広告コピーで世の中をスクラッチする | 佐倉康彦

技術・デザイン

THE CONFIDENTIAL #5 佐倉康彦

次世代クリエイティブ専門チャンネル「THE CONFIDENTIAL」は、広告をはじめ・PR・映像・デザインなどクリエイティブの世界の最前線で活躍するプロフェッショナルたちの 「秘伝技術(=confidential)」を学べるYouTubeチャンネルです。

サイバーエージェントとThe Breakthrough Company GOが共同で企画制作。MCは、クリエイティブディレクターの木本梨絵さんが務め、毎回、多彩なゲストをお招きし、コアアイデアの開発、企画設計、思考法の変遷やその体系など、プロフェッショナルな方々が持つ「秘伝技術(=confidential)」を掘り下げていきます。

動画版 「THE CONFIDENTIAL」

広告コピーで世の中をスクラッチする | 佐倉康彦【Ep.1】

コピーライターのキャリア論 | 佐倉康彦【Ep.2】

【オフィスツアー】佐倉康彦 | 株式会社ナカハタ【Ep.3】

さまざまなクリエイターの「秘伝技術=confidential」を探る「THE CONFIDENTIAL」。第5回目のゲストは、広告の域を越え、ショートフィルムやプロダクト開発、シティプロモーションなどを展開されるコピーライター/クリエイティブディレクターの佐倉康彦さんです。

 佐倉 康彦 氏  /  株式会社ナカハタ 代表取締役  
コピーライター代表作にサントリーザ・カクテルバー「愛だろ、愛っ。」、PERSOLグループ「はたらいて、笑おう。」、リクルートエージェント「つぎの私は、プロとはじめる。」、日清食品「おいしいの、その先へ。」、イザック「大好きというのは、差別かも知れない。」、GUNZE BODY WILD「男のパンツの、広告してます。」など。 
現在は広告だけに留まらず、ショートフィルムやプロダクト開発、シティプロモーションなども手掛ける。TCC賞、ACC賞など受賞多数。 
 株式会社 ナカハタ
佐倉 康彦 氏 / 株式会社ナカハタ 代表取締役
コピーライター代表作にサントリーザ・カクテルバー「愛だろ、愛っ。」、PERSOLグループ「はたらいて、笑おう。」、リクルートエージェント「つぎの私は、プロとはじめる。」、日清食品「おいしいの、その先へ。」、イザック「大好きというのは、差別かも知れない。」、GUNZE BODY WILD「男のパンツの、広告してます。」など。
現在は広告だけに留まらず、ショートフィルムやプロダクト開発、シティプロモーションなども手掛ける。TCC賞、ACC賞など受賞多数。
株式会社 ナカハタ

平易な言葉は陳腐化しない。

──たくさんのコピーを手掛けていらっしゃいますが、コツのようなものはありますか?

ぶっちゃけて言っちゃうと、コピーを書くには小学生レベルの国語力があればいい。幼い子供からお年寄りまで、誰とでもちゃんとコミュニケーションできる言葉である方が大事だなあって。

──そうすると、平易な文章になってしまってコピーにならないということはないんでしょうか?

普通の言葉のほうが意外と長くもつんです。陳腐化しない。それに、俺はターゲットを意識した言葉使いをあんまりしていないんですよ。お年寄りが笑うフレーズにはZ世代の若者も笑うだろうし、特定の言葉ってない気がするんです。コピーって企業や商品が発信するラブレターみたいなものだから、テクニックをバリバリ使って書いても、伝わらないと思う。言葉自体よりも、その時代のコンディションにどうやって呼応できるか、言葉よりも切り口の探し方を考えていているように思います。

──うーん、なるほど。コピーライターという仕事をどう捉えていますか?

多分「ライター」って言い方が間違ってるんですよね。ライターだから「小説書かないの?」「脚本書かないの?」って軽く言われるんだけど、使う筋肉が違うんです。

俺が書いてきたコピーらしきものは、くしゃみみたいなもので、理路整然と順序立てて作るって言うより、鼻がムズムズしてしょうがなくなって、ハクション、とやった瞬間に出てくるようなもの。

決して特別ではなく、普通の人と同じような感覚でものごとを受け止めて、書き方よりも、世の中や社会をどう捉えていくかに心を砕いています。もともとある言葉を今の世の中にフィットさせる。フィットさせるだけではだめで、スクラッチする。そうすることでコピーができるんです。

広告コピーで世の中をスクラッチする

──「スクラッチする」とはどういうことなのでしょうか。

「はたらいて、笑おう。」というコピーを書いたことがあります。これには「はたらいて笑えるわけねえじゃねえか」という意見もたくさんありました。

綺麗事を言っても誰の心にも引っかからない、スクラッチしない。ズドーンと刺さることはなくても、何か小さいトゲが入って気になってしょうがない、というやり方を選んだのです。

実はあのコピーは、自分がふと感じた「はたらきながら、笑ってないな」という感覚から来たものでした。実際にパソコンに向かってコピーを書いている時に本当に笑えているだろうかと疑問に思ったのがベースになっています。

それを見た人が怒ったとしても、それがスクラッチじゃないですか。世の中をちょっと引っ掻いたということ。はたらいて笑えていない自分がいるから、「はたらいて、笑おう。」と言われて頭にきたと。そういう結果でも、いいんです。

──「炎上」を恐れる現在の広告をめぐる状況について、どうご覧になっていますか。

クライアントも含めて、作る側はタフでいるべきだなって気がする。誰も傷つけない言葉って、どこに行くんだろうと思っちゃうんです。確かに誰も傷つけないことはいいことかもしれないけれど、それをやりすぎると元々あった嫋やかで素敵なものが消えていくような気がします。

以前カバンのブランドY'SACCSの仕事で「大好きというのは、差別かもしれない」というコピーを書いたことがあります。もう、炎上しそうじゃない?

──今の時代だったらこの広告は出せないだろうな、という感じがします。

当時、広辞苑を調べたら「差別」という言葉には「差をつける、別にする」という意味があって。その違いの扱い方が変わることが良くないというだけで、「差別」って言葉自体にはそんなに罪はないなと。だから、買い物やものを選ぶ時の、好きか嫌いかという「差別」を表現できないかなという思いでつくったんです。

ビジュアルも、全身ヌードだし、下着もつけていない状況で首から下げているカバンもシースルー、で口元のロゴが猿轡みたいになっていて。

でも意外とこのポスターがショップに飾られている時にずっと見ている人がいました、という話を聞いたりしたんですよ。

言葉だけを残そうとしない

──佐倉さんのお仕事を見ていると、言葉も、人も、常にいろんな角度のキュレーションをしているなという感じがします。

キュレーションと言うと格好よすぎちゃう気がしますが、言葉単体を信じていないというか、言葉だけを残そうとしていないことが、そう見えるのかもしれません。

──コピーライティングをするけれど言葉だけを残そうとしない。では何を残すのでしょうか。

すごく曖昧な言い方だけど、理屈では理解できない、何か感じるものを残せたらと思います。「何か気になる」とか、「ちょっと鳥肌立っちゃった」みたいな。言葉を作り出すのではなく、言葉を選んだり整理してそのコンテクストを作っていくことが大切なのかなと思います。

「言葉だけを残そうとしない」例として、自分のルールに、コピーがいらない場合、それを自分で判断するというのがあります。デザイナーや監督にいらないかもねと言われる前に、コピーはいらないという判断も俺自身がやりたい。
 

大好きな「寅さん」の仕事とザ・カクテルバーのコピー

──佐倉さんのお仕事で、一番最近見たのが『男はつらいよ お帰り 寅さん』のコピーでした。タイトルと呼応するようなこのコピー、どのように考えられたんですか?

山田洋次監督の大ファンなので、お話が来た時にぜひやりたいと、山のようなコピー案を持って行きました。神様のような存在の山田洋次監督に見ていただけるならと、100本以上のコピーを紙に書いたものを並べて、一枚一枚説明して。

──100本ノックですね。

山田洋次監督にプレゼンテーションできるわけだから、久しぶりにコピーライターらしい仕事の仕方をしてもいいのかなと思って、そういうやり方をとりました。その中から選ばれたのが「ただいま。 このひと言のために、旅に出る。」というコピーでした。

寅さんって、好きな女性ができて、フラれたら旅に出るの繰り返しじゃない? 「ただいま」「おかえり」の繰り返しでずっと続いているんだなと思って、この一言のために旅に出ているというコピーを書きました。「ただいま」ってすごく普通の言葉で、いいなあって思って。

──このコピーで、私は初めて寅さんを見ました。

おお、素晴らしい。余談ですが、サントリーから発売された瓶入りアルコール飲料ザ・カクテルバーのキャッチコピー「愛だろ、愛っ。」もぶっちゃけ寅さんのスタイルなんです。永瀬正敏がいて、マドンナが出てきて、フラれて、という。田舎の兄ちゃんが東京に出てきてカッコ良くキメたいけどうまくいかない、世の中の冷たさやしんどさを思い出しながら考えました。

ネガティブな感情でドライブをかける

──インプットの仕方についても教えてください。どのように自分の中のアセットを豊かにしているのでしょうか。

意外といいなと思っているのが、頭にきたことがあってしこりみたいに心に残っているとしたら、その時自分が怒った原因を探すことです。

──マイナスな感情のほうがヒントになるということですね。

プラスの感情の時は、あんまりドライブがかからないというか。ネガティブな感情があった時のほうが、前に進める気がする。そこから脱したいともがく行為が自分が踏み出す力の源になっているんです。ネガティブな感情は、仕事を続ける上での信念のようなものにもなります。

──どういうことでしょうか。

例えば、仕事をしていく上で「こいつ、潰したいな」って思えるほどの人を見つけるんです。そういう人がいると、モチベーションが上がるからその力を借りる。

しばらくすると、こいつだけは本当に潰そうと思っていた人が、気づけば大切な存在になっていて、やっぱり憧れているし、リスペクトしているんですよ。

──嫉妬のような感情もあるということですか?

もちろんある。嫉妬がドライブの燃料になるから。同じくらいの年代や環境に身を置いていて、めちゃめちゃイケメンがいいかもね。

──顔、関係ありますか?(笑)

あるよ、あるある。
 

佐倉さんのキャリア論

──佐倉さんのキャリア論も聞いてみたいと思います。30年以上もコピーライターを続けていらっしゃる秘訣は、何なのでしょうか。

それはもう、大いなる勘違いと運かな。まず、勘違いは、さっきお話したサントリーのザ・カクテルバーのコピーがグランプリを獲っちゃったから、もう鼻が伸びて伸びて。伸びるのが止まらなくなって、振り返れば伸びた鼻が誰かにぶつかるんじゃないかというくらい(笑)。もちろんいつか間違いだと気づくんだけど、その勘違いがよかったのかなと思います。

運は、例えば今一緒に株式会社ナカハタをやっている、仲畑貴志さんとの出会い。21歳くらいの時に送った手紙をたまたま読んでくれて、そこに「仲畑さんの事務所で一番強い奴とタイマン張って勝てたら会社に入れてくれ」って書いたんです。そうしたら「面白そうだから一回遊びにきなさい」って言われて。運ですよね。

キャリアなんて、その時代が運んでくれるものだと思うから、たまたま俺のやり口と90年代の世の中の感じが合っていただけかもしれない。そうやってうまいこと時代とフィットしたことも、運だしね。

あえて何かをやるとすれば、具体的にイメージして、ジタバタすること。アスリートがするイメージトレーニングとも近いかもしれないけれど、具体的に描いたイメージに近づくためにもがいていれば、キャリアを積み上げると言うより、キャリアを越境できることもある。その時、自分で決めた範囲を超えていくことが、キャリアを運んでくれるのかなって思います。

──30数年続けてこられた中で、働き方はどう変化してきましたか?

「One day one job」を始めてから、少し楽になりました。昔は同時並行している案件が5つも6つもあったんですが、10年ほど前に、1日に1つのジョブだけにしようと決めたんです。そして、明日やれることは、今日やらない。今日やることを全部完璧に今日やってしまったほうがいい。

──これを実現するには、お仕事の絶対数を少し減らさないといけないですよね。

そうですね。受けるべき時と、受けなくてもいい時があるような気がして、そうしました。
最近は、やったことがないことをやってみたいという気持ちが強いので、そんな意識で仕事を進めています。

──若い人にキャリアのアドバイスをするとしたら、何かありますか?

いいクリエイターになりたいとか、一流のコピーライターになりたいとか、そういう風にあまり思わない方がいいんじゃないかと思います。それを電車に例えたら、もうその席は埋まっていて、周りにもつり革につかまりながらその席を狙っている人もいて、その電車が満員なんですよ。誰かが降りない限り空かないし、その席を狙うのは失敗する気がするんだよね。

だとしたら、僕なら屋根に登りたいな、と。空も抜けていて風も感じるし、太陽も浴びられるし、新しい地平を見つけられる可能性が高まるかもしれない。あとは、次の列車を待って乗るとか。他の人と違うことを目指した方がいいんじゃないかと思います。

コミットして作品を作ってみたい

──最後に何か、佐倉さんの「CONFIDENTIAL」なことを教えていただきたいと思います。これからやってみたいことや、計画中のことはありますか。

いちコピーライターとして、コピーだけ考える仕事をしてみたいな。あとは、仕掛ける側に回ること。世の中をざわつかせるような新しいプラットフォームを作ることに参画していきたいなと思います。川下のアウトプットではなく、その川のもとになる湧水の部分の仕事が作れたらいいな。

ひとつコミットして、映像をつくってみたいという気持ちもあります。映画館でもストリーミング配信でもプラットフォームはなんでも構わないんだけど。

どんな物語になるのかわからないけれど、きっと多くの小説家がそうであるように自分ができなかったことを成就させるような物語を、自らの経験をもとに書くことになるんだと思う。そういう風に書くということを1回経験してみたいし、仕事ではなく作品みたいなものを作りたいという欲求があります。


text by 出川光


 

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期待されるロールのためにジョブチェンジし続けてきた10年、それでも自分らしさは忘れない

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「決断経験が人を育てる」と考えるサイバーエージェントでは、主体性を持って決断し、自走しながらパフォーマンスを発揮するエンジニアが多く活躍しています。2013年に入社した松岡は、事業で成果を出しながらも、技術トレンドに合わせた自分らしいキャリアを構築するべく、10年のうちに何度もジョブチェンジの決断を重ねてきました。これまでの経歴や自身の考え、今後の働き方について聞きました。

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