「Inbound Marketing Summit」開催レポート

イベントレポート

2025年4月24日に開催した「Inbound Marketing Summit」。急拡大するインバウンド市場ですが、効果的なマーケティング手法が確立されていないのが現状です。本サミットではこの課題に対し、TencentJapan、せーの、大丸松坂屋百貨店、資生堂ジャパンが登壇。各社の戦略を紹介すると共に、当社「インバウンド消費行動研究室」による最新の調査結果も共有しました。当日のセッションの様子を一部お届けします。

訪日観光客数は2030年に政府目標6,000万人、消費額15兆円も視野に入るなど、インバウンド市場は急速な拡大を続けています。
この状況において、マーケティングの成功には国やシーンごとに異なる消費者インサイトの理解と、適切なアプローチが不可欠です。当社では、旅行前の認知獲得から旅行中の体験価値向上まで、カスタマージャーニー全体を捉えた多角的なソリューションを提供しています。
本サミットでは、こうした現状に対し、業界の最前線で活躍する企業様にご登壇いただきました。各社の具体的な戦略やインサイトを、当日のセッションの様子と共にご覧ください。
※「観光立国推進閣僚会議」にて発表(2025年3月)

インバウンド市場の進化とプラットフォーマーの可能性:テンセントが描く観光の新しい接点

Speaker:梅 寒(Tencent Japan) / 邵添滋(Tencent Japan) 
Moderator:一言 優成(サイバーエージェント・インバウンド事業本部 責任者)
Speaker:梅 寒(Tencent Japan) / 邵添滋(Tencent Japan)
Moderator:一言 優成(サイバーエージェント・インバウンド事業本部 責任者)

一言:WeChatは中国で圧倒的なシェアを誇るコミュニケーションアプリですが、その特徴を教えてください。

梅氏:WeChatは日本の皆さんが使用されているLINEと似たサービスで、コミュニケーションアプリです。ですが、モバイル決済機能やミニプログラムと呼ばれるアプリ内での買い物、ゲーム、チケット購入、銀行取引等ができることから「スーパーアプリ」と呼ばれています。
特に決済機能ではアプリ内での割り勘機能や手のひらをかざすだけで決済ができる「手のひら決済」も開発されています。手のひら決済ではテーマパークの入場、建物のセキュリティカード、会員カードとしても活用されており、活用の幅が広がっています。
今日は、決済機能についていろいろとお話できればと思います。

一言:決済機能のユーザー層や利用者数はどれくらいになるのでしょうか?

梅氏:弊社内で調査したデータによると1日の決済件数は26億回、競合社の決済件数は7億回です。ここ数年でさらに差は広がり、現在は約10倍まで広がっています。

また、中国人観光客にフォーカスすると、男性:女性=41%:59%で女性のほうが多いですね。さらに、その中でも独身と非独身で分けると非独身の方が86%を占めます。非独身の方はパートナーや家族にお土産を買っていく方が多いと考えられます。
年齢層でいくと35歳以下が50%を占めています。また、収入が高い人、学歴が高い人が多いですね。

なお、中国の人は為替に敏感です。銀行ごとやほか決済手段の為替レートを確認した上で決済をする傾向があります。そのためWeChatPay内に為替レートを実装しています。

一言:そうなんですね。そんなWeChatPayの中でどういった機能を実装されているのでしょうか?

邵氏:実装している機能を総称して「グローバルギフト」と呼んでいます。これは中国の方が訪日中に為替レートをお得に利用できたり、アプリ内でクーポンを取得できたりします。IPで日本にいる中国人を識別して、クーポンを表示する仕組みです。

機能は4種類あります。1つ目は日本でWeChatPayを使用する際、中国国内の為替レートよりもさらにお得に利用できるキャンペーンを行っています。特に大型連休に実装し、消費を促進しています。

2つ目は近隣店舗クーポンです。前述の通りIPアドレスで訪日来訪者を識別しているため、その人がいる半径800m以内の店舗で使えるお得なクーポンを表示しています。とある小売企業様でのこのクーポンの使用率は85%で、決済金額もクーポン非使用と比較して3.2倍とかなり高い数値となっています。

3つ目は決済完了画面へのクーポン掲載です。私どもでクーポン設定は可能なのですが、クーポン出稿者も、表示させたいクーポンを自由に掲載が可能です。

4つ目は決済完了画面に会員プログラムの掲載ができます。クーポン出稿をされないお客様は会員プログラムを展開することでお客様のリピートに繋げています。

一言:いろいろなことをされているのですね。訪日観光客に向けて交通利便性を高める機能もあると聞きました。

邵氏:訪日観光客には日本の交通システムの支払い方法はかなり分かりづらいものになります。そのため、WeChatPay内で先に路線のチケットを買うとQRコードが付与され、そのQRコードを改札でかざすだけで電車に乗ることができます。東京メトロや近鉄にて実装できています。

一言:貴社のインバウンド施策について、今後の展望を教えてください。

邵氏:私どもは決済を終点ではなく次の情報発信の始点と捉えています。そのため、次の情報をどのように発信していくかを考えていきたいと思っています。サイバーエージェントさんのような各国に根ざした企業様とその国に合わせた機能などを開発・提供していければと思っています。
 

業界最前線のプレイヤーが語るインバウンド戦略

Speaker :石川 涼 (せーの) 
Moderator:中田 大樹 (サイバーエージェント)
Speaker :石川 涼 (せーの)
Moderator:中田 大樹 (サイバーエージェント)

中田:石川さんが展開されている#FR2は日本の観光地に店舗があり、「お土産屋さん」を展開していると聞きました。訪日観光客向けのお土産屋さんを展開するに至った背景を教えてください。

石川氏:もともと2004年からVANQUISHというメンズ服のブランドを展開していました。2000年後半から2010年代になると、店頭に外国のお客様が増えたのを見て、今後外国人がもっと増えて、日本人よりも買い物をするようになるのではと直感的に感じたのが始めたキッカケです。そして実際に、現在の僕の会社の売上の7~8割は訪日観光客になっています。

VANQUISHはネット通販の黎明期からネットで服を販売していたのですが、その頃からネットで服やモノを買う時代が日常になると思っていました。そうすると、欲しいものをすぐに手に入れられることからモノを買うことへの感動がなくなってしまう。そこで「現地に行かないと買えない」お土産屋さんのような店舗展開をすることで、「非日常」の購買を作り出しています。

中田:店舗を展開する場所はどのように決めていますか?

石川氏:初めて店舗を構えたのは原宿で、現在#FR2の国内店舗は西日本に寄っています。ここ10年で訪日観光客が買い物をする場所は西日本に移っていると私は考えています。実際に東京よりも大阪・京都の方が、売上が高いですね。

今は洋服だけでなくすべてのモノはネット通販で世界中どこからでも買える、そうなるとわざわざ旅行で買う必要はないんですよね。だからこそそこでしか買えないモノの価値をつけるために店舗ごとに商品もデザインも変えていますし、その店舗の商品はオンライン販売していません。そして店舗も、観光地の観光客が来る場所にまるで昔からいるような顔をして構えています。例えば京都では八坂神社の目の前、金沢ではひがし茶屋街の入口などです。また、浅草の雷門の横にもオープン予定です。

中田:#FR2の成功にはSNS活用も大きいと思いますが、今後のSNSや発信戦略についてはいかがでしょうか?

石川氏:#FR2の展開時はInstagram全盛期で、そこに熱狂がありました。みんな毎日写真を撮って、毎日投稿する。だからこそ面白いものがあったら写真を撮って投稿してくれるので#FR2もそうやって投稿から広まったと思います。でも今は、Instagramの熱狂は当時ほどではないので、もし今から別のことを始めるとしたらSNSを使用しない事業を始めますね。

かつて、あるブランドが砂漠の中に店舗に見えるアート作品を作りました。何も広告をうっていなかったのですが、そこの前を通った人が必ず写真を撮って宣伝してくれますよね。そのアートはとても話題になっていました。
このように、自分達のプロダクトだけで、来た人達が勝手に宣伝してくれることは事業として一番良く、自分もいつかやってみたいとずっと思っていました。ちょうどそのアート作品の建設から20年後、ニセコの山中に#FR2の店舗をオープンしました。本当に周りに何もないので、事業として上手くいかないかと思っていたのですが、SNSで話題となり、朝4時から何百人も並んでくれますし、準備していた商品がすべて完売しました。

中田:石川さんのグローバル戦略を教えてください。

石川氏:私はこれまでに50カ国ほど訪れているのですが、自分が海外に行った時、メインの街の中心には大手ブランドが必ずあるんですね。それを見た時に、シンプルに自分達は敵わないなと思いました。自分達の規模でできることは何かを考え、より日本っぽい漢字や和のテイストで作るほうに舵を切りました。

インターネットがない時代は国ごと、同じ国でも地方によって流行りが違っていたと思います。それはコミュニケーションツールがないことから、コミュニティがその場所やそこにいる人で形成されて、流行りも形成されていたからだと思うんですね。

今は世界中どこにいてもSNSで繋がれる。世界中の若者が同じプラットフォームで発信し、影響を受け合うなかで、日本の若者だけの流行ではなく、世界中の若者が共感し、同じものを“好き”だと感じる時代になっています。そこに着目して差別化することと、日本だからこそのアイデンティティを大事にしてモノを作ることに振り切ることで、結果グローバルで評価されるようになると思っています。
 

インバウンド消費の新常識:国籍別・行動別データから読み解く、購買のリアル

Speaker:森智彦(資生堂ジャパン)/ 林直孝(大丸松坂屋百貨店) 
Moderator:奥澤 洋基(サイバーエージェント / インバウンド消費行動研究室)
Speaker:森智彦(資生堂ジャパン)/ 林直孝(大丸松坂屋百貨店)
Moderator:奥澤 洋基(サイバーエージェント / インバウンド消費行動研究室)

奥澤:まず、弊社のインバウンド消費行動研究室の取り組みについてです。東アジア(中国、台湾、韓国)の訪日客を対象に、メディア利用や消費トレンドを調査しています。インタビューや街頭調査、産学連携も行っています。
今回は、この3カ国のメディア利用傾向とカスタマージャーニーについてご説明します。

中国ではWeChatのようなスーパーアプリが中心で、検索から決済まで完結します。購入決定には生の声が重要です。いいねの数より投稿の中身、体験に基づいたリアルな声が重視されます。REDという中国で人気のSNSではユーザー同士のコメントでの情報交換が見られます。

台湾ではSNS検索を併用する「ハイブリッド検索」が特徴です。また、ブログ文化も残っています。映えやいいねも重視されますが、情報の信頼性はブログのコメント量やそこでのやり取りで判断されます。最終的には家族や親しい友人からの生の声が強い影響力を持ちます。また、Facebookの日本旅行コミュニティも活発です。

韓国ではNAVERとInstagram、YouTubeが主要メディアで、NAVER検索が起点です。実体験に基づくレビューやVlogが重視され、写真の美しさより内容の説得力が問われます。また、自分と境遇が近い人の情報を信頼する傾向がありますね。

林氏:中国のREDでのコメントによる情報交換や、台湾のFacebookコミュニティでのやり取りは非常に興味深いです。私どものオウンドメディアで発信している情報以上に、リアルなニーズや疑問点がそこで議論されている可能性があり、注視すべきだと感じました。

森氏:SNSプラットフォームは国ごとに異なりますが、顧客が求める情報は案外近いかもしれません。重要なのは、どう効率的に適切なメディアで情報発信し、オペレーションしていくかですね。以前は「日本だから」「資生堂だから」で売れた部分もありましたが、最近は口コミを含め、成分や購入場所のお得情報など、非常に詳細な情報を事前に調べて来られる方が増えたと実感しています。

奥澤:来訪回数が増え、日本に慣れてきている方も多いので、より細かい情報を求めているのでしょうね。

また、台湾では今でも訪日観光客の代理購入のニーズが高いと聞きます。特に家族から頼まれるケースが多く、背景にはメイドインジャパンへの強いこだわりがあるようです。同じ商品でも、日本国内で製造されたもの、あるいは純粋な日本ブランドのものを求める声が聞かれます。

林氏:大丸松坂屋のインバウンド売上は、百貨店事業のみで2019年度比で倍増の1300億円を達成し、グループ全体でも過去最高益を更新しました。
国別シェアは、2019年度は中国が85%でしたが、24年度は65%に減少し、その他東アジアの割合が増えています。客単価も上昇傾向です。
ただ、昨年は円安の影響も大きいことから為替に左右される点は課題です。
Tencent Japanの邵氏がおっしゃっていた「決済は終点ではなく始点」という言葉が印象的で、インバウンド客にも次回来訪に繋がるコミュニケーションが不可欠だと考えています。

森氏:資生堂も同様で、コロナ前と比較するとインバウンド売上が大きく影響しました。国別構成比も、以前は中国が8割以上でしたが、現在は6割強程度になっており、東南アジアが伸びています。市場規模はコロナ前の水準に戻りつつありますが、中身は変化しており、これを好機と捉えたいです。

奥澤:お二方とも、訪日観光客の一度きりの消費で終わらせず継続的な関係構築を重視されていますね。その理由や具体的な取り組みについてお聞かせください。

林氏:大丸松坂屋では、購買が一度きりではないということが、現場でようやく実感として分かってきました。日本が大好きで何度も訪れる方が増えている。だからこそ、次に来てくださる時にはもっと良いサービス体験を提供したい。そのために、多言語対応アプリの提供や、大阪心斎橋店では優良顧客向けにWeChatやメールでのフォローアップも始めており、よりパーソナルなコンシェルジュ的アプローチを目指しています。

森氏:資生堂では昨年7月にツーリストマーケティンググループを立ち上げました。購入いただいたブランドを長く将来に渡ってご愛用いただけるように、旅マエ~旅アトまでを一気通貫で捉え、お客様との好循環を生む仕組み作りを目指しています。
背景には、現地未販売ブランドのグレーマーケット化や転売によるブランド毀損リスクへの対応、そして現地市場での競争激化があります。インバウンドを効果的な集客・体験機会と捉え、ジャパンビューティーの価値を体感していただき、現地でのリピート購入に繋げたいと考えています。

奥澤:最後に、今後のインバウンド戦略で重要と考えることをお聞かせください。

林氏:CRMに加え、せーのの石川さんのお話にもあったいつでもどこでも誰でも買えるものは興味がないという視点が重要です。「旅先でそこでしか買えないもの」への興味は高く、ニセコのFR2店舗のように体験自体に価値がある。これは百貨店も同じで、物の価値と体験の価値を整理し、そこに来る意味を提供することが基本です。これは、出店ブランドの皆様と共に創り上げていくものだと考えています。

森氏:私も1メーカー、1ブランドだけで戦略をたてるのは限界があると思います。例えばお客様が日本発という価値で選んでいるとすれば、各小売り店様や自治体様などと協業し、業界全体で日本発の価値を共創していくことが重要だと考えています。

奥澤:ありがとうございました。ユーザーの「リアルな情報」への渇望、そして企業側の「継続的な関係構築」への意識が、今後のインバウンド戦略の鍵になりそうですね。

写真提供:ad:tech tokyo事務局
 

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