サイバーエージェントと東京藝術大学が挑む「アート×ビジネス」の未来──産学連携で切り拓く新たな価値創造への道

技術・クリエイティブ

既成概念を揺さぶるアートの力と、社会と繋ぐビジネスの視点が交わることで、どんな価値が生まれるのか──。サイバーエージェントと東京藝術大学がタッグを組み、アートを社会実装へと昇華する産学連携プロジェクトが始まりました。

本記事では、東京藝術大学長 日比野氏、サイバーエージェント執行役員/クリエイティブ担当 佐藤、そして同執行役員でサイバーエージェント・キャピタル代表取締役 近藤の鼎談を通じて、プロジェクトの意義を超えた、アートとビジネスの融合がもたらす未来についてお届けします。

アートの力を社会へ - 産学連携が拓く可能性

―今回の産学連携プロジェクトが生まれた背景や意義について教えてください。

日比野氏:かねてより社会とつながる活動を続けてきましたが、学長という立場になり、企業や自治体と連携して社会に貢献する必要性を強く感じていました。ちょうどその頃に教え子がサイバーエージェントにいると聞き、相談したことが発端です。サイバーエージェントのような企業と新たな化学反応を起こすことに大きな興味を持ちました。

佐藤:このプロジェクトはアートと企業という一見異なる領域が交わることで生まれる、イノベーションへの挑戦です。当社には毎年東京藝術大学出身者が入社してくれていますが、彼らの独創性は組織に新たな視点と刺激を与えてくれています。そんな原石のような才能や自由な発想を社会に広げる場を共に作りたいと以前から考えていました。

サイバーエージェントは常に「世の中に新しい価値を生み出したい」という思いで挑戦を続けていますが、その中で求められているのは、多様な視点や想像力を融合させるクリエイティビティです。当社は「クリエイティブで勝負する」をミッションのひとつに掲げており、東京藝術大学の皆さんが持つアート的な視点は、これからの社会やビジネスに欠かせないものだと感じています。

近藤:現代社会の課題は複雑化し、多様な発想や視点なくしては解決できない時代です。起業の現場でも、単なるテクノロジーやビジネスモデルだけでなく、「問いを立てる力」や「独創的な表現力」が不可欠になっています。アーティストが持つ“違和感”や“遊び心”、“美学”をビジネスに取り入れることは、他と異なるイノベーションを起こす力になると思います。

当社グループが投資・育成支援するスタートアップも社会課題解決を主眼に置く例が多く、そこに東京藝術大学の学生やアート的思考が加われば、日本のスタートアップエコシステム自体に新たな潮流が生まれると確信しています。
 

東京藝術大学長 日比野克彦氏
東京藝術大学長 日比野克彦氏

日比野氏:アートの専門性は一般的に社会から隔絶した特殊な領域と認識されがちですが、本来アートの要素は人々の日常生活に深く浸透しているものです。
幼少期に誰もが学校で音楽や図工の時間を通して、歌を歌ったり、絵を描いたり、何かを作ったりといった芸術的な感覚を経験しているはずです。そうした原体験を改めて捉え直し、社会全体の豊かさと新たな価値創造に繋げることが、本プロジェクトの重要な目的の一つです。

東京藝術大学が目指すのは、専門家だけのための芸術ではなく、社会の多様な場面でアートが自然に存在することです。そして、本学の学生がその核となり、広範な世代に対してアートの可能性を発信していくことは大きな意味を持つと考えています。

アートは個性を尊重するものです。現代社会は多様性を謳いながらも、単一のルールに従う人々で成り立つというアンバランスを抱えていますが、既存の価値観にとらわれない視点の中にこそ、社会に変革をもたらす力があります。
だからこそこの連携は、東京藝術大学のみならず、社会全体に新たな可能性を提示するものと期待しています。

「生」の才能が社会実装の現場で得る経験と成長

ー本プロジェクトは、『東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト2025』への参加と企画支援、社会実装支援プログラム「CA SHIP」の2つで構成されていますが、どのような経験や成長の機会を得られるのでしょうか。

佐藤:まず、『東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト2025』への参加と企画支援※1についてですが、テーマは「アート×エンターテインメント/AI」を設定しています。これは、サイバーエージェントが長年取り組んできたエンターテインメントとテクノロジー、特に近年力を入れているAI技術の社会実装の文脈で、アートの持つ可能性がこれまでにないほど広がっていると感じているからです。

AIが進化する中で、人間にしかできない創造の本質や感性がより重要になっています。東京藝術大学の皆さんが持つ創造性が、エンタメやAIと組み合わさることで、新たな体や価値が社会に生まれると信じています。私たちがメンターとして定期的なカウンセリングを実施し、豊富な事業経験に基づいた実践的なサポートを提供します。

近藤:参加者は、自分のアイデアを具体化し、社会に発信する過程で、起業家や経営者と意見を交わす機会を得られます。ビジネスの観点からフィードバックを受けることで、学生時代にはなかなか得られない貴重な成長体験となるでしょう。社会と繋がる実感を持ってもらえるはずです。自己表現と社会貢献が両立し得るという大きな視野が生まれると考えています。

※1『東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト 2025』への参加と企画支援
東京藝術大学の企画公募事業『東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト 2025』にサイバーエージェント枠を設け「アート×エンターテインメント/AI」をテーマに企画を募集(公募D)。企画採択された方(想定人数:6名)に対して助成と実践支援を行う。対象者は在学生、および2020年3月以降に卒業・修了した方。
https://www.geidai.ac.jp/news/20250321146881.html

 

株式会社サイバーエージェント 執行役員 / クリエイティブ担当 佐藤洋介 
株式会社サイバーエージェント 執行役員 / クリエイティブ担当 佐藤洋介 

佐藤:次に、社会実装支援プログラム「CA SHIP」※2についてですが、このプログラムを通じて、私たちが培ってきたクリエイティブやマーケティング、ビジネス設計の知見を活かし、様々な形で「社会との接点」を創出・提供していきたいと考えています。

具体的には、事業開発経験者や起業家を招いたワークショップなどを実施し、学生の「こうしたい!」という思いを形にする伴走支援を行います。「つくる」だけでなく、「伝える」「届ける」にも力を入れる点が、様々な事業を展開する当社ならではの特徴だと考えています。

近藤:このプログラムを通じ、参加者は自分のアイデアや創造性をリアルな事業や社会課題の解決にぶつける経験を得られます。また、ピッチイベントやワークショップを通じて、自分自身をどう伝え、価値化するのかという視点も養われます

ビジネスの世界で活躍する方々との対話を通じて、複眼的に物事を見る力や「自分の価値を他者にどう伝えるか」といった視点が身につくでしょう。参加者の個性と、多様なビジネスパーソンのネットワークが出会うことで、スキルや知識以上の「目覚め」と「気づき」を促せると信じています。
自己表現のみに留まらず、社会との接点を持ち、現実の課題に対して自分の創造性をどう活かせるか。そのプロセスを体験することで、東京藝術大学の皆さんが大きく成長できると期待しています。

※2社会実装支援プログラム「CA SHIP」
アートの才能やアイデアを社会と結びつける視点を学び、アートを通じた社会課題解決や社会実装に取り組むことを支援するプログラム。対象者は、東京藝術大学の学生および卒業・修了生。
エントリー開始は2025年5月8日午後を予定しております。

 

株式会社サイバーエージェント 執行役員 / 株式会社サイバーエージェント・キャピタル 代表取締役 近藤裕文
株式会社サイバーエージェント 執行役員 / 株式会社サイバーエージェント・キャピタル 代表取締役 近藤裕文

ーそれらプログラムを聞いて、いかがでしょうか。

日比野氏:本学の学生は自分のエネルギーを「生(なま)」のまま持っている人が多いです。
食材に例えると、生のまま美味しいものや、加工するとより美味しくなるものがあります。
しかし、自分が生のままで良いのか、加工した方が良いのかは、出会いや経験で変わります。生のままでしか表現したことがない人には、加工を経験することも必要ですし、逆に加工しすぎて本来の良さを失うこともあります。その気づきを得るために、さまざまな出会いが重要です。
このプロジェクトの中で多くの出会いがうまれ、自分の可能性に気づける場となったらいいなと思います。

佐藤:今回の初年度だけでなく、今後も継続していける枠組みにしたいと考えています。
中長期的に“人材”と“価値”を創出するシステムにすることが目標です。
クリエイティブの現場とアカデミー、そして社会実装のフィールドを行き来できる若い才能たちがここで育ち、羽ばたいていく。その仕組みを一緒に作っていきたいですね。

日比野氏:私は常日頃「藝大に卒業はない、全員が藝大生だ」と言っています。
私の中で東京藝術大学生とは、一生アートを信じて疑わず、日常の中でアートの感覚を持ち続ける人たちです。
ですので在学生だけでなく卒業生も対象に「社会との接続」を強く意識したサポートをしたいんです。一生“藝大生”としてアートを信じ、感性を磨き続けられる場を提供していければと考えています。

未知との出会いがもたらす創造の可能性

日比野氏:新たな出会いとして一つ例を挙げると、今年の東京マラソンでは数名の学生がフルマラソンを完走しました。私が彼らに出した課題は「体験したことを作品にしてください」ということ。
後に、参加した1人が、37キロ地点で声を出さなければ走れないほど苦しくなったと語ってくれました。普段は静かな彼が大声を出しながら走ったことに自分でも驚いたそうです。その体験を作品にしたいとのことで、タイトルを「37キロ地点」と決めている、と。
これは実際に走らなければわからない感覚であり、彼の内面から新たな表現欲求が生まれた瞬間です。

マラソンを走ることは絵を描く才能とは直接関係ありませんが、学生たちが普段と異なる体験をすることで、自分の内なる「生」の部分を引き出し、新たな表現の可能性が生まれます。
一見すると東京藝術大学とは接点がないように思える分野との繋がりこそが、学生たちの視野を広げ、日常の中に眠るアートの可能性を掘り起こす鍵になる。

これまで芸術と直接関係がなかった団体や企業と連携することで、学生たちは未知の領域との出会いを経験し、そこから予期せぬ創造性を開花させるきっかけになると考えています。
 

佐藤:その点において、当社がこれまで培ってきた多様な業界とのネットワークや、新しい価値を生み出す柔軟な発想力は、このような異分野との橋渡し役として活かせるはずです。
学生たちの純粋な感性と社会のリアルな課題やニーズを結びつけることで、これまでになかった革新的なアイデアの創出につながると思います。

近藤:これまで様々な専門性同士の連携、例えばデザインとプロダクト開発、音楽と音響技術といった協働から素晴らしいアウトプットが生まれていますが、それだけでは見えない可能性が、異質な領域との出会いには秘められているのですね。
東京藝術大学の学生の持つ独創的な視点や、まだ形になっていないエネルギーは、様々な企業や社会の課題に対して全く新しいアプローチを生み出すかもしれません。

佐藤:アート×ビジネスの未来は、まだ誰にも正解は見えていません。だからこそ、東京藝術大学の皆さんの内に秘められた「生」のエネルギーに触発されながら、私たち自身も固定観念を揺さぶり、共に新しいモデルを作り続けていきたい。
真の産学連携が切り拓く未来を、皆さんと共に創造していく過程そのものが、何より刺激的で価値のあるものだと信じています。

近藤:アートという、時に既成概念を打ち破る異質な力がビジネスや社会にもたらす価値は、これからの日本にとって不可欠な基盤になると考えています。
東京藝術大学の学生の皆さん、そしてクリエイターの皆さんと、試行錯誤を重ねながら、社会を変える化学反応を巻き起こしていきたい。その強い想いを持って、今回のプロジェクトに全力でコミットしていきます。

■お知らせ
プログラムの詳細や応募については、各公式サイトをご確認ください。
・『東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト 2025』
https://www.geidai.ac.jp/news/20250321146881.html
・「CA SHIP」
エントリー開始は2025年5月8日午後を予定しております

・産学連携プロジェクトに関して
https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=31547

 

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