コンセプトメイキングからアウトプットまで『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』のアートディレクションを公開

「ABEMA」の人気番組『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』。日本一ロジカルな男とも称されるひろゆきさんを、移動手段はローカル路線バスやヒッチハイクなどの基本陸路のみというルールの中、論理の通じない過酷な世界に放り込むという斬新な企画は、放送開始直後から多くの反響を呼び、『第40回ATP賞テレビグランプリ』の「情報・バラエティ部門」にて優秀賞を受賞しました(※1)。番組のクオリティはもちろんのこと、ユーザーに見てもらうための入り口となるキービジュアルや番宣にも力を入れている「ABEMA」。当番組プロデューサーの高橋弘樹が「ABEMAのクリエイティブのレベルは高い!」と太鼓判を押すほど。
そこで、「ABEMA」のクリエイティブ組織ABEMA Creative Center(通称:ACC)のアートディレクターが、番組のクリエイティブ制作の裏側とACCの役割についてお話しします。
※1 「ABEMA」オリジナルバラエティ番組『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』が第40回ATP賞テレビグランプリにおいて、情報・バラエティ部門 優秀賞を受賞

2019年、サイバーエージェント中途入社。新卒で広告制作会社に入社し、グラフィックデザイナーとして従事。その後サイバーエージェントのグループ会社である株式会社CA designにアートディレクターとして入社後、インターネット広告事業本部にてプランナー職を経てACCへ。現在は「ABEMA」の番組や、「ABEMA」プロデュースの興行等のアートディレクションを手掛けている。
ACCとは? ABEMAの"顔"を作る精鋭集団
ABEMA Creative Center(通称:ACC)は、「ABEMA」のクリエイティブを制作する組織です。番組コンテンツのクリエイティブディレクションを担い、キービジュアル等の制作を担当する「AD Studio」、番宣や番組のオープニングなどの動画を担当する「VX Studio」、「ABEMA」全体のブランディングを担当する「BRAND Studio」の3つのチームで成り立っています。
私が所属するAD Studioでは、番組のキービジュアル制作をはじめ、番組内テロップの制作やスタジオセットの監修・番組セット、SNSクリエイティブ、グッズのほか、OOH・ラッピングカーといったオフライン広告も含め、番組にまつわるさまざまなクリエイティブを担当しています(※番組ごとに制作範囲は異なります)。

ACCのミッションは「ABEMAが楽しみになるきっかけをクリエイティブのチカラで演出する」こと。テレビをつけたらすぐに見られる地上波と異なり、「ABEMA」は番組を選んで見てもらうまでにいくつかのステップを踏む必要があるため、ユーザーが最初に目にするビジュアルの魅力を高め、コンテンツへの興味を喚起することが私たちの重要な役割となっています。また、今まで見たことのないクリエイティブ制作を目指しており、あえて既存のイメージと異なる要素を取り入れる等、番組ごとに様々なチャレンジをしています。視覚的にも“新しい未来のテレビ”の立ち位置を確立するためのデザインを追求しています。
いかに“ポツンと感”を出すか
「世界の果てに、ひろゆき置いてきた」クリエイティブ制作プロセス

ここからは『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』のメインビジュアルと番宣がどのように作られたのか、制作プロセスに沿ってご紹介します。
1.プロデューサーからのオリエン
プロデューサー高橋より「今回見せたいのは、困っているひろゆきさん」という番組全体のコンセプトが提示され、ひろゆきさんをアフリカの最南端に置き去りにするという番組の基本設定も共有されました。
2.アイデア出しからコンセプト設定
オリエンを受けて、クリエイティブのコンセプトを決めていきます。ACCで様々なアイデアを出し合う中で、「“見たことのないひろゆきさん”と“見たことのない風景”を組み合わせるのはどうか」という意見が出ました。いつも一定のテンションを保っているイメージのひろゆきさんが感情をむき出しにする様子は見たことがないですし、アフリカの最南端はロケでもなかなか行くことができない異国の地です。この2つを組み合わせることで
「ABEMAですごい番組を観られそう!」という期待感を醸成できないかと考えました。
そこで、クリエイティブのコンセプトを「論破を捨てたひろゆきさん」に設定。今まで見たことがない、論理を捨てた論破王の姿とともに見たことがない世界の景色も楽しめる、スケールの大きな番組であることが一目で伝わるビジュアルを目指しました。
3.メインビジュアル案と番宣イメージの作成
コンセプトを踏まえて具体的にビジュアル案を作成していきます。サバンナで一人座り込むひろゆきさんや、その様子を双眼鏡で覗き込む構図、360度カメラを使う案など、様々なアイデアを形にしました。
キービジュアルの制作では、ストーリー性を重視しています。一枚絵のクオリティを追求するだけではなく、そのシーンに辿り着くまでにどんなことがあったのか、これから何が起こるのかといった一連のストーリーを考えることで、番宣やオープニングを制作する際に発想が広がり、より魅力的な世界観を作り出すことが可能になると思います。
提案したラフの一部(イメージ)

アフリカの最南端は動物やジャングルのイメージだったので、「サバンナに置いていかれて途方に暮れているひろゆきさんを双眼鏡で遠くから見守る」というイメージで作成しました。

パリのご自宅を目指して旅をしながら、360度カメラで記念写真を撮っているイメージで作成。こちらは表情をアップで見せ、感情がむきだしになったひろゆきさんにフォーカスした構図で考えていました。
4.フィードバックとブラッシュアップ
これらのアイデアをプロデューサー高橋にプレゼンしたところ、「どのアイデアもとても良い。ただ、“ポツンと感”をより強調してほしい」というフィードバックを受け、その方向性でブラッシュアップすることに。ちょうどこの頃に旅の開始地点がナミビアのナミブ砂漠で決定したと聞き、砂漠を背景にしたアイデアを再提案しました。

要素を極限まで削り、ひろゆきさんのポツンと感を際立たせました。タイトルの「置」が斜めなのは、ぽとっと置いた様子を表しています。

タイトルロゴの別バージョン。プロデューサーの「ひろゆきさんを世界の果てに置いてきたら面白そうじゃん」という遊び心を、子どもの手書き風の書体で表現してみました。
5.AI技術の活用で背景を制作
今回、私たちクリエイティブチームは現地へ行けないため、当初、キービジュアルと番宣の撮影はすべて都内の撮影で行い、砂漠はCGを使って合成する予定でした。しかし、現地のロケ隊から届いたドローン映像が予想以上に素晴らしく、またイメージ通りだったため、キービジュアルは実際の映像を切り出す方針に切り替えました。ただ、映像から静止画を切り出してレイアウトする際に、拡大するとどうしても解像度が荒くなってしまいます。そこで今回ACCとしても初めての試みとなる、AIツールを活用してドローン映像の解像度を上げることにチャレンジしてみました。
ACCではこれまで一からビジュアルをつくることが多かったのですが、旅番組というジャンルだからこそ、実際に現地で撮影した素材を活用することで結果的にとても強いインパクトを生み出すことができたのは、私としても新たな学びになりました。

ドローン映像から印象的なシーンを切り出してレイアウトを検証。複数パターンの候補から、最終的にキービジュアルとなったシーンに決まりました。
6.番宣撮影
キービジュアルのワイプに使う表情と、番宣の撮影は都内のスタジオで実施しました。番宣では、パリで過ごしてたひろゆきさんが、突然縁もゆかりもないところに置いていかれるという世界観の変わり方をいかにおもしろく見せるか、VXチームの担当者と一緒に考えていきました。
地図上でパリを歩いていたひろゆきさんが大きな手でつままれ、アフリカにぽとっと置いていかれる、配信しているひろゆきさんを椅子ごと飛ばすなどの演出も考えたのですが、最終的にはご自宅の配信部屋の壁が壊れ、辺り一体が砂漠になっていたという場面の転換を考えて提案したところ、プロデューサーにとても気に入ってもらいその方向性に決まりました。王道でアナログな手法ではありますが、とてもキャッチーな仕上がりになったと思います。
高い自由度とワンストップのクリエイティブ制作
ACCの面白さは
ACCの強みは、インハウス組織ならではのワンストップ制作体制です。クリエイティブコンセプトの策定から実制作~納品まで一貫して担当することで、柔軟かつ迅速な対応が可能となっています。また、番組制作チームと密に連携をとっており、企画段階から気軽にクリエイティブに関する相談を持ちかけてくれるので、それに対して私たちもどうすれば最大化できるかを自由に考えて提案できます。クリエイティブチームが入っていける余地が広いのは「ABEMA」ならでは。クリエイターとして楽しい環境だと思っています。
前職の広告制作会社やサイバーエージェントの広告事業部では、クライアントの商品の魅力をどのように消費者に伝えれば購入に繋げられるかを考えていました。「ABEMA」に異動してからは、自社コンテンツの制作段階から携わるため、「自分たちが1から作り上げたこのコンテンツをどんな人に、どのように届けたいか」を日々考えており、より純粋な「伝えたい!」という想いが強くなった気がします。
前職、現職それぞれに面白さがありますが、今は自社コンテンツを直接ユーザーに届けるという挑戦に、大きなやりがいを感じています。
「ABEMAの“顔”を創るチームとしてのプライドを持ちながら、世の中にインパクトを生み出す」という目標を胸に、これからも挑戦を続けていきたいと思います。

関連リンク
ABEMAの働き方、ぶっちゃけどうですか? サイバーエージェントに転職した高橋弘樹さんに聞いてみた
https://www.youtube.com/live/XjoYZvtgLRA?si=50L8kARNeo_cXZak
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