しながらも、誰にも真似できないような、唯一無二のビジュアルに昇華させることを目指しています。
たまに学生のポートフォリオを見せてもらうと、我々が学生だった頃よりもすごく綺麗にまとまっていて、レベルが高いことに驚かされます。
しかし、同じような表現が多く他の人との違いをあまり見出せない、と感じることがあるのも事実です。
デザインを仕組み化していくことは、決して間違いではありません。ただそれだけではなく、誰にもまねできないような表現を突き詰めていくというのも、デザインの醍醐味だと思うのです。
我々はそこを、大相撲のグラフィックで表現していきたいと思っています。
本プロジェクトを通して学生が得たもの
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CG・デザイン・アニメ4年制学科 CG映像コース 4年
リーダー:肖 逸舟さん -
CG・デザイン・アニメ4年制学科 CG映像コース 4年
サブリーダー:早川 翔也さん
ー制作にあたりどんな点を意識しましたか。
肖さん・早川さん:自分たちのように相撲を知らない人が見て感じた「相撲のかっこよさ」を、とにかく多くの人に伝えたい、という気持ちで制作に取り組みました。険しい山道や悪天候を映像に取り入れることで、相撲が決して容易い道ではないということを表現しています。また、相撲の魅力を感じてもらえるよう、かっこいい技の表現など、モーションの再現にこだわって制作しました。
CG・デザイン・アニメ4年制学科 教官
綛谷 友章さん
ー今回の取り組みにはどのようなことを期待しましたか。
綛谷さん:ゲーム、映画、アニメなどのエンタメ色が強いコンテンツ制作を得意とする学生たちが、「大相撲」というテーマの映像制作に取り組むこと自体が新鮮でワクワクしました。
3DCGデザイナーを仕事にするからには、制作経験が無くても、触れたことが無くても、ジャンルを問わず高品質な商品を生み出す必要があると考えます。触れる機会が少なければ悩み葛藤することも多くなるでしょう。だからこそ、今まで制作したことがないであろう大相撲のCG制作を通して、感性や創造力が刺激されデザイナーとしての成長に繋がると期待しました。
ー取り組みの前後で学生の変化、成長などはどうでしたか。
綛谷さん:コロナ禍という状況の中でもクリエイティブを止めることなく、このような大規模コンテンツ制作プロジェクトに取り組み、完遂できたことが素晴らしいと思います。
学生同士のチーム制作は技術的にも精神的にも苦戦することが多い中、今年は特にリモートでのコミュニケーションが必要となる状況が多々ありました。そんな状況下でも、様々なコミュニケーションツールを活用した連携力を発揮し、学生自身が解決のためのアイデアを提示するなど自分たちで考え行動することができていました。
きっと、彼らが卒業しプロになればテレワークで実務を行う日が来ると思います。学生の間に、その疑似体験が出来たことは間違いなく彼らの力となるのではないでしょうか。
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