新しい未来のテレビ「ABEMA」のCTOとデータ戦略室室長が語る「テレビのイノベーションを起こすための データ利活用」

開局から5年。「ABEMA」ではビジネスの成功確度を上げるため、仮設検証型分析とデータの民主化が進められてきました。データ活用を推進することで、ユーザーにどんな視聴体験を届けたいのか、データを駆使することで描く未来の構想について、CTOの西尾とABEMAデータテクノロジーズを率いる林に話を聞いてみました。
目次
ユーザーが本質的に求める
「コンテンツとの出会い」をレコメンドする
テレビのイノベーションを起こすための、
ビジネスモデルキャンバス
Profile
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西尾 亮太
2011年株式会社サイバーエージェントに入社。Amebaスマートフォンプラットフォーム基盤、ゲーム向けリアルタイム通信基盤の開発を経て、2016年に「ABEMA」の立ち上げに参画。2018年より株式会社AbemaTV CTOとして現在に至る。 -
林 裕基
2013年株式会社サイバーエージェントに入社。ソーシャルゲームのアナリストを経て、2016年から「ABEMA」のアナリストとして参画。2018年より「ABEMA データテクノロジーズ」のマネージャーとして現在に至る。
ユーザーが本質的に求める
「コンテンツとの出会い」をレコメンドする
―「ABEMA」開局から5年経った現在の、データ利活用の状況について教えてください。

林
「ABEMA」は開局から5年が経過し、性別 / 年齢 / 視聴傾向 /ログイン頻度といった膨大なユーザーデータや視聴ログが蓄積されています。
動画コンテンツにも、キャストや制作会社といったメタデータだけでなく「家族で見て温まる」といったタグによる分類情報も、ソケッツ社との協業によって整備されました。
「ABEMA」の開発本部では「ユーザーとコンテンツの距離を短くする」というコンセプトのもと、ユーザーデータとコンテンツデータの拡充によって、趣味嗜好や視聴傾向に合わせた、きめ細やかなレコメンドを目指しています。
また、コンテンツの調達戦略や、オリジナルドラマの制作方針といった、ビジネスサイドの意思決定にデータが利活用できる環境を構築しています。その実現のために、秋葉原ラボと連携し、信頼性の高いデータや、高い精度と品質を保ったデータの整備を進めています。

西尾
「ABEMA」のコンテンツと視聴データに関しては、データの分析と整理により最適化が進みました。その一方、「ABEMA」内部の視聴データだけを分析していると選択バイアスが強まってしまい、「ABEMA」を利用者中の人が、引き続き利用し続けるためのデータ分析だけが進んでいってしまう恐れがあります。

林
そこはデータ分析の罠ですよね。恋愛番組が人気だからといって、番組本数を増やしたら気付けば恋愛番組に偏ったチャンネルになってしまうなど。

西尾
そのためにも「ABEMA」オリジナルではない動画コンテンツの分析も必要で、ソケッツ社のコンテンツデータベースと連携して進めています。また、アンケートやユーザーへのインタビューといった市場調査も重要です。
「このユーザーセグメント向けのコンテンツが不足している」「このセグメント向けがしばらく更新されていない」といった課題を探りながら、「ABEMA」にまだないコンテンツに、どんなニーズや可能性があるのかを探るのは難しく、やりがいがあります。

林
現在は「このユーザーは恋愛番組が好き」「このユーザーは新作アニメが好き」のように、1人に1つのジャンルをユーザーセグメントとして割り当てています。しかし実際のユーザーは、自分が好きなジャンル以外にも興味があれば観てみたかったり、視聴の嗜好性は多種多様です。
例えば、新作アニメが好きな人へのレコメンドが、今期のおすすめアニメになるのは良いとして、アニメ以外でも発見性や親和性が高いレコメンドができれば、ユーザーにとってメリットになります。好みのジャンルをレコメンドのベースにしつつも、他ジャンルからの意外なコンテンツとの出会いがある。そんなプラットフォームを実現できればと思います。

西尾
そのバランスが重要ですよね。やり過ぎるとユーザーから「知らないものばかりレコメンドされる」と思われてしまう。
ユーザーが本質的に求めている「コンテンツとの出会い」を探りたいですよね。例えば、「アニメ好き」と言っても、「SFものが好き」「異世界転生ものが好き」というように人それぞれ好みがあります。そのアニメ作品を手掛けた監督が、実写映画を手掛け、話題になった作品もあります。
データが整備されパーソナライズが進めば、細かな好みや志向の背景まで対応することも可能になり、ユーザーが本質的に求めるコンテンツとの出会いを提供できるようになるはずです。

テレビのイノベーションを起こすための、
ビジネスモデルキャンバス
― 開局から5年経過し「ABEMA」は様々な機能を追加しながら進化を続けています。多様化するビジネスモデルを支えるために、開発本部が大事にしているポリシーは何ですか?

西尾
藤田社長は常日頃「我々がやっているのは一貫してテレビのイノベーションである」と言っています。開局以来、そのビジョンはブレておらず、ビジョンを実現するためのビジネスモデルや手段が、開局当初と変わってきたと言えます。
例えば、開局時(2016年4月)の「ABEMA」はリニア配信とタイムシフトというシンプルなスタイルで、リニア配信のテレビ型CMが主な収益源となるビジネスモデルでした。2017年4月にVOD(Video On Demand)である「ABEMAビデオ」が加わり、広告に加え月額サブスクリプションである「ABEMA」のプレミアムプラン「ABEMAプレミアム」も重要な収益源になりました。
更に昨今のコロナ禍でリアルでのライブ興行が難しくなった状況に対応するため、2020年6月には有料オンラインライブ「ABEMA PPV ONLINE LIVE」をリリースし、より手軽にライブを視聴いただけるようになりました。
マルチデバイスへの対応強化も進んでおり、ユーザーにとっては様々なコンテンツを多様なスタイルで楽しめるようになった一方で、データ分析の視点から見ると、非常に複雑化したビジネスモデルになったことも事実です。
そこで、開局5年目のタイミングで「ビジネスモデルキャンバス」を制作しました。


西尾
サービスの構造が変化したならビジネスモデルの捉え方も更新していく必要があります。
「テレビのイノベーション」という一貫したポリシーに対して、時流に合わせて多様化するビジネスモデルの中、我々が重視すべき顧客価値とは何か? 何を顧客に提供したいのか?を言語化し、開発本部全体で共有する必要があります。
「ABEMA」のプロダクト開発がブレないためにも「ビジネスモデルキャンバス」を羅針盤にできたらと考えて作りました。

林
サービスの成長に伴ってビジネスモデルが複雑化するのは必然です。その一方、「リニア放送」や「PPV」という機能だけを見ると「ABEMA」の方向性がわからなくもなります。しかしその視点では、開発の際の矛盾や仕様の齟齬にもつながり兼ねません。
まず「テレビのイノベーション」という一貫したビジョンがあり、その実現のために「リニア放送」や「オンデマンド配信」「PPV」の機能があるのなら、我々技術者も「テレビのイノベーションとは何だろうか?」「イノベーションを起こすために必要なデータ基盤とは何だろうか?」を真剣に考えるようになります。
技術者の特性上、長期ビジョンや指針がないまま開発するのは不安なので「ビジネスモデルキャンバス」の役割は重要だと思います。

西尾
何の機能を開発するかではなく、どんなビジネス課題を解決するために開発するのかですよね。そこを可視化しないと、機能一つ一つに対して局所的な最適化する事にこだわってしまうので、サービス全体のデータ基盤に至らないでしょう。

ビジネスの成功確度を上げるための、
仮説検証型分析とデータの民主化
― ビジネスの成功のためにはデータ資産とその利活用が必須の時代になってきました。「ABEMA」でデータを利活用して、成功確度をあげるためには何が必要でしょうか。

林
データドリブンで判断する考え方は確実に浸透してきました。その一方で「データ万能説」に陥らないよう、データ利活用する側の啓蒙とデータの民主化が求められています。

西尾
「データを見たら何かわかるかもしれない」というアプローチはデータに対する幻想でしかないので、施策の成功確度を上げるためにもアプローチを変える必要はありますよね。

林
データの分析手法は大きく分けて「探索型」と「仮説検証型」の2つがありますが、「ひとまずデータを見てから考えよう」という探索型の分析は、これまでの経験上 有効な打ち手に繋がらないことが多かったです。
探索型でも「このセグメントがちょっと落ちている」など分かることはありますが、「なぜ落ちているのか」を知るために、分析に答えを見出してしまう。そうではなく、仮説をしっかり設計した上で、その仮説を検証するためにデータを使うというアプローチのほうが、有効な打ち手に至っているケースが多く見られます。

西尾
「データがあればどのような状況からでも因果関係まで導ける」と考えがちですが、実際はしっかり仮説を立てておかないと難しい。

林
例えばABEMAプレミアム会員がサービスを退会する理由は、行動ログデータに記録される事はありません。「つまらなくなった」「観たい作品がなくなった」といった本質的なユーザーのニーズは、インタビューやアンケートなど、ユーザーと向き合いながら深堀りする事で見えてきます。

林
例えば、ロイヤルユーザー数十人分の数年間の行動ログを全て時系列で並べ、どういう使い方をしているのか、1つ1つの行動を丁寧に分析するという取り組みを行ないました。
「作品ページに遷移した後、別のページを何回も行き来しているのはなぜか?」「なぜ毎週、特定の曜日にだけ決まってアクセスするのか?」「シリーズ物で#1を観たら次は#2のはずなのに、話数を飛ばしているのはなぜなのか?」
そういった「なぜ?」を突き詰め、自分なりの仮説を立てる事で、俯瞰的なデータからは見えてこない課題や、ユーザーの楽しみ方が見えてきました。またその仮説を立てるうえで、今年は一定期間ユーザーインタビューも強化しました。リアルなユーザーの声を定量と付け合わせることで、仮説検証や問題解決の糸口を探れることはプラスになりました。

西尾
「毎週木曜日に必ず来るのはなぜか」という問いに対して、そのユーザーが好きな新作アニメが毎週木曜日にあるからというのが理由。話数を飛ばしたのは、その日はオンタイムでテレビ放送を見れたから。更に、直接インタビューもすることで、ユーザーの姿がより見えるようになりました。
「アニメユーザーはこう」といったセグメントによる分析よりもユーザー像を想像しやすく、そのぶん施策にも落とし込みやすかったです。

林
「ABEMA」で企画や番組制作をするチームメンバーが、自分の考えた仮説をぶつけるために、簡単かつ精度高く分析できるような「データ分析の民主化」が必要だと考えています。
そのためにデータ基盤の構築が必要で、我々はそれを目指しています。

「ABEMA」のデータサイエンティストに
求められる資質
― ABEMAのデータサイエンティストに共通する素養は何ですか?

西尾
大事なのは、自分がおこなっている分析が、最終的にどのような価値を提供するのかに自覚的になる事です。
ビジネス側から求められたオーダーに受動的に応じているだけでは、どうしてもユーザーから遠くなりがちですし、仕事していておもしろくないですよね(笑)。

林
受け身にならないことは大事ですね。データ分析を出すにしろ、なぜ必要なのか、ビジネス的な課題は何なのかを把握するだけでも違う。我々のチームでは、言われたままデータを渡すオペレーターではなく、データに向き合いながらチームに仮説をぶつけるサイエンティストを求めています。

西尾
仮説をぶつけるというスタンスは大事かもですね。「ABEMA」の1,200万WAUというクラスの行動ログデータを使って分析ができるというのは貴重な体験ですし、類似するサービスがないので、ビジネスモデル的にも何が最適解かもわからない。
膨大なデータをもとに、自分なりの仮説を考えて、ビジネスモデルに適用して成果を出す。
そういったデータ分析をやってみたい人にとっては非常に魅力的だと言えます。
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