アジアで大ヒット『青春18×2 君へと続く道』藤井道人監督が語る、映画づくりの内核 

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台湾を筆頭にアジアで大きな反響を呼んでいる映画『青春18×2 君へと続く道』。
本作は、映画『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀賞を受賞し、興行収入30億円の大ヒットを記録した『余命10年』など、数々の話題作を生み出してきた藤井道人が監督・脚本を務める、初の国際プロジェクト。
サイバーエージェントが製作幹事を務め、BABEL LABELが制作を手掛けた初めての作品でもあります。
BABEL LABELの山田社長は「藤井がこれまでの人生での成し得てきた環境全てを活かした作品」と評す本作。
5月3日の日本公開を前に、藤井監督が率直に思いを語ったインタビューをお届けします。監督の内面、思考、そして今目の前に広がる景色とは。藤井監督の現在地を深掘りしていきます。

     藤井 道人  1986年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。2014年伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』で商業作品デビュー。第43回日本アカデミー賞にて映画『新聞記者』が最優秀作品賞含む6部門受賞、他にも多数映画賞を受賞する。『青の帰り道』(18)、『デイアンドナイト』(19)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)、『ヤクザと家族 The Family』(21)、『余命 10年』(22)『ヴィレッジ』(23)、『最後まで行く』(23)など精力的に作品を発表。今最も動向が注目されている映画監督の1人である。
  藤井 道人 1986年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。2014年伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』で商業作品デビュー。第43回日本アカデミー賞にて映画『新聞記者』が最優秀作品賞含む6部門受賞、他にも多数映画賞を受賞する。『青の帰り道』(18)、『デイアンドナイト』(19)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)、『ヤクザと家族 The Family』(21)、『余命 10年』(22)『ヴィレッジ』(23)、『最後まで行く』(23)など精力的に作品を発表。今最も動向が注目されている映画監督の1人である。

「映画で文化や壁を越える」目標が叶った『青春18×2 君へと続く道』

─ BABEL LABELが作品づくりで大事にしている“時代性”という要素。ではなぜ今『青春18×2 君へと続く道』なのでしょうか。

それには、僕自身の内的要因と、時代性を捉える外的要因の2つがあります。
内的要因としては、自分の転機となる作品に出会えたこと。これまで何度も失敗を経験しながらも何とか結果を出し、次に進むために「もっと広い世界を見たい、文化や壁を越えて映画と繋がりたい」と思ったんです。
台湾のチームにも恵まれ、ずっと目指してきた目標が叶ったのが本作です。

外的要因としては、コロナ禍での体験が大きいです。誰もが会いたい人に会えず、行きたい場所に行けないという経験をしました。だからこそ「旅に出よう」というテーマを持つ作品を作りたかったんです。

―「誰かにとっては恋愛映画で、別の誰かにとってはロードムービーであり、成長物語」とご自身で表現される本作ですが、藤井監督は、この作品を誰に届けたいですか?

それも2つあります。個人としては、まずは父に。
僕は台湾と日本のクォーターなので、僕のルーツとなる人たちに見てほしいですね。この作品との縁は、僕を育ててくれた彼らの存在やバックボーンがなければ起き得なかったと思います。

また、映画人としては、第一は観客の皆さまですが、クリエイティブに携わる人たちにこの作品を届けたい。
海外の人たちと一緒に作品を作り上げ、それが海を越えて多くの人に見てもらえるボーダレスな環境は今や特別なことではない、ということをシェアできたらと思います。

―ご自身のパーソナリティと日台合作の本作との出会い、運命的なものを感じますよね。

僕は人との出会いや縁によって生かされています。
これまで多くの作品のオファーをいただく中で、縁遠いものもあれば、『新聞記者』などがそうなんですが、一番遠いと思っていた縁を引き寄せて、大きなケミストリーが生まれることもあります。

それこそ僕らの会社もコロナで潰れそうになり、サイバーエージェントの藤田さんに連絡し、グループに入ることになりました。もしコロナがなかったら、旧来のやり方で泥舟のまま進むしかなかったかもしれません。
しかし、逆境に立たされた時でも積極的に行動を起こすことができる僕たちだからこそ、そういう選択が可能だったのかなとも思います。

─本作はBABEL LABELとサイバーエージェント、初の共同で製作した作品ですね。

今回、映画業界のプロフェッショナルであるハピネットファントム・スタジオや、映画制作の大工である僕たちのプロジェクトに、サイバーエージェントが委員会として参加してくれました。
近いようで遠かった異なる業界が一つになって、新たなやり方を模索する過程で、宣伝戦略など未体験のケミストリーが生まれ、海外での成功体験など全てがサイバーチームと僕たちの共有財産となりました。
これらの経験は、今後に向けてさらなる挑戦をするためのモチベーションに繋がっていくと思います。

 

©2024「青春 18×2」Film Partners
©2024「青春 18×2」Film Partners

台湾、ベトナムなどアジアで大ヒットの要因

―『青春18×2 君へと続く道』は既に台湾で初日興行収入No.1を達成し、アジア圏で動員数75万人を突破※するなど、大ヒットしています。この結果について、どのように感じていますか?

嬉しい反面、結果は冷静に受け止めています。
むしろ、どの部分が足りなかったのか、どう改善できるかという視点で日々学びを得ています。
もしコメディの要素を増やしたり、分かりやすい要素を加えたりしていたら、興行収入はさらに上がったかもしれません。しかしそれは本質から逸れるし、「本当に父に見せたいものか」という話になりますね。

実際、結果は予想がつかないものです。自分がどんなに良い映画を作ったと感じても、必ずしも興行収入に結びつくわけではありません。
そういった場合でも、自分自身が作品のクオリティに納得しているかが重要です。そうでなければ、"今の日本映画界は…"と言い訳をすることになりかねません。
何かのせいにするのは簡単ですが、自分に何が足りなかったのかを考えることも、作品作りの楽しみの一部だと僕は考えています。
 

―それでは、大ヒットの要因は何だと思いますか?

これは間違いなく、プロデューサーのチャン・チェンと主演のシュー・グァンハンの存在が大きいです。
彼らのアジアでの評価が高いことが観てもらいやすい環境を作り、それを台湾のクリエイティブチームがさらに広げ、日本の配給チームが力を合わせて拡大してくれました。

それでも、どんなにその環境を用意してもらっても、"内核"となる僕らがしっかりしていなければ、結果は出ない。今回はその部分がうまくかみ合ったと感じています。

―内核として監督が大切にしていることは何でしょうか?

それは"哲学"です。
自分が何を作りたいのか、何を伝えたいのか、そういったブレないビジョンを持つことが大切です。
チーム全体の哲学や美意識が下がると、それに見合った作品が出来上がるんですよね。

―その哲学をチームにどう伝えるのですか?全員がずれないビジョンを持つことは難しいのではと思うのですが。

映像の分野は、ビジネスの中でも比較的伝えやすいと思います。
目標数字や口頭での思想ではなく、企画段階での絵があるからです。ロケハン、脚本、キャスティング、衣装合わせなど、作品作りの一つ一つの過程でそれを具現化していくことで、共通認識が生まれます。

そうすると、やらなければならないこと<have to>とやりたいこと<want to>が明確になります。今回もアジア向けの作品として、予算などビジネス的な制約の中で、何をやるべきか、何ができる・できないかを全員が理解し、2つの地域で力を合わせて取り組みました。
 

僕らのチームは時間をかけて熟成してきました。
撮影を担当した今村とは大学時代から一緒ですから、もう話すことなんてないくらいです(笑)。
でも、言葉を必要としないチーム作りこそが僕の目指すところです。

―時間を重ねて進化し続ける 「藤井組」の強さを感じます。台湾と日本のチーム、言葉や習慣が違う中で何か苦労されたことはありましたか?

それが、本当に何もなかったんです。言葉が通じないことで、相手の目を見て考えを理解しようとする深いコミュニケーションが生まれました。
ちょっとださい言葉になりますが、現場には"愛"がありました。
映画愛に溢れた人々の中には負の感情は本来ないはず。
学生時代からそう思ってきましたが、今回はまさにそれを体感しました。

昔からかわらない、作品づくりの原点

―5月3日から、ついに日本での劇場公開が始まりますね。

日本での反応は、正直なところ怖いです。都市部だけでなく、全47都道府県にどのように受け入れられるか。幅広い層から支持される人気原作の作品ではないですからね。
しかし、そういった作品と自分たちの作品を区別して「やっぱり人気原作は強いよね」と片付けてしまうことはしたくありません。

「映画のヒット、それだけが全てじゃない」という人もいますが、僕はそんな風には考えられない。
自分に期待してくれた人たちのためにも、結果が出なかったら次はないという覚悟で臨んでいます。

自分に投資してくれた人たちにきちんと恩返ししたい、その考えはインディーズ時代から変わらないですね。
もともと自分たちが集めたお金で映画を作り、チラシを作り、チケットを売って、と全部やってきました。
そうした経験から生まれたプライドがあります。
お金の管理を他人に任せて監督業に専念する人もいますが、僕はお金に対しても誠実に向き合いたいと思っています。

4年に1度くらいは、モノクロでセリフのないお洒落な、個人的な趣味に寄った作品も撮ってみたいですけどね(笑)。でも、今はまだそのフェーズにはいないと自己評価しています。

ボーダレスな今、時代を誠実に切り取った日本作品を世界へ

―国際プロジェクトが始動しましたが、海外戦略や世界レベルのクオリティについて、どのように考えていますか?

それは難しい質問ですね。しかし、映画の魅力はその"正解のなさ"にあると思います。
良い映画、悪い映画というのは最終的には個々の趣味の範囲です。
海外でウケるロジックを語ることができる人は、きっと海外で長い間戦ってきた人でしょう。
僕にはまだその答えは見つかっていません。
SUSHI、SAKE、NINJAが好きな人もいれば、今の時代を誠実に切り取った作品を面白いと感じる人も海の向こうにいるはずです。

ボーダレスな今だからこそ、半径5メートルの自分の周りのことをしっかりとストーリーテリングした作品が届いてほしいと思います。
 

自分たちができるステップを飛び級せず着実に進む、これが僕が30代のうちにできることです。
ただし、時代と向き合うことには怠惰にならないようにしたいと思っています。

時代をどう捉え、どんなストーリーを持つかが非常に重要なので、時代の変化のもの凄い速さに、僕は危機感しかありません。
だから、自分が監督しないようなネタでも、世の中の流れや出来事を常に注意深く観察しています。
アイデアが枯渇したら、それが引退のサインだと思ってますから。

要は"発明"なんですよね。
例えば、世間を賑わすようなニュースの報道では語られない真相を人々は見たいと思っています。
そんな風に時代と、人々の興味、自分の興味が重なる発明こそが、その時代に求められる作品になると思います。

─日常の中からアイデアの種を探し続け、作品づくりに生かしているんですね。

確かに頭の中で常に思考実験みたいなものはしてますね。
ただ、ちょっと今は明治時代から抜け出せないままなんですけどね(笑)。

ーNetflixシリーズ『イクサガミ』の制作まっ最中でもありますね!次回作も『青春18×2 君へと続く道』と同様、楽しみにしています!

※ 公開日:台湾3月14日、香港4月4日、シンガポール4月10日、マレーシア4月10日、ブルネイ4月10日、ベトナム4月12日、カンボジア5月8日、中国大陸5月20日(予定)、韓国5月22日





 

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