社内のクリエイターに向けて発表した「画像生成AIガイドライン」策定の裏側

技術・デザイン

当社には、全社横断で高いクオリティを維持し競争力にすることを目的とした、クリエイターによる横軸組織「CA Creative Center」があります。同組織が掲げた2024年度の戦略テーマは「創造性の進化、クリエイターの新章」 クリエイターの創造性をより一層進化させ、生成AIによる大きな変革の波をポジティブに乗りこなすことで、当社が生成AI時代においてもリーディングカンパニーとなるきっかけを作りたいと考えているからです(参照:「生成AI時代におけるサイバーエージェントのクリエイティブ戦略」)。

ただ、クリエイターが業務において積極的に生成AIを利用するには、法整備等が進んでいないこともあり、不安な点が多く残るのが実状です。当社では、クリエイターが最大限安全性に配慮した上で生成AIを活用できるよう、2024年2月に「画像生成AIガイドライン」を社内向けに発表しました。
同ガイドライン策定を担った「CA Creative Center」及川と、法務担当 堀居に話を聞きました。

Profile

  • 及川和之
    2012年入社。「CA Creative Center」所属およびFanTech 本部クリエイティブ責任者。
    様々なWebサービスのデザインに携わった後、「Ameba」のデザイン責任者を経て現職。メディア事業におけるクリエイター組織のマネジメントに携わる傍ら、プロレス動画配信サービス「WRESTLE UNIVERSE」のデザインを担当。

  • 堀居健太郎
    2022年入社。法務・コンプライアンス部所属。
    当社AI事業の法務を担当する傍ら、「生成AI徹底理解リスキリング」の法務・コンプライアンス分野における講師を担う。

法整備を前に、社内ガイドラインを発表した理由

── 「画像生成AIガイドライン」策定に至った経緯を教えてください。

及川:生成AIの中でもとりわけ画像生成については、現行法では様々な解釈が可能であり、国としてのスタンスも明確ではありません。ただ、全てが整備されてから画像生成AIの活用方法を検討するようでは、会社としてあまりに負のインパクトが大きいと考えました。そこで、法整備がなされてから正式なスタートダッシュを切れるよう、現時点で会社が安全であると定めた範囲内での利用を促すべく、ガイドラインを策定しました。

言うまでもないことですが、AIが生成した画像データは我々の求めている完成形ではないですし、そのまま成果物としてユーザーに提示されるわけでもありません。現時点で想定している利用方法の1つが、素材画像の生成です。

これまで何らかのクリエイティブの制作を検討する際、その素材を探すために画像素材サービス等で一つ一つ目視で探していく必要がありました。従来当たり前にこなしていたタスクではありますが、それなりの時間を要しますし、クリエイターとして創造性に富んだ時間の使い方とは言い難い面もあります。一方、たとえば著作権等を侵害せず、安全に商用利用できる画像データが生成される「Adobe Firefly」を利用すれば、数分で目当ての素材に辿り着くことも可能です。安全な画像生成AIツールをこれまでのワークフローと個々のクリエイティビティに結びつければ、より効率的で高品質なクリエイティブを生み出せると考えています。

社内のクリエイターからも、業務において画像生成AIを利用して良いのか分からない、また実際どう使うべきなのか悩む声も多く聞かれていました。「CA Creative Center」としてグループの全クリエイターが冷静かつ安心して利用できるよう、関係各所の判断を仰ぎながらガイドラインを作成しました。

堀居:画像生成AIにおいては、この数年でクオリティや機能面において大きく進化を遂げていますし、クリエイティブ業務の効率化や高度化への期待がある一方で、著作権や情報漏洩等の様々な問題やリスクがあります。
法令上の問題について不確定要素は多いものの、それでもスピード感をもって安全に有効活用できるよう、現時点で整理できる一定のラインをなるべく早い段階で示すべきだと考えていました。

── ガイドライン策定にあたって、社内でどのような体制を構築したのでしょうか?

堀居:クリエイティブ担当 執行役員である佐藤、及川、私を含めた法務メンバー数名のほか、システムセキュリティ推進グループと協力してガイドライン策定と社内体制の構築を行いました。

法務が中心となって現在の法規制について調べながら、画像生成AIにおいてどのようなリスクが起こり得るか、またセキュリティ観点でどういった問題があるのかプロジェクトメンバーで洗い出しを行いました。ただ闇雲に外部の情報を整理するだけでなく、社内の利用状況や課題と照らし合わせて考える必要があったため、システムセキュリティ推進グループや及川にも協力してもらいながら、クリエイターの利用状況や意見を汲み取った上でルールや運用体制を検討しました。
 

及川:具体的には、利用実態を把握するために全クリエイターを対象にしたアンケートを実施し、ガイドラインの検討材料にしました。

また、当社はメディア事業・広告事業・ゲーム事業を中心に幅広いサービスを運営しているため、各事業部のクリエイターの業務内容も様々で、画像生成AIを活用できるユースケースも異なります。そのため、各事業部で画像生成AIの責任者を決め、毎週定例会議を行うなど密に連携を取っています。ガイドライン策定にあたっても、適宜情報を共有し、それぞれの現場からアドバイスをもらいつつ推進しました。このガイドラインを大前提とし、各事業領域のニーズに合わせたローカルルールの整備も並行で進めています。

── ガイドラインで特に重視しているポイントを教えてください。

堀居:画像生成AIを利用する上で重要なことは、大きく2点あると考えています。「利用するツールやモデルの選定」と、「使い方」です。

ツールやモデルについては、そのサービス内容やライセンスの範囲、機能、セキュリティなどにおいてリスクが高いものは使用を避け、安全に利用できると判断したもののみ使う必要があると考えています。今や様々な画像生成AIがネット上で公開されているものの、利用できる範囲がそれぞれ異なっていたり、データの取扱いにも一定の注意や特別な設定が必要な場合があります。また、学習データの信頼性に関する問題もあるため、利用前にはその安全性や注意事項を詳しく確認することが必要です。
そのためガイドラインでは推奨ツールを設けた上で、それ以外のツールやモデルを使う場合には、システムセキュリティ推進グループ・法務にて問題がないか事前にチェックするための利用申請フローを策定しました。

使い方については、著作権侵害を起こさないための注意点や、やってはいけないこと・やるべきことを明文化しました。こちらに関しては、文化審議会著作権分科会の公開資料や世の中で実際に起きた画像生成AI関連の問題を確認しながら、現時点での適切な利用方法を定めています。
例えば、他者のキャラクターやイラストと同一・類似したものを生成させないために、プロンプトには特定のアーティスト名やキャラクター名を入れてはいけないとルール化しました。その上で、生成物を使用する前には必ず類似チェックを行うなど、画像生成AIの特徴やリスクを考えてガイドラインを策定しました。

テストに合格しなければ、利用申請を受け付けない仕組みに

── 全クリエイターにガイドラインを理解してもらうために、どのような工夫を行っているのでしょうか?

及川:各自がガイドラインを読み込んだ後、理解度テストを受験するフローにしました。利用方法を誤ると法律に触れるリスクがあるため、理解度テストに合格していなければ、利用申請の段階でリジェクトされる仕組みとしています。

堀居:テストにはかなり細かな内容も出てくるため、ガイドラインをしっかり読み込んだ上で受ける必要があると感じました。ただルールを覚えるだけではなく、なぜこのような対応をしなければいけないのか、法律に基づいて理解する必要があるので安心です。

及川:画像生成AIについて、現時点でこれだけ理解していれば安心という環境を構築したいという考えが前提にありましたので、特に解釈に違いが生じそうな部分を抽出し、テストとして出題する形にしました。

── ガイドライン発表後、法務への相談状況はいかがですか?

堀居:以前より相談が増えたので、法務としてはありがたいです。リスクに気をつけながら可能な範囲で業務に活用しよう、という雰囲気が全社一丸となって醸成され始めていると感じます。画像生成AIといっても、ツールや追加学習用モデルなど実に多種多様なので、クリエイターの相談を受けながら社内での判断事例を増やしていきたいと考えています。

── 生成AIを取り巻く環境は日々大きく変化していますが、このガイドラインを今後どのように運用していく方針か教えてください。

堀居:とりわけ画像生成AIにおいては、それぞれの倫理観や価値観も様々で非常に難しい問題だと考えています。国内外における法規制の動きを注視しながら社内外の問題事例にも目を向け、クリエイターが安全に業務に活用できるよう、向き合い続けていきます。

及川:時代の変化に合わせて、ガイドラインを適宜アップデートし、形骸化させることなく、実効性の高いものへと継続的に改善していく考えです。クリエイターの業務を生成AIで代替することがゴールではありません。生成AIを適切に活用することで、クリエイターがより創造的な作業に注力できる状態になる事が重要です。そのため、当社のクリエイターには日頃から、画像生成AIの実力を自ら体験し、業務へどう活かせるか検討してもらうよう促しています。自分でコントロールしてみなければ、できることとできないことの把握ができないからです。業務におけるリスクを回避しながら、サイバーエージェントのクリエイターには、新たな技術へのアンテナを張り続けてほしいと考えています。

そして適切に生成AIを活用することで、クリエイターの創造性をより一層高め、企業価値のさらなる向上につなげていきたいです。
 

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