言葉で考えない考え方

技術・デザイン

THE CONFIDENTIAL #4 平瀬 謙太朗

次世代クリエイティブ専門チャンネル「THE CONFIDENTIAL」は、広告をはじめ・PR・映像・デザインなどクリエイティブの世界の最前線で活躍するプロフェッショナルたちの 「秘伝技術(=confidential)」を学べるYouTubeチャンネルです。

サイバーエージェントとThe Breakthrough Company GOが共同で企画制作。MCは、クリエイティブディレクターの木本梨絵さんが務め、毎回、多彩なゲストをお招きし、コアアイデアの開発、企画設計、思考法の変遷やその体系など、プロフェッショナルな方々が持つ「秘伝技術(=confidential)」を掘り下げていきます。

動画版 「THE CONFIDENTIAL」

言葉で考えることを止める理由 | 平瀬謙太朗【Ep.1】

丁度いい問いが人を動かす | 平瀬謙太朗【Ep.2】

消費されない表現を追求する | 平瀬謙太朗【Ep.3】

さまざまなクリエイターの「秘伝技術=confidential」を探る「THE CONFIDENTIAL」。第4回目は、株式会社CANOPUSクリエイティブディレクターの平瀬謙太朗さんにお話を聞きます。

 平瀬 謙太朗 氏  /  クリエイティブディレクター  
1986年生まれ。株式会社CANOPUS・株式会社5月主宰。 
メディアの特性を活かした表現を主軸として活動し、映像・映画・デジタルコンテンツ・グラフィック・プロダクトなど、様々なプロジェクトで企画・ディレクションを担う。準朝日広告賞、グッドデザイン賞など受賞。他、共同監督を務めた短編映画2作品がカンヌ国際映画祭に正式招待。 
 株式会社CANOPUS
平瀬 謙太朗 氏 / クリエイティブディレクター
1986年生まれ。株式会社CANOPUS・株式会社5月主宰。
メディアの特性を活かした表現を主軸として活動し、映像・映画・デジタルコンテンツ・グラフィック・プロダクトなど、様々なプロジェクトで企画・ディレクションを担う。準朝日広告賞、グッドデザイン賞など受賞。他、共同監督を務めた短編映画2作品がカンヌ国際映画祭に正式招待。
株式会社CANOPUS

「メディアデザイン」とはなにか

──本日のゲストは、クリエイティブディレクターの平瀬謙太朗さんです。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。

──メディアデザインを中心に活動されているとのことですが、そもそもメディアデザインって、何なんでしょう。

それには、まずメディアとは何かをお話ししたいと思います。
一般的にメディアというと、情報番組やウェブメディアを思い浮かべる人が多いと思います。けれど、ここで使っているメディアという言葉は、もう少し根源的な「情報を媒介するもの」という意味合いが強いです。つまり、メディアデザインとは、情報を媒介するものを意識したデザイン活動を指しています。

──ということは、領域がとても広いですよね。

そうですね。なんでもメディアだと言えてしまうので、自分の活動を説明するのが難しいこともよくあります。例えば、映像もメディアですし、この靴だってメディアだと考える事ができます。メディアデザインという言葉がどこまで自分の活動を言い得ているかはわからないのですが、どのような媒体を介して伝わるか、ということに以前から興味があり、今では自分の大きな指針として掲げています。

展示、歌から知育玩具まで

──具体的なお仕事の事例を教えていただきたいです。

例えば、最近の事例ですと、六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催された「2121年 Futures In-Sight」展では、会場の構成や、具体的な展示物の企画を担当しました。「100年後の未来を考えることを考える」ということが展示のテーマだったので、「100年」という時間を様々な視点から鑑賞者に考えてもらう手がかりとなるような展示を心がけました。

──展示もメディアのひとつなんですね。

展示の場合は「会場」がメディアです。同じことを伝えるにしても、どこに何をどのように展示するのかで、伝わり方はまったく異なってきます。例えば、壁ひとつとっても、その特性は様々です。空間をよく観察しながら企画を考えていきました。

──壁がメディア、ということなんですね。

物理的なものだけではありません。
例えば、2021年には、NHK・Eテレからの依頼で「SDGsのうた」という映像コンテンツを作りました。私が主宰するCANOPUSという会社には様々な専門性を持ったメンバーが集っていますが、特に音楽を専門にしている豊田真之という仲間と共に、「SDGs」という難しい題材を、子供たちにも分かりやすく学んでもらうための歌を作詞・作曲しました。
この場合は歌がメディアだったので、歌(音楽)だからこそできる工夫を考えることからはじめました。例えば、SDGsに掲げられている目標は17つに分かれているため、曲自体を17種類に分け、その特徴を直感的に感じてもらうために、同じメロディで17種類のアレンジ違いに構成したこともその工夫のひとつです。

──なるほど。子供向けといえば、知育玩具も作られていますね。

知育玩具はいくつか企画していますが、「そうぞうメジャー」というものを作ったのがはじまりでした。メジャーの形をしており、自分が引き出したテープの長さに応じて、同じ長さのものが本体の小窓に表示される「長さ」をテーマにした知育玩具です。

──表示されるものが「一寸法師」「キリンの心臓」など、面白いセレクトなのが気になりました。

メジャーの構造上の都合で、全部で30個しか掲載することができなかったので、面白いと思えるものを決めるのに3ヶ月以上、話し合いを重ねました。
例えば、「キリンの心臓」はとても大きくて60cmもありますが、それは長い首を通って頭まで血を届けるために、強いポンプの役割を果たす大きな心臓が必要になってくるからです。このように、長さを知ることで、同時にまだ知らなかった知識と出会うことができるように、吟味して掲載物を選びました。長さという指標によって、世の中にある様々なものを読み解いて行くのが、この「そうぞうメジャー」の狙いです。

──他にも、「積みグラム」という積み木の玩具も、遊び方が面白そうだと思いました。

「積みグラム」は、積み木の形をした知育玩具です。この積み木にはある特徴があり、それぞれ、同じ形の積み木でも、重さが異なるようになっています。
まず最初に付属のふたつのサイコロを振ると、ひとつには「形」が、もうひとつには「重さ」が書いてあり、その組み合わせがお題になります。重さの違う積み木を四苦八苦しながら組み合わせ、指定されたモチーフを、指定された重さで作っていく玩具です。
この遊びでは、手で重さを感じる力が問われますが、実は、その力は私たち人間が既に失ってしまった(もしくは初めから発達しなかった)感覚のひとつです。人間は重さという単位を、正確に感じとる事ができないことに気付いた時、このアイデアが生まれました。
 

──大人と子供がフラットに遊べるところもいいなと思いました。どうやって作っているんですか?

同じ形なのに異なる重さの積み木を作るのは非常に難しいことなのですが、株式会社エヌアンドエヌという大田区の工場の方々が解決してくれました。普段は、カメラや自動車の部品のような精密な製造をされている工場です。工場内でも尊敬を集めている伝説的な技術者の方がいらっしゃり、その素晴らしい技術力によって、誤差0.01gの精度で実現することができています。

──かなり幅広いアイディアを日々出されているんだなと感じます。どうやってアイディアを考えているのでしょう。

それはやはり、メディアをよく観察することから始まります。いま紹介したふたつの知育玩具ですと、メジャーや積み木がメディアにあたります。例えば、積み木の場合は目で見て分かる「形」や「材質」の他に、手で持ってみると「重さ」という要素もあることが分かり、発想のヒントとなりました。

──実験のような進め方ですね。

そうですね。観察して、みんなが気づかない特性を見つけることができると、それが手がかりとなって独特な企画が生まれていきます。小さなことでも見逃さないように、実際にそのものを触ってみること、現場に行ってみることが大切です。
また、企画の際に、気をつけているのは言葉だけで考えないようにすることです。言葉だけで考えていると、どうしても発想は限られてしまいます。

──言葉で整理した方が、物事を進めているような気分になるけれど、そこから一歩引くということなんですね。

そうですね。だからアイデアを考える時に、言葉を使うことが前提のPowerPointやKeynoteのようなツールを最初から使うのはやめ、まずは真っ白な紙を用意します。
 

言葉で考えずにアイディアをつくる

──言葉で考えずにアイディアを作るって、どういうことなのでしょうか。

例えば、LINEから「スマートフォンで観るための、タテ型に特化した映像」のご依頼をいただいて作った「ご協力願えますか」というコンテンツがあります。私が大学院で所属していた研究室の教授・佐藤雅彦教授と、同じ研究室の同期でもあり、先程も紹介した豊田真之と共に、3人で企画しました。
この企画は、映像から求められる「ご協力」に鑑賞者が応えることで、初めて体験が成立する一風変わった映像コンテンツです。例えば、机の上に乗った空き缶の映像が映し出され、「スマートフォンを強く握ってください」と「ご協力」を求められます。そして、鑑賞者がそれに応えると、映像の中の空き缶がメリメリメリと握りつぶされる。実際には、鑑賞者が何もしなくても空き缶は潰れる映像なのですが、自分が関与したことで、まるで空き缶を「自分が潰した」かのような表象が抗い難く生まれてきます。

この企画の根幹は人間の「認知」であり、作りたいのは映像ではなくその先にある「表象」でした。なので、言葉だけでアイディアを出し合ったり、もしくは評価し合うことには限界があります。3人の企画会議でも、言葉でアイディアを説明するよりは、画に描いたり、もしくは、その場で自分たちのスマートフォンで簡易的に撮って見せ合ったりしながら、企画をつくっていきました。
最終的にリリースされたのは24本の映像でしたが、アイディアは100本以上考えましたし、試作も60本くらい作っています。実際に手を動かすことで、思いもしなかった企画が生まれた例も少なくありません。

──なるほど。言葉ではなく、簡単にでも実際に作ってみるんですね。他にも映像のお仕事では、映画も作っていますよね。

映画は、先述した佐藤雅彦教授と、豊田と同様に佐藤研究室で同期だった関友太郎というメンバーと3人で企画・脚本・監督を担当しています。
今までに4本の短編映画を作りましたが、今では、長編映画やドラマなども手掛けています。このチームでは、「手法がテーマを担う」という言葉を標榜しており、物語から映画を作る従来のプロセスではなく、映像手法を起点として物語、そしてを作ることに挑戦しています。この活動も、自分にとっては「映画」というメディアをどのようにデザインするか、という意識で向き合っています。

いい問題がコンテンツを強くする

──ここまでは、平瀬さんが行っている「メディアデザイン」とは何なのか、そしてアイディアを発想する方法について聞きました。ここからは、良い作品、良いコンテンツとは何なのかをお伺いしてみたいです。

以前、はとバスの新聞広告として「はとバス 朝日新聞一周ツアー」というものを企画したことがあります。これは、新聞の中の大きな広告枠ではなく、小さな広告枠にたくさん出稿することで、新聞の中をはとバスが走っていく広告です。はとバスが東京の観光案内をするのと同じように、朝日新聞の様々な魅力を案内してくれる、という企画でした。例えば、「頭上に見えますのが社説です」や「こちらが四コマ漫画です」というように、バスガイドが説明をしてくれます。新聞というメディアの特性を使って、はとバスというサービスならではの表現が生まれ、まさにメディアデザインが実を結んだ事例です。

──リズムがついているので楽しく読めてしまうのも魅力ですね。

そうかもしれません。コミュニケーションについて考える時、できれば、「答え」そのものではなく、観た人が「答え」にたどり着くことになる「問題」の方を渡したいなと思っています。「はとバスの魅力はこれなんです」と書いてしまったら面白くなくて、鑑賞者が「はとバスの魅力って、こうやって知らないことを案内して楽しく教えてくれることだよな」と気づいた時に、本来伝えたかったことが伝わっていきます。
私たち人間は知的生命体ですので、本当にいい問題を渡すことができれば、答えはきちんと出すことができます。ただ、愚直に問題だけを渡してもなかなかやる気が出ない。そこで、「これを解いてみたいな」「何か考えてみたいな」と興味を引く引っかかりのようなものが必要で、そこでメディアデザインが有効になってくると思っています。メディアの特性をうまく使った表現が好奇心をそそり、問題に対して能動的な気持ちを作ってくれるのです。

──なるほど。そうすると、企画を考える時も、ご自身で問いを立ててアイディアを出して改善しての繰り返しになると思うのですが、納期や予算といった制約もある中で決着をつけなければいけない時は、どうしていますか?

納期については、一般的に苦しむもの、という認識が強いですが、私の場合は納期に助けられることのほうが多いです。外圧があって、終わりはここだと決めてもらえているから、そこに向かって思いっきり走れます。日々、いろいろなアイディアを思いつく度に書き留めているのですが、特に作りたいなと思うものがあった時は、納期を定めてくれる人を探しに出かけていきます(笑)
 

好きなのは、美しいアイデアや論理

──ここまでメディアデザインを軸に色々なお話を伺いました。あらためての質問ですが、今のお仕事はデザインがお好きで目指されたんですか?

仕事上、自分でデザインをすることも、映像を編集することもありますが、好きなのは見た目より美しいアイデアや論理です。デザインと言っても考えを組み立てる行為に惹かれます。

──学生時代に影響を受けた作品などはありますか?

イームズチェアで知られるイームズ夫妻が作った映像作品「Powers of Ten」です。学生の時に出会っていつまで見ていても飽きなくて、「こういうものが作りたいな」と感じました。いまだに定期的に見るんですが、何十年も前に作られたものなのにすごく強度があると思います。それは、絵が描けるようになりたいといったことではなくて、ああいうものを構想できるようになりたいという願望でした。最近は、「Powers of Ten」のような、消費されない表現についてよく考えています。

──消費されないもの、ですか。平瀬さんの作品も、いつみても面白いというか、古くならないなという感想をもちました。

そうありたいと思っているんですが、自分としてはまだまだです。「消費されにくい表現」の条件について、自分なりの仮説はあるのですが本質ではありません。その一つは、「細部をきちんと作り込む」ことだと思っています。細かいこだわりがたくさんあるほど、意識しないところで見る人に伝わり、消費されにくい表現になっていくのだと思っています。けれど、世の中には、全く消費されないものというのもあって。さきほどの「Powers of Ten」はもちろん、スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」なんて、消費されにくいとかじゃなくて、全く消費されません。恐ろしいです。
そこまで至らなかったとしても、自分たちのこだわりや細部へ気配りが、見ている人には無意識化にでも伝わる。そう信じて、どれだけ考えを尽くせるかが、自分がやるべきことなのではないかと考えています。

 

言葉だけで考えないことが、平瀬さんの「Confidential」

──やはり目指すところは、消費されない表現を作れるようになること、なのでしょうか。

自分なりの作り方を見つけるために、もっと考えを深めていかなければと思っています。今まで、作ることが楽しくて手を動かし続けてきましたが、時々、思ったものづくりが出来なくて反省することもあります。反対に、これはいい出来栄えだな、と手応えを感じる時もあり、その差をしっかりと考察する機会を作りたいと思っています。

──一度立ち止まってみて、考える時間をつくるということなんですね。そこから見えてくるあらたな答えも、また楽しみです。最後に、平瀬さんの「Confidential」なことをひとつ教えてください。

ここまでお話ししてきて、もはや「Confidential」ではないかもしれませんが、やはり自分で気をつけているのは、言葉だけで企画を考えるのは止める、ということです。
言葉の上では成立しているけれど、実現してみると面白くないアイディアはたくさんあります。言葉だけではなく、絵に描くこと、簡単にでも、実際に手を動かして作ってみることが大切だと思っています。

text by 出川光
 

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