事業を牽引する開発組織をつくりたい。
「ABEMA」開発組織5年の軌跡。
2021年12月17日(金)「ABEMA」のエンジニア・クリエイターによる「ABEMA Developer Conference」が3年ぶりに開催されます。当日は「WAVE」をテーマに25以上のセッションをオンライン配信でお届けします。今回は「ABEMA Developer Conference」の開催を記念した特別企画として、数回にわたり「ABEMA」で活躍するメンバーをご紹介していきます。第2回目は、開発本部の副本部長を務める矢内幸広のインタビューです。約130人もの大規模な開発組織で組織運営を牽引するうえでの取り組みや目指す組織像について、ぜひご覧ください。
Profile
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矢内幸広
コールセンターCRMのSEを経験後、2004年サイバーエージェントに中途入社。アメーバブログ、アメーバピグなどのメディアやスマホゲームの開発を経て、2016年より「ABEMA」の開発ディレクターとして従事。2018年1月より「ABEMA」開発本部 副本部長を務める。
プロフェッショナルの
スタンドプレー頼りだった立ち上げ期
本開局から5年以上が経ち、WAUは1500万前後を推移するなど着実に成長を続ける「ABEMA」。サイバーエージェントのパーパスでも、”新しい未来のテレビABEMAを、いつでもどこでも繋がる社会インフラに”を掲げ、テレビの再発明を目指し日々開発に取り組んでいます。
本開局当初は約30人だった開発本部ですが、今では約130人もの技術者が所属する大規模組織です。この5年、組織やサービスの拡大に伴い様々な壁が立ちはだかり、その度により良い開発組織を目指して多くの施策に取り組んできました。今日は組織を牽引するうえでの取り組みや、目指す組織像についてお話したいと思います。
私が「ABEMA」に加入したのは、本開局から約半年後の2016年10月。当時は、職種によって業務が分割されていました。iOSエンジニア、Androidエンジニア、サーバーサイドエンジニアなど、職種ごとにトピックを分割し、それに対して優先度だけが提示され、それぞれの領域のエンジニアがやれるだけやるといったスタイルで、組織化されているとは言い難い状況でした。
リリースまでの開発期間が4ヶ月半という怒涛のスケジュールということもあり、チーム構築やマネジメントライン整備まで手がまわらず、各領域のプロフェッショナル達のスタンドプレーの最大化に頼っている状況でした。
開局以降、最大の失敗を経てチーム化へ
立ち上げ期も終盤に差し掛かる頃、開局以降最大の問題が発生します。それが2017年5月に放送された「亀田興毅に買ったら1000万円」という番組です。アクセスが殺到し、試合開始のゴングと同時に「ABEMA」の全てのシステムが一時ダウンしたのです。
この出来事は世の中に対する「ABEMA」というサービスの大きなポテンシャルを感じたと共に、配信の安定性にもっと腰を据えて取り組まなくてはいけないこと、組織をきちんと構造化する必要があることに気付きました。
そこでCTO西尾と取り組んだのが「技術ドメインの抽出とチーム化」と各マネージャーの擁立でした。当時、職種によって分割されたシンプルなチーム構成だったものを、「ABEMA」にとって重要な技術ドメインやテーマを抽出してチーム化を図り、組織ガバナンスを整えました。
当時の組織開発コンセプトは「事業の要求に応えられる開発組織」でした。「ABEMA」というサービスを成立させるために開発組織として足りない部分を補完し作り上げる事で、先に紹介したような配信事故などを起こさないサービスづくりを組織的に出来るようにするためです。
そして次の大きな山場であった「72時間ホンネテレビ」では、UIデザインから配信やインフラレイヤーまで、開発チーム一丸となれたことで、総視聴数7400万でも障害ゼロの成功を収めることが出来ました。
100人超えの組織で目指すのは
「事業を牽引する開発組織」
組織が100名を超える現在の組織開発コンセプトは「事業を牽引できる開発組織」です。
盛り上がりを見せる動画業界では技術領域も多岐に広がり、求められるサービスレベルもどんどん高くなります。
「ABEMA」が勝ち切るためには、開発現場からも事業戦略を提案できる組織にしていく必要があると思っています。このための、現在の組織成長戦略は「開発総合力をあげること」です。
開発総合力というのは、全社共通で設けているジョブグレード(JBグレード)と所属人数を掛けあわせて数値化したもので、これを定期的に追っています。
開発総合力を上げるには、ジョブグレードを引き上げるための育成、仲間を増やすための採用に加え、これらを上手く掛け算できるチームワーク(活性化)が大事です。この基本的な育成、採用、活性化のバランスの良いサイクルこそが開発総合力向上に繋がると思っています。
今日はこの「開発総合力」を上げるために「ABEMA」の開発本部で取り組んでいることを5つピックアップしてご紹介します。
1.情報の透明化は徹底的に
2018年以降、開発本部のメンバーが100人まで増える見込みが出たタイミングで、このまま組織が大きくなるにつれて、組織メッセージの浸透が難しくなることが予測できたので、情報のオープン化に積極的に取り組みはじめました。
現在、開発本部には現在約130人が所属していますが、「ABEMA」全体まで広げると約600人のメンバーが携わっています。この規模になると、誰がいつ、どこでどんな意思決定をしているのか?自分が今取り組んでいる仕事が「ABEMA」の未来にどんな貢献をしているかが見えづらい場面が出てきます。
また「ABEMA」は、意思決定や改善のスピードがとても早い組織です。新型コロナウイルス感染症拡大の影響をうけて急遽リリースした「ABEMA PPV ONLINE LIVE」や、これに付随する「Go Toイベントキャンペーン」の対象に、オンラインライブ事業としては国内第一号として採用されるなど、スピードが求められるジャンルにおいては、どんどん意思決定が行われていきます。
そのため、どうしても全てをタイムリーにキャッチアップすることが難しくなるので、細かい頻度で開発本部のメンバー全員が集まって「ABEMA」が目指す姿、今Q注力することなどを共有する機会を設けています。具体的には、開発本部では毎月Developers Jointという全体での会議を行います。
半期に1度は開発本部キックオフとして開発戦略や組織戦略の他に、番組制作部門、宣伝部門、広告部門など開発以外の部門の責任者から戦略説明を行い、直接エンジニアやクリエイターからの質問に答えてもらったりしています。
普段の業務ではなかなか接することのない、他部署の経営層からのメッセージを伝言ゲームではなく生の声でインプットすることは、メンバーからも好評です。
代表藤田との打ち合わせは、その時々で参加者が入れ替わりますが、議事録と資料は全てSlackで共有されるなど、情報を取りに行こうと思えば取りに行ける環境を整えることに注力しています。
特にコロナ禍の影響でリモートワークが進む今、Zoomを使っていろいろな会議が参加しようと思えば出来る環境になっています。そこで、役員含む10名ほどで行っていた会議を誰でも参加できるようにし、コメントで質問を受付け、リアルタイムで役員やマネジメント層が返答するスタイルを導入したことで、より活発で、かつ透明性の高い情報ガバナンスが構築されるようになりました。
その他には、毎月で組織やサービス、戦略に及ぶまでの疑問を匿名で受け付けていて、その内容もすべてマネージャー陣で議論して全体に回答していくというスタイルをとっています。
2.全ての新メンバーに素晴らしいオン・ボーディング体験を
「ABEMA」はメンバーの入れ替わりが定期的に起こる組織です。開発総合力を上げるためには新メンバーにいち早く活躍してらもう必要があるので、オンボーディングは常にブラッシュアップするよう意識しています。
オンボーディングで特に意識しているのは「ABEMAに対する理解」と「つながり構築」の2つです。「ABEMAに対する理解」については、開発本部長の長瀬から全体のビジョンを、私からは開発本部の組織や体制を、CTOの西尾からは技術戦略や技術課題について、PM責任者からは「ABEMA」に関する基礎知識をそれぞれプレゼンする機会を設けています。
これは毎月実施しているのですが、例えその月の新メンバーが1人だったとしても欠かさず開催し、必ず本部長やCTO本人から直接伝えています。より組織への理解を深めてもらい、当事者意識を持って仕事に取り組んでもらうことこそが、良い成果に繋がると考えているからです。
その他にもオン・ボーディング施策としては19の項目を用意していますが、今もいくつか良いアイデアが出ているので常にバージョンアップしていきます。
3.組織が強くなるには人材育成が肝
「ABEMA」では開発総合力を数値化しているということは前述の通りですが、この開発総合力を上げていくには人材育成が非常に肝になります。
そこで「ABEMA」の開発本部では、マネージャーが年単位でメンバーをどこまで昇格させたいか目標を掲げ、その目標に対して育成プランを考えています。そのための目標設定をメンバーと二人三脚でやることはもちろんですが、目標の精度が上司に依存しないよう、目標レビューをチームの垣根を超えて実施し、全メンバーの目標をオープン化しています。私たちの言葉では、これを「目線合わせと目線上げ」と言っていますが、目標設定の精度を上げる上で非常に役に立っているとおもいます。
また2018年からは、キャリブレーション(評価協議会)を実施しています。当時は約10名の評価者で約50名分のエンジニアの評価のすり合わせを、約3時間かけて実施しました。評価者が1人のエンジニアにつき1分のプレゼンテーションをして、残りの2分で同席している他の評価者が、レビューします。現在は評価者も増えているので、回を分割して行い、評価に加え目標設定に関してもレビューを実施しています。
「ABEMA」の開発本部では全ての人に最適なパフォーマンスを発揮してほしいという想いから、人の成長に関して議論する機会は非常に多く、とても意義がある時間だと思っています。
4.組織にも健康診断が必要
開発本部では、2019年から社員のエンゲージメントを可視化するためのツール「wevox」を活用し、毎月組織の健康診断を行っています。
組織の拡大と連動して、組織に起こる問題も多種多様になり、それをキャッチアップすることも難しくなります。だからこそ、何か問題が起こりそうな時、問題が起きてしまった時に、すぐにそれをキャッチアップして、改善していく必要があります。
毎月「自分が困っているときに同僚は助けてくれるか」「成果や貢献に見合った評価がされているか」などいくつかの決まった質問に回答してもらい、チームや組織の状態を把握しています。ここでは、それぞれの項目が数値化されますが100点を目指しているというより、前月からどんな数値の変動があるかを重視しています。
時系列で状態を追いながら、毎月マネージャーたちで組織の変化ポイントに対して議論するのですが、マネージャー陣が自分のチームだけでなく他のチームにも目を向け、より良い組織のためにディスカッションして施策を生み出していく習慣が根付いたことが何よりも大きな収穫です。
5.組織の活性化は、開発力倍増につながる
サイバーエージェントの人事制度では「挑戦と安心はセット」が掲げられ、安心して大きな挑戦ができる環境づくりを促進しています。そして安心して挑戦するためには、心理的安全性の構築が非常に大事だと考えており、技術軸・趣味の軸など、自由なテーマで開催されるLT大会やシャッフルランチのような”交流の活性化”と、表彰や「今月の感謝の気持ち」などの”認め合う文化”に取り組んでいます。
すばらしい成果を上げる社員や模範的にふるまうメンバーを表彰することは、本人のモチベーションを上げることはもちろん、「こういう人材になってほしい」という組織メッセージになります。
「今月の感謝の気持ち」は個人的にも気に入っていて、月に1度、開発本部メンバー同士の感謝の声をまとめてSlackで全体共有されるものです。バイネームでちょとした感謝の気持ちが集まるので見ていてとてもほっこりした気持ちになります。毎月100を超えるメッセージが届いていて感謝のスパイラルが生まれているなと実感しています。
チームは管理しない、管理するのは目標
今日ご紹介した施策は多くの企業で当たり前に実施しているものかもしれません。ただその当たり前の施策も、組織のフェーズ・自分たちのカルチャーに沿って、施策をタイムリーに継続することが大事だと、この5年間を振り返って感じています。
「ABEMA」の開発本部では「マイクロマネジメントはやめよう」という考えがあります。というのも「チームを管理する」という言葉を使うときに、多くの人が「人を管理する」と捉えがちですが、我々は「目標を管理する」という考えを持つようにしています。仕様通りの機能を作りたいのであれば、極端な話外注でも構わないのです。ただそれだと面白くないですし、仕様以上のもは創れないと思います。「ABEMA」が向かう大きなビジョンとシンクロして「どうやるか」を自分たちで考え、行動することこそがエキサイティングな挑戦であり、プロダクトを作る醍醐味だと思います。1人1人が納得感を持ち、挑戦する意欲が沸き立つように目標を共に考え、達成していける組織を作りたいと思っています。
開局から5年以上が経ち、一定の手応えを感じる一方で、まだまだやりたい事はあるし、勝負は続きます。開発本部としては、このハードルに対して野心的に挑戦しつづけたいと思うのです。
12月に開催する「ABEMA Developer Conference 2021」では、そんな我々のチャレンジを多数紹介するので、ぜひご注目ください。
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